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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第3章 悪魔
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第28話 前哨

Twitter では、ネーミングの元ネタなどを明かすことがあります。

@idedanjo

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 クララと共に探索者(シーカーズ)ギルドのマリアを訪ねた。昨日のテオのダンジョンでの出来事を報告するためだ。何事もなければ作成したマップと報告書を窓口に届ければ済んだが、さらに深い階層ができて悪魔(デーモン)が出現したとなれば今後どうするのか対策を練らなければならない。


 執務室の中から、どうぞ、と声がするのでドアを開けてみると、箒がひとりでにサッサカ動いて床の掃除をしている。150センチくらいの長さの外苑箒だ。トタンの三つ手塵取りも一緒に働いている。ポカンとして目を丸くしていると、マリアに声を掛けられた。


「いらっしゃい。そんなに驚かないでよ。魔法使いが魔法の箒を使ってるのって、そんなにおかしいことじゃないでしょ。まあ、意外と高度な魔法だから、使える人は少ないんだけど。」

「い、いや、あの、あまりにもベタだったので、かえってビックリしちゃいました。」

「ちなみに、その箒の名前は『ルンバ君1号』よ。名付けたのはレイゾーだけどね。」


おもわず吹き出しそうになった。


「そ、それはまたベタなお名前で。」

「あら、そうなの?よく分からないけど。グローブでの話よね?」

「あー、あたしもこの箒欲しいですぅ。素晴らしいアーティファクトです。武器にもなりそう。」


クララがなんか余計なこと言ってるが。


「乗って飛べるわよ?」


それは、いよいよ魔女ですよ。本当ベタです。


「ますます凄いじゃないですか~。」

「今大量に作る方法を考えてるとこ。一つあげようか。ルンバ君4号持って帰っていいわよ。」

「わあ~、ありがとうございます。必ず何かお返ししますぅ。」


マリアさん、煽らないでください。盛り上がらないでください。後にしましょうよ。二人仲が良いのはいいけど、大事な話があるのですよ。


 さて、本題に入ろう。


「マップは正確。出現する魔物やドロップアイテム、再生されたマナプールの情報も詳細。よくこれだけやってくれたわね。助かるわ。貴方達に頼んでよかった。ありがとう。」


お褒めの言葉をいただき嬉しい。が、今はそれどころではない。予想外の出来事があったと話した。


悪魔(デーモン)を一匹倒して撤退してきたのは良い判断だわ。おまけに10階層のマナプールを再び壊してきた。お手柄ね。探索者たちには、テオのダンジョンの探索は中階層までに制限させておきましょう。

テオのダンジョンには、レイゾーとガラハドともう一度行ってデーモン退治して、11階層を調査してくるから。あとはまかせて。ただ、問題はダンジョンの外にもありそうね。西側のシドのダンジョンにも異常があると報告があがっているのよ。」


マリアは一口紅茶をすすって、伏し目がちに話しを進める。


「ここから先はオフレコでお願いね。ギルド間での情報では、お隣の国、ウエストガーランドでもラビリンスやフィールドに異常が起きているらしいの。ウエストガーランドの冒険者(アドベンチャーズ)ギルドが空白地帯、旧バルナック領に調査のクエストを出したわ。そのうちに何か動きがあるわよ。」

「空白地帯に?あの辺りに何かあるんですか?」


クララが首を傾げる。


「あるかもしれないし、ないかもしれない。でも似てるのよ。3年前に。」

「3年前って戦争ですか?今朝レイゾーさんもその心配をしてました。」


(そうか。この二人は3年前の戦争を直接知らないから。)

マリアは3年前の戦争のことを話すか、迷っていた。当たり障りのない部分だけ説明することにした。


「バルナックの領主ララーシュタイン家は代々優秀な召喚士(サモナー)が多いの。4年前、領主から引退して家督を息子ユージンに譲ったドルゲ・ララーシュタインが悪魔を召喚した。その代償としてドルゲは身を滅ぼしたけれど、その息子ユージン・ララーシュタインは、自分が召喚した魔物と、父親が召喚した悪魔を使って戦争を始めたの。海を越えてミッドガーランドに攻め込んできたけれど、ゆくゆくはウエストガーランドも攻める気だったらしいわ。ドルゲが召喚した悪魔は、さらに手下の悪魔を召喚したので、魔物の軍の中に数体の悪魔が紛れていて、戦争は凄惨なものになったのよ。」


クララが暗い表情になっている。街の人たちが戦争のことを話したがらないのは、皆思い出したくもないのだろう。


「あたしはその時はシルヴァホエールの一員としてウエストガーランドにいて、バルナック領の境界付近でララーシュタイン軍が北上しないように見張るクエストをこなしていましたから、直接には知らないんです。戦争でたいへんな時に居なかったので、街の皆さんに一寸負い目は感じるのですけどぉ。」

「クララも苦労してるわねぇ。でも気にしちゃ駄目よ。あなたは何も悪くないんだから。

 それよりも、3年前の悪魔の生き残りがいるんじゃないかってことが問題よ。生き残りがさらに下級悪魔を呼び寄せる。私たち3人がテオのダンジョン10階層で相手にしたのは、インプにチャッキー。でも、もっと酷いかも。新しく別の悪魔が召喚されたってこともあるかもしれないのよ。」




 隣国、ウエストガーランドの南端は旧バルナック領。現在は空白地帯である。境界線はウエストガーランドの国境警備隊の騎馬が定期的に巡回し警戒しているが、冒険者ギルドからのクエストが発生しているため、6人組の冒険者パーティが10組、その境界線を越え空白地帯に入り込んでいる。通常は10組も同じクエストに関わることはない。それだけ重要視されているということ。いずれもそれなりに評価ランクの高いベテランパーティである。


 ミッドガーランドに比べると低いながら山があり湖や河川が多く、やや複雑な地形を持つこの西国では、10組もの冒険者パーティが活動してもお互いの活動範囲が重ならない。しかし、それだけにパーティ間での危機が伝わらない。一組、また一組と全滅していく。


 それら冒険者パーティを追い詰めているのは、恐竜の群れであった。初めて出会う大型クリーチャー、ギガノトサウルスなどに対抗できず、牙や爪で傷ついて喰われていく。小さなものはディノニクスなど体長3メートルほどで、ベテランの冒険者パーティならば相手にできそうだが、小さいとその分動きが速い。そして単体ではなく群れである。知能は高くなく、魔法を使うこともないが、狩りは集団で行ううえに獰猛。湖沼に逃げれば水棲のモササウルスが待ち構えていた。あまり器用ではないが、空を飛ぶ翼竜プテラノドンまでいる。魔法や弓矢で攻撃しても多勢に無勢。魔力が尽き、矢が尽きれば手も足も出ない。馬に乗った僅かな手勢が命からがら逃げ伸びた。


 飛竜(ワイバーン)の背に乗り、上空から見物していたレッド男爵は、まずまずの結果であろうと満足気である。


「ふむ。恐竜とかいう古生物ども。知能が低いので軍の一部として組混むには心許無いが、番犬として庭に放しておく分にはよく働くようだな。」


同じく一回り小さい人を喰らう魔物(マンティコア)の背に乗ったガンバ男爵が応える。


「う~ん、ただ、ねえ。人間を丸飲みにして、鎧やら盾やらを消化できずにそのまま腹の中に溜め込んで死んでしまう個体もいるんだよ。頭悪過ぎるよね。」

「構わん。どうせ使い捨ての駒だ。」

「剣や槍とかの武器を自分で腹の中に入れて自滅するヤツとか、馬鹿過ぎない?」

「それも含めてだ。一度召喚すれば、自分で勝手に餌を探して人間を襲う。放っておけば良いのだ。兵站も要らん。味方側に被害が出なければプラスだ。」

「召喚するのも手間なんだけどねえ。」


 十分な戦力を整えて準備万端でミッドガーランド、ウエストガーランドに攻め込みたい戦術家のレッド男爵と、血気盛んに自ら目の前の目標へ向かう若いガンバ男爵の性格の違いが見て取れる。

ララーシュタインの軍団は、今は軍備を組織的に編成している最中である。陸・海・空の三軍のそれぞれ、陸軍をレッド男爵、空軍をガンバ男爵が率いるが、三軍の長はレッド男爵であり、海軍を率いるマッハ男爵もレッド男爵に近い考えを持っている。しかし、ララーシュタインの直属であるデイヴが工作活動によってシルヴァホエールのゴーレムのタロスを活動停止に追い込んだことで、ララーシュタインは今が開戦に絶好のタイミングであると捉え、三男爵を急かしている。

この調子では、功を焦ったガンバ男爵が先走って、隣国に攻め込んでしまう事を憂慮しウエストガーランドとの境には陸軍のレッド男爵、ミッドガーランドとの境の海峡には海軍のマッハ男爵が目を光らせているというのが現状なのであった。ガンバ男爵が召喚するのも手間と言ったのは、翼竜は彼が召喚しているからだ。当然魔力を消費する。それにしても主力である陸棲の大型肉食恐竜はレッド男爵が召喚している。この三男爵、決していがみ合っているわけではないが、思想が違う。ララーシュタインは、あえて競わせようと三軍それぞれの指揮権を与えている。


「ガンバ男爵よ。こうしてウエストガーランドから冒険者が入り込んでくるのだ。焦らずとも、開戦は近いだろう。総統閣下が下賜(かし)してくださった戦力をどう運用するか、熟慮せねばならん。覚悟せよ。」

「わかっているとも。オズボーンのフェザーライト号と直接対決するのは、僕の空軍だよ。序盤戦では制空権を握らないといけないし、忙しいのは当然だよねえ。」


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