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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第3章 悪魔
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第27話 疑問

【マチコ】

異世界人 女性 26歳

職業ジョブ 冒険者  評価ランク A

職能クラス 格闘家マーシャルアーティスト

所属パーティ シルヴァホエール  評価ランク A

 マチコは船から港に下ろされたコンテナに寄りかかって何気なくアザラシが泳ぐ海を眺めていた。それまでにいた大陸より気温が低く、比べると風は少し冷たいが穏やかで気持ちが良い。


「待たせたな、マチコ。馬と馬車の手配はできたよ。ただ、空いてる馬車は少なくてな。幌はついているが、幅の狭い荷馬車だな。」


サキがマチコに近寄り声を掛ける。マチコはサキの腕にすり寄り応える。


「いいのよ。狭ければくっついて寝ればいいんじゃない。目立たないように魔法具機体(ビークル)を使わないとなれば当然よ。贅沢は言わない。」


くっついて寝るというのが、むしろうれしそうなマチコに、サキは頷いてみせる。

 マチコがトランクを小さな馬車の荷台に積み込み、御者台にサキが座ったところ、羽音もたてず猛禽類が飛んできた。普通ならば驚くだろうが、サキはさっと水平に腕を上げる。すると、腕にその耳木兎(ミミズク)は迷いなく留った。


「リュウ、ご苦労。よく帰った。」

「リュウ、お帰り~。クララは元気にしてた?」


ホウ、と一鳴きして片足を上げると筒状の物が巻き付けてあった。取り上げてみるとクララからサキへの手紙である。


「委細承知いたしました。こちらからの知らせとしては、ミスリルは見つかりませんが、デイヴの代わりになりそうな魔法使いがいます。パーティメンバーとして迎えたいので、会ってみてください。と、書いてあるぞ。」

「へえ~、見せて見せて。おしゃべりな割りに人見知りするあの娘がメンバーに入れたいって、よっぽど気に入ったのかしら?あの娘を守ってくれる殿方だったらいいわねえ。」


マチコが続きを読み、サキに説明する。もともとパッチリした目を大きく開いて驚きの表情だ。


「あら、異世界人(エトランゼ)ですって。しかも私と同郷よ。日本って国。グローブでは陸上自衛隊で戦車の砲手。陸上自衛隊ってのは、まあ軍隊ね。騎士団みたいな職業軍人よ。えーっと、戦車っていうのはね、馬がいない箱馬車、かしらねえ。魔法ではなく科学の賜物で、ひとりでに動く鉄の箱馬車。で、荷台には投石器(カタパルト)みたいな武器が載ってて、その武器の扱いの専門職ってことだわ。」


 サキが「ピュー」と口笛を吹いた。そして愉快そうに笑っている。


「ほう。グローブでカタパルトを扱う職業軍人が、ユーロックスで魔法使いになったのか。それは面白いな。タロスの火力担当として使えるか?」

「クララ、いい男を捕まえたんじゃない?今まで奥手だと思ってたのに。お姐さんはうれしいわ。そりゃ会ってみたいわねえ。ねえ、サキ。」


 リュウは、そんな二人の会話を他所に馬の背に乗り羽根を繕っている。サキはゆっくりと馬車を出す。


「サキ。ちょっと気になることも書いてあるわ。半島のダンジョンで不自然なオーバーランがあって、しかもデーモンがいたって。」

「デーモンなんて、そうそう自然に出てくるものじゃない。召喚した者がいるのだとしたら、地勢的に望ましくないな。」

「タロスの修復は急いだほうが良さそうねえ。」

「クララと合流したらオズボーンを探すか、それともドワーフの里へ行くか。」


 馬車に揺られながら、二人は、この先に何があるのか、期待と不安を感じていた。パーティメンバーが増えるかもしれない事。そしてデーモンの存在。




 毎朝の日課であるランニングに出掛けようとするとレイゾーが付いてきた。どこからともなく現れるな。意外と神出鬼没。走りながら話す。


「おはよう。早いね。」

「おはようございます。レイゾーさんも早いですね。」

「店の皆だって、もう起きてるよ。この時間に新しいメニューの開発やってるから。結局店が繁盛すれば、冒険者をこの街に呼び込むことになるってね。」


 そうだ。なにもオーバーランのときだけではない。普段からラビリンスに探索者や冒険者が入って魔物を狩っていれば、混沌(ドゥーム)迷宮(ラビリンス)のマナの循環を促し、暴走狂暴化を抑えることができる。3年前の戦争の影響でマンパワーが足りないこの街では重要なことだ。


「ああ、なるほど。それで親子丼とかできたんですね。仕事早いなあ。」

「タムさんはねえ、ホント仕事早いよねえ。仕込みの合間には、鍛冶職人のところへ行って対トリフィドクロスボウを作る計画まで進めてるよ。」


 食人植物(トリフィド)は先日のオーバーランで初めて確認された新種の魔物(モンスター)だ。SF小説に登場するそうで、本を読んだタムラ一人だけが、その対抗策を知っていた。ソテツのような幹の天辺にある花を斬り落とせば良いのだが、そのために数メートルの高さに横方向に刃を飛ばし凪ぐ。即席に片刃の剣の刀身をクロスボウの矢として使ったのだが、あんな器用なことはタムラにしかできないだろう。専用のボウガンと矢の代わりの刃を作っているのか。


「今日の昼過ぎにはページ公が王都から戻られるそうだ。明日からは、また何か動きがあるだろうね。」


それを伝えるために、こうして一緒に走ってくれているのか。こちらからも昨日のことを話しておこう。


「レイゾーさん、一応昨日でテオのダンジョンの10階層まで探索は済みましたが、新しく11階層ができていました。そして11階層にはレッサーデーモンがいました。俺一人だったら生きて帰ってこられなかったんじゃないでしょうか。クララと二人掛かりでなんとか帰還しました。11階層の探索は切り上げて、10階層のマナプールだけ壊して戻ってきたんです。ギルドには事後報告になりますが、今日これから行ってきます。」


この話にはレイゾーも驚いているようだ。走りながら呼吸ひとつ乱さないのだが、目尻が少し上がった気がする。


「そうか。たいへんだったね。そのことはギルドの報告するところまでにして、他には漏らさないようにね。大きな騒ぎになるかもしれない。杞憂(きゆう)ならいいけど。」


やはり、普通ではないのか。このユーロックスに来てしまってから次々とイベントが起こるのは、どうしてなんだろう。


「この世界には、三つの月があるが、その月の住人たちは霊的な存在でね。この地上に存在するための身体がない。魂だけしかないわけだ。この地上の世界に出てくるには、肉体を獲得しないといけない。デーモンがいたということは、どうにかして肉体を得たということなんだけど、普通は無理だ。きっと外的要因があったんだよ。」

「外的要因というと?」

「例えば、高い魔力を持った者が悪魔召喚の儀式をしたとか。ひょっとしたら何か騒ぎを起こそうとしているテロリストみたいな者がいるかもしれないってことだよ。3年前の戦争みたいにね。」

「戦争?」

「だから、まだ黙っていてほしいんだ。」

「わかりました。で、もしそうなら、戦争を止めないといけませんね。」

「そうだ。テオのダンジョンの11階層については、僕とガラハドとマリアで相談してみるよ。ページ公が戻られるのは、良いタイミングだと言えるかもしれない。ロジャーとも話せるだろう。」


タムラが、異世界人がユーロックスに呼ばれるのは、なにか意図のようなものを感じると言っていたことが頭をよぎった。ユーロックスにとっては都合よく異世界人が転移してくると。ひょっとして、異世界人の転移も同じような要因によるものだろうか。



週2回くらいのペースで更新していきたいと思っています。

ただ10月、11月は仕事が忙しそうですので、遅れるかもしれません。


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@idedanjo

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― 新着の感想 ―
[一言] >トリフィド  もしあの映画のモノと同じなら、あと”塩”があれば効果的でしょう。←水は魔法で出せるので。
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