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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第3章 悪魔
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第26話 占い

そろそろ物語が展開していきます。


精霊魔術(エレメンタルマジック)での火や風の魔法は体温の調節をするし、水の魔法でなら回復効果を含んだ飲み水を作ったりもできる。土の魔法ならば傷ついた肉の組織を蘇生もする。だが、僧侶が使う四極魔術(ダイヤグラム)の白の魔法のような痛みを抑えたりする魔法はない。五芒星魔術(ペンタグラム)ならば白のマナの魔法も扱えるが、自分の技量では、まだ無理だ。黒のマナで脳内麻薬を作る手もあるが、それはさすがに遠慮したい。痛みを堪えつつテオのダンジョンの10階層のマナプールを潰して外に出た。


「クッキーさん、あたしの家に来てください。怪我の治療をしましょう。」

「大丈夫だよ。それに独り身の女の子の家にお邪魔するってのも。」

「家にポーションがあるんです。にわかにでもパーティ組んでるんですから。背中を痛めて後遺症とかあったら困ります。」


 半ばクララに押し切られるようにしてクララの家にお邪魔した。こじんまりとしているが、清潔にしている。ただ、周りの小さな畑は耕作放棄地になっている。年に一、二度帰省しているというが、それではほとんど空き家、せいぜい別荘だ。管理もたいへんだろうに。魔法具(アーティファクト)を使ってある程度の家屋の維持、畑だった土地の草刈りなどはできるらしい。羊飼いや猟師が山小屋の管理によく魔法を使うとか。

 一枚板の内開きのドアをくぐると暖炉のある居間だ。家に入ると、すぐに丸椅子に座るように勧められた。クララは、キッチンから固く絞った濡れタオル、キャビネットから試験管のようなガラス瓶と薄い円盤状の缶を持ち出し、まずガラス瓶の液体を飲むように指示してきた。これがポーションか。


「シャツを脱いで、此方に背中を向けてください。」


俺の背中をタオルで丁寧に拭き、指の腹で軽くポンポンとあちこちを叩く。指が冷たくて気持ち良い。


「少し熱がありますね。どこが痛みますか?」

「『手当て』って言葉どおり、クララの手が触ると治るよ。」

「ちゃんと答えてください。つねっちゃいますよ。」


真面目に答えると、クララはそこに薬を塗ってくれた。ポーションも効いてきたのだろう。だいぶ楽になって痛みも消えていく。

 俺が、ふう、と一つため息をつくとクララが背中にしがみついてきた。両肩に置かれた手が身体の前にまわってくる。

(クララ、顔近いよ。背中に柔らかいものが当たってるし。)

耳元で囁くように話し出す。


「昨日、話しそびれたことがあるんです。おかしなタイミングでリュウが入ってきたものだから。ねえ、クッキーさん。うちのパーティに移籍してくれませんか。」

「あー、うん。ありがとう。お誘い嬉しいよ。ただ、レイゾーさんに相談してみないと。この街を守る責任みたいなものも感じるようになってきたしね。」

「はい。それはもちろん。レイゾーさんやAGI METALのメンバー、うちのパーティメンバーとも話し合う機会をください。それから、あたしはこの街の出身なんですよう。この家だって実家です。クッキーさんが、この街を守ると言ってくれるのは、とっても嬉しいんです。皆で話す前にクッキーさん本人の気持ちを知りたくって。」


クララが両腕を前にまわしてきた。後ろからハグされる形になった。


「あ、それはほら、なんというか。やぶさかではないです。」

(なにどぎまぎしてんだ、俺。しっかりしろよ。)


クララの手を握った。クララのハグも強くなる。


「じゃあ、話し合ってもらえますね?クッキーさん、ありがとう。」


頬にキスされた。と、思ったらクララはすぐに離れた。照れているらしい。

(なんてかわいいんだろう、クララ。)


「食事の支度しますねぇ。今日はここで食べてください。」

「え?クララの手料理?料理できるんだね。いいなあ、是非。」

「マチコ姐さんの手伝いしてるから、グローブの料理もできますよぅ。」

「グローブ?」

「ああ、クッキーさんやマチコ姐さんのいた異世界のことです。この世界をユーロックスって言うのに対してそう呼びます。」

「うん、そうか。」


もう世界の呼び方なんて、どうでもいい。クララの手料理で頭がいっぱいだ。


取調室に丼料理があることからも分かるが、この世界でも米は手に入る。もっとも別の国からの輸入か、ラビリンスでの魔物のドロップアイテムだそうだが。クララの料理はコンソメスープとオムライスだった。日本の洋食屋のメニューそのもの。意外性だけではなく、本当に美味。満足だ。スープを長時間煮込むラーメンや油の温度管理が難しいカツ丼など取調室には遠く及ばないと言っているが、謙遜だろ。これからもずっとクララの料理を食べたい。クララのパーティに移籍しないといけない理由が見付かったぞ。


 クララのダガーの魔法を活かせば湯を沸かすのもお手の物だそうで、シャワーを浴びてからダンジョンの地図作成、魔法の勉強などを済ますが、クララはずっと喋っていた。もともとよく喋るのだが、今日はとくに饒舌だった。両親は他界して空き部屋もあるのでシルヴァホエールのパーティメンバーをこの家に住まわせたいとか。


 そして、泊っていけとも言ってくれた。パーティの移籍の件に絡んでおかしな噂を立てられてもいけないので、それはやんわりと断ったが、別れ際には家の玄関でこちらからクララを抱きしめてキスした。


「じゃあ、また明日。」

「はい、明日はギルドに報告ですね。マリアさんに会ったら、その後ガラハドさんにも報告に行きましょう。それから・・・。」

「そのへんで。明日のことは、また明日にしよう。お休み。」


放っておくと、いつまでも喋り続けて帰れなくなるので、適当なところで終わらせた。が、クララに背中を向けてから、俺の表情は緩みっぱなしだった。




 半壊したバルナックの城の地下。『指令室』の半円の卓上に魔女と呼ばれる熟年女性がタロットカードを並べている。一枚捲っては目を細め、また一枚捲ってはため息をつく。


「まただねえ。何回やっても同じカード。」


ララーシュタインは魔女を横目に見て、半分はあきれ、半分は諦め、小さな声で尋ねる。


「ばば様の占いには、今まで随分と助けていただいたが、今度ばかりは間違いでは?」

「それなら何回も同じカードが出たりはしないさ。なにもあんたの計画が失敗するとは出ていないよ。ただ邪魔者がいるとの暗示なんだ。あんたの周りの環境と人間関係について占ったのだからね。逆に言えば、これらをなんとかすれば、あんたの成功は約束されるよ。」

「ほう。では、その邪魔者とは?」

「7枚のカードさね。22枚の大アルカナのうちの7枚が大きな障害になる。

 ナンバーの順に言おうかね。まずは愚者。それから魔術士、女教皇、皇帝、戦車、力、塔。おそらく、これらが示すのは、愚者は吟遊詩人の坂上礼三。魔術士は、あのオズボーンだろう。女教皇は賢者マリア。皇帝は、現ミッドガーランド国王か、その次男か、王族の誰かだろうね。おそらくは四男。力は怪力の騎士ガラハド。塔はマスターオブパペッツのサキ。戦車ってのが、見当がつかないが。

最も警戒しないといけないのは、塔のサキ。『塔』ってカードはね、煮ても焼いても喰えないのさ。毒にしかならない。災いそのものを表すカードだからねえ。」


 ララーシュタインは瞬きしながら、こめかみが痙攣している。そうとう機嫌が悪いようだ。


「要するに、半分は父の仇であるミッドガーランドにAGI METALの奴等だな。3年前の恨みは晴らしてくれよう。マスターオブパペッツのサキについては、デイヴを遣わして動きを封じてある。もっとも警戒しないといけないというのは、情報が少ないことに尽きるのではないか?私としては、むしろオズボーンが気に掛かる。」

「まあ、そうかもしれないねえ。」


魔女はタロットカードを片付けながら、椅子から立ち上がりララーシュタインの顔色を伺うように覗き込む。


「戦力は整ってきているんだ。あんたの用兵しだいだろうよ。部下をうまく使うんだね。」


魔女は手を振って笑いながら指令室を出て行った。


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