第231話 アカシックバスター
悪魔には、魔法攻撃も物理攻撃も効きにくい。ただし全く効かないわけではない。タルエルと俺が魔法の十字砲火を放ち、その隙をついて撃ったトリスタンの矢が背に刺さった。そして、おそらく逆に物理攻撃の大技に注意が向いているときに魔法を撃ち込めば、魔法が効くかもしれない。だとしたら、全員で取り囲んで一斉攻撃するか?
オリヴィアが宮廷騎士の数人を結界の中へと入れた。毒を受けて動けないクララ、ロジャー、ブライアン、ホリスター、フォーゼを外に搬送するためだ。さすがオリヴィアは伊達に魔女をやっているわけじゃないな。動けない五人を搬送してくれたら、味方への被害を気にせず、大きな火力呪文を撃てる。
俺は搬送される前にせめて一寸声をかけようとクララに駆け寄った。すると逆にクララに鼓舞されてしまった。
「クララ、大丈夫か? 」
「ごめんねえ。ヘマしちゃったね。これ、姐さんの手甲借りて来たから、了ちゃんが使って。」
「ん。わかった。ゆっくり休むんだよ。あとは俺達がやるから。心配すんな。」
クララに雷撃の手甲を渡された。俺は手甲を着け、クララたちは衛兵の宮廷騎士たちに運ばれていくが、その間にもサキやレイゾーはアスタロトと戦っている。
ジーンとアランが剣、槍を振るう場にレイゾーが割り込み両手剣を振り下ろす。これまた見事にアスタロトは魔剣グラムの動きを先読みしたかのように躱すのだが、レイゾーとサキは示し合わせたように連携していた。サキが呪文を詠唱していた。
「北欧風の部屋に椅子などない。絨毯に腰をおろしワインを飲んで時を待て。氷柱の林! 」
大聖堂の中の空気がさらに冷たくなったかと思うと白い霧が集まった。その水分が水滴となると、次には太い氷の柱になり、先細りに上に伸びていく。その氷柱が何本もできて、一斉に天井を目指す。やがてアスタロトの足に刺さった。
魔法が効いた!? どういうことだ? 破魔矢六連弾のどの色のマナも効かなかった。氷柱の林は、マナの色では青とシアンだ。何か別の理由があるのか?
「クッキー! 分かったぞ! 」
サキが何か気が付いたらしい。その隣ではオズマが高笑いしている。
「そういう事だったか。魔素粒子加速砲が効かなかったときゃあ肝を冷やしたが。これでボッコボコにしてやれるぜえ。
極夜の弓矢! 」
オズマが詠唱したのは氷の矢を飛ばす呪文だ。アスタロトは少し慌てた様子で、身体は氷の矢の当たらない位置は移動しながら手刀で矢をへし折る。
「ええい、こんな物! 」
氷が弱点なのか? トリスタンがマナアローを番える。タムラが発明した鏃に孔が開けてあり、トークンを嵌め込んで矢に魔法の効果を加える。嵌め込まれているのは青いトークン。トリスタンならば、外さない。アスタロトを射た。が、アスタロトは当たる前にその矢を掴む。アスタロトもおそらくはレイゾーと同じように思考行動を加速しているのだろう。
アスタロトは掴んだ矢を投げ返した。トリスタンは弓を振ってその矢を叩き弾こうとするが。トリスタンの前にオートマトンが割り込んだ。オートマトンの胸に矢が刺さり、マナアローの効果で胴体が凍り付いた。
「タルエル! タロスみたいに頑丈なボディではないぞ。気をつけろ。
クッキー! 間接攻撃だ! あれは魔法ではなくマナそのものを阻害する盾みたいなものだ。 とりあえず、手甲の雷撃は利くはずだぞ。」
間接攻撃!? そうか、そういうことか。
俺は手甲の雷撃を浴びせるとアスタロトは逃げ回る。当たってもそれほどのダメージはないのかもしれない。だが、避けて周るのは、ノーダメージとはいかないからだ。魔法そのものも効かないわけじゃないだろう。
攻撃魔法の分類には、直接攻撃と関節攻撃というものもある。マナそのものが対象に働きかけるのが直接攻撃。マナが働き生じた事象によって対象を攻撃するのが関節攻撃。
アスタロトに防がれた破魔矢六連弾と魔素粒子加速砲はどちらも直接に魔法のエネルギーのマナを相手にぶつける呪文。魔法によって生じた何かが相手を攻撃するのだったら効き目があるということだ。
まさか役に立つ機会が訪れるとは思わなかったが、こんなこともあろうかと用意していたものがある。俺は交通事故によって元の世界グローブからこっち側の世界ユーロックスへ飛ばされて来たわけだが、その時に乗っていた車がある。いや、あるというか、今はもうない。そのミニバンは、セントアイブスを襲った恐竜と戦ったときに体当たりさせてガソリンに火を着け燃やしてしまったから。
だが、仕事の合間にその残骸を漁って回収した部品がある。変速機や車軸を分解して中から取り出した物だ。ボールベアリング。こいつがあれば、あの堕天使アスタロトに一泡吹かせてやれるかもしれない。
「ようし、やってやる! 皆、牽制を頼む! 」
「「おう!」」
レイゾー、ガラハド、サキ、オズマ、トリスタン、ジーン、アラン、全員がそれぞれの得意技を堕天使に叩き込む。マリアとレイチェルは不測の事態に備えて待機している素振りだが、どの攻撃魔法を使うのか選んで考えているようにも見える。この顔ぶれで、防御や回復系の魔法に一番長けているのはマリアだ。
俺がここで使う魔法の呪文は二つ。一つ目。タムラが使った魔法の見様見真似だが、ここで使うのには最適だ。追尾機能のない火力呪文の命中率を上げる。
「嘘ばかりの世界の罪人に暇を出す。思想の自由を満喫し心静かに瞑想を。釈放!」
この前後に詠唱される攻撃魔法はターゲットを自動追尾する。射出速度があまりに速いため、避けられはしないだろうが、制御も大変だ。確実に当てるために釈放は前以て詠唱しておく。
「ブレッスン・フォー! 吹き荒れろ、電磁波の嵐。やって来い、暗黒物質を荒らす雷撃の将軍よ。超電磁砲! 」
掌に乗せたベアリングの球を超高速で打ち出すが、俺の手にはクララが持ってきてくれた雷撃の手甲が嵌められている。ベアリング弾は高電圧に帯電し、さらに加速された。
この呪文はマノンが持っていたモーニングスターの鉄球を飛ばしたときにはメタルゴーレムにでも通用した。手甲のスキルとの合わせ技で、なんとかなるのではないか。
狙い通りにアスタロトの腹に命中すると、ベアリング弾は貫通。大聖堂の壁にも風穴を開けた。軽く喀血して腹を押さえて前屈みになった。マナキャンセラーとやらも、光速でぶつかるベアリング弾は防げまい。
そして、仲間たちは、この好機を見逃さない。剣や槍、矢が一斉に堕天使に襲い掛かる。軽傷でも、幾つも重なれば重傷だ。
「お、おのれ。人間どもめ。サルガタナスを打ち負かしたのも、まぐれではないようねえ。」
「そうですね。人間たちよ。よくやりました。」
ここまで静観していた大天使ラジエルが、急にしゃしゃり出て来た。調子良すぎだろう。
「あとは、こちらで引き受けましょう。」
あ、なんだ、最後においしいところだけ持って行くつもりか。上司にしたくないタイプだな。やはり呪文を唱え始めた。
「迷える子羊たちをいざなう羊飼い、猛禽を操る鷹匠、獅子を抑える猛獣使い、死者の魂をヴァルハラで迎えるヴァルキューレ、力を統べる全ての者を白い月へ還し給う。魂魄粉砕波!!」
見たことのない大きな三角形の魔法陣が浮かんだ。白いマナだけが働いているようだ。白い光の洪水。
「あはははははははっ、それを待ってたわよ! ラジエル!
反射!! 」
アスタロトがインスタント呪文を使った。おそらくは返し技だ。
光が大量に溢れ、眩しくて眼を開けていられない。タムラのサングラスをかけていたサキだけは、片目を薄く開けて目撃した。
ラジエルの呪文、火力呪文に近い、白マナの大砲のような魔法をアスタロトが鏡のごとく跳ね返した。ラジエルが自分自身の魔法を喰らう。
白い光が消えると焦げ臭い。うつ伏せになったラジエルが大聖堂の床に伏している。背中の翼が小さく見える。羽根をむしられたかのようだ。
今回のネタ うんちく
ザ・ブレッスン・フォー : 四人組コーラスグループ。
「超電磁ロボ コンバトラーV」「無敵超人ザンボット3」「ウルトラマン」などの主題歌のコーラスを担当した。
レールガン : 「電磁砲」各国が躍起になって開発中の超近代兵器。
火薬を使用せず、電力で金属球を高速で撃ちだす大砲。射程距離が長く、強力。
大きな電源が必要、砲身の耐久性の問題などで、どの国も開発が進まないが、唯一日本だけが実用化しそうだと、隣国などは戦々恐々としているとか。
「銀河英雄伝説」などのSF作品では、お馴染みの兵器。
アカシックバスター : ラジエルのアカシッレコードへの干渉を利用した精神攻撃の一種。スパロボシリーズの「魔装機神サイバスター」が同名の武器を使用。




