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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第15章(最終章) 戦後
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第229話 最終決戦

悪魔アスタロト は、欧州の絵画では、大きなドラゴンに乗って右手に蛇を掴んだ天使の姿で描かれています。

 最上位悪魔アスタロトと大天使ラジエル、俺達ミッドガーランドの人間やダークエルフとの戦いが始まった。ララーシュタインや三男爵を従えていた親玉アスタロトがどれだけの力を持っているのだろうか。

 だが、ラジエルは今のところ静観。俺達が戦う様子を黙って見ている。人間たちをダシにしてアスタロトの戦力分析か? ズルくないか?

 俺達が纏めて掛かってアスタロト、ドラゴン、蛇の三つに戦力を分散したので、どこに加わるか考えているのだといえば、その通りなのだろうが。かくいう俺も、このメンバーの中では冒険者パーティの後衛職の魔法使いとなるので、一歩引いたところで俯瞰し、魔法を使うタイミングを計っている。俺はタロスの能力で増幅された魔法の攻撃力に馴れてしまい、ある意味魔法の感覚がズレている。頭の中のイメージでそれを修正しつつ、三つのターゲットのどれから、どう攻めようかと考えている。


 マリアのほうが俺よりも早く動く。どれからかと言えば、目の前でレイゾーとガラハドが戦っているドラゴンから。だが、順番はどうでもよい。三つとも有無を言わさず叩きのめすと腹を括っている。


「言葉の数だけ犬死に無駄死に針の山(ブレッドファン)!」


 マリアが得意とする範囲攻撃呪文。数千本の針が飛び、複数の敵を串刺しにするソーサリー。アスタロトは防御魔法が効いているらしく、ノーダメージ。ニーズヘッグは脱皮して成体になったものの、まだ小さい。細長い身体をくねらせて器用に避けた。だが、近くにいたドラゴンはまともに針を喰らった。

 とはいえ、固い鱗に覆われた身体だ。ギラギラと光る鱗が高い金属音を響かせ、半分以上の針を弾いた。あと半分は刺さったが、浅い。針の頭が軽くめり込んだ程度。

 それを見越していたのか、マリアはモーニングスターを振り回す。鉄球をドラゴンに打ち付けた。鱗の表面に立っていた針が皮膚の奥に打ち込まれた。針がめり込んでドラゴンが血を流す。

 ガラハドも左手に持ったメカンダーの盾のシールドバッシュで針を押し込む。細かいが深い傷が無数にできていくと、動きに隙ができたドラゴンに向けレイゾーとガラハドの剣が襲い掛かる。レイゾーは横方向に薙ぎ払うように。ガラハドは腰を回転して振りかぶり正拳のごとく突いた。魔剣グラム、アロンダイトともドラゴンの堅い鱗を破り、肉を斬った。


「ファフニール! しっかりしなさい! 」


 アスタロトにファフニールと呼ばれ叱咤(しった)されたドラゴンは、二本足で立ち上がると変身しドワーフとなった。飛ばずに地に足を突いた状態だ。そのドワーフを見たホリスターが手斧の一本を投げつけるが、剣で弾く。フォーゼが戦斧を頭上に構え飛び掛かり、これも難なく躱された。


「ドワーフか。我らドヴェルグの退化した姿。情けないのう。」

「なにい? ドヴェルグだとう? 」

「親方。ドヴェルグってなんです? 」


 ドラゴンが変身したドワーフかと思われたそれは、『ドヴェルグ』だという。そしてドワーフは、それの退化した姿だと。

 さっぱり意味が分からないフォーゼは、ホリスターに質問した。ホリスターが知っていれば良いが。


「ドヴェルグってえのは、俺達ドワーフの先祖だ。俺の先祖の職人メカンダーもドヴェルグだって話だ。俺達ドワーフは石の妖精といわれるが、ドヴェルグは闇の妖精だとよ。意地汚い闇の妖精なら悪魔とは相性がいいだろうな。日の光に弱い代わりにドラゴンに変身するとか。」

「俺達の先祖…。名工メカンダーと同じで、しかもドラゴンに変身するって、なんだそれ!? 反則じゃねえか! 」




 アスタロトはアランの二刀流、ジーンの槍、ブライアンの弓を鮮やかに躱す。ニーズヘッグとファフニールについては互角に戦っているように思うが、アスタロトには翻弄されている。俺も弓で攻撃し、また射撃にはそこそこの自信があったのだが、すべて避けられてしまう。おそらく四枚羽根が思いもよらない複雑な動きを可能にしている。

 こうなれば、自動追尾する魔法の矢(マジックミサイル)の出番だろう。


曲射弾道弾(トレンチモータル)

 暗器(デリンジャー)!」


大きく弧を描いて死角から回り込んで攻撃する迫撃砲と、当たり所によっては一撃で相手を倒すこともできる直球の二連弾。追尾式の火力魔法はさすがに避けられなかったが、対魔法防御を働かせたらしい。全て無効化された。

 これは(まず)い。もっと攻撃力の強い大火力の決め技をぶち込むか、他のマナや魔力の使い方をする魔法を試すか? 魔法そのものが通じない相手だった場合には、銃剣やナイフで格闘するしかないのか? しかし、勇者であるジーンとアランが攻めあぐねている。俺がサポートするのが一番良いはずだ。


 ニーズヘッグと戦っているサキ、オズマ、ロジャーも膠着状態のようだが、その時に大聖堂の陸屋根の窓ガラスが割れた。ステンドグラスの色とりどりのガラスの破片が床に落ちて四方に散らばる。これは、オリヴィアが外部からの侵入者を認めて魔法の檻の中へ入れたということだ。一体誰だ?


 カササギが一羽飛び込んで来た。ウルドだ。オズワルドが戦死して今は主がおらず、この二カ月どこにいたのかも分からなかった使い魔のウルド。そして、そのウルドに続いて入って来たのは、銀色の自動人形(オートマトン)。ウルドがサキの自動人形(オートマトン)を連れて来た? いや、オリヴィアが侵入を認めたからには、ただのオートマトンではないのだろう。

 これには、サキが一番驚いている。当然か。俺達のパーティを助けて自律行動するように命令が組み込まれてはいるはずだが、出来るのは後方支援だ。タロスのような戦闘能力はない。ましてやミスリルのような頑丈さはないのだから。捨て駒の破損覚悟で囮になることはあるかもしれないが。


 高窓から飛び込んで来たオートマトンは、膝を抱えて前回転。回りながら降りて来ると、ニーズヘッグの頭上で身体を伸ばした。飛び込みの選手のような動きから、足の裏全体を使ってニーズヘッグの頭へ両足蹴り。ニーズヘッグの身体で一番重そうなパーツ、頭を蹴飛ばされ、四肢付きの蛇は床に叩きつけられた。

 その一方で綺麗に着地してみせたオートマトンは、ニーズヘッグの前脚を腕挫十字固うでひしぎじゅうじがため。アームロックの一種で、そのまま低い音が響くまでニーズヘッグの前脚を反らせ、へし折った。それでもおさまらず、さらに引っ張り前脚を引き千切った。やっと離れてお互いに体勢を立て直すと、オートマトンは血が滴り落ちる邪竜の腕を投げ捨てた。俺は、すかさず火葬(インシネレート)の呪文で捨てられた前脚を焼き払う。

 このオートマトンの動き。見覚えがある。迷いなく連続的な流れで容赦なく攻撃する。超一流の格闘家の動きだ。まるでマチコ。サキは確信したようだ。


「ようし、よくやってくれた! タルエル! 」


 タルエルだって? タロスのボディに封じられていた天使(エンジェル)の魂。タロスの代わりにオートマトンのボディを使って駆けつけたのか?

 サキは前脚を引き千切られ、のたうつ邪竜に石化の呪文を見舞う。逃がさないために動きを封じる。


「暗黒の結末。冬よ来たれ。目に見える物全てを闇に葬れ。復活の日など来ない。死後の世界(ブラッケンド)! 」


 サキがよく使う石化の呪文『石の遺跡ストーンテンプルパイロット』よりもさらに強力なソーサリー呪文だ。邪竜ニーズヘッグの鱗がたちまち薄く脆い石になって剥がれ落ちていく。その下の皮膚は白い石灰岩のようになって小さなひびだらけだ。


「義理堅い天使だぜ。オートマトンのボディでも奇襲攻撃でニーズヘッグと戦うか。俺も負けてられねえなあ。」


 オズマもタルエルが参戦したことに驚きつつ、とっておきの魔法を放つ。いざという時にだけ使うオズマのオリジナルの呪文だ。


「静寂を破る悲鳴、真夜中に目覚めて復讐を開始する。我は光を遮るために此処にいる。月に吠えろ(バーカッザムーン)! 」


 黒と緑のマナを操り、大音響とつむじ風が超音速の衝撃波となって対象を襲う魔法だ。石化したニーズヘッグは風化した岩が崩れるように砂塵となって風に吹かれて消え去った。石化と衝撃波。これもコンビネーションの一種である。エルフとダークエルフが行ったことは意義深い。


「へっ、脱皮したくれえで俺達に勝てると思うなよ。」

「「よっしゃあ、いけるぞお。」」


 皆雄叫びを上げた。ニーズヘッグを倒したことで、雰囲気がよくなっているが、アスタロトが釘を刺す。心理戦も考慮しているようだ。さすが悪魔。


「あ~ら、かわいいわねえ。あんな小さな蛇一匹潰したくらいで喜んじゃって。」



今回の魔法のネタは、

METALLICA の Black End

オジー・オズボーン の Bark At The Moon 

やっと、このネタ使えた~ってホッとしてます。連載開始時に考えたネタだったので。


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