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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第15章(最終章) 戦後
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第227話 堕天使

 精霊は基本的には中立の存在。しかし神々に仇為す悪魔とは、天使は敵対している。神話の時代から天使と悪魔の軍団は戦ってきた。

 堕天(フォールダウン)する天使が出れば、悪魔の戦力は増し、天使の戦力は減少する。しかし、神々が新しい天使を生み出すか、また別の手段で天使の戦力が補充されることがある。


「『エル』の名を戴く天使は生まれついての天使。『エル』と付かない名前の天使は、人間か亜人か、徳を積んだ勇者が死後、戦乙女(ヴァルキューレ)によって白い月に召され天使となった者です。

 メタトロン、サンダルフォン、ラブリスといった天使は、元人間の勇者なのです。」


 これはオリヴィアやマリアでも知らなかった。オズマも亜人(デミヒューマン)の王たちも。ラジエルの話は続く。


「そして、元人間の天使のうちの約四割が、元はアーナム人の勇者。だから、将来的に天使の戦力を削ぐために、悪魔どもはアーナム人を根絶やしにしようとしたのですよ。ガーランドを火の海にしたら、大陸にまで攻め込むつもりで。」


 動揺が広がった。王族たちは顔面蒼白になっている。


「サルガタナスは退けたが、他の悪魔が同じように攻めてきたら、どうなるのだ? 」

「アーナム人だけの問題ではない。悪魔の所業だ。他種族も巻き込むだろう。」


 大天使ラジエルは、それらを聞き流し、さらに話を続ける。まだ大事なことがあるようだ。


「今回の戦争のおおまかな背景は理解しましたね? ドルゲ・ララーシュタイン一世が三年前に私欲から領土を広げようと、大魔法で悪魔サルガタナスを召喚。悪魔の軍団を借り受けましたが、その代償として命を落とし、息子のユージン・ララーシュタインが第一次バルナック戦争を起こし敗戦。サルガタナスはドルゲ・ララーシュタイン二世と名乗り人間の振りで第二次バルナック戦争を始め、これを利用してアーナム人を一掃しようとしました。


 肝心なのは、ここからです。汝らは、侵略された側、被害者だと考えているでしょう。しかし、汝らにも正義はないのですよ。元々ジャザム人の土地だったガーランドに五百年前から移民し、ジャザム人の土地を奪ったのはアーナム人。

 戦争で実際に使われた戦術についても。葡萄弾(グレープショット)投石器(カタパルト)を使用しましたね。あれは無差別大量殺人兵器。人道に(もと)る物。」


 あっ! 云われてみれば、そのとおりだ。 規模が小さいだけで、やっていることは、あの禁呪や核兵器と同じだ。虐殺兵器だ。

 何故、気付かなかったんだ!? 俺が止めなきゃいけなかったんだ! 一生の不覚だ。範囲攻撃魔法と同じ感覚になっていたか? 魔法とは比較できない無差別攻撃だというのに。俺達の世界でいえば、着弾点がずれやすく、不発弾もあるMLRS(多連装ロケットシステム)みたいなものだ。いや、多弾頭のクラスター爆弾(集束爆弾、親子爆弾)か。

 俺は絶望感から脚の力が抜け、床面に膝を着いた。おそらく顔色も悪かったんだろう。クララが背中を抱いてくれた。


 ディナダンが恐る恐る挙手し、ラジエルと目が合うと発言した。しどろもどろだが。


「あ、あの。葡萄弾(ぶどうだん)は百年以上も前から使われている、もはやオーソドックスな戦術です。何がいけないのでしょうか? 」

「そういう質問をしてしまう事がいけないのですよ。感覚が麻痺していますね。」

「も、申し訳ございません。」

「非人道兵器や戦術については検討しなさい。その精神性について。

 さて、ここからが神託です。心して聴くように。」


 ラジエルの表情が厳しくなったように見えた。各種族の王族たちは、手を合わせ指を組み、祈りのポーズになっている。


「今後、アーナム人から勇者が輩出されることはありません。ジーンとアランが最後の勇者となります。もしも勇者でなければ解決できないような危機があったとしても、それは神々のあずかり知ることではありません。汝らが自らの手でどうにかしなさい。

 そして、もう他種族、多人種と争うことなく友和の道を探りなさい。でなければ、アーナム人は滅ぶでしょう。」



 アランが隣に立つジーンを肘でつついた。この二カ月程の間、二人で話し合ってきた事と、大天使ラジエルがもたらした神託に繋がる事柄があったようだ。ジーンとアランは、勇者とは何なのか、どうして二人が勇者になったのかという疑問について、あれこれと話し合っていた。


 「アーナム人は滅ぶ」という言葉に驚き、王族たちが呆気に取られていると、天井近くに、また強く白い光。ラジエルが降臨したときと同様に眩しく、神々しさを感じるものだったが、光度が落ちつくと、その光景は常軌を逸していた。


 四枚の白い翼の天使。容姿端麗な女性の天使が右手に蛇を掴み、巨大なドラゴンに乗っている。翼が二対。これは天使の中でも階級(ヒエラルキー)が高いということだ。


「おおっ! 天使様。それも大天使様が二柱も! 」

「こ、これは奇跡か!? 」


 警護役の騎士たちが口々に祝福を述べるように呟いているが、俺達には天使には見えなかった。天使がドラゴンを駆って出て来るものか?


 ラジエルが警鐘を鳴らす。悪しき存在であると。


「いや、あれは天使ではない。堕天使だ。」


 特にサキとオズマは、一目見て怪しいと気付いている。右手に持った蛇がおかしい。コブラのような平たい頭から胸にかけて広がった側面部分。フードと呼ばれる特徴的なパーツがある鎌首。エナメルのように光る鱗。


「おい、サキ! あの蛇だけどよ。羽根と手足はねえが、あの頭の形は、そのものじゃねえか?」

「ああ、間違いない。あれはニーズヘッグの幼生だ。おそらく大きくなれば手足と羽根が生える。」


 トリスタンはストレージャーから弓を出しつつ、騎士団に命令した。話しながら矢を番えている。


「ディナダン、避難誘導しろ。陛下たちを逃がすんだ。なんとしてもお守りしろ。」

「トリスタン卿は? 」

「勿論戦う。陛下たちが逃げる時間くらいは稼いでやるさ。」

「では、私も! 」

「避難誘導しろと言ったはずだが? 」

「わ、分かりました…。」


 ガラハドはメカンダーの盾の一枚をマリアに渡した。修繕されたばかりのもう一枚を左手に持ち、右手には父ラーンスロットの形見となった剣アロンダイトを装備した。


「俺は、あのドラゴンをやるぜ。アロンダイトが本当に竜退治の業物なのか試してやろう。」

「ブレスには気をつけてよ。」


 レイゾーは黙って魔剣グラムをストレージャーから出した。オリヴィアは、クララとシーナにマチコを連れて逃げるように耳打ちしている。


「皆、武器はすぐにストレージャーから出すだろうけれど、防具を装備できない。危ないわね。」


 クランSLASHのメンバーは小声で話しながら身構える。警戒態勢の中、ドラゴンに乗った堕天使が喋りだした。


「あら、やだ。ラジエルちゃんじゃない。お久。数千年ぶり? 」

「汝のような堕天使が、何故ここにいる? 」

「やあねえ、私は堕ちたりしてないわよ。仕える神の種族が違っていたからって勝手に堕天使扱いしないでくれる? アース神族って、そんなに偉いの? 」

「質問に答えなさい。」

「まあ、いいわ。うちの配下のサルガタナスが討ち負かされたっていうからさ。相手の人間どもは、どんな顔してるのかと思って、ちょっと見に来てやったのよ。」


 ついでにコンビニへ寄りました、みたいに言ってやがるな。コイツ、上位の悪魔だろう?俺も『銃剣』を握っているので、いつ戦闘開始してもかまわないぞ。


「三百年前にもネビロスが初代のガーランドの王・ペンドラゴンに倒されたな。汝の配下の悪魔は、残虐な性格でも弱い者ばかりだな。アスタロトよ。」


 この悪魔の名は『アスタロト』。上位のデーモンロード、ネビロスとサルガタナスを従え、地獄の大公爵とも呼ばれる最上位の厄介者。


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