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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第15章(最終章) 戦後
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第226話 ラジエル

 十二月終盤、大晦日の冬至が近づいてきた。ジャカランダ王城の神殿に神託が下るという日が近づき、クランSLASHで取調室のホールに集まって情報の整理と共有をしている。

 情報整理といっても硬い話を繰り返しても仕方がない。それは置いといて。胡麻などの食材がエルフ経由で仕入れられるよになったので、取調室のメニューが増えた。


 マチコは妊娠中とはいえ、何もしないでいると落ち着かない性分。店のワイン蔵の半分を改装した味噌蔵での発酵食品の試作から、新しいレシピ開発に精を出している。これが(ことごと)く美味い。


 ほうれん草の胡麻和え。サラダに使う胡麻ドレッシング。胡麻豆腐。メインになる豚骨ラーメンにたっぷり胡麻を入れ、デザートには胡麻団子。大食漢には、かつ丼かチャーシュー丼も出される。


 俺は食事を楽しみつつもレイゾーが気になった。ユーロックスに来てすぐにレイゾーに助けられ、この取調室で世話になった。そのレイゾーと今は亡きタムラに出されていた課題が胡麻の調達だ。特に苦労して手に入れたわけではないが、日本に帰ることを決めたレイゾーに胡麻の料理が振舞われているのでホッとしている。タムラも草葉の陰で喜んでくれるだろうか。


「クッキー、ナイスだよ。胡麻を仕入れてメニューの幅が広がったし、見立て通りにラーメンの味も深みが増したね。マチコちゃんも料理の才能凄いね。これで取調室は安泰だよ。サキが集客してくれて売上アップしてるし、言う事なし。」



 フェザーライトの修理も粗方済んだ。レイゾーは冬至の夜にジャカランダへ出向き、神託とやらを確認したら、新年にグローブへ帰ると皆に告げた。情報の共有というよりもレイゾーの送別会になった。そして半分は、今更だがマチコの懐妊祝いだ。



 戦後のまだ暗い雰囲気のなか少しだけ明るい話題を振り撒き、年の瀬となった。第二次バルナック戦争で、最後にバルナック城の宮殿にまで攻め込んだ俺達クランSLASHを中心に多くの顔ぶれがジャカランダに集まった。




 ジャカランダの王城の中心にある大聖堂。女王が暮らし、執務を行う宮殿よりも大きく立派である。装飾も素晴らしく、ガーランドの建築技術の粋が集められた物だ。三百年前のペンドラゴン王の時代の歴史を感じさせる意匠が満ちている。


 円筒の塔の中、広い広い床面の半分、半円の形の舞台があり、残りの半円に波紋状に長椅子の座席が並び、放射状に通路が走る。


「ああ、懐かしいね。三年前に僕らがグローブからユーロックスに召喚された場所が、この大聖堂なんだよね。」


 レイゾーがバンドメンバーと一緒に転移したときの話だ。半円の舞台の奥には、日本の神棚を連想させるような建物の模型がある。神殿だ。真っ白で屋根よりも柱が目立つ。それに大きな扉。扉が開くのかどうかは分からないが。


 舞台を正面に捉える座席は空席のまま、舞台上手よりの席に王族。女王ペネロープを崔前席に、一列空けて内務大臣ジョン、外務大臣バージル、国防大臣アラン。次の列に騎士団長トリスタン、副長ディナダン、勇者ジーンとその姉のレイチェル。復興担当大臣のボールス。両脇の通路には、パーカーとケーヨ、警護役の騎士たちが立つ。

 下手側には、セントアイブスに住む俺達クランSLASHと、一つ中央寄りの座席には協力してくれた他部族、亜人のトップたちだ。第二次バルナック戦争での主だった勢力が集まった。

 他部族は、空中都市アッパージェットシティのハイエルフの王ギガとお供のギガ、イスズ。迷いの森に棲むウッドエルフの代表。鉱山都市デズモンドロックシティのドワーフ。迷いの森の奥深くの湖の(ほとり)で暮らし、今回ミッドガーランド王国に次いで最も大きな被害をだしたホビット。これから下されるという神託の内容を首脳陣がすぐに精査するのだろう。


 クランSLASHとしては、レイゾー、ガラハド、マリア、サキ、マチコ、クララ、オズマ、ダークエルフの女王になる予定のメイ、ホリスターたち八人のドワーフ、ロジャーにブライアン、それからオリヴィア。セントアイブスのページ公爵。あとはシーナに俺。要するにほとんど全員。


 実際に戦場で戦った兵以外は、首脳級。大袈裟とも思えるが。この世界で神託とは、そういう事なのだろう。



 そして、天頂部の窓からは、またカササギのウルドが入ってきて俺達を見下ろしている。この二カ月ちかく、何処でどうしていたのだろう。



 天窓から入る光がだんだん薄くなり、日没。律儀にも日の入りと共に、ドーム型の天井近くに眩しい光の輪が現われた。

 やや光量が落ち薄く目を開けて見ると、それはただの光の輪ではなく、数珠状に繋がった幾つもの目玉。どよどよと歓声を上げる王族たち。畏敬の念と恐怖、驚愕が入り混じっている。


「初めて天使を目にする者は驚くだろうな。普通ならば王か高僧にしか、その機会はないからな。まあ、当然の反応だ。」


 ダークエルフの王として、ラヴェンダージェットシティの神殿で神託を受けていたオズマは呟くように言った。これから女王になり神託を受ける立場となるメイに対して言ったのかもしれない。


 光がまた強くなって目を開けられなくなった。白い光の洪水が収まると、そこには人の姿をした天使。長い金髪、白い衣を纏った美しい姿。翼は動かしていないが、宙に浮いている。そして後背には白い輪の後光。神殿の前のかなり高い位置におり、左右を見下ろす。


「命じたとおりに集まっていますね。私は大天使ラジエル。」

「お、おおっ!」

「おおおお! 天使様! 」

「ラジエル様とは、七大天使の! 神々に感謝します。」


 感嘆の声が歓声に変わり、また王族や騎士たちが騒めくが、ラジエルが掌を前に出し、静止した。俺から見ても、王族たち五月蠅いわ。


「聴きなさい。人間たちよ。神々はあらゆる事をお見通しですが、そのためには、歴史や現状を把握することも大事。神々のお側に仕える私、座天使(ソロネ)の天使長としては、下界の情報を整理して『ラジエルの書』に記し、神々にご報告する役目を担っている。

そして、そのための権能を持っています。その権能とは魂の記憶(アカシックレコード)に干渉することです。」


 それまで五月蠅かった者たちが皆押し黙った。「逆らうヤツは神様にチクっちゃうからね。」という意味にとれなくもないからなあ。俺も黙っておこう。


魂の記憶(アカシックレコード)に干渉するといっても、実際に記録を書き換えたりなどすることは滅多にない。」


あるにはあるんだね。くわばらくわばら。ちなみにこれは、日本のおまじないだ。菅原道真公の領地の桑原には雷が落ちませんように、という祟り除け。


「しかし、対象の生死に関わらず、その魂の在り方、行い、思考の全てを読む事は造作もない。そうして歴史の背景、真実を知ることが出来る。」


 だから、天使や神々はなんでも知っていると。凄い話だな。


「汝らに、このバルナック戦争がなんであったのかを説明してやろう。」


 それは、誰もが知りたい事だろう。納得できるかは別だが。


「まずは背景から。汝らは天使の名を幾つ知っていますか? 天使の名の特徴は?」


 オリヴィアが無言で挙手。大天使ラジエルと目が合って話し出した。


「経典によって天使様についての記述に矛盾があるので、数は分かりませんが『エル』と付く名前が多いですわ。」


 続いてマリアが発言した。マリアは挙手もなく、遠慮なし。


「『エル』とは、神そのものを表す言葉であるはずですよね?」


大天使ラジエルが応えた。特に不機嫌な様子はない。


「オリヴィアとマリア。よく知っていますね。では、その『エル』が付くか付かないかですが。

 この世のあらゆる生物(クリーチャー)魔物(モンスター)人間(ヒューマン)亜人(デミヒューマン)、万物は神々が生み出しました。悪魔も精霊もそうなのです。

私たち天使、悪魔も精霊も、本質的には同じです。神々に仕え、神々の理想を現実にするために働くのが天使。生まれた段階で自我が弱く、意思が薄弱で生まれてしまったために神々の命令を忠実に果たすことができないのが精霊。自我が強過ぎて神々に逆らうのが悪魔です。

天使として生まれながら、傲慢などの大罪から自我が強くなり、神々の怒りにふれて白い月を追放された者を堕天使と呼びます。悪魔の中でも最上位の悪魔は、この堕天使です。」


 ラジエルと再び目が合ったオリヴィアが質問する。が、ラジエルは首を横に振った。


「では、ララーシュタインの正体の悪魔サルガタナスは、堕天使ということでしょうか?」

「いいえ、サルガタナスは堕天使ではありません。最上位の悪魔の全てが堕天使ではないし、サルガタナスは上位の悪魔には違いありませんが、最上位ではないでしょう。」


 あれ以上に強力な悪魔がいるということだ。皆戦慄した。

 しかし、ジーンとアランだけは、眼の色が変わった。


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