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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第15章(最終章) 戦後
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第223話 玉子焼き

 ペネロープから見て、侍女兼警護のケーヨの元気がない。前騎士団長ガウェインの戦死が知らされてからのように思う。ケーヨはよくガウェインに話し掛けていたが。もう一人の警護役パーカーに耳打ちする。


「ねえ、パーカー。まさかとは思うんだけれど、ケーヨは、ホントにガウェインのことが好きだったの?」

「ええ、間違いないと思いますよ。」

「ちょっと年が離れてたわよねえ。あんなおじさんに恋しなくってもいいじゃない?」

(たで)食う虫というではございませんか。あ、いえいえ、ガウェイン卿はナイスガイです。年の差など。」

「ふーん。そう? 」


 ペネロープは、ここで妙案を思いついた。ガウェインは男ばかりの四兄弟の長男である。次男三男とも、水軍の各方面軍の将としてブルーノア級の旗艦を指揮し、今回の大戦で戦死してしまったが、まだ四男がいる。若いためにまだ出世しておらず、騎士として登城したことがない。ペネロープはガウェインから紹介されたことがあったが、ケーヨは知らないはずだ。ペネロープは、水軍の人事を見直したいので、アランに組織図と兵の履歴書類を持ってくるようにと命じたのだった。




「ベンチプレス? デッドリフト? なんでえ、そりゃあ? 」

「冒険者探索者を鍛えるために必要なんだ。是非作ってくれよー。親方ああ~。」

「そうそう。異世界グローブの技術なんだよ。興味あるでしょっ! お願いしますよー。」


マチコが呆れて見ている。何を喋っているのか、完全に理解できるだけに。

(まったく、この筋肉馬鹿ども。ホリスターに筋トレグッズを創るようにねだるとは。予想外だったわ。)

ホリスターたちドワーフの職人たちが忙しいのは分かり切っている。それでも、それを承知のうえで、ガラハドと俺はあえて邪魔しに来ている。何故って、フェザーライトの修理を遅らせるためである。


「で? マチコまで何しにきたんだよ? 」

「こないだ頼んだ玉子焼きパンで玉子焼き作ったからさ~。食べてもらおうと思って持って来たのよ。」

「あのへんな調理器具かあ? まったく四角いフライパンだなんて、おかしなもん作らせやがって~。」

「いいから、ホラ。騙されたと思って食べてみてよ。」


玉子焼きと聞いたら、俺も黙っていられないぞ。何カ月か玉子焼きは食べていない。それから、この先、食べることも想像していなかった。目の付け所が違う。さすがだ、マチコ姐さん。


「た、玉子焼き! 姐さん! 俺にも食わせて~。」

「あ、そんじゃあ俺も! 」


ガラハドも乗った。そのことで、他のドワーフの職人たちも興味をそそられたらしい。


「しょうがないわね、この欠食児童どもは。餌をやるから、有難くおあがりなさい。」

「ヤッホーゥ。」


 職人たちが手を止めて、半ば無理矢理に休憩時間となった。玉子焼きの味は好評である。


「おお、どうしたらこんなにフワフワになるんだ? 」

「ほんのり甘くて美味いな。」

「玉子ってこんなに美味い喰いモンだったっけ? 」


 マチコとしては鼻高々な気分ではあるが、ここで止まってはいられない。マチコも結局は同じ目的だ。今後も新しい調理器具をホリスターに作らせ、フェザーライトの修理を遅らせるのだ。


「で、ねえ。次はねえ。タコ焼き器を作って欲しいわけ。お願いできるかしらあ? 勿論、最初に味見できる権利があるわよ~。」


 食欲に釣られたホリスターが、どんな物なのかも分からないまま、生返事をして、職人たちを困らせるが。職人たちも聞いたこともない料理の名前に興味津々だ。


「四角いフライパン作るよりも複雑なんだけど、できるわよねえ? 」

「当然だ! 俺達の腕をなめてんのか? 」


マチコには簡単にのせられた。これでフェザーライトの修理は遅れるだろう。


「まぁったく、子供みたいよねえ。こんな手で引き延ばすなんて。」

「レイゾーさんに一日でも長くいて欲しいんですよ。このまま帰らなければいいのに。」


 マリアもクララも俺達の気持ちは理解してくれているようだ。それなら良い策を授けてほしいものだが。

 マチコはこの後もどんどんと新しい調理器具作成の注文を出すのだった。そして取調室のメニューが増えていく。終いには店頭に飾る食品サンプルまで作りそうな勢いだった。




 魔女シンディは、ジャカランダの城に幽閉されていた。宮廷騎士団の魔法兵団が大魔法で作り上げた魔法結界の中である。小さな個室とその隣の洗面所ウォータークローゼットをすっぽり収めており、一日三交替で騎士や魔法兵の見張りが付く。


「やれやれ。メシは思ったよりまともな物がでるが、退屈でしかたがないね。どうせ戦犯として処刑されるんだろう。いっそ早くやってくれないもんかね。」


 シンディは退屈凌ぎにとタロットカードの(デッキ)を持ち出した。ベッドの上に胡坐(あぐら)をかき、特定のカード七枚を探し出す。

 ララーシュタインの執務室で占った、第二次バルナック戦争の難点(ネック)となる要素、人物を表すカードの七枚だ。


「この七枚のカードがなんだったのか、答え合わせでもしてみようかね。」


 タロットカードとは、悩みを解決するための占い。人の生死、ギャンブルや試験の結果などは分からない。そこで、戦争に勝つか負けるかではなく、ララーシュタインの妨害をしそうな人物、事柄について占っていたわけだが、幾度となくやっても繰り返し表れたのが、七枚の大アルカナ。寓意札とも云う。


 二十二枚の寓意札、大アルカナと四組五十六枚の数位札、小アルカナからなる七十八枚のカードデッキ。一枚一枚のカードにそれぞれ基本的な意味があり、そのカードの並びからキーワードやストーリーを組み立て、絵解きをすることで物事を占う。


 大アルカナは主要なカードであり、抽象的ではあるが「テーマ」性を持つため、意味が強い。小アルカナはトランプ(プレイングカード)の基にもなった。十四枚がそれぞれ世界を構成する元素の地水火風に対応した四組で五十六枚。具体的な事柄を示す。


 ララーシュタインの侵略戦争を阻む障害として出たカードが全て大アルカナ。これは、あらゆる意味で相当な力をもった人物であるとシンディは読み取ったのだが、戦争の結果が出た今、その意味を考え直してみるのも一興だろう。


 愚者、魔術士、女教皇、皇帝、戦車、力、塔。七枚のカードを表向きで並べ眺める。当初、読み込んだのは、愚者は英雄で吟遊詩人の坂上礼三。魔術士は、かつてダークエルフの王だった魔王オズマ・オズボーン。女教皇は賢者マリア。皇帝は、ミッドガーランド国王ジェフか、王子の誰か。四男のアランを有力視。力は怪力の騎士ガラハド。塔はマスターオブパペッツ、エルフのサキ。戦車については、見当がつかなかった。


 これが半分当たりで、半分外れ。おそらく、皇帝と戦車以外は当たりだろう。その確認と、皇帝、戦車をハッキリさせたい。シンディは残りの七十一枚のカードをシャッフルし、裏向きの補助カードを、それぞれ七枚のカードの上に重ねた。これを開けることで、答え合わせとしたい。

 そういえば、二人の若い勇者が最後の戦いに加わっていたというが、占った時点では、勇者の存在は明らかになっていなかった。皇帝と戦車は、その若い勇者二人を暗示していたのだろうか。


戦後処理も少し落ち着いてきた感じです。

レイゾーは日本に帰る支度でしょうかね。

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