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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第15章(最終章) 戦後
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第221話 行政

 セントアイブスの領事館でのエルフ王との会談では、国王同士の顔合わせではないにしてもグレイシー王家の血筋でもある領事のページ公爵がいるために、それなりの恰好はついた。王宮騎士団ではないにしても、この町の騎士団のロジャー、ブライアンは俺達と共にバルナック城攻略作戦に参加し戦い抜いた。


「この町には数多(あまた)の英傑がいる。素晴らしいね。」

エルフの王ギガは、屈託なくセントアイブスの街を褒める。


 セントアイブスから多くの民が志願兵として、またここを活動拠点とする冒険者たちもバルナック城を攻める作戦に出て、命を落としたが、エルフの防空部隊も邪竜ニーズヘッグに従う魔物や悪魔ラウムの軍団と戦った結果、相当な被害を出しており、エルフの王ギガも、軍人のフォワードとイスズも共感できるところが多いようだ。


 レイゾーが取調室から出前させた食事も受けが良いようだ。タムラ亡き今、厨房はシーナが仕切っているが、マチコが新しいメニューを作っているので基本的にベジタリアンが多いエルフにでも食べられる珍しい食事が次々出て来る。

 マチコがワイン蔵で作り始めた醤油や味噌はまだ発酵が浅いが、白味噌や塩麹を使った和え物などはエルフの口にも合う。刻んだ野菜と香草を餡にした焼き餃子などはエルフに限らず、俺とレイゾー以外には全員が未知の味、食感だった。


「これは素晴らしい。これからは、ヒューマンとも積極的に交流していきたいですな。」

「サキがアッパージェットシティに戻らない理由の一つはこれか。」

「このレシピは、あのマチコさんが作ったのよね。凄いわ。」


 会談は終始和やかで、ギガ王はジャカランダへ女王ペネロープを訪ねたい旨をページに伝え、仲立ちを頼んだ。アッパージェットシティへ戻る間際には、イスズがサキとオズマを領域渡り(フィールドウォーク)で迷いの森のフェザーライトまで往復し、フェザーライトの修理の目処と第二のラヴェンダージェットシティを再興する世界樹までの移動手段を確保した。戦後処理はまだまだ長いが、少し明るい兆しだろう。


 そして、エルフの四人とオズマが席を外した領事館の応接間に残った俺達は、今後のセントアイブスの地方行政について、ページ公からの相談を受けた。明日にでも復員船の第一陣がセントアイブスに着きそうだというのだが、小型の船である。

 小型というのは、それだけ復員する者が少ないということだ。傷病者を優先して帰国させるはずであるのに。第二陣で健常者と死傷者の遺体や形見を運ぶので、第二陣は一回り大きな船が手配されるという。


 それだけ多くの死者が出ている。セントアイブスは第一次バルナック戦争の最後の戦場の近くであり、第二次戦争も他人事と思わない町の住民の多くが志願兵として今回の作戦に参加したのだった。


「この先、セントアイブスでは男手が足りなくなるのだ。勿論、この町だけの問題ではないのだが。働き盛りの二十代から四十代の男の多くが戦争に行き、亡くなってしまった。」


 若い一人暮らしの者はともかくとして、一家の大黒柱である男性が戦没、あるいは戦傷の後遺症などで働けなくなった場合、その遺族、家族はどうなるのか。例えば畑や家畜、漁船などを持っていて家業で食っていけるのならば、まあ、それはそれで良い。しかし、皆がそうはいかないだろう。職人や商人など、店子(たなこ)を抱えていてでも難しいだろうし。

 そうなると、後家や孤児、年寄などが生活の糧を求めて、にわか探索者となり迷宮(ラビリンス)に入り、そこで生命を落とすことなどが増える。または犯罪に手を染め、街の治安が悪化するなど。

 三年前にも戦争があったので、国も街も財政はひっ迫しており、補助は出来ない。騎士団も同様に戦没者が出ているため、治安維持だけでもたいへんなことになる。

 勿論こういった事態に備えるためにギルドという組織がある。修道院で育ったマリアとガラハドは、戦災時の慈善活動などに幼少時から馴れており、マリアはとくに熱心だった。聖女ワルプルガと呼ばれていた理由の一つだ。探索者(シーカーズ)ギルドのマスターのマリアと冒険者(アドベンチャーズ)ギルドのマスターを務めるガラハド。三年前にも頑張ったのだが、また大きな出番が来たと考えていた。


 ただ、ページ公が、予想外の問題を持ち出した。いくら戦後処理がたいへんだとはいえ、時代に逆行しかねない。


「一時的な措置だが、文官から『一夫多妻』制度を認めたらどうかとの意見が上がっているのだ。それで母子家庭などを救済できる。

 しかし、これは慎重に判断しなければならない。弊害も多いだろう。」


 俺は聞き捨てならないと思い、直ぐに挙手。意見を述べさせてもらった。


「反対です。弊害が大き過ぎます。一夫多妻にできる男というのは、結局金持ちか身分の高い者でしょう。格差社会になります。差別を生みかねない。そして第二夫人、第三夫人となった女性は、特に家族に対して負い目のようなものを感じながら生きていくことになります。」


 この場にいた女性陣からは拍手が起こった。クララ、マチコ、マリア、シーナの四人だが。俺の発言に驚いていたのは、ページよりもレイゾーとガラハドだった。「戦場ではやるべき事をやっているけれども、こういう場でハッキリと言いたいことを言うとは思っていなかった」そうだ。レイゾーは、もうグローブに帰る気満々だろうし。


 ページも驚いた様子だが、ガラハドとマリアが食い下がった。マリアの内心はこうだ。(ガラハドが私以外の女と結婚するなんて絶対許さないわよ。)マチコも同様だろう。サキがこの場にいないので大人しい。ガラハドが拍手をしながら立ち上がった。


「クッキーの意見は、多くの者が賛同するでしょう。ギルドというのは、こういう事態にこそ働くものです。我々を信じてはくださいませんか? 」


 ガラハドはマリアと共に、にわか探索者に対する研修制度や、人手不足を狙って押し寄せて来るであろう外からの冒険者の対応について対策はすでにギルドでも検討していると説明した。




 サキとオズマが領域渡り(フィールドウォーク)で迷いの森のフェザーライトの位置まで行けるようになったことで、あらゆる事柄が加速して進み始めた。サキが迷いの森でストーンゴーレムを召喚し、荷物の搬送などに使役すると、ダークエルフの新都市となる世界樹で使用される工具や石材、鋼材、建築資材などがなどが次々と運ばれる。半年から一年で浮かび上がる世界樹に、今のうちに資材を運ぶため、あと回しになりがちなフェザーライトの修繕も進み始めた。ここでもサキの自動人形(オートマトン)が動いている。


 ドワーフの職人たちは大忙しだ。ただ、その中でも金属加工が専門職であるホリスターは、ちょっと浮いてしまっている。勿論工房の親方としてどんな分野でも一通りのことはできる。だが、出来る出来ないの問題ではなく、好みなのだ。ホリスターはずっと武具だけを作っていたいタイプなので。

ドワーフたちも木工やら土木、建築、工芸とそれぞれ得意分野があるのだった。金工ばかりでなく木工の得意なフォーゼは楽しそうに仕事を進めているが、ホリスターはあまり得意ではない土木工事の図面を引きながら、タロスの修復計画を立て始めた。欠損した左腕をどうするのか。




 王都ジャカランダ、トリスタンの屋敷。トリスタンは公務をこなすため目の回るような忙しさ。当然留守にしている。ジーンは庭に出て槍を振り回していた。イゾルデはレイチェルに夕餉(ゆうげ)の支度を手伝うように言い、手を動かしながら話した。


「レイチェル、良かったわね。」

「えっ、母上、何がですか? 」

「お父様は騎士団長就任となりましたが、その時に、一緒に爵位が上がりました。」

「そうですね。そのお祝いのご馳走を作るので、私も手伝うのですよね? 」

「うん、まあ、それもあるわね。でも良かったのは、もっと別のことですよ。」


 何か他に良い事があっただろうか? レイチェルには思いもよらないことだった。


「なんでしょう? 」

「もう。レイチェル、本当に分かってないのかしら?

 お父様は爵位が上がって侯爵となりました。そして、王室典範によれば、伯爵家から上ならば、その家の子息令嬢は、王家との婚姻が認められるのよ。」

「え? 王家との婚姻って? 」

「やあねえ。とぼけてるの? 貴方はアラン殿下と結婚できるようになったのよ。」

「えっ、えええ~っ! 」

「好きなんでしょう? アラン殿下のこと。 わたくしの見たところ、相思相愛よね。」


 レイチェルの顔が真っ赤に染まった。あたふたと両手を振っている。


「そ、そそそそ、そんなことは! 」

「王室だったら成人前に結婚も珍しくはないわね。まあ、でもレイチェルもあと二年で十五歳の成人だから、現実的にはその頃かしらね。これからは社交界にでる勉強もしないと。」

「あ、あの、母上? 勝手に盛り上がらないでください~。」


 レイチェルは、内心、トリスタン、イゾルデと養子縁組をして本当に良かったと思った。ただ、実際にアランと結婚したら、セントアイブスに気軽に帰省はできなくなるのだろうと、ちょっと余計な心配をした。


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