表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第15章(最終章) 戦後
226/240

第220話 次元渡り

 光か闇かの精霊、または神か天使の加護、悪魔を服従させるかの違いで、勇者と魔王、二つの職能(クラス)、称号が違うのだが、時と空の精霊の加護を受けるのは、同じであり、渡り能力に重要なのは、時と空の精霊である。

次元渡り(プレーンズウォーク)とは、迷宮渡り(ラビリンスウォーク)領域渡り(フィールドウォーク)を大きく越える移動能力で、距離だけでなく時間まで越える。時間旅行ができるのだ。

だが。ほんの小さな違いで未来は変わるため、未来に往ったところで現在に戻った時には、もう別の未来になっている。未来に往ってもあまり意味はない。そして、過去はどうやっても変わらない。過去に往ったところで干渉はできないのだ。よって所謂タイムパラドックスというものもない。人はただ先の見えない未来に向け現在を生きている。

オズワルドは、この能力に特化していると思えるくらいに達者だった。元々好奇心の強い彼は、様々な地域の過去へ飛び、観察して歴史を調べまくった。この世界の(ことわり)を知ろうと知恵を蓄えた。

それから、次元渡り(プレーンズウォーク)領域渡り(フィールドウォーク)迷宮渡り(ラビリンスウォーク)と違う点は、術者本人しか移動できないことだ。パーティメンバーを連れて行くことはできない。オズワルドに単独行動が多かったのはこのため。さらには、オズマはユーロックスとグローブの関係を知るために、異世界のグローブにまで往来していた。


「いやいや、ちょっと待ってよ、オズマ。術者本人しか移動できないんだよね。それだとさ、僕たちは勇者か魔王にならないといけないね。精霊などの加護を受けられるのは三つまで。僕とクッキーは、すでに火の精霊サラマンダーの加護を受けているから、勇者か魔王になるための精霊種が三つ揃わない。マチコちゃんなら、今からでも勇者か魔王に成れるかもしれないけど。」

「えっ、あたしは帰らないわよ。ずっとここでサキと暮らすんだもん。」


 マチコはお腹を摩り、サキに抱きついた。マチコにとっては、なによりもサキが最優先である。


「ははは、そうだね。マチコちゃんは、それが一番いいよね。だけど、僕は帰る方法を知りたい。帰れるなら帰って、また音楽をやる。」


 レイゾーはオズマに話しを続けるように促し、俺は黙っていた。俺は元の世界に帰るか、どうする? いや、帰る理由はあるか?


「だよな。レイゾーは帰りたいだろう? 続けよう。

次元渡りはな、術者によって個人差が大きい。オズワルドは時間を越えられた。過去にも未来にも行って歴史の研究をした。だが、質量にも制限があってな。ストレージャーにたいした道具も容れられなかった。だから、あまり効率良く研究は進まなかった。

俺の場合はな、時間旅行などは無理だ。オズワルドのようなことはできないが、代わりにできる事がある。フェザーライトごと渡りができる。質量も大きくて大丈夫だ。フェザーライトに荷物を積んで月の世界へ往復できる。おそらく、異世界グローブへも行ける。」


 サキは知っていたらしく眉一つ動かさない。が、あとは一同驚いた。レイゾー、マチコ、クララ、勿論俺も。


「フェザーライトに乗ってグローブへ行けるのかい? 」


 レイゾーが興奮気味に大きな声を出した。さすがヴォーカリスト。家の外にも響くんじゃないのか? 見事なシャウトだ。


「行ける。邪竜ニーズヘッグにダークエルフの空中都市ラヴェンダージェットシティを滅ぼされて、その後の行動をサキ、ホリスター、オズワルドと役割分担して、俺がフェザーライトの船長になったのも納得だろう?」

「でも、今、そのフェザーライトはどうしてるんだい? 」


 サキの使い魔のリュウがフェザーライトの様子は把握していたが、ハーロウィーンが終わり、迷いの森、白と黒の妖精の森スヴァルトアルフヘイムがあるのは、遠い北の島である。領域渡り(フィールドウォーク)は、一度行ったことのある土地に再び向かう場合に発動できる。つまり今セントアイブスにいる俺達では、誰にも即時での移動は不可能。普通の手段で移動するしかない。ひとまずジャカランダまで行き、そこからペガサスを借りるのが、一番早いだろうか。

そして、領域渡り(フィールドウォーク)のできないリュウが飛翔して来るには苦労が伴ったはずだ。疲れているので今は休ませており、またすぐに折り返しフェザーライトまで行かせるわけにもいかない。メイが領域渡り(フィールドウォーク)で帰還してくれれば良いのだが、当のメイたちは、傷ついた船の修復と新都市になりそうな世界樹の調査のために、それどころではなかった。一緒にフェザーライトに乗っているドワーフたち六人には、渡りのできる者はいない。


「今はメイとホリスターの弟子六人が運用してるんだ。世界樹の下調べをよっぽど念入りにやっているか、そうでなけりゃ、どこかに寄り道でもしてやがるんだろう。まあ、そのうちに取調室で使う食材でも積んで帰ってくると思うぜ。」



 にわかに外が騒がしくなってきた。何事だろうかと、俺は外へ様子をうかがいに出た。聞き覚えのある風切り音が頭上から聴こえる。見上げるとフェザーライト、ではなかった。

フェザーライトよりも一回り大きく、船体は白く塗られている。これは、作戦終了後に報告を聞いたハイエルフの飛行船だろうか? 慌てて家の中へサキを呼びに行った。



 タムラのサングラスを掛け上空を見上げたサキは、やはりこの飛行船を知っていた。船首と帆には、白い蛇と鷲を絡めたような図柄の浮彫(レリーフ)。ハイエルフの王家のエンブレムだ。


「ああ。ハイエルフの防空部隊のフラッグシップだ。外交では王家の移動にも使われる軍船。人事異動がなければ、船長は私の知り合いだ。問題はなかろう。」


 飛行船が左右に開いていた帆をカモメの翼のように上に持ち上げ、洋上船の姿になるとレストラン取調室の南側に着陸。俺達がいるクララの家からは一寸遠いが、大きな船なので見失うことはない。セントアイブスの大勢の人が飛行船の周りに集まった。


 エルフの飛行船から降りて来たのは、三人のエルフ。見目麗しい男女を羨望の眼差しと感嘆の声が出迎えた。両脇を固めるのはエルフの将軍フォワードと防空部隊の船団長イスズ。そして真ん中にいるのは、エルフの王ギガである。身分の高い者が不用心にも思えるが、船上の魔法使いたちが防御結界を張っているのだった。

 慌てて駆けつけたサキとオズマ。サキは片膝を着く。


「息災かね、サキ。久しいな。オズマ殿下もまた会えて嬉しい。天使タルエルと共に邪竜ニーズヘッグを退治してくれたようで、全てのエルフを代表して感謝する。そしておめでとう。」

「勿体無いお言葉です。陛下。ニーズヘッグを打倒するのに多くの時間を費やしてしまいました。お許しください。」


 フォワードとイスズもサキに声を掛けた。フォワードはサキの兄。イスズは義理の姉である。フォワード、イスズ、サキとも黒髪。エルフとしても黒髪はたいへん珍しく、そのために幼少時より仲間意識のようなものが強く仲が良かった。サキが黒髪の日本人の俺達と上手くやっているのも、これが一因かもしれない。


「サキ。久しぶりだな。打倒ニーズヘッグ、よくやり遂げた。この数千年、誰も成し遂げられなかった偉業だ。兄弟として誇らしい。」

「また三人で飲みましょう。話したいことが沢山あるわ。」

「ああ。結婚おめでとう。使い魔から二人が結婚したらしいと聞いた。そのうちに祝いの品を持って顔を出す。

 それから、こちらからも知らせることがある。子供ができた。」


 後方をゆっくり歩いて来る身重のマチコの方に目線を向けた。マチコにはクララが付き添っているが、マチコはお腹を擦りながら歩くので、すぐにそれと分かったようだ。


「まあ! それじゃあサキも結婚したのね。」

「いや、人種が違うし籍は入れていない。彼女は異世界人(エトランゼ)だ。」

「そうか、それでは、彼女にニーズヘッグを倒すために協力してもらったのだな? 良い相手を見つけたな。おめでとう。」


「そうかそうか。邪竜が滅び、それを(けしか)けていたと思われるデーモンも退けた。フォワードとサキの兄弟がそれぞれ新しい家族をつくった。こんなにめでたいことはないぞ。ところで、オズマ殿下。」


ギガ王は、話を纏めようとしているのか、広げようとしているのか、良く分からないのだが。エルフの王と、元ダークエルフの王の会話だ。大事なことだろう。


「メイちゃんなんだけどねえ。とってもいい娘に育ったねえ。オズワルド陛下の教育の賜物(たまもの)だね。父王の死を(こら)えて、もうラヴェンダージェットシティを再興しようと頑張っているよ。」


 エルフのギガ王もダークエルフの王族とはフランクな関係のようだ。この後、セントアイブスの領主館へと場所を移し、ページ公にガラハド、マリアも含めての会談となった。

 それから、エルフの飛行船には大きな土産が積まれていた。タロスがニーズヘッグへと投げつけたホリスタートマホークの一本だ。万全ではないフェザーライトに代わってオリハルコン製の巨大な武具を運んでくれた。 


元の世界へ帰れるかも。どうする?

それから、ダークエルフの都の再建は?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ