第21話 魔法陣
【朽木了(通称クッキー)】
ジョブ(職業)冒険者 探索者 評価ランク:D
クラス(職能)ウィザード(魔導士)ブラックマジシャン(黒魔術士)ファイター(戦士)アーチャー(射手)
マリアの魔法についての講義は続く。俺がしっくりしないと感じていた部分が解決していく。腕に押し付けられたクララの胸の感覚を楽しみつつ。(マリアさん、ナイス。)
「他にも呪文の詠唱の仕方によっても分類されるの。魔法は集中力を持って頭の中でイメージを作ることが大事なんだけれど、よりイメージしやすくする為に呪文を唱える。これをソーサリーと呼ぶわ。その呪文が長ければ、より集中しやすくなるので効果の大きな呪文を使えるという理屈ね。ただし、個人差は激しいし、呪文の詠唱の最中には隙だらけになるわね。そこで即応呪文というのがあるわ。短く呪文名を音読すれば良い。隙はできないから動きながら使える。でも、これは魔法の効果は小さい。」
マリアは紅茶を一口飲んで、前髪をかきあげる。一寸間を取りたいのだろう。
「魔法使いの職能名はマジシャンに始まって、メイジ、ウィザードと上級職になるけれど、これは魔素を操れる場合。精霊魔術だと職能名はソーサラー。エレメンタルマジシャンとは呼ばない。精霊魔術では、インスタントは効果が弱すぎてほとんど役に立たないから、実戦ではソーサリーしか使えないの。まあ、それでも魔法使いは数が少ないから、とくに駆け出しの探索者、冒険者のパーティには貴重な戦力よ。隊列では後衛にいて、戦士などの前衛職の後ろから魔法を使えば良い。
クッキーはその精霊魔術のインスタント呪文を実用的に活かして戦った。魔導士として十二分な資質を持っている証。インスタントは戦士として接近戦をやるときに使えるでしょう。」
「それから、呪文ではない魔法もあるんだけど、それはクララが教えればいいかしら、ね?」
マリアが軽く首を傾げて、クララに微笑む。どうやらクララの力量を計っているようだ。
「えー、またまたマリアさん、ちょっと怖いですよぉ。マリアさんってガーランド最強の魔法使いじゃないですかー。マリアさんを差し置いて教えるなんて畏れ多いです。」
「クッキーは、そのほうが嬉しいのかと思ったけど、違うのかしら?」
「お二人から教わるのが一番嬉しいです。」
笑顔を作ってなんとか躱した。いきなりこっちに振らないでほしい。
これ、女同士の戦いか?何を争ってるのか良く分からないが。
「まあ、他にも教えないといけないことは沢山あるんだけれど、一遍には頭に入らないでしょう。実技をやりましょうか。
クッキー、呪文を唱える必要はないから、魔法陣だけ出してみて。しっかりとイメージを持てれば、できるはずだわ。」
目を開けたまま瞑想をするような気持ちで、10式戦車の滑腔砲を頭に思い浮かべる。足下に五芒星の魔法陣が二つ重なって現れた。直径1メートルくらい。
「お、できた。」
「そう。それ。超高等魔術が使える証拠ね。
ペンタグラムは2つの魔法陣があるでしょう。普通なら相性の悪い色のマナの組み合せが分かれて別の魔法陣とすることで、10色全てが使えるようになるのよ。」
なるほど。これまで気にしていなかったが、よく見てみるとR、G、B、W、CLとC、M、Y、BK、GLの二つの組み合わせ。CLとGL以外は、白黒か補色の関係にある。相性の良い色同士でグループ分けしたのか。ここで挙手。
「はい、マリア先生。」
「はい、クッキー君、なんですか。」
「質問です。俺、魔導士と黒魔術士の両方の職能を持ってるんですけど、魔導士があれば、黒魔術士の職能は要らないんじゃないでしょうか?」
「良い質問です。やっぱり、そう思うわよねえ。
でも、四極魔術は魔力でマナを直接操るだけじゃなく、天使、悪魔、精霊の力を借りることもできるの。黒魔術士なら、悪魔と精霊に力を借りられるわよ。この力の貸し借りを『取引』と言うの。さらに悪魔と盟約すれば上級職の黒魔導士となり、天使に加護を受ければ白魔導士になる。
精霊の場合は契約という言葉を使うけれど、四極魔術の時間、空間の精霊と契約できれば、呪術師と呼ばれるようになり、人や物に永続魔法を掛けて、特殊な能力や機能を持たせられる。異世界人が言葉が通じるとか、探索や冒険の移動手段渡りとかね。それから回復薬のような魔法道具も作れるわ。だから呪術師はギルドや神殿で働く者が多いのよ。」
まだまだ知らないことが多い。メモするのも大変なくらいだ。ノートに書きこむのが追い付かないぞ。
「精霊魔術も当然、精霊と契約すればパワーアップするわよ。でも精霊と契約するくらいの力があれば、先に四極魔術が使えるようになっているわ。だから職能名はソーサラーでしかないわ。他のマジックユーザーの職能ならば、皆精霊魔術が使えるもの。」
精霊魔術は、魔法としては基本の『き』か。それでも魔法使いは数が少ないし、昨日のオーバーランの防衛戦なんかで魔法で戦える者となると、ほんの一握りになるわけだな。
「じゃあ、次はこれをやってもらうわ。よく見ておいて。」
マリアは左の掌を上に向け開くと、その上に直径10センチくらいの魔法陣を作った。クララと二人で感心して覗き込むと、魔法陣は縮まり3センチ程の大きさになった。
「こ、これはただ小さいんじゃない。圧縮してますね?」
「そうよ。わかるのね。じゃあ、やってみて。」
さっきと同じように魔法陣を作るが、大きさは変わらない。しかも足下だ。掌にはできない。コツを掴めば、なんとかなるのだろうか?
やり直してみても結果は同様だ。どうすれば良いのか分からない。
「難しいかしら。すべてはイメージなのよ。実際に魔法を発動していないから、魔力の強さではないの。」
マリアは指を立て、人差し指の先に1センチくらいの小さな魔法陣を作った。手を振ると魔法陣も一緒に揺れる。
「これ、クッキーには是非練習してほしいわね。インスタント呪文を使うには便利よ。片手で魔法陣を作って、右でも左でも好きな方向へ火力呪文を撃ち、もう片方の手で剣を振るう。戦士でもあるのだから、使いようじゃないかしら?」
この後、ギルドの講習で使う弓の射場を借りて魔法陣を作る練習をさせてもらった。ギルドの庁舎の北側にあり、丁度マリアが執務室で背にしていた窓から見渡せる場所にある。マリアはマスターとしての事務仕事をこなし、射場には背中をむけていたのだが、あれでもこちらの様子は把握しているのだろう。俺が四苦八苦して練習している間、クララはケラケラ笑いながらナイフや小石を投げて、その全てを的に当てていた。百発百中。俺も戦車の砲手だが、あれは凄いな。
午後3時頃を知らせる鐘の音が街の中央から響くと、クララが声を掛けてきた。やはり地味な練習はつまらないか?
「クッキーさぁん、ちょっと買い物付き合ってください。一昨日使ってみて気に入ったので手槍を買いに行きたいんです。ダガーだけじゃなく、他にも装備を選べるようになるといいですもの。武具屋に行きましょう。」
美女からのお誘いだ。断ることはないな。すぐにOKした。
すると、今度は執務室の窓からマリアの声。
「クッキー、その魔法陣が操れるようになったら、またいらっしゃーい。具体的なインスタント呪文を教えるわー。クララも一緒にねー。」
「はーい、必ず来ますー。」
俺よりもクララが先に返事をして、庁舎二階の執務室に向かって手を振っている。
「買い物、楽しんできなさーい。」
「はーい!」
やっぱり聞こえてたんだ。魔法なのか? 地獄耳なのか? マリアさん、怖いかも。
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