第206話 銃撃戦
バルナックの宮殿内でレイゾーたちのにわかパーティに、マリア、トリスタン、ブライアン、ジーンとレイチェルが合流した。これでクランSLASHの残存勢力の大半が集合したことになる。
「ガラハドも一緒だったんだけど。ガラハドには、宮殿の外へ引き返してもらったわ。クララとクッキーのもとへ。ヴェルダンディとスクルドの報告だと、クッキーはウィンチェスターを倒しに行くらしいわよ。ロジャーと私が飼ってるデーモンもそっちにいる。」
「そうか。やはりクッキーには火薬を作ったウィンチェスターは制圧対象だね。」
サキが使役する自動人形と木菟のリュウも偵察をしているため、ここで情報の整理と共有をしておいた。被害についても。
「ガウェイン卿が戦死したわ。あとの主だった騎士たちも。そして、ゴードン殿下とトリスタン卿が此処においでになるということは、軍を指揮する者がいない。
やはりガラハドを宮殿の外へ引き返させて正解だったわ。クララとクッキー、ロジャーが心配なのは勿論だけど、ガラハドなら、その後に軍の指揮も執れるでしょう。」
「私もその判断が正しいと思う。そして、ララーシュタインが魔王だとしても、今此処に二人の勇者と一人の魔王、それに第一次戦の英雄が揃っている。私たちでララーシュタインを倒そう。」
使い魔持ちで情報を掴んでいるマリアとサキが話すことで、全員納得した。ミッドガーランド軍は大きな犠牲を出しつつも進軍しており、城内に攻め込んでいる。北側からはドワーフの軍も進軍しているので、この戦争そのものは辛勝できるだろう。しかし、ララーシュタインを倒さなければ決着はしない。逃がせば、また戦力を整えて愚行を繰り返すかもしない。
犠牲を払いながら此処まで来たのだ。この奥の執務室にいるだろうララーシュタインを必ず仕留めると皆覚悟した。宮殿の領主の執務室の扉の前で左右に分かれて布陣。レイゾーが火力呪文を詠唱、扉を吹き飛ばすと、全員執務室へと踏み込んだ。
馬を走らせている俺とロジャーはウィンチェスターらしい人影を見つけた。黒い馬に乗り神経質そうな髭面がギョロリとこちらを睨んだ。すぐに俺達を指差し、周りにいる兵士に怒号を飛ばす。
「こんな所にまで来たか! そこだ。撃て!」
「うおっ、やべえ。オキナ、頼む。」
土の精霊ノームのオキナが石畳を剥がし石垣を積む。銃弾を防ぐ壁となった。馬を降りて馬を伏せさせ、石壁の内側に身を潜めた。こういう場合に役立つ魔法を俺は持っている。
「曲射弾道弾! 」
放物線を描いて飛ぶ魔法の矢。榴弾砲のような魔法は、視認できないくらいに遠くまで飛ぶだけでなく、障害物を避けて攻撃できる。銃にはできないだろう。ただし、こちらも石壁の上に顔を出すわけにはいかない。敵兵は一人二人と減っていくようだが、ウィンチェスターに当たっているのかどうか。追尾式とはいえ、どの的を狙っていくのかは分からない。だが、火の精霊ジラースは焦れているようだ。
「クッキーよ。兵たちに撃て、と命令していたあの髭の男がウィンチェスターに間違いない。前に会ったときには髭はなかったが。嫌な臭いは同じだ。」
「そうか。グローブからの異世界人として、アイツだけは俺がケリをつけなきゃいけない。」
俺は手首から先だけ石壁の上に出し五指雷火弾の呪文を使い、十連弾の火力を見舞い、敵兵力を削いでいく。これがウィンチェスターに当たればラッキーだが。
「おうおう。味方の兵を盾にしているぞ。卑怯な奴よ。」
「あ、やっぱり嫌な野郎なんだな。」
このジラースと俺の会話を聴いたロジャーもウィンチェスターは放っておけないと思ったらしい。
「クッキー、打って出よう。」
「うん、それがいいですねえ。」
「いや、危ない。二人とも銃の怖さを分かってないね。」
「このままでは埒があかない。援軍を呼ばれたらどうする? 」
ロジャーの意見ももっともだ。しかし無謀。
「当たらなければ、どうということはないのでは? 」
おいおい、クララ。どこでおぼえた? そんなもの教えてないぞ。
魔法の矢で倒れるバルナック兵の悲鳴に混ざってウィンチェスターの怒号が聞えたかと思うと、宮殿に隣接する塔の幾つかが崩れ始めた。倒れたのではない。崩れたのだ。塔の内側から壊された。中にいたのはゴーレム。メタルゴーレムのハイルVが五体。崩れた塔と同じ数のヒト型ゴーレム。
タロスと戦うゴーレムが、六本腕だの人馬型だのと新しいタイプになっていたけれど、基本のヒト型は拠点防衛用に残しておいたわけか。盲点だったというか、敵も考えてやがるな。
とにかく、相手がゴーレムでは石畳で造った壁も役には立たない。打って出るしかなくなった。
「走れ! 留まれば銃撃の的になるぞ。」
俺が言う前にすでにクララを背負ったロデムは走り出している。それからさっきまでロジャーと俺が乗っていた馬も驚いて逃げ出した。うまく逃げろよ。
「暗器! ]
俺はインスタント呪文の魔法の矢なら、走りながらでも使える。クララもある程度近づければ、エレメンタルダガーを投擲できるだろう。走るのはロデムなのだから。問題はロジャーだが。ロジャーは崩れた塔の瓦礫に向かって走り、少しでも隠れる場所があれば、そこで弓を引き、またジグザグに走る繰り返し。さすが街の防衛を預かる指揮官。戦術は分かっている。
ゴーレムのハイルVは、力は強いが、動きは大雑把。馬鹿正直に真っ直ぐに走ったりしなければ、攻撃を躱せる。今はゴーレムは後回しにして小銃を持った兵士を優先に交戦だ。
しかし、五体のハイルVが石畳を踏み割り手足を豪快に振って暴れ回る中を走り回るのは大変だ。敵には騎乗兵もいる。
何か策はないかと考えながら走っていると、予想外にバルナック兵が多く倒れていく。黒い身体にヤギの頭、蝙蝠の羽根が付いた悪魔がバルナック兵をなぎ倒している。悪魔が味方をしているとは、どういうことなのか。さらに驚いたことに俺に話し掛けてきた。遠くから声を掛けてから近づいて来る。
「クッキー殿。ワタクシはマリア様に仕えるグレーターデーモンのマノンでございます。」
確かに言われてみれば、悪魔を服従させているとは聞いていた。グレーターデーモンといえば、あの悪魔三男爵の一つ下の階級。けっこう強力な悪魔だ。悪魔は天使に強く、天使は精霊に強く、精霊は悪魔に強いという三竦みの関係から、ジラースもオキナもマノンを恐れる様子はなく、その後はオキナが防御、マノンが攻撃と役割分担してバルナック兵と戦った。走り回るのは大変だったが。
レイゾー、サキ、オズマ、マリア、ゴードン、アラン、トリスタン、ジーン、レイチェル、ブライアンがララーシュタインを。
クッキー、クララ、ロデム、ロジャー、ガラハド、マノンがウィンチェスターを狙います。
当たらなければ、どうという事はない。勿論赤い〇星ですね。




