第203話 エクスキャリバー
さあ、やっとラスボスに近づいてきましたよ。まだ続きます。
俺達クランSLASHが戦車部隊としていたのは、四両の二頭立て四輪馬車。本来シャリオというのは二輪馬車であるが、弩砲を載せているため、安定して走行できる四輪馬車を採用している。そして、ロジャー、ブライアン、フレディ、ディーコンの四人が騎乗し、それぞれ一体ずつ、バリスタの装填手としてサキが貸与してくれた自動人形を乗せていた。
今は、トリスタン、ロジャーとジーン、ブライアンとレイチェル、そして俺の四両になっているが、トリスタンが単独で先行中。バルナック城内に入り込んでからは、魔物の数が減り、小銃を持ったバルナック兵がほとんどになった。眠りの妖精サンドマンの加護持ちのトリスタンが、敵兵を眠らせれば殺さずに済むという理由で、単独先行し、敵兵を眠らせ戦闘不能状態へと陥らせる。トリスタンの戦車に自動人形三体を乗せ、一体は弩砲の装填手、二体はトリスタンを敵の小銃の射撃から守る盾として使っている。
トリスタンは眠りの妖精の効果をばら撒くための魔法の砂混じりの矢を番えた弓矢、あと三人も弓矢で以って狭間や銃眼を潰しながら城内を走る。俺も、魔力をかなり消耗しているため、できるだけ魔法ではなく弓矢か弩砲を使った。ホリスターが作ったタムラの弓を俺が引き継いで持っており、ここで活躍させる機会となった。
さすが弓の名手トリスタン。次々とバルナックの狙撃兵を無力化し、俺は大物にだけ魔法の矢を使って進軍する。間もなく屋上から煙が上がる、城の中央部の宮殿の前に辿り着いた。
しかし、そこは敵の本拠地。それ相当の戦力が配置されている。宮殿を囲むように建つ塔の銃眼や宮殿の門扉の前には小銃を持つ兵士が並んで待ち構えていた。
その宮殿の上層階。ララーシュタインの執務室の前室。バルナックの奥の手と言ってよい強力なゾンビとレイゾー達が戦っている。
故人となってしまったが、かつてのジェフ王やラーンスロット、王宮騎士団の英傑たちが仕え、史上最強の君主と呼び声高いアルトリウス王。常識では考えられない剣技を持ち誰も懐に飛び込めない。
しかし、ゾンビならば火には弱いはず。レイゾーは、まずは様子見と隙をつくってやろうと火力魔法を使う。
「鼠花火!」
十本の小さな火の輪がクルクルと廻りながら足下を飛び跳ねる。火の粉を撒き散らしては方向を換え、攻撃対象のアルトリウスへ向かう。脚に当たると爆発四散。青い鎧が煤で黒くなっていく。時の精霊の加護のお陰で思考を加速し、とんでもない速さで動くことが出来るレイゾーはアルトリウスの背後を取り、魔剣グラムをアルトリウスの背中に突き立てた。
「さすが! 凄い! 」
ゴードンが感心して観るが、出血が少ない。ゾンビならば、鎧の中の死体が干からびているのかもしれないが、そうではない。鎧の傷はそのままだが、怪我はあっという間に治癒回復していく。レイゾーの速さでも二撃目を入れられない。
サキのサーベル二刀流で数で押すが、細身のサーベルでは鍔迫り合いだと威力敗けする。鎧の隙間を狙う介者剣法で脇や肘、膝を衝く。しかし、それも怪我が治癒回復するのが早いため、致命傷にはならない。
「エクスキャリバーだ! エクスキャリバーがある限り持久戦では勝てない! 」
ライオネルが何を思ったか、剣を捨てて左手の円盾を前に突き出しアルトリウスに体当たりした。クリンチだ。ボクシングで相手のパンチを避けるために腕を相手の身体に巻き付け、抱きつくような行為。ライオネル、アルトリウス共に倒れ込み
両者とも起き上がったときには、ライオネルの手には、アルトリウスの剣の鞘が握られていた。
「おのれ、ライオネル! 返さぬか! 」
エクスキャリバーの鞘を持って逃げようとするライオネルの背をアルトリウスが袈裟斬りにした。前のめりに倒れるライオネル。それでも鞘を離さない。
「この鞘だ。エクスキャリバーの強さの秘密は剣そのものよりも、この鞘にある! 」
ライオネルは周囲を見渡し、アランへと鞘を投げた。盾や弓を持っていない軽装のアランは、それをキャッチ。
「殿下! それを持って逃げてくださいませ! その鞘は術者の怪我を治し、体力を回復させます。」
「え、ええっ! わ、分かった! 」
アルトリウスは、叫ぶライオネルを足蹴にし、背中を踏みつけた。襷を掛けたように斜めについた傷から血が噴き出す。
「このおっ! 倒れた者を踏みつけにするなあっ!
時計台に吹き付ける強風は大きく鐘を鳴らす。その音は遠く月までも響くだろう。|誰がために鐘は鳴る《フォー フーム ザ ベル トールズ》! 」
ゴードンは風の精霊シルフの加護を受けている。走りながら魔法を使った。直接攻撃するのではなく、剣技に勢いを増す、いわゆる強化補助呪文だ。
追い風がゴードンの走る速度を増し、剣を振ると風が巻き、その剣を受け止める盾を押し返す。一時的にだがアルトリウスを圧倒し、立ち位置を押し下げ、その間にレイゾーとオズマがライオネルに肩を貸し、部屋の隅へと救い出した。
「どうやらエクスキャリバーとその鞘は、私のサーベルの陰の聖剣、陽の聖剣と同じような物か。ライオネル卿、これをお持ちください。」
サキはライオネルに治癒魔法を掛けた。痛みが和らぎ呼吸がいくらか楽になったようだ。そして、普段はマチコに持たせている白い柄のサーベルを渡し、再びアルトリウスに斬りかかる。サキの剣術の特徴はフェイントの上手さ。本来の二刀流でなくとも、フェイントは利く。鎧の弱そうな部位を狙っては突き、その度に、地味にライオネルの怪我は回復していく。アルトリウスのエクスキャリバーとサキの陰陽の聖剣の違いは、エクスキャリバーの鞘はこれといった制限なく剣を持つ者の怪我を治癒させるのに対し、陰陽の聖剣は陰の聖剣で相手にダメージを与えた分だけ、陽の聖剣を持つ者のダメージ回復をする。つまりは生命力吸収の入口と出口が分かれているわけだ。スペックはエクスキャリバーが上だろう。
鼠花火の全てが弾けたタイミングでゴードンがアルトリウスの側面から背中へと斬りこむと、サキも同時に兜の面頬へ一突き。ゴードンの一撃は、それなりに深い傷となったはずで、血が流れ出るが、すぐに止まった。
「ふん。確かにエクスキャリバーの肝は剣よりも鞘の方だが、あくまでも剣が本体。剣を持っていれば鞘の能力は使えるのだ。」
「殿下! 鞘を壊すのです! 早く! 」
サキの陽の聖剣の能力で傷が治ったライオネルは、低い姿勢から走りだし、自分の剣を拾うと青眼の構えで全力疾走。アルトリウスに突っ込んだ。ブロードソードがアルトリウスの胴を貫いた。
「陛下! 某は長年貴方様に仕えましたが、本当に守るべきは、陛下ではなくガーランドの市井の民だと心得ます! 」
「おう。見事だな。ライオネルよ。」
アルトリウスが右手を挙げた。ライオネルのブロードソードだけでなく、エクスキャリバーも相手の胴を貫いた。余力があるのは、当然アルトリウスの方である。ライオネルが血を吐いて倒れた。
今回の魔法の呪文はメタリカの曲。
For Whom The Bell Tolls




