第198話 大天使
タロス、タルエルのリベンジ戦。
メイと六人のドワーフが乗るフェザーライトとイスズが指揮するエルフの防空部隊は天使たちとともに、カラスの形をした悪魔の軍団を迎撃する。合成怪物、人を喰らう魔物、有翼人頭獣などが悪魔に混ざり襲ってくる。
実体を持たない霊的な存在である悪魔には物理攻撃が効かず、お互いに魔法やマジックアイテム、アーティファクトで戦うのだが、有翼の魔物は魔法だけでなく牙や爪でも攻撃してくる。自然と天使対悪魔、飛行船団対魔物の対戦になっていたが、とうとう天使の軍団には天使だけでなく大天使までもが加わった。大天使は天使の階級としては九つある下から二番目とはいえ、地上に現れる天使は天使と大天使のみ。天使より格段に強い力を持っている。悪魔の軍団長、大鴉のラウムと白銀の全身鎧の背に翼が生えた大天使ラジエルが死闘を繰り広げた。
フェザーライトに乗る六人のドワーフたちは、魔法が使えないわけではないが、鍛冶師として仕事に活かせる生活魔法が中心で、鉄を鍛えるための火や地、風の魔法を攻撃に応用しても魔導士のようには期待はできない。そうなると魔法攻撃はメイに頼ることになるため、悪魔は天使にまかせ、弩砲で有翼人頭獣を次々と撃ち落としていたが、有翼の魔物の中でも一番の大物、合成怪物とその従魔の人を喰らう魔物を相手取る。
魔物の爪を避けるためには、ある程度の距離を保ち、弩を撃ち込むわけだが、間合いを詰められるとドワーフたちが手斧を投げつけ、火矢を放ち対抗したが、船体には爪をたてられ大小傷だらけになる激戦だった。飛び道具中心で間合いを取るので、酸のブレスを浴びなかったのは僥倖と言える。
メイは操舵輪を操りながら、方向転換の度にインスタント呪文を使う。単に火力を撃つのではなく、補助呪文を有効に活かした。俺が教えた超信地旋回やマリアの転覆などを要所に織り交ぜ魔物を翻弄している。何度も繰り返すうちに、とうとうドワーフたちの撃った弩砲がキマイラの胴体を貫通し、世界樹の太い幹に串刺しにした。キマイラに追撃させないよう、複数のマンティコアがフェザーライトのバリスタを潰そうと一斉に甲板に押し寄せるが、それを待ち構えたメイの魔法の矢の餌食となり、迷いの森へと落ちて行く。
「ようし、バリスタをブチ込むチャンスだ! 」
「頭狙え! 頭ああ! 」
「分かっとるわい! 」
左右両弦に六門あるバリスタが三発撃つと方向転換し次々と次弾を装填し、撃ちまくる。最後にはメイのソーサリー呪文。黒、赤、緑のマナを使う超高等魔術。
「伯父様に教わった凶悪なヤツ、いっちゃうからね!
チキンレースに決着を。景気づけに踵を蹴るとすぐにトップスピードに乗る。その緊張と圧力に汝の心臓は耐えられない。起爆剤! 」
頭はすでに原型が分からいくらいに、何本もの矢が刺さっているが、メイの呪文は完全に止めを刺した。キマイラの胸が膨らみ、暴れ始めると心臓が大きく弾け、破裂。血液を霧のように散らしながら、迷いの森の樹海へと真っ逆さまに落ちていく。
「勝負あったわね。あとは小物をやっつけるわよ。でも、フェザーライトのダメージコントロールが先かな。船体が傷だらけ。」
六人のドワーフの職人たちが、テキパキと傷んだ資材を片付ける。その間にイスズが指揮するエルフの防空部隊がマンティコアや鬼火と戦い、天使と悪魔の軍団が衝突する。霊的な存在である天使、悪魔には人の手では触れられず、その戦いに首を突っ込むこともできない。呪文の詠唱など必要としない強大な魔力のぶつかり合いだ。だが、大天使の力は大きいようで、次々と鴉の影が減っていく。大天使ラジエルが現れるまでは、天使と悪魔の軍団は互角に戦っているように思えたのだが。
ただし、霊的な存在―魂のみでの戦いでは、敗けたからといって、その魂が滅ぶことはない。受肉していれば、肉体に引っ張られ、肉体が滅ぶと魂も共に滅びる。天使と悪魔の戦いで敗けた悪魔の魂も、時間が経てばやがて復活し、このハーロウィーンの争いは、太古から、ほぼ永遠に脈々と続いているのだった。
そして、大天使ラジエル、正確には第三位の上級天使座天使の長でありながら、大天使の階位も兼任する七大天使の一柱は、地獄の大いなる伯爵ラウムを退けた。このラウムは、元座天使の堕天使とも云われているので、座天使の長のラジエルに敵わないのも道理かもしれない。
「おおりゃああ!」
タロスがニーズヘッグの頭にドロップキックを決める。タロスがマチコから学習した技ではあるが、今タロスを操縦しているのはオズマ。オズマの職能としては、魔王、魔導士なのだが、魔法使いらしからぬ戦い方ばかりする。狂戦士こそが相応しい職能だと、サキもホリスターも思っているのだが、だからと言って、魔法使いとして魔法が弱いわけではない。むしろ最強にして最恐。喧嘩っ早い性格で手が出る方が早いのである。そして、また喧嘩が出鱈目に強い。テクニック云々ではなく、思い切りの良さと、状況の把握、判断の早さ、反射神経が飛びぬけて優れているのだ。
ニーズヘッグは、首から上も含め、全身が頑強な鱗で覆われており、グラムやアロンダイトのような伝説級魔導武具でもない限り傷もつけられない。オズマが繰り出したドロップキックも例にもれず、大したダメージにはなっていなかった。ほんの少し隙を作っただけだ。
しかし、タロスはニーズヘッグを倒すために、オズボーン兄弟、サキ、ホリスターが造った。当然のように九人のホリスターの弟子のドワーフたちも手伝わされた。四年前のハーロウィーンでニーズヘッグに敗れた天使タルエルの魂を込め、そして、運用管理を任されたサキが、マチコ、クララ、デイヴ、そのデイヴの前にもう一人、それから、クッキーつまり俺、ガラハド、マリア、メイをタロスに乗せ、鍛え上げてきた。
ドロップキックでできた僅かな隙に、ホリスタートマホークを振りかざし、ニーズヘッグの背中に打ち込む。何枚かの鱗を弾き飛ばし、肉に食い込んだ。
「いける! さすがはホリスターが造ったタロスサイズの手斧! 」
「あたぼうよ! うちの工房の傑作だぜ。」
「オズワルド、感心してないで魔法攻撃だ。」
「あ、ああ、そうだね。」
サキは普段以上に気合が入っている。これが目的だったのだから当然か。
オズワルドは手斧がつけた傷口に向かい、毒を盛る魔法を使う。初手としては、敵の動きを鈍らせる良い手段だ。
「犯罪のアジトを急襲せよ。貴重な文化財と豊富な資源を押収し、我らの保管庫に移送し分配しなおせ。病の兵器工場! 」
ペンタグラムの魔法陣から紫色の煙が上がると、ニーズヘッグの傷口に煙が吸い込まれる。傷口からは、どす黒い血液が垂れ、ニーズヘッグが苦しみのたうち回ると、長い胴体がとぐろを巻き、タロスの身体に巻き付いた。
タロスは二本の手斧を振るって斬り付け、大蛇の胴体を丸太に見立て倒そうと試みるが、締め付けが益々強くなる。あくまでも竜ではなく蛇の話だが、毒を持たない蛇は、絞め殺すことで得物を仕留める。そして蛇は締め付けモードに入ると痛みを感じなくなり、締め付け力が強過ぎて自分自身が苦しむということがない。タロスの動きを封じるだけでなく、トマホークの斬撃でも怯まない。
これにはタルエルの魂が対応。マリアの呪文「針の山」を使った。剣山に巻き付いたようなものである。無数の針に刺されて穴だらけ。堪らず離れた血みどろのニーズヘッグの胴体を輪切りにするべくトマホークを薙ぐ。
とはいえ、やはり固い鱗に覆われた身体がそう簡単に斬れるわけはない。ニーズヘッグは一旦距離をとった。ニーズヘッグは平たい円盤のような頭部の口を大きく開き、炎のブレスを吐きかける。
「ホリスター! 」
オズマが叫ぶとサキはすかさずタロスの操縦の権利をオズマからホリスターへ移し、サキ自身は防御の魔法を使った。
「霧の壁! 」
水の系統の防御呪文が炎のブレスを防ぐ。ホリスターは手斧を投げつけた。
「でええい! ホリスタートマホークブーメラン! 」
投擲されたタロスサイズの手斧はグルグルと回転しながらニーズヘッグの脳天に突き刺さった。
今回のネタはゲッターロボ。ゲッター1のゲッタートマホーク。
スカイゼルやグランゼルが戦斧を使っていたのに、ホリスターが手斧だったのは、このネタをやるため。
タロスのボディを赤くしたのも、そうです。だけではないですが。
タロスがヘッドギアをつけて、赤くなったらスーパーロボット マッハバロンみたいになるので。




