第195話 翼
魔法の呪文の名前とか考えるの、半分は楽しみ。半分はヤケクソですね。
バルナック城の上空にいたガーゴイルやジャックフロストなどの魔物を撃ち落としたエルフの飛行船団は、方向転換し団長のイスズが指揮する半数は宇宙樹へ、もう半数はエルフの都アッパージェットシティへと向かう。いったい何処から発生したのか、ドレイクの小さな群れが、イグドラジルとアッパージェットシティの根を食べ始めているとして、エルフ軍の司令部から伝達があった。ドレイクとはドラゴンの亜種。翼がなく陸棲。空を飛べないため、宇宙樹世界樹にいるなら、ずっと前から潜んでいたか、何か別の手段で送られたかだ。これまでにドレイクが自分で領域渡りを使ったという記録はない。
複雑に絡まった世界樹の根に隠れながらブレスを吐く陸棲ドラゴンとエルフ軍の飛行船が戦う。宇宙樹からは白い翼を持ったヒト型の神の使い、天使が現われエルフ軍に加勢した。
その天使とは敵対する存在、悪魔でも高位の者が、俺たちの目の前にいる。ララーシュタインが召し抱える悪魔三男爵の中でも、一番背が高い。悪魔はだいたい身体が大きいほど力が強く厄介だ。先程、城の床に大穴を開けられ、クララが落ちてしまった。助けに行きたいところだが、ロデムが一緒なので無事を信じて先に進むしかない。俺たちがさっさとララーシュタインを討ち取れば、この戦争は決着する。
トリスタンが戦車を降り、馬車を盾として弓を構え、射撃を開始。その隙にロジャーは自分の戦車に積まれた弩砲の準備。ブライアンは荷物の中から毒のスキットルを取り出し鏃を浸している。
弓の名手であるトリスタンは、職能としてはタムラと同じく狙撃手であるため、精霊魔術と六芒星魔術を使えるが、あまり得意ではないらしい。魔力を収納空間に多く振っているそうで、多くの矢を隠し持っている。右腰のアローホルダーが空になっても、またすぐに補充し、撃ちまくる。そして、百発百中。
クララがはぐれた時に、どう戦うか、などと気難しい事も考えてしまったが、頼れる仲間がいたのだった。手練れの騎士たちが、頑張ってくれている間に、俺は精神集中してソーサリー呪文の詠唱に入る。
『悪魔は天使に強く、天使は精霊に強く、精霊は悪魔に強い。』この三竦みの法則に従えば、精霊魔術は悪魔に有効なはず。精霊魔術は自分自身でマナを操るものではないから弱い魔法なのだが、俺は火と地、二つの精霊の加護と契約を受けている『エレメンタラー』だ。普通の魔法使いよりも強力な精霊魔術を使えるはず。呼吸をゆっくり、深くして悪魔をぶっ飛ばすイメージを頭に浮かべる。
「四大精霊の聖名において、形ある物、生ある者・・・」
トリスタンの矢は数本に一本の割合で、眠りの妖精サンドマンの魔法が掛けられている。マッハ男爵の額を狙った矢が見事に命中すると、矢が崩れて、その形を無くし、砂が散らばった。その砂がマッハの眼に入る。少し後ろに仰け反ったかと思うと、前屈みになり、片膝を付いた。目を閉じたまま、しばし動かない。サンドマンの魔法の効果だ。睡眠状態になっている。すかさずロジャーが弩砲を、ブライアンが毒矢を撃った。
弩がマッハの腹を貫き、毒矢が肩に刺さる。畳みかけるチャンスだと思った俺は火力呪文を放つ。
「・・・に活力を与えるため、悪しき存在には罰を与える。火の精霊突風! 」
魔法の火の球が飛び出した瞬間、マッハは低姿勢にしゃがみ込んだ。手を地に着き、地震が発生時に机の下に入り込むようなポーズ。魔法の直撃を避けた。頭や胴体には当たらず、背中に生える蝙蝠の羽根を焼いた。皮膜が破れ、骨と筋が焦げ煙を上げる。
仕留め損ねたか! マッハは急に目が覚めたのか、直ぐに立ち上がった。弩の大きな銛のような矢を無理矢理に引き抜くと大音声で叫んだ。
「ヴェエエエエエエエエエエエエエ! 」
肉食のヤギとでも言えばいいのか、狂暴な獣の唸り声のような低い音が響く。思わず皆耳を塞ぐ。マッハは焦げて骨と筋だけになった羽根を引っ込め、背中にしまうと脚力だけで跳躍。手を広げて横に凪ぐと重機のパワーショベルのアタッチメントがビルを解体するかのように城壁を崩す。瓦礫が飛び散った。実は、この時、マッハは毒やサンドマンの眠りを中和解析ていた。時間稼ぎだ。そして、背中の羽根をそとに出すと、元通りになっているではないか。回復が早い。こうなったら波状攻撃で反撃の隙を与えずに圧倒するしかない。弓を魔法を撃ちまくった。驚いたのは、この状況でジーンが勇者にしか使えない魔法を披露したことだ。
「天恵の閃光! 」
魔物を退ける破邪の力と味方の防御力を増す白い光を放っている。光の精霊、スプライトのマメゾウの加護によるものだろう。
強い光が圧力となりマッハの身体を捻じ曲げ、押し潰していく。マッハの身体からは煙なのか水蒸気なのか、白い湯気のようなものが上がっていた。マッハの背が縮んだように見える。
皆が弓を構え、俺も次の魔法を放つため精神集中しようとした途端、マッハが立ち上がった。まだ倒れないのか。タフな奴だ。中心に十字の紋様を持つ魔法陣が出現。十字の一片の黒丸が磨かれた石のごとく周辺の光を反射している。黒魔術を使うようだ。
「|悪の組織《ガバメント オブ ダークネス》! 」
どんな魔法なのかは分からない。が、この雰囲気、ろくでもないものに違いない。防がなければ。オリヴィアに打消し呪文を習ったが、この土壇場で『対抗呪文』を上手く使えるものかどうか。おれは、咄嗟に試用経験のある呪文で応戦しようと判断した。
「偏向!」
魔法の対象を換えるインスタント呪文を唱えた。おそらくマッハの黒魔術は広範囲攻撃。その対象は、俺たち全員。一発逆転を狙った大技だろう。だから、その呪文の対象を俺たちではなく、付け替える。新しく対象となるのは、一つしかない。マッハだ。
ジーンの魔法エーテルフラッシュで、ホワイトアウトするかと思うくらいに明るくなっていたのが、ジワジワと暗くなってきた。フラッシュというくらいだから、もともと短い時間しか光らない魔法なのだろうが、次第に普通の昼光の明るさになり、しかし、マッハの立つ場所だけが暗くなっていく。
「今だ! 撃て撃てえ! 」
ロジャーの掛け声でブライアンが毒矢を放つ。トリスタンはすでに撃って、二発目を射掛ける準備をしているが。
「遠い世界で静かに眠れ。汝の使命はここで終わる。争いを止め平穏を求める声に耳を傾け、目を閉じよ。魔素粒子加速砲! 」
このマッハという上位悪魔、出鱈目に打たれ強い。ここでダメ押ししなければ気を抜けない。俺は、決め技の最大火力を使った。これで駄目なら、銃剣突撃するか。
二重の魔法陣がキラキラと光った後、マッハの上半身が消し飛んだ。鳩尾から上が消え失せたマッハの身体が仰向けに倒れた。今度こそ。矢はもう要らないだろう。ブライアンが近づき、マッハの脚を蹴飛ばした。反応がないのを見て、毒とは別のスキットルを取り出した。油だ。マッハに油を掛けている。そして赤いマナのトークンを一つ落とす。マッハの身体を燃やす。ブライアンはよく分かっている。俺もまだ安心できないので、火力呪文を追加しておいた。
「残さず燃えろ。火葬! 」
消火しにくい火力呪文だ。アンデッドにさせない等の利点がある魔法。これでやっと斃せた。
一方、レイゾーたちは、バルナック城の城壁の上から、俯瞰で城内を眺めていた。俯瞰ならば、城の構造を把握しやすい。レイゾーは城の中心部にある屋根の勾配の急な建物に目を付けた。
「おそらく、あれが城主の宮殿。攻めにくく、守りやすい構造だ。人影は見えないけど、弓兵が隠れる場所がいくらであるね。」
確かに外壁の洒落た意匠に見えるが、狭間になりそうな形の壁に囲まれている。そして、その宮殿に向かう通路も幅はあるが、折れ曲がり、途中待ち伏せされそうな辻が多い。
「通路は把握した。僕たちが一番乗りでララーシュタインの首を獲ろう。」
ゴードン、アラン、ライオネルと顔を見合わせ、装備の確認をすると宮殿へと向かい走り始めた。ゴードンのグリフォンは、ここで待機。もし、まだ航空戦力があれば対応できるように睨みを利かせよと命じられた。
そして、城外では、サキ、オズマ、オズワルド、ホリスターが合流した。この顔ぶれでタロスに乗り込んだ。サキはいつもの後方の席。普段クララが使っている外側へ向いた左側の席にはホリスター。右にはオズワルド。そして前方の低い席、席とは言いにくい自転車のサドルのようなシートにはオズマが着席した。
「正規のメンバーで揃うのは久しぶりだな。」
「腕が鳴るな。タロスの強化が上手くいったかどうか。」
「そうですねえ。タロスがどんな魔法を覚えたのか、楽しみですよ。」
「待ってやがれ。すぐに行ってぶっとばしてやらあ。
幻影の翼!」
初動の動作確認をさっと済ますと、オズマは魔法の呪文を詠唱。タロスの背中に一対の白い翼が生えた。無機質な機械、金属ではない。たくましく白鳥のような美しい翼。羽ばたくとタロスの巨体が宙に浮いた。
今回のネタは仮面ライダーXから。
G.O.D. (ゴッド) ガバメント オブ ダークネス
仮面ライダーのショッカーから連なる悪の組織の名前。
Xライダーの活躍で壊滅。




