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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第13章 破城
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第192話 決闘

前回は、ガラハドと鈴木土下座エ門のタイマン。

今回は、クララとデュラハンが戦います。

 ロデムの背で手槍を持つクララはデュラハンを観察していた。全身板金鎧(フルプレートアーマー)に身を固めた騎馬兵だが、頭がない。


「どこを攻めたらいいのかなあ?」


 そもそも、あの鎧の中に中身は入っているのだろうか? 鎧だけが動いているという事はないのか。


「マリアさんが解呪(ディスエンチャント)の呪文を使うのが、手っ取り早いのでは?」


 デュラハンの剣を手槍で捌き、攻撃を躱すためロデムも飛び回る。クララは脚の怪我の痛みで涙がでてくるが、それどころではない。ロデムはネコ科の大型獣のような見た目のモンスターだが、高さは馬ほどでなく、クララも華奢なので、上から剣を振るわれる。

 攻めるどころか防戦一方だが、クララも高ランクの冒険者。一瞬の隙をついて、デュラハンの脇の下、鎧の隙間へ手槍の刃を突き刺した。

 すると確かに手応えがあった。鎧の中にはアンデッドの身体があるのだろう。首はないが。まあ、馬も首がないが、アンデッドの馬の身体がある。


「これなら心臓を狙えばいいのかなあ?」


 様子を見ながら戦っていたが、方針を決めたので攻めに転じ、前へと出て行く。狙うは心臓。鎧の隙間。もう一つ。首がないので、その斬られた首のあった襟元。ここには防具がない。

 ロデムにできるだけ立体的な動きをさせ、高い位置から攻撃できるようにした。だいたい剣術を使う者は、足元を攻撃されることには馴れていない。むしろ逆に下から攻めたいところだが、襟元から中の身体を突くためにロデムは跳び回り、かなりの運動量を求められた。ロデムの運動能力でも長期戦になれば不利と考えたクララは、早めに勝負に出た。


 ロデムが跳びあがると、自らもジャンプ。脚の怪我が痛むが、必要なことと我慢した。首のないデュラハンに対して『頭上』という言葉を使うのは妙だが、高く高く跳びあがった。手槍の刃先を下に向け、デュラハンの襟元に突き刺す。

 だが、質量差は如何ともしがたい。デュラハンに対して体重の軽いクララの一撃は心臓まで届かなかった。地に落ちるクララの身体をロデムの触手が受け留め、ひとまず距離をとるために走ろうとするが、デュラハンの騎馬がロデムの脇腹を蹴った。

 もんどりうって、石畳に身体を打ち付けられるロデムだが、それでもクララを庇った。自身が先に落ちて、その上にクララが落ちるように、クッション代わりとなった。

 クララが脚の骨折の痛みで悲鳴をあげると、さらに攻撃しようとデュラハンが近づく。ロデムの鞭のような二本の触手が唸り、今度は剣対鞭の戦い。ロデムの触手がデュラハンの脚に絡みつき、馬上から引きずりおろすと、その隙をついて背後からガラハドが飛び掛かった。


「あっ、ガラハドさん!」


 手には、父親ラーンスロットの形見であるアロンダイト。逆手に持ち、足をデュラハンの肩に掛け、アロンダイトの襟元から串刺しにした。そのまま胴体を下まで貫き、剣を手前に引き倒すと背開きの鰻のようになり、デュラハンは仰向けに倒れた。


 この世界の人間を含む生物(クリーチャー)は地水火風の四大元素(エレメンタル)から成り立っており、魔物(モンスター)の身体は魔法のエネルギー魔素(マナ)から出来ている。魔物が死ぬとマナは霧のように拡散して、多くは四大元素に変換される。元々霊的な存在で、地上に存在するための媒体として生物(クリーチャー)の身体を利用する天使や悪魔などでは、マナが拡散した後に、その生物の死体が残ったりするのだが、アンデッドモンスターもそれに近い。アンデッドとなる前、生前の人間や生物の身体が残る。


 素早く身を翻してデュラハンの騎馬まで切り捨てたガラハドは、倒れたデュラハンの鎧を一瞥、眉をひそめたかと思うと、その場に片膝をついて瞑想した。


「お気の毒に。悪く思わないでくれよ。」

「あ、あの、ガラハドさん。助かりました。ありがとうございました。

それで、その~。このアンデッド、もしかして生前はお知り合いでしたか?」

「ああ、怪我は大丈夫かい? 首がないもんで気付かなかったんだが。この鎧には、見覚えがあってね。こりゃあ、ファーガス卿だ。」

「ええっ!」


 クララも驚いた。この間にも、横たわったデュラハンの身体からマナが湯気のように立ち上がって消えていく。騎馬のほうは、やせ細った栗毛の馬の胴体が残った。


「ファーガス卿の愛馬は栗毛だった。これも特徴が一致する。間違いないな。

 ジェフ王を裏切りバルナック側の間者になったのに、結局はバルナックでもいいように利用されたんだろうな。因果は巡る、だ。」

「まあ。悲しいお話ですね。」

「自業自得さ。俺たちはララーシュタインを倒すだけだ。それでも、ファーガス卿にも遺族はいるだろうから、剣だけでも形見として持ち帰ってやるさ。」


 ガラハドは、ファーガスの剣を鞘に納めるとストレージャーに仕舞い込み、ロデムに歩み寄った。頭を撫でる。


「お前はよくやったな。よくぞクララを守った。えらいぞ。」


 回復魔法薬(ポーション)を取り出しロデムの背中からかけてやると、立ち上がった。


「じゃあ、俺はマリアと魔女シンディの様子を見に行く。横からしゃしゃり出たら怒られそうだけどな。」

「あ、私たちも一緒に行きます。」


 ロデムの触手がクララを背中に乗せ、ロデムは何事もなかったかのように歩き出した。グレーターデーモンのマノンがアンデッドの残党を片付けている横を通り抜け、二人と一頭はマリアと魔女シンディの近くへ。




 普段は物静かで知的な雰囲気を醸し、聖女や賢者と呼ばれる美人の魔法使いが、酷い口調で魔女と罵りあっていた。クララは驚いているが、ガラハドはむしろ興味深く聴いている。


「何が十五代の子孫よ。どうせ嘘つくんなら、もう一寸ましな事言いなさいよ。クソババア。」

「なんて口の利き方だい。さっきも言ったが、先祖を敬え。サリバンに育てられるとこうなるのかい。」

「サリバン先生の悪口言うな。」

「まあ、いいさ。(しつけ)はともかく、魔法は、それなりに教えていたみたいだからねえ。」

「サリバン先生の魔法がなんだと? 」


(魔女シンディが、マリアの先祖だって? うへえ。マリアも年取ったらあんな婆さんになるのか? )

 ガラハドはまじまじと魔女シンディの顔を眺めた。そして数十年先の未来を思い描いた。


「俺、はやまったかも。後悔先に立たずって誰の言葉なんだっけ?」

「え、ガラハドさん、どうしました?」

「あー、いやいや、なんでもない。」

「魔法使い同士の決闘(デュエル)になりますよね。マリアさんが危なくなったら加勢しましょう。」

「そうだな。多分大丈夫だけどな。いや、むしろ邪魔すんなって怒られるぞ。」


 ここで、マリアが敗けることはないと確信するのは、やはりガラハドがマリアを信頼しているからだろう。ガラハドは、マリアがサリバンとオリヴィアの二人の魔女から魔法を習ったことを知っている。シンディがナンバーワンの魔女だとしても、マリア自体の強さと師匠の魔女二人分の強さが加われば、シンディを上回るはずと考えている。


「あんたの魔法がどれほどか、見せてもらおうかね? 」


シンディの足下に大きな魔法陣が描かれた。半径十メートルほど。さらに大きく膨らんでいく。マリアとシンディの間の床面が全て魔法陣で埋まってしまった。

 対して、マリアは掌に十センチほどの魔法陣が二つ。違いは大きさだけでない。シンディは六芒星。高等魔術の魔法陣。マリアは二重の五芒星。超高等魔術のもの。


 シンディは大味だが魔力の大きさを見せつけるものだった。マリアもこれだけ大きな魔法陣は、サキがタロスを召喚するときのもの以外で見たことはない。


(魔力はサキと同格か、それ以上ね。)


「大きければいいわけじゃないわよ。」

「ふん。そんなチンケな魔法陣しか作れないのかい? 小娘が! じゃあ、いくよ。火山の槌(ボルカニックハンマー)!」

「たいしたことないわねえ。黒鳥の衝突ブラックバードストライク!」


魔法使い同士の戦いが始まった。二人とも打撃系の魔法の呪文の応酬。耳を(つんざ)く凄まじい衝突音が何重にも響き渡る。


ダゴネット と ファーガスって、どうしたもんか、ずっと迷ってたのは内緒です。

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