第188話 戦士
「城門を破ったはいいが、狭い門だな。大渋滞してるじゃないか。」
ミッドガーランド軍が壕を越えバルナック城へ入っていくが、一度に大勢が押しかけ大きな波のようになった人の群。武骨な鎧や武具が耳障りな金属音をたてながらぶつかっては立ち止まり、また暫くすると小走りに進んで行く。城壁の中に入った途端に毒矢や銃弾に見舞われる。
ガラハドが半ば呆れていると、マリアが提案した。別の場所から城内を目指す。
「待っていられないわね。ゾンビ兵が出て来た所から入りましょう。おそらくあれは地下墳墓の出入口だわ。」
「地下を通るのか。あまり気分のいいもんじゃないが、残りのゾンビをぶっ倒しながら進むか。どうせ地上も地下も迷路だろうしな。」
ガラハドとマリアは違う道程でララーシュタインの本拠地を目指す。ストレートに辿り着くわけもないのだが。
「五指雷火弾!」
バルナック城の城門、跳ね橋の幅が狭く、破ったとはいえ全軍がすぐに城内へ入り込めるわけではない。破城槌の櫓の下を掻い潜り背の低いドワーフの三人や軽装の斥候たちが突っ込んで行き、破城槌や扉の瓦礫をどかした後には重装の全身板金鎧を着込んだ密集部隊が地鳴りのような足音を揃えて行進して門を潜る。
俺たちは、その歩兵たちが狙撃されないように守るため、城壁に生き残っている弩砲や小銃の兵士を掃討している。トリスタンは言うに及ばず、ロジャーも弓や弩砲の扱いには長けているので、戦車に乗る俺たちは最後に跳ね橋を渡ることとして後方から支援にまわっている。当初の作戦と違うが、そうそう上手くいくものではない。
騎士団長のガウェインが戦死。ガラハドも地下墳墓経由のルートへ向かったため、トリスタンが指揮を執って魔法兵団を動かしている。先程は一時的に俺が指示を出して門を破ったが、あれは近代兵器を使う自衛官として思いついた奇策だ。人を動かすと言う面でもトリスタン卿に任せるのが一番良い。魔法兵団へ攻撃命令を出し歩兵を守りつつ、敵の飛び道具を封じ、着実に前進していった。
そして、ミッドガーランド軍の歩兵ほぼ全てが門を過ぎ、騎馬や馬が引く戦車や弩砲だけになったので、いよいよ自分たちの戦車四騎が通る順番だ。跳ね橋がどの程度の重さに耐えるかも分からないので、軽量の者から先に行かせるのが筋だ。それから、自分たちよりも他の騎馬、馬車で跳ね橋が落ちてしまってはいけないので、ここで俺たちの番となる。
もともと俺たちクランSLASHだけで、ミッドガーランド軍本隊が到着する前に方を付けるはずだったので、遅いくらいだが、まあ軍本隊の動きが早すぎた。他の騎馬たちには、俺たちの後に入るように指示。三体のストーンゴーレムとそれを操る魔法兵団の一部が残っているが、これは最悪の場合に備えて退路の確保のため、城外に残しておく。四つん這いになれば城門を潜れそうなサイズなのだが、重さで跳ね橋を壊してしまうわけにもいかないだろう。
俺たち八人とクアール一体が四騎の戦車で入城する頃、背の低さから狭い破城槌の櫓の下を通って先行したドワーフの三人は、激しい戦闘の中にいた。ジグザグに入り組んだ通路で、銃眼から小銃に狙われる。ドワーフ三人に続いてきた者たちが撃たれ倒れていく。
味方の兵が倒れると、その剣や盾、兜を掴んでは投げつけ銃眼を一つ一つ潰していく。銃を持ち待ち構えたバルナック軍が完全に有利に思えるが、兵の数が足りない。兵、騎士の練度でもミッドガーランド軍が優勢だった。次第にミッドガーランド軍が奥深くへと浸潤していった。
ただ、それで勝負がつくようなことはない。突如頭上から爆弾がばら撒かれパニック状態になった。軽装の斥候ばかりでなく重装の鎧に身を固めた者も数多くが無残な姿になってしまった。見上げると細身だが大きな身体のデーモン。数十体のインプと下位デーモンを連れている。
「我はマッハ。三軍を率いる将軍。三男爵が一柱だ。ここから先へは通さん。」
名乗りを上げるや否や、健在のミッドガーランド兵は一斉に矢を射掛ける。数体のインプが矢を受け地に堕ちた。そこからは乱戦である。
一部の部隊は戦闘をせず素通りして先を目指して進み、大半は悪魔の群に対し抵抗。空を飛ぶ相手に常人離れした跳躍力を持つスカイゼルとフォーゼの親子が跳びまわり、投擲が得意なグランゼルは周りに落ちている物を片っ端から投げつけた。
ドワーフの三人は鱗鎧の上に装飾された羽織を着込んでいる。スカイゼルは赤、グランゼルは青、フォーゼは白。スカイゼルは鋼の鎧に赤い羽織で、カラーリングがタロスに似ている。重い戦斧を持ちながら飛び跳ねるスカイゼルに目を付けたマッハはネザーデーモンどもに集中的に狙わせた。
斧よりも足技が得意なフォーゼはインプやレッサーデーモンを地面に蹴落とすが、スカイゼルは豪快に斧を振るうので悪魔の血飛沫の雨を降らし、かなり目立つ。ネザーデーモンが四方八方から取り囲み袋叩きにされた。
同士討ちになってはいけないので、弓矢での援護も出来ず、魔法を使える者は後方にいた。グランゼルは、足下の石はおろか自身のヘルメットまで脱いで投擲したが、間に合わない。フォーゼとグランゼルが駆け寄り左右からスカイゼルの腕を掴んで立ち上がらせるとマッハが目の前に降りて来た。
「親父、大丈夫か。」
「ああ。こんなもん、なんでもねえ。」
「強がり言うな。兄貴、ここは一旦退こう。」
「ふん。アーナム人に味方するドワーフか。嘆かわしいものよ。」
スカイゼル、グランゼル、フォーゼが一斉にマッハに飛び掛かったが、バックステップで躱され、逆に反撃を喰らった。悪魔が得意とする黒マナを使った魔法だ。
「疫病吐き!」
ドワーフ三人とも血を吐いて倒れた。毒に侵されている。ジワジワと苦しめられる嫌らしい魔法。それでも立ち上がるドワーフたち。
「ゾレイの名において命ずる。己の心の声を聴き、その怒りを解放。裏切り者を始末せよ。とどめの交渉!」
マッハは続けざまに呪文を唱える。この呪文の対象は、スカイゼル。スカイゼルは白目をむくと、背筋が伸びた。愛用の戦斧を拾い上げると横を向き、グランゼルに斧を振り下ろす。
「どうした兄貴!悪魔に憑かれたか!? 」
グランゼルは咄嗟にスカイゼルの一撃を斧の柄で受けたが、受けきれず、左肩には斧の刃が喰い込んでいる。グランゼルの胸に生暖かい血が流れ出る。
「おい、何やってんだよ!馬鹿親父!」
フォーゼは戸惑いつつも自分には背を向けていた父スカイゼルを斬り伏せた。叔父グランゼルを助けるために。
「ああ、なんてことだ…。」
グランゼルが膝をつくと、マッハがシミターを抜き、容赦なくグランゼルの腹を一突き。青い羽織の勇敢なドワーフは毒で弱り、肩口に斧を喰らったうえに腹に刺され、血を吐き咽ながら前のめりに倒れた。
「うわああああ!」
フォーゼはマッハに向けて斧を振り、なんなく躱されるが、斧を振った勢いで、そのまま回し蹴り。蹴りの威力で、両者とも弾け飛ぶが、その間に割って入るようにトリスタンの矢が飛んできて、マッハの左肩、三角筋に刺さった。
「フォーゼ殿、下がれ! その悪魔は私が倒す! レイチェル、ディーコン、彼の治療を頼む! 」
疾走する戦車の上からの狙撃だった。馬術に長けたロジャーが駆る戦車は誰よりも速く一番槍の部隊に追いついた。その戦車に同乗しているのが、トリスタンだったのは僥倖と言える。フレディが使っていた戦車には俺とクララが乗っているが、異世界人の俺では馬の扱いが下手なため、少し遅れていた。
そして、城の反対側、北側には鉱山都市デズモンンド・ロック・シティからのドワーフの戦士団が迫っていた。南側から入った俺たちミッドガーランド軍とで挟み撃ちにできるかもしれない。
スカイゼル と グランゼル のドワーフの兄弟が戦死。
でもまだドワーフの活躍の機会はあります。




