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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第12章 決戦
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第181話 シールドバッシュ

前回ガウェインが戦没。したところから。

「ガウェイン!」


 ガラハドは仰向けに倒れるガウェインの身体を受け留め、マリアも傍に駆け付ける。だが、すでに心停止している。心臓を刺されたのでは、心臓マッサージをしても仕方がない。これはマリアの魔法でもどうしようもなかった。

 ガラハドはガウェインの遺体をマリアに預け、レッドに突っ込んで行く。シイラは精神的なショックから動けない。そして陣の先頭に配置されているガウェイン直轄の騎士団も騎士団長が倒される現場を目撃したために驚きと悪魔への恐怖からレイゾーの歌の効果から醒めてしまった。陣の先頭ではガラハドとマリアだけが戦える状態であった。



 クララやトリスタン、ホリスター達は、主力軍の先頭へ合流すべく、敵をなぎ倒して進んでいる。その後方へ就いた俺は魔法兵団を指揮し、ストーンゴーレムの運用を預かった。


「陣形は無視して構わない。ストーンゴーレムは三体とも前に出せ。城門へ突っ込ませろ。とにかく門扉を破れば勝機が見えて来る。」


 今のところ味方が優勢で、このまま押していくだろうが、なまじ城門に近づけば城壁の上から飛道具での攻撃を受ける。もう少し落ち着いて攻略するならば、塹壕を掘りながら詰めていく手もあるが、士気が上がり過ぎている。このまま雪崩れ込むしかないだろう。それならばストーンゴーレムを盾として城門を突破する。



 レイゾーの歌のお陰で軍全体としては非常に士気が高く、ゾンビの軍団を押し込んでいるが、紡錘陣の先頭が停滞している。このままでは拙いとマリアは考えたが、ガラハドは考えるまでもなくすでに動いている。レッドの頭を殴りに跳びあがっていた。体躯に恵まれたガラハドでもレッドには遠く及ばない。地に足がついたままでは、腕を水平に挙げてもレッド男爵のへそあたりにしか届かない。それをものともせず脚を活かして跳びまわる。


 ジャンプしては悪魔の頭を殴りつける。レッドはガラハドを蹴り飛ばそうとするが、(ことごと)くメカンダーの盾が防ぐ。しかもその円盾の中心付近には四本の突起(スパイク)があり、皮膚を破り肉を裂く。ただ、跳び上がっての攻撃は、脚を踏ん張る通常の状態に比べ、全身の力が拳に伝わらない。

 レッドとしても、ガラハドに対してガウェイン以上にやりにくい相手であるとの認識を持った。トンファーにメカンダーの盾。攻防一体の武器を両手に持ち、左右どちらの手でも防ぎ、攻める。だが、妙な違和感を感じている。


「ガラハドといったか。おばば様の占いで警戒せよといわれた『力』のカード。やりおるわ。汝は左利きか? 」

「おばば様の占いとやらは知らないが。右利きだぜ? 」


 ほとんどの人は右利き。元々人間の身体は左右対称にはできていない。右脳と左脳の違いは分かりやすい例だろう。日常使う道具も、戦争で使われる兵器も右利き用の物ばかり。特に戦争においては、左右で分け武具を共用できないのは無駄が多い。大楯と長槍を構える密集隊形(ファランクス)で左利きが混ざったりすると厄介である。兵士となる者は左利きから右利きへ矯正されることが多く、左手に武器を持った者と戦うことなど滅多にない。両手用の大剣(グレートソード)や槍、弓を除けば、左手に持つのは盾である。

 これは、眉唾ものの屁理屈だろうが、こんな説もある。何故、右手に剣、左手に盾なのか。人間の心臓は胸の真ん中にあるのだが、左胸にあると思われていた。心臓の右からは肺動脈、左からは大動脈が出ている。左側の方が心音が大きいために、そう誤解されてきたのだ。そして左胸の心臓を守るために左手に盾を持ち、右手に剣を持つようになった、と。


「右腕が折れりゃあ、左腕で戦う。だから両腕とも鍛えてる。それだけのことだ。」

「なるほどな。納得した。」


 言葉とは裏腹にレッドは納得してはいなかった。悪魔の言葉など信じるものではないが。ガウェインは若い頃の武者修行の旅で、遠い異国の南の島で『テイ』という体術を身につけ、トンファーという風変わりな武具を使っていた。同様にガラハドは、拳闘(ボクシング)骨法(こっぽう)という格闘術を学んだ。この骨法では、他とは違った思想がある。右利きを前提として話すが、器用に動ける利き腕を防御に使い、左腕で止めを刺すのである。拳闘(ボクシング)では左でジャブ、右でストレートを打つ。身体の構えも骨法では、右足を前に出す右自然本体が多く、他の格闘術とは異なる。こういった部分でレッドは違和感を覚えたのだろう。


 そしてレッドが警戒するのは、ガラハドの武具『メカンダーの盾』である。悪魔には物理攻撃も魔法攻撃も効きにくい。元々赤い月の世界に住む霊的な存在の悪魔は、地上の世界では受肉して存在しているが、異質な世界に存在するための耐性をもっているからだ。しかし、ガラハドが持つこの伝説級魔法具レジェンダリーアーティファクトは問答無用とばかりに悪魔の身体を傷つける。ガラハドの敏捷性とスタミナならば、悪魔の体力、回復力を上回りそうなのだ。


「ついでに、もう一つ教えといてやるよ。俺は普段は徒手空拳で戦ってるけどな。一番得意なのは『シールドバッシュ』なんだよ。」


 シールドバッシュとは、盾でぶん殴ること。シンプルだが、これほど隙のない戦い方もないだろう。実はガラハド自身は攻撃力よりも防御力を重視している。戦うためには倒れないことだ。そして、いくら攻撃してもダメージを与えられないと思わせれば、その相手の精神をへし折ったことになる。レッドの攻撃は爪も蹴りも全てを防がれ躱され、一方ガラハドのシールドバッシュ、コークスクリューブロー、は徐々に巨漢の悪魔を追い詰めていく。


 ガラハドは精神的に優位に立ったことで、メカンダーの盾で悪魔の頭部をどつきまわし、ヤギの角を砕き、目を潰し、牙を折り、レッドの顔面は腫れ上がり、口もきけず魔法の呪文を唱えられないほどになった。止めにヤギの喉笛にメカンダーの盾のスパイクを突き刺した。


「マリア。悪魔ってのはしぶといからな。息を吹き返しやがったら拙い。コイツを消し去ってくれ。」

「分かったわ。灰は灰に(アッシュトゥアッシュ)!」


 マリアの魔法でレッドの身体は砂のように細かく崩れ、見る見るうちに、さらに細かく、線香を燃やした跡の灰のようになり風に散った。ララーシュタイン配下の悪魔三男爵の一角を崩した。


「マリア。それから風の魔法。俺の声を大きくしてくれ。兵の皆に伝えることがある。」

「はい。ガウェインが亡くなったものね。」


 ガラハドは目を閉じて三回深呼吸。ゾンビの軍団と戦う兵士たちの方を向いて顔をあげ呼びかけた。


「勇敢なるミッドガーランド軍兵の諸君。 私は元王宮騎士団の侯爵ガラハドだ! 傾聴されたし! 親愛なる騎士団長ガウェイン卿が名誉の戦死をなされた。 敵の陸軍大将のアークデーモンと相討ちとなった! この場の軍は、これからガウェイン卿の代行として、トリスタン卿とこの私、ガラハドが指揮を執る! 一気にバルナック城を攻め落とすぞ。我に続けえっ!」


 ブロードソードを拾い右手を挙げたガラハドの姿を見た兵たち、紡錘陣の先頭にいて一時戦意を失いかけたガウェイン側近の騎士団が湧きたった。


「うおおお、ガラハド様だ! ラーンスロット卿のご子息のガラハド様がお戻りになった!」

「勝てるぞ、この戦!」

「怪力の騎士ガラハド、万歳!」


 マリアが肘でガラハドの脇を小突く。ホッとした表情なので、なにもガラハドに対して腹をたてているわけではないが。


「ちょっと間違ってるわよ。まあ、こういう嘘ならいいけどね。」

「おう。帰ったら聴くよ。さっさと終わらせようぜ。全軍前進だ。」




 そして、この紡錘陣の先頭の脇をスルーして前に出た三体のストーンゴーレムが城門に憑りつこうとしていた。すぐ後ろに破城槌(はじょうつい)が続いている。ガラハド自ら破城槌を押し込むつもりだ。ストーンゴーレムの背後にガラハド、マリアと騎士団が並ぶ。トリスタンとパーシバルも紡錘陣の先頭に合流。俺は攻城塔(ブリーチングタワー)も前進するようにと指示を出した。




 城壁の上ではライオネル、ベネディアの騎士二人、グリフォンを駆るゴードンと後から駆けつけたアラン、レイゾーの五人が特殊ともいえるゾンビ、スコットとラーンスロットを囲んでいた。この二体のアンデッド、レイゾーたち五人を相手にしながら一歩も退かない。いや、むしろ優勢だ。緊張した空気が漂って、アランなどはピリピリと胃の痛みを感じるほど。


まだ城に攻め込んでないじゃん。

展開遅いな。

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