第180話 被害
寒い日が続いております。
皆さまご自愛ください。
死霊のロブが問答無用とガウェインに襲い掛かる。手榴弾を投げたかと思うとすぐに黒魔法のソーサリー呪文の詠唱だ。
「我は何世紀もの間、檻の中にいた。鎖で繋がれた囚人を解放するためにここへ来た。感染症と飢餓により汝の魂を守るだろう。不浄なもの!」
ロブが呪文詠唱を終えるとゾンビどもが雄叫びを上げ、狂暴性を増す。それはレイゾーの国歌にも匹敵するアンデッドを強化する補助魔法だった。アンデッド限定という点ではレイゾーの歌に劣るが、この場にはゾンビの方が数が多い。
勢力が拮抗し始めた。騎士団やシイラとバイソンが奮闘するも城壁に近づけなくなってしまった。
レッド男爵と死霊のロブ、挟み撃ちで攻撃され、ガウェインも防戦気味になっているが、ガウェインとレッドの間にガラハドが割って入った。ガラハドは普段はあまり使わない片手剣を持っている。レッドの爪に対抗するためだ。
「ガラハド。すまないが、後ろにいるアンデッドの相手を頼む。この悪魔とは因縁があるからな。」
戦争の間に同じ敵と遭遇するなど珍しい事である。戦争とは殺し合い。相対すれば、どちらかが死ぬのが当たり前であり、まして再戦するなど。
ガウェインは剣と盾を捨て、トンファーに持ち替えた。ガラハドはガウェインと背中合わせになりロブと対峙する。右手の剣を逆手に。剣は防御に使うつもりだ。
「ようし。アイツら、ぶん殴ってやろうぜ。」
ガラハドとガウェインが同時に踏み切り、大きく跳躍。ガラハドは左拳をロブの顔面へ。ガウェインはトンファーを回転させつつレッドの喉元を目掛け攻撃。
ガラハドの拳は見事ロブの頬にヒットしたが、レッドは上半身を仰け反りトンファーを躱した。ガウェインはすかさず第二撃。ガウェインのトンファーが当たるのと同時にバイソンが鎌鼬の魔法で攻撃。背中の翼の幕を斬り裂いた。
レッドが逆上。ガウェインはそっちのけで、バイソンに飛び掛かり、両手の熊手でお返しとばかりに斬りつけた。鎧を破り並行した切り傷が付き、血飛沫が飛ぶ。
「邪魔をするな! 三下が!」
並行して付けられた傷は大きく開き、通常の治療では、その傷口を塞ぐことも困難だ。縫い合わせることも出来ないからだ。そして不幸なことに、深かった。レッドの爪は非常識な長さに伸びる。斬りつける瞬間にも伸びていたのだ。特に脚の傷は骨にまで届きそうだった。つまり、血管を斬っている。
痛みと出血で遠のく意識。それでもバイソンは次の手を打った。
「正義と愛と友情の三つの心で呼ぶ勇気。強く大きい嵐よ来たれ。酸の暴風雨!」
レッドに吹きつける暴風は強い酸を含んでおり、悪魔であっても皮膚を焼かれる。周囲にいたゾンビも同様で、その身体だけでなく武器や鎧も錆びて崩れる。レッドが絶叫し数体のゾンビが斃れるが、バイソンも倒れた。
「「バイソン!」」
ガウェインとシイラが駆け寄るが、脚からの出血が酷い。怪我の治療ができる白魔法の使い手であるサキがいればどうにかなるかもしれないが、サキはダイ男爵と戦っている。レッドは苦しみながらもガウェインに対する攻撃を止めない。ガウェインは仕方なくバイソンの手当てよりもレッドの応戦を優先。シイラはバイソンの脚の付け根を縛り上げて止血しようとするが、シイラも怪我を負っているため、普段より力が入らない。水の魔法で血の流れを抑えようとするも間に合わない。
「シイラ、あとを頼む。」
「おい、気弱なこと言ってるんじゃないよ!」
出血量が多く意識が薄れていき、バイソンは、そのまま眠るように還らぬ人となった。長年コンビを組んで軍船の運用、海戦に臨んできたシイラは涙を堪えきれず、潤んだ目で視界がぼやけたまま水刃の魔法を振りかざしゾンビたちを膾切りに斬り刻む。
ガウェインは部下を殺された怒りを隠さなかった。トンファーの動きは速くなりレッドの腹部を何度も何度も殴打する。肋骨の折れる音が響く。レッドが膝を地面に着くと、今度は顔面を殴打。ガウェインの腕力だけでなくトンファーの遠心力が乗った攻撃はデーモンの頭の角さえも削っていく。
だが、それでもレッドは倒れない。シイラが怪訝に思っていると両腕を上げて防御姿勢を取り始めた。そして、ガウェインが殴り続けている部位以外は傷が治り始めている。酸でただれた皮膚が滑らかになり、いつの間にやら幕を破られた背中の羽根が元どおりになっている。
ガウェインの攻撃よりもレッドの治癒能力が上回っている。いや、これはレッドの単独の能力ではなかった。あの世とこの世が繋がるというジャザム人の祭りハーロウィーンにより悪魔の住処である赤い月の地獄からの影響と、死霊ロブの補助魔法の効果にもよって悪魔の力が増しているのだった。ロブの補助魔法は直接悪魔に効果を及ぼすものではないが、ゾンビや悪魔が人を殺め苦しめると、その時の負の感情は悪魔に力を与えることになる。
ガラハドは、時間を掛けるほど不利になると気づき、この場面では、範囲攻撃のできる魔法使いの出番だと考えた。自分とサキの中間くらいの場所で星球式鎚矛を振るって戦っているマリアに指示を出した。
「マリアー! 出し惜しみは無しだ。思いっきりデカい攻撃呪文を使ってゾンビどもをぶっ飛ばせ! ゾンビの数を減らさねえと危ねえ!」
マリアはすぐにソーサリー呪文の連続使用を決めた。ガラハドの判断に間違いはないと思っている。一対一勝負ならばガラハドが敗けるわけがない。自分を頼ってくるのは、本当に魔法が必要な場合である、と。
「戦争を始めた政治家は嘘を重ね、笑うサタンは黒い翼を翻す。暗闇の中で神の裁きを待つが良い。地を這う豚!」
ゾンビが固まっている場所を目掛けて重力波の魔法を放つ。広い範囲に効果が及ぶこの呪文は敵味方を選ばないため、リスクを伴うが、味方のいる場所は出来るだけ避けた。気の毒だとは思うが、味方の戦死者の遺体については構わずに使った。それどころではないからだ。この重力波は上空にも及ぶため、ここでは数は少ないが、ハーロウィーンの影響で漂っていた鬼火も墜落した。そして、間髪いれずにマリアは次の呪文を詠唱する。
「幾千の湖を吹く風よ、北の光とともに我が道を照らし示し給え。氷雪の大地!」
大きな重力ですり鉢状に凹んだ地面の大穴の中で、冷たい空気が循環してゾンビを氷漬けにし、大軍の一割くらいの数を一片に減らした。ウィンチェスターの爆弾でも、これほどの威力はないだろう。
そしてガラハドも、今度は自分の番とばかりに、ブロードソードをロブに投げつけた。胸に刺さったが、死霊のロブには大したダメージではないらしく、何事もなかったかのように剣を引き抜き、自分の武器として使おうとするロブだが、ガラハドの速攻に驚いた。両手にメカンダーの盾を持ったガラハドがあっという間に間合いを詰めてロブの目の前に立った。そしてメカンダーの盾のスパイクを内側に向けてロブの頭を左右から挟み込んだ。グシャッ、バキバキッと音をたててロブの髑が砕け骨片と化した。
ガラハドは倒れ込んだロブの胴体を踏みつけて踵で肋骨を砕き、ロブが消滅したことを確認すると、振り返ってガウェインの加勢にいこうとするが、その時にガウェインの息が詰まる呻き声を聴いた。レッドの爪がガウェインの心臓を貫いていた。
今回のネタは
Kiss ー Unholy
やはりジーン・シモンズの歌声は良いです。
それと ルスト・テンペスト は
マジンガーZ の ルストハリケーン。




