第177話 国歌
エルフの軍隊と名乗る飛行船団。何が目的なのか? まさかフェザーライト号にちょっかいを出しにきたわけではないだろう。
オズマはドワーフ達に船倉に残っている自動人形を全て起こし救助活動をするように指示。自分自身は飛行魔法を使い、エルフ軍の船へと飛んだ。
「俺はエルフの軍と話をつけて来る。」
エルフ軍の指揮官イスズが言うには、エルフの都アッパージェットシティでも神託が降った。しかも、その神託をもたらしたのは天使ではなく大天使である。重要案件だ。
内容は「魔王ドルゲ・ララーシュタイン二世を滅せよ。」であった。ただ、発音がおかしい。ダークエルフとエルフの言葉の違い、訛のようなものなのか? オズマの耳には『ドルゲ・ライラーシャイターン二世』と聴こえる。
エルフの軍は味方、援軍というわけではない。だが、敵は共通。
オズマは、協定を結ぶことを提案。共にララーシュタインと戦う事を承知させた。
その交渉中にオズワルドとメイがフェザーライトに戻り、オズマがいなくとも救助活動は滞りなく進む。そのうちにエルフの船団が海峡に降りて着水。バルナックの輸送船団へ移乗攻撃を仕掛けた。バルナック軍は混乱し、ミッドガーランド軍は戸惑いながらも湧きたった。
「エルフだって? な、なんだ? 味方なのか? 」
メイフラワーの舵を取るガレスは、人間に敵対はしないものの人間との接触に消極的な種族のエルフが協力することを不思議に思いながらも、援軍の登場に感謝していた。作戦終了後、軍が引き揚げるのには船が不可欠。水軍が敗けるわけにはいかない。
その一方で、この戦場をエルフ軍に任せようと決めたフェザーライトは、船上に立てていたマストを再び翼のように左右に開きながら飛び立ち、西の島の内陸を目指し去っていく。オズボーンファミリーは直接ララーシュタインと戦うつもりだ。
オズマとオズワルドと情報交換。メイやドワーフたちを交えて話した。オズワルドが受けたヴァン神族の神託では、例のヤツとララーシュタインを倒せという内容。エルフの防空部隊の指揮官イスズの言葉では、アークエンジェルによって与えられたアース神族の神託では「魔王ライラーシャイターンを倒せ」という。
「オズマ、ライラーシャイターンとは………。固有名詞ではないね。結局ララーシュタインのことを差すだろうけれど。」
「ああ、やっぱりそう思うか。」
「お父様、伯父様、良く分からないけど。それは、いよいよってことね?」
「ああ、そうなりそうだね。メイはホリスターのお弟子さんたちと一緒にフェザーライトを頼むよ。」
「俺たち兄弟は、殴り込みだなぁ。宇宙樹とアッパージェットシティのどちらになるか?」
「いや、まずはバルナック城のララーシュタインだろうね。」
フェザーライトはバルナック城の上空に着いた。まずは、周囲、地上の監視と情報収集だ。タロスは見当たらない。
そのタロスとは別行動をとって、サキ、ガラハド、マリアが西から。東側から俺たち、英雄レイゾー、クララ、騎士団のエースのトリスタンと若手筆頭のパーシバル、鍛冶師ホリスターに、その一番弟子であるスカイゼルと息子のフォーゼ、弟のグランゼルのドワーフたち。戦車隊としてセントアイブスのロジャー、ブライアン、取調室のフレディとディーコン。勇者として期待される少年ジーンと姉のレイチェル。それから魔物クアールのロデム。すべての戦力が此処に集った。
ミッドガーランド軍の主力部隊として、わずかな守備隊だけを残し、王都ジャカランダの王宮騎士団の全戦力が投入されているはすの主力部隊だが、予想外に苦戦している。ゾンビの兵士をなぎ倒しながら進んだが、理由が分かった。
俺たちが侵入しようとしていた地下墳墓の出入口と違い、城の正面は防衛兵器が揃っている。それだけではなく、敵ゾンビ兵の特徴が何とも言えない嫌味なものだった。
鎧や軍旗を見るとミッドガーランドの物。戦う相手は、ゾンビ化した元友軍。すでに亡くなっているとはいえ、遺体に傷をつけるのもはばかられるだろう。さらに城壁の上から銃や投石器での榴弾に狙われる。「狙撃」と言えるような精度の高いものではないが、数撃てば必ず当たる、といった状況である。
俺たちは、右翼部隊を指揮するベネディア卿の部下の魔法兵団長と邂逅。戦況を確認した。
「おお、レイゾー殿。クッキー殿。ご無事で。困ったことになっております。」
ベネディアは敵城壁の真ん中あたりを指差し、説明を始めた。全身板金鎧の騎士らしい二人の人影と、それを囲む見覚えのある四人が見える。
「正規のバルナック軍兵士がほとんど出てこないのです。来るのはゾンビ兵ですが、元は我らの同胞があのような魔物に。皆動揺しております。そして、あちらをご覧ください。」
「あ、あれは!? 」
「はい、あの鎧は、今は亡きスコット殿下とラーンスロット卿のものです。」
レイゾーのバンドメンバー、この世界ユーロックスへ来てからの冒険者パーティがアンデッドとして甦っていたことを考えれば、同じくパーティメンバーだったスコットとラーンスロットが同様に甦っていたとしても不思議はない。なぜ、予想しなかったのか、自分の考えが甘かったと後悔反省するとともに、あの二人も自分自身で決着を付けねばならないと覚悟した。
「まあ、問題は鎧の中身だよねえ。」
「はい、確かめたかったのでしょう。真っ先にライオネル卿、ベネディア卿、ゴードン殿下、アラン殿下が飛び出して行き、あの城壁に憑りつきました。」
「あの四名だけかい?」
「はい。他の者ではあそこまで辿り着けません。城壁に着くまでにハチの巣になりますよ。あのお方たちだからこそ、あそこまで行けるのです。」
「ガウェインは?」
「先頭でゾンビ兵と戦っておられます。」
ここで、自分一人が駆け抜けてスコットとラーンスロットのいる城壁に行くのも、また良くないだろう、とレイゾーは考えた。それならば、ゾンビ兵どもを先に片付けるか。しかし、いくらなんでも敵兵の数が多過ぎる。
「魔法兵団に風やシアンのマナの魔法を扱える者がいたら、集めてくれ。音の増幅の魔法だ。あとは軍楽隊も。」
「分かりました。何をなさるのですか?」
「僕は吟遊詩人だよ。」
魔法兵団の風、音に関する魔法を使える者たちが十数名集まり、軍楽隊も笛の合図で楽器を持って集合した。学生が集合写真を撮るように前後三列に並ぶと、レイゾーが両手を振って指揮した。
「『天は我らを祝福せり』だ。倍近い速いテンポでいくよ。」
陣太鼓が地鳴りのように鳴り響く。魔法による大音響だ。敵も味方も何事かと驚き、一瞬動きが止まったが、すぐにまた戦いが再開。
「♪ 薔薇の花咲く豊穣の土地 心優しき人々
♪ 雲の隙間より差す陽光 秩序ある社会 ………」
レイゾーが歌い出すとその歌声も魔法に載って大きくこだまする。ミッドガーランドの兵たちの動きが大きくなった。
「おお、国歌だ! ナショナルアンセムだ! 」
「そうだ! 俺たちは勝ち進むんだ! 」
「ゾンビがどうしたってんだ! 」
兵たちがざわつき始めた。ラッパのメロディが高らかに響く。レイゾーが歌っているのは、建国以来の国歌。兵の誰もが知り、モチベーションを上げるには最適の曲。
「……… ♪ 恵みの海に囲まれた緑の大地 着実な進歩
♪ 困難に打ち克つ努力と団結 勝利は約束されている………」
レイゾーは歌に載せて気力、体力、腕力を上昇させる魔法を使った。いわゆる『強化魔法』である。
ミッドガーランド軍がバルナック軍を押し始めた。ゾンビたちは一刀両断にされ燃やされ、その数を減らしていく。
やっとレイゾーの吟遊詩人としての見せ場がきました。




