第176話 合流
あけましておめでとうございます。
ここから新章。いよいよ、敵本拠地バルナック城でのバトルになります。
サキとオズワルドが深刻な顔をして話している。メイはある程度の事は理解しているのだろうが、ガラハドとマリアには分からない。少ない情報から推測していた。
「マリア、今『神託』って言ったよな?」
「うん、そうね。神の啓示のこと。」
「おまえ、受けられるんだよな?」
「まあ、高僧だから。『聖女』なんて称号もらってるし。神殿で、それなりの儀式を行えば、ね。」
「オズワルドは神殿にいたのか?フェザーライトで飛行型ゴーレムを抑えてたんじゃなかったか? タロスとタルエルってのも今一つわからん。」
「『タルエル』は天使の名前。神学の古い経典にその名前があるわ。関係あるか分からないけど、神託は天使が運んでくることがあるのよ。ただ、天使は白い月に住んでいる霊的な存在。この地上に実体化するのはたいへんなの。」
天使には九つの階級がある。上から順に熾天使、智天使、座天使、主天使、力天使、能天使、権天使、大天使、天使というが、地上に実体化するのは、一番下の天使と下から二番目の大天使のみ。
本来は全ての階級を含めて広い意味で天使というのだが、通常、天使と言えば、この一番下の階級を差す。神より神託を預かって実体化し、人間や亜人の前に現れるのは一番下の階級の天使である。
神の御使いである天使は、白い月には、それこそ掃いて捨てるほどの数いるのだが、地上には、そのごく一部しか出てこない。例外は堕天使であるが、これは討伐対象として悪魔よりも優先して天使に斃される。
そして上の階級の天使が大天使の階級を『掛け持ち』して実体化することもあるにはあるのだが。それは、この世の終わり最終戦争や神々の黄昏か、それに準ずる事態だ。
戦乙女も天使のような存在だが、全て女性であり、神々の中でもアース神族の御使い。他の天使より神、いや女神に近い存在。
ガラハドとマリアが話していることにサキも気づいたようだ。二人に説明した。
「ゴーレムの名前はあくまでも『タロス』だ。そのタロスに封じ込められたのが天使『タルエル』の魂。タルエルはヴァン神族の御使いとして、ダークエルフの空中都市ラヴェンダージェットシティの神殿に神託を届けていた天使だ。
タルエルの身体はラヴェンダージェットシティと一緒に滅んだ。だが、神託はダークエルフの王であるオズワルドが受け取る。ダークエルフの王のオズワルドは「魔王」だからな。次元渡りで青い月まで飛んで大天使長から直接神託を受けるのさ。」
そして、フェザーライトはオズマとドワーフ達で運用し、飛行型ゴーレムを見事殲滅したと報告した。それから、この先だが、オズワルドがメイを連れてフェザーライトへ戻る。タロスは自律行動でララーシュタインのゴーレムとウィンチェスターの火薬、銃火器の工廠を叩きに行く。ガラハド、マリア、サキの三人はララーシュタインを討つためにレイゾー達と落ち合うと説明した。
「よし、ララーシュタインを倒せって、その神託のとおりなんだな。好都合じゃねえか。」
ガラハドは手甲の金具を締め直し、拳を握りしめた。タロスが走りだし、オズワルドとメイが渡りで移動するのを見送ると三人もバルナック城を目指した。
ゾンビが襲い掛かってきたが避けきれないかもしれず、しまった、と思った矢先、手斧が飛んできてゾンビの頭を砕いた。レイゾーの元パーティメンバー、というよりバンド仲間と言った方が良いか? 男女三人のアンデッドを斃した後、暫く頭が真っ白だったが、片膝をついている俺は、ホリスターに肩を叩かれた。ホリスターに助けられた。
「おいおい、おまえさんがボーッとしてどうする? 一番辛いのはレイゾーだろう。」
皆頑張って、かなりの数のゾンビをやっつけたはずなのに、むしろ増えている気がする。いや、事実増えている。
「師匠、キリが無いですよ、これは。」
戦斧を振り回しながら、フォーゼがホリスターに愚痴る。どっしりと構えて自らは動かないようにしていたホリスターのトマホークが頻繁に飛ぶようになっている。このトマホークはクララのダガーと同様、投げてもまた手許に戻って来るので、おそらく魔道具なのだろう。
「さっきはブレちゃいけないなんて言ったけど。作戦変更しよう。次から次へとゾンビが出て来る。さっさと殴り込んで元を断ちたいとは思うけど、これじゃあ埒があかない。だから、あの出入口を塞ぐ。それでジャカランダからの部隊に合流しよう。」
レイゾーが提案してきた。元の仲間を自分で相手にしたのに、精神的ダメージはないのだろうか? メンタルが強い人だ。だからこそ『英雄』なのだろう。
レイゾーは魔法の呪文の詠唱を始めた。ゾンビが出て来る口を塞ぐのならば、地系の呪文か? 火ならば爆破するのか?
「火のエンチャントを使うよ。燃え続けろ。
何もかもが消え果てた荒野に火の明かり。地平の彼方まで支配を告げろ。焼け木杭《ファイヤーアフターファイヤー》! 」
レイゾーが浮かび上がらせた二重の五芒星の魔法陣から直径三メートル程もありそうな大きな火の球が飛ぶと、ゾンビが這い出てくる地下墳墓の門らしき出入口を塞いだ。そして轟轟と音を立てて燃える。数体のゾンビを巻き込み燃やしながら。中にいるゾンビはそこから動けない。
「あれは効果を発揮し続けるエンチャントだから燃え続ける。火に弱いゾンビは、もう出てこられない。でも僕たちも入れないんだよ。この城の正面の出入口へ移動しよう。」
「ジャカランダからの正規軍と一緒に正面から堂々と入るっていうんですね?」
「そうだ。それが一番早そうだからね。行こう。」
戦車部隊のロジャー達四人は、先に進み始めて衝き槍や車軸に付けられた長刀の鎌などですれ違いざまに斬り飛ばし、ゾンビを蹴散らして進んでいる。続いてドワーフの職人四人が自慢の斧を振るい道を開く。そして俺たち人間の七人とクアールのロデムが走る。
オズマと六人のドワーフが乗ったフェザーライトは、カブトガニ型のゴーレムを追いかけ海峡上に出たが、味方の水軍が洋上戦で苦戦しているのを視認し助太刀に入っていた。バルナック海軍のスクリュー推進の軍船に機動力でまともに対抗できるのは、蒸気機関を持った外輪式のメイフラワーのみで、ほとんど孤軍奮闘に近かった。他は玉砕覚悟で衝角で体当たりで突っ込み移乗攻撃を行う水兵たちが善戦しているだけだ。
オズマは無傷のバルナック海軍の船を目掛け上空から魔法攻撃。ドワーフ達も弩砲でよく応戦し、移乗攻撃にあっていない敵船三隻を撃沈した。
「一刻も早くサキたちと合流しておきたいが、見捨てるわけにもいかないだろうぜ。」
オズマが海に投げ出されたミッドガーランド水軍の兵たちの救助に回ろうとした時、高空の雲が風に流れ、その中から太陽の光を反射して輝くフェザーライトの船影によく似た飛行船の群れが現われた。その姿は神々しくさえ見えた。音を増幅する魔法なのか、大音声が響いた。
「ダークエルフを統べるオズボーンよ。我々はエルフの軍隊。アッパージェットシティを守る防空部隊である。」
今回のネタは 聖飢魔Ⅱ。
FIRE AFTER FIRE です。




