第174話 仲間
今回はクッキーやレイゾーたちの話です。レイゾーの過去に関すること。
アンデッドは火に弱い。トリスタンとパーシバルが火矢を放ち、レイゾーが業火で、俺は火炎放射でゾンビを焼き払い、ロジャー達戦車隊の四人は火の海の中を走り回り蹂躙していく。
アンデッドが倒れていく中、突き進んでいったレイゾーは、最後尾にいる男女三人の前に出て話し掛けた。レイゾーに久しぶりと言う三人は、第一次戦争の関係者だろうか?
「えーっと。君たち誰だっけ?」
「なあーんだよ、レイゾー。バンド仲間にそりゃねえんじゃねえかー?」
「バンド仲間? 新しいバンドへのお誘いかい? どんな曲やるの? バンドのコンセプトは? 」
レイゾーはとぼけた受け答えをしているが、そんな訳はない。馴れ馴れしい態度は、お互いに知っているはずだ。
考えられるのは、此方の世界ユーロックスへ来る前からのグローブでの知り合いだが。レイゾーが魔法兵団の大魔術で召喚されて転移してきたのと同じだろうか?
ミュージシャンが転移してくると吟遊詩人として魔法を使える可能性が高いと云っていた。『バンド仲間』という言葉からすると、三人の男女は音楽関係だ。バルナック軍に魔法使いになることを期待され召喚された異世界人ということか?
「なによ、つれないわねえ。」
両手に二本の棍棒を持ったセミロングの髪の女性が呟いたかと思えば、鉞を担いだ長髪の女性が言葉を引き継いだ。
「もういいわ。私たちとはやる気がないってことでいいのね?」
「死人とバンドできるとは思えないんだよねえ。」
今、レイゾーは『死人』と言ったのか? では、この三人もゾンビなのか?鉞を持った長髪が、話を続ける。
「ハッキリ言っておくわ。レイゾー。残念だけどね、あたしはあんたを殺すことに決めたの。」
「へえ。理由は?」
「あんたを殺せば元の世界へ帰してくれるっていうからさ。」
「それこそ、バンド仲間に言っていいことじゃないだろう?」
「カズトとアンズは気乗りしないらしいけどね。あたしはそうじゃないのよ。残念ねえ。」
これは、ひょっとしてレイゾーのバンド『アンティフォナ』のメンバーなのか?
「『アンティフォナ』は元々俺とレイゾーで始めたバンドだ。曲の半分はレイゾーが書いてるしな。この戦争は諦めろ。そうすりゃ俺からララーシュタインに懇願しておまえも一緒に元の世界へ帰れるようにしてもらうからよ。」
「そうよ。レイゾー。ララーシュタインの目的は、領土と民族問題。アーナム人をガーランドから追い出してジャザランダを取り返せばいいんだから。私たち異世界人は、同じようにグローブに追い返せば、それでオッケーなの。」
「悪魔の手先の言う事を信用するのか? おまえら、悪魔に魅入られたか? いや、そもそも、もう人じゃないか。」
「おいおい、気に入らねえからって他人の人格を否定かよ。」
「自分が死んでいることにさえ気づかないか…。是非もない。ならば、滅するのみ。」
レイゾーが魔剣グラムを抜剣した。正眼の構え。
「レイゾーさん、加勢します!」
俺は銃剣を手にレイゾーの隣に立った。パーシバルが続いて槍を構え、トリスタンがカズトに矢を放つ。たちまち乱戦になった。レイゾーが目まぐるしく跳ね回って、カズトに斬りつけてもギリギリのところで躱されている。アンズの二本の棍棒は手数が多く、銃剣で捌くだけでも手間だ。鉞のショーコはドワーフ並に腕力が強く、パーシバルの槍の間合いの内側に入り込んで来る。
ホリスターら四人のドワーフが背を向けて俺たちを囲みゾンビどもが近づかないように壁になっている。トリスタンは弓を絞り狭い隙間を縫って狙うが、ゾンビの数が多すぎる。レイチェルが魔法の防御結界を張りつつ、ジーンが光の魔法の呪文を詠唱する。
「天からの光の力をもって悪しき影と魂を鎮める。亡者の迷信よ砕けよ。浄化!」
天上から眩い光が降り注ぎ、その白い光を浴びたゾンビは煙のようになって蒸発していく。カズト、アンズ、ショーコの旧バンドメンバー三人も光を浴びたが、身体の変化は起こらない。だが、三人とも苦しそうに声をあげて膝をついた。
「どうだ! アンデッドなら魂をヴァルハラへ送還させる呪文だぞ。」
「小童! 俺とレイゾーの勝負を邪魔すんじゃねえ! ギターの腕でもハッキリ勝敗がついてねえんだ。剣での勝負くらい勝たせてもらわねえとなあ! 」
猫背になっていたカズトが上半身を起こしたと思えば、何かを投げた。ダーツだ。胸ポケットに収まっていたらしい。ジーンは左手の円盾で防ごうとしたが、咄嗟のことで間に合わない。左胸にダーツの針が刺さった。
ダーツならば、それほどの深手にはならないと思うだろうが、毒針だ。ジーンの防具は探索者として最低限の皮鎧。キチンとなめしてもいない牛の皮の粗末な物なので針が貫いてしまった。ジーンは仰向けに倒れた。
「あっ、あっつい! なんだこれ!? 」
レイチェルが急いで鎧を脱がせると傷口が紫色に腫れていた。
「クララ!ジーンが毒にやられた。傷口の血を抜いてくれ!」
俺の呼び声で、ロデムの背でまどろんでいたクララもさすがに危機感を感じたようで、すぐにジーンに駆け付け、水のダガーで血を抜き始めた。
「そんなに深い傷じゃないから大丈夫ですよ~。」
もしもララーシュタインがウォーロックと名乗っているように本当に『魔王』だったのならば、勇者のジーンは最後の頼みの綱になるかもしれない。ソフィアのとき同様、四台の戦車でジーンを囲んで守り、ディーコンが治癒にあたる。
「珍しい毒じゃない。対応できますよ。すぐ解毒しますから。」
ジーンは大丈夫そうだ。目の前の事に集中しようか。大戦中の敵はレイゾーのバンド『アンティフォナ』のメンバー。いや、英雄の冒険者パーティ『AGIMETAL』の元メンバー。レイゾーやマリアから聞いていた情報からすると…。
魔法戦士でレイゾーと一緒にバンドを結成したギタリストのカズト、同じく魔法戦士のベーシストのショーコ、僧侶でレイゾーの彼女だったドラマーのアンズ。全員が吟遊詩人の職能も持っている。得物は、それぞれ剣と盾、鉞、二本の戦棍。武術の腕前はどの程度かわからないが、英雄のパーティにいた人たちだ。それ相当に腕は立つだろう。
それがゾンビとして現れた。いや、ゾンビっぽくはない。別種のアンデッドなのか? 俺が優位なものとは、やはりインスタント呪文だろう。
「暗器!」
二発の魔法の矢がアンズの腹に命中。鎧があるが、効果はどれほどのものか? アンズがうずくまった。それを見たレイゾーの動きが一瞬止まる。その隙をついてカズトが踏み込み、レイゾーの左肩を斬った。
「どうした、レイゾー? 隙だらけだぞ。」
「あたしたち相手じゃやりにくいかしらぁ?」
カズトとショーコがレイゾーに揺さぶりをかけようとする。そうだ。レイゾーは割り切っているような態度を見せていたが、元仲間と戦っている。とくに俺がデリンジャーを撃ち込んだアンズはレイゾーの彼女だった。迷いがないわけはない。
ショーコの武器は鉞。ベーシストだから。ジーン・シモンズの鉞ベース。
アンズの武器はドラムのスティックっぽく、二本の戦棍にしました。




