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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第11章 侵攻
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第170話 ラッシュ

 「おばば様のアンデッド軍団が動き始めたようだな。」


ララーシュタインが確認のためにウインチェスターに尋ねる。ハーロウィーンであることを承知の上だ。あの世とこの世が交わり死者の魂が還るというジャザム人の祭りの日にはシンディの死人使い(ネクロマンサー)としての能力が上がる。


「はい。ジャカランダからの主力部隊と交戦しております。」


 ララーシュタインは満足気に白い髭を撫でる。そして、笑いをこらえていたが、そのうちに肩が震え出した。


「この日にバルナックまで遠征してきたミッドガーランド軍には同情すらするわ。よりにもよって、この日になあ。うはははははぁっ!」


 三年前の第一次戦争でバルナックは大きく疲弊し、もはや兵はなかった。もともと西ガーランドの一地方であり、それほどの国力は無かったのだ。


 それでも、この第二次戦争に踏み切ったのは、新しい戦力を得たからだ。ララーシュタインが開発したインヴェイドゴーレム。そして召喚した悪魔の三男爵。それに加えて、数少ない一般兵を魔法使いのように強化するウインチェスターの銃火器。

それから古い魔導書を取引材料に協力を取り付けた魔女シンディ。普段『おばば様』と呼ぶ占い師は、領内の(まつりごと)の面のアドバイスで役立つだけでなく、貴重な魔法兵の育成と不死者(アンデッド)の軍団を提供した。


 ララーシュタインとしては、このシンディの不死の軍団は、ジャカランダへ攻め込む際の切り札として温存しておく算段だったのだが、思いがけず運用の機会となった。予定外だが、ジャカランダの騎士団を含むほぼ全ての戦力がバルナックに攻め込んで来た。ここでミッドガーランド軍と戦えば、地の利もある。ジャカランダの騎士団を一掃した後、余裕を持って王都を『奪還』すれば良い。なにしろ、もともとジャカランダは、ジャザム人の土地『ジャザランダ』だったのだから。


「いよいよ憎きアーナム人どもをガーランドから駆逐する日も近い。このハーロウィーンは、来年からは、もっと盛大な祭りとなるであろうな。」


ウインチェスターは、側近に耳打ちして酒とグラスを持ってくるようにと指示した。酒だけではなく自分の鎧も用意させ、懐にある拳銃の弾倉を確認した。


「では、前祝の酒を給仕させますのでお楽しみください。(わたくし)も出陣して参ります。」

「そうか。戦力の出し惜しみはしないのが、貴様のモットーであったな。」

「敵は哀れなウサギどもですが、全力で狩ってまいります。」


 ウインチェスターは銃器の扱いの訓練をさせた部下を引き連れ城門へ向かった。城門の投石器(カタパルト)には信管によって炸裂する榴弾(りゅうだん)が装填され、ミッドガーランド軍を待ち構える。




 サキは狙い通り、ララーシュタインのインヴェイドゴーレムのバルナックに残っていた戦力を引っ張りだした。ミッドガーランド軍が被害を出さないためには、それよりも早く自分たちがバルナックに攻め込み制圧してしまえば良いとのレイゾーの提案で遠征してきたクランSLASH。その目論見(もくろみ)は正しかったと言えそうだ。だが、ダイ男爵が最強のゴーレムというだけあって、六本腕のリザードマン型二体は手強かった。


 ガラハドのフットワークと相手の打撃をいなすガードで計十二本の腕を躱し続けるが、こちらから攻め込む隙もない。タイタニウム製の『デスマルク』は見た目よりも素早くタロスの背後へ動き回り、アダマンチウム製の『ゼッターキング』は、ガラハドの渾身の拳を受けて火花を散らそうともダメージを受けている様子がない。

 マリアとサキの補助呪文でガラハドの動きをサポートしても埒があかなかった。そのうちにガラハドが、サポートの補助呪文は要らないから、大技を出すようにと要求してきた。


「分かったわ。ソーサリーを使うから、呪文詠唱の時間は耐えてよね。」

「おう。当然だ。自分の夫を信じなさいって。」


 マリアは一度目を(つむ)り、深呼吸をすると呪文の詠唱を始めた。サリバン直伝の大技を使う。上空に五芒星が二つ重なった立体魔法陣が浮かび、星の頂にある白、黒、赤の点が明るく光った。


「メッキのメダルを駆り立て首に掛けろ。恐怖の世界は揺れ動く。汝の理不尽な言動には聖者でさえも怒り狂う。憤怒の火よ、踊れ!怒れる聖者(セントアンガー)


 『デスマルク』の頭上に真っ赤に溶けて液体となった金属のような物が降り注いだ。轟音と黒い煙が立ち込め、太い脚の動きが鈍る。摺り足のフットワークで距離を詰めたガラハドは右ストレートを放つ。顔面にクリーンヒット。

 デスマルクの首が弾かれてそっぽを向くと、ガラハドではなくタロスが、マチコから学習したプロレスの動きをする。裸締めでデスマルクの首をロック。ダース・チョークとも呼ばれ、総合格闘技や柔道などでも使われるこの技は相手の頸動脈を締めるものだが、今の相手はゴーレムである。組んだ両手を強く自分の胸に当てるように引っ張ると身体を傾け、デスマルクの首をへし折った。メキメキと甲高い音が響く。

 まだ頚椎に当たるような骨組みのパーツで頭と胴体が繋がっているが、続いて首投げ。腰を入れて捻りながら、デスマルクのボディを巻き込むように投げると、首が千切れ、胴体は吹っ飛び、逆さまになって『ゼッターキング』に衝突した。

 ゴーレムとしての生命線、『emeth』の文字は額にあるので、頭を引き千切れば、そのゴーレムはノックアウトだ。これで残りは『ゼッターキング』一体のみとなった。


 ガラハドはタロスの機能に感心していた。マリアの魔法を増幅するばかりか、マチコの格闘技術を再現した。誰かの命令でもなく自律的に。人間並みの大きさのタロスがいれば、対戦してみたいと思った。


「よし、いける! マリア、もう一体だ!」

「はいはい。いくわよ!」


 マリアは『ゼッターキング』にも怒れる聖者(セントアンガー)を見舞った。間髪入れず、ガラハドはゼッターキングの鳩尾(みぞおち)を蹴り上げ、顔面にコークスクリューブローを打ち込む。しかし、それでもゼッターキングは倒れない。


 『ゼッターキング』のコックピットにいるダイ男爵は不敵な笑いを浮かべていた。アダマンチウム製のボディには、物理攻撃はほとんど通用しない。怖いのは魔法だが、マリアの魔法にさえ耐えきった。これなら無敵だと思ったのだ。


 ガラハドはゼッターキングの側面に回り込み、膝の裏側を蹴り、両膝を地面に着けさせた。尻尾を踏みつけると、ゼッターキングの後頭部に拳を叩き込む。


「マリア! 俺がいくらでも隙はつくってやる。もう一つ大技をぶち込んでやれ!」


 サリバンから教わったソーサリー呪文にたいした効果がなかったことが、マリアには腹立たしかった。しかし、それならば別の呪文をぶつけるのみ。最愛の師匠に教えられた呪文は一つではない。


「ざっけんじゃねーぞー。おい!

 結果と勝敗は問題ではない。目的と経過を見直し、一からやり直せ。怒りの炎で全てを焼き尽くし忍び寄る誘惑と煩悩を遠ざけよ。怒れる聖女(シスターアンガー)!」


 今度は、頭上ではなく、ゼッターキングの足下に魔法陣が現われ、白、黒、マゼンタの色の光が点滅。紫色の火柱が上がった。膝をついたままの姿勢のゼッターキングは、全身を炎に包まれた。

 すかさずガラハドはラッシュ。両腕から交互にコークスクリューブローを繰り出し、六本腕でも防ぎきれない攻撃を繰り返す。

 『ボッコボコにする』とは、この事だろう。リザードマン型のメタルゴーレムがサンドバッグになっていた。


今回のネタ St.Anger と Sister.Anger は メタリカ と ベビーメタル。

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