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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第11章 侵攻
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第167話 無念

 クララがソフィアを抱え上げて後退。ジーンとレイチェルがそれを手伝い木陰に運びソフィアを木の幹に寄りかかって座らせると、ロジャー、ブライアン、フレディ、ディーコンの四人の戦車(シャリオ)が四方を囲む。ディーコンがソフィアの治療のために戦車(シャリオ)から下りるとフォーゼがディーコンの戦車の前に立ち周辺を警戒する。


「ソフィア姉さん、しっかりしてぇ。」


 クララは水のエレメンタルダガーの柄をソフィアの身体に押し当て血を止める。レイチェルが水の魔法で消毒液を創り出し、ディーコンとジーンは治癒魔法で傷を塞ぐ。ディーコンは慎重に治療をしながらも表情は厳しい。


(傷が深い。鎖骨を斬られている。拙いな…。)


「ごめんね、クララ。う…、情けない。長年追って来た仇なのに。」

「大丈夫よ。姉さん。今、オーギュストと戦ってるの、あたしの彼氏なの。あとで紹介するね。了ちゃんがオーギュストを討ち取ってくれるわ。カミーユはあたしが討つ。姉さん休んでて。ディーコン、ジーン、レイチェル、姉さんを宜しくね。」

「クララ。まだ、魔法使ってないの? 魔法を使いなさい。もう、あたしに構うことないんだから。使わないの勿体無いわ。それで父さん母さんの無念を晴らしてよ。」

「うん。わかった。」


 涙目のクララは立ち上がった。水のダガーを鞘に納め、火と地のダガーを握り、カミーユを目指し一歩一歩進んで行く。


 クララは風の妖精、蜻蛉型のスプライト『ヤンマ』と契約している。この事からも魔法の素養があるのは確かなのだが、これまで魔法を使っていない。ただ魔法具(アーティファクト)には造詣が深いようで四本組のエレメンタルダガーを使いこなす。よく投擲武器として投げつけているのは、風の力で手許に戻って来るからだ。

 実はクララは魔法を使える。使わないだけだ。クララの属性は偏っていて風の魔法だけしか使えない。しかし、特化している分、強力なのだ。

 幼い頃、魔法を誤って使い、大好きなソフィアと飼い犬に怪我をさせたことがある。それ以来クララは魔法を使わなくなってしまった。


 オーギュストの魔法『地獄の門』から這い出る魔物ばかりでなく、ハーロウィーンの影響による邪妖精も跋扈(ばっこ)している。騒ぎを聞きつけ、小柄な老人のような姿をしたレッドキャップや黒い馬の恰好をしたプーカなどの狂暴な厄介者も寄って来る。

 俺もレイゾーもオーギュスト、カミーユとタイマン勝負を張れない。混戦だ。槍や戦斧が獣の首を刎ね、毒矢や手斧が飛ぶ。トリスタン、パーシバル、ホリスター、スカイゼルとグランゼルが魔物(モンスター)に応戦することで、やっとお膳立てが整いつつあった。

しかし、タイマンの意味あるのか? 大勢で囲ってボコってしまえばいいんじゃないのか?


とにもかくにも皆の奮闘のお陰で魔物の数が減ってきた。火力呪文の対象をオーギュストに換えていく。相手は魔導士(ウィザード)。こちらも魔導士(ウィザード)だが、元自衛官。そして戦士(ファイター)職能(クラス)持ち。近接格闘に持ち込めば断然有利。

火炎放射フレイムラジエーションの呪文を使い、オーギュストも水の魔法を使い火を防ぐが、その間に距離を詰める。銃剣の刃をオーギュストの喉を目掛け突きだそうとしたが、戦槌(ウォーハンマー)に弾かれた。右腕はロデムに上腕骨を噛み砕かれたはずだが。左手一本で軽々と打撃武器を振り回している。


「ふん。若造、魔導士相手には近付きさえすりゃあ、なんとかなると思ったか?」


 身体は大きいが、それでも後衛職の魔導士だと甘く見ていた。見掛け以上に腕力がある。鍛えているようだ。まあ、自分自身が元自衛官でありながら魔導士なのだが。

 ロデムも周りの魔物を気にしながら戦っており迂闊にはオーギュストに近づけないようだ。それならば、隙を作ってやろう。周囲の地形、木々の配置などから次の手を考えていると、後方からレイチェルの声が聴こえた。


「クッキーさん! レイゾーさん! お姉さんが!」


 ソフィアの容態が悪い。クララはレイゾーに加勢するため、ソフィアのもとを離れカミーユの背後に回り込もうとしていた。クララもレイチェルの声を聴いたはず。両親の仇討ちに拘っているのか?


「ヤンマ! お願い! 十年以上魔法の呪文使ってないの。手助けして。」

「おう、任せろ!」


 クララはヤンマを呼び出した。魔法攻撃力の強弱の制御をヤンマに手伝わせるようだ。

雷鳴(エクトンドロ)!」


聞いたことのない呪文だが、精霊魔術のインスタント呪文か。『精霊魔術士(ソーサラー)』では、魔法のパワーは小さくソーサリー呪文でしか、大した効果を得られないはず。目眩ましを狙ったのかと思ったが、とんでもない。上空から雷の矢が降って来るようなものだった。

 雷は命中はしなかったが、大きな音と衝撃が大地に走る。魔物どもの動きは一瞬止まった。レイゾーはその隙を見逃さず、踏み込んでカミーユに斬りつけるが、やはり魔剣グラムを以てしてもダーインスレイブを斬ることはできず、火花を散らしながら交錯する。普段なら大岩や鎧ごとぶった斬ってしまうグラムが金属音を響かせている。



 この間にソフィアは苦しそうに咳き込んでいる。レイチェルが心配そうにソフィアの顔色を覗き込むが、とうとうソフィアは吐血した。


「ああっ、お姉さん!」

「拙い! 肺をやられていたんだ。鎖骨が折れていることばかりに気を取られていた。」


 ディーコンが懸命に処置をするが、ソフィアの吐血は止まらない。ジーンも勇者の職能(クラス)、称号を得て白魔術が使えるようになったのに、役に立っていないと悔しそうな表情だ。


「クララさん! こっちへ来て! お姉さんに声を掛けてあげてくださあい!」


レイチェルが悲壮な声を上げるので、心配になったアゲハがクララのもとへ飛んで行きダガーを持った手に留まった。ヤンマももう片方の手に留まり、クララに諭す。


「クララ、一旦休戦だ。お姉さんの様子をみよう。」

「クララちゃん。この女剣士は僕に任せてよ!」


 レイゾーにも促され、クララは姉ソフィアの傍へ。苦しそうにゼーゼーと息をするソフィアの手を握ると、強く握り返したが、すぐに力が抜けた。


「クララ、貴方が無事で良かった。せっかくまた会えたのに、こんなので御免ね。お父さんとお母さんのお墓に、花を…。」


 ソフィアは目を閉じ、その後、もう開くことはなかった。息が細くなり、やがて止まった。


「そんな! 姉さん、やっと会えたのに。まだお父さんとお母さんの仇、討ってないよう。約束したのに…。うわああああん。」


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