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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第2章 オーバーラン
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第16話 決着

魔物の群れが出てくると、騎士団長ロジャーの号令を待つまでもなく、左右に展開している弓隊はツリーフォークに矢を撃ち込んでいく。しかし、何処を狙えば良いのだろう。相手は植物のモンスター。目もなく顔もなく首もなく、急所があるのかも分からない。幹に枝に矢は刺さっていくのだが、どれほどのダメージがあるのやら。おまけに大きく広げた根を脚として歩いているために、あっさりと堀を越えて近づいてくるではないか。根の脚が短いソテツのような魔物もナナカマドの(レッドウッド)ツリーフォークの根の上を歩き、一緒に堀を越える。そして、まだ若い見習いのような騎士や、ギルドの呼び掛けに協力している冒険者たちは、初めて見る「ソテツ」に気圧(けお)されて、固くなってしまっている。


 タムラは昔読んだSF小説を思い出していた。人食い植物め、こっちの世界には、本当にいやがるんだな、と。そしてその対策も。


「おい、ロジャー。あのソテツみてえなのは『食人植物(トリフィド)』だ!」

「なに、トリフィド? 知っているのか?」

「人食い植物だ!天辺(てっぺん)の花の真ん中にあるのは口だ。すぐ下の(がく)から出てる(つる)のような触手で人を捕まえて食う。気をつけろ。」


 そして、タムラは周りにいる騎士たちに、クロスボウと、サーベルやバックソードを持ってくるように指示した。


「あの触手に捕まる前に、花の部分を切り落とすんだ。片刃の剣の刀身だけ要る。(つか)つばを外しておけ。」


 タムラは魔法を使い切りながらも戦意を失わない。見習って、俺もやるべき事をやる。


モノリスから現れた魔物どもは予想外の大きさだが、昨日ナナカマドの(レッドウッド)ツリーフォークと遭遇して、どうするか自分なりに考え、取調室の武器庫から拝借してきた物がある。今こそそれを使う。冒険者がギルドで付与してもらえるスキル、ストレージャーの中に油の瓶を10本詰めてきた。燃えにくいナナカマドだが、それでもなんとかなりそうな、葉。ツリーフォークの上の部分、鬱蒼と葉の茂ったところを目掛け油の瓶を投げつける。そして火系の呪文を使った。


焚き付け(キンドル)


 ツリーフォークの頭に火が着いた。あっという間に燃え広がり、ツリーフォークの枝から小鳥が飛び出していく。鳥さん、ごめんよ。それにしても、アフロヘアーの人間が慌てふためいて右往左往しているように見えて、ある意味滑稽なのだが。


 タムラは、周りの弓兵たちに良く見ておくように告げ、クロスボウの先端のフットステイを踏んで弦を引き、本来の矢とは違い垂直に交わる向き、弓部(リム)と並行にサーベルの刀身をマウントレールに置いた。ストックを肩に当て、普段以上に慎重に照準あわせ。トリフィドの頭に向け、トリガーを絞り、地面とほぼ水平にサーベルの刀身を飛ばした。1体のトリフィドの花が、剣を横に薙ぎ払ったかのように斬り落とされた。首をはねられたごとく。椿の花がポトリと落ちる様子に似ている。サーベル、バックソードの刀身を使い果たし、無くなるまで、これを続けていく。


 そして、自身の火傷を防ぐため、俺はリザードマンに対抗する目的で運んできた水を頭から被る。ストレージャーから、ツリーフォークに備えて油と一緒に用意した両手斧(グレートアックス)を取り出し、ツリーフォークの群れの中へ突進した。剣が駄目でも斧なら切り倒せる。斧は使ったことはないが、野球のバッティングの要領で、力を入れて、何度も何度も振り抜いた。俺を襲うツリーフォークの枝振りは、クララや騎士団が防いでくれる。そちらは仲間を信じてまかせ、大斧を振ることに専念だ。


 やがて斧や両手剣、打撃武器を持った者が中心になりツリーフォークの群れと混戦になった。とうとうロジャーまでもが、前線で剣を振るう。


 騎士、冒険者の怒声が飛び交う中、レイゾーら3人が派手に帰還。重装の全身鎧だけでも目立つのだが、派手なのは見た目のことだけではない。音もなく素早く走り回る。レイゾーがバウムクーヘンやブッシュドノエルをナイフでカットするように丸太を輪切りに、ガラハドが空手の板割りのように大木を打ち砕き、簡単に魔物を倒していく。そしてマリアの呪文。


「幾千の湖を吹く風よ、北の光とともに我が道を照らし示し給え。氷雪の大地(ストラトヴァリウス)!」


 何処からともなく冷たい風が吹き、足下から寒波が押し寄せてくるようだ。魔物の群れがカチコチに凍って動かなくなったばかりか、余計な火まで消し止めてしまった。格の違いを見せつけられた。そしてこの戦場を一瞥し、状況を把握したレイゾーは騎士団の主力部隊のもとへ駆けつける。


「ガラハド、もしまだ動いてるのがいたら、それはまかせる。マリア、本分の役目を頼む。」

「おう、まかせろ。落ち着いて作業しろよ。」

「了解。本職での出番ね。」


 職能(クラス)僧侶(クレリック)白魔術士(ホワイトマジシャン)などの使う魔法は回復や治療の効果を持つものが多いが、中には死者蘇生の呪文もある。ただし、現代医学での心臓マッサージや人工呼吸、除細動器などの働きを魔法で行っているということなので、死んだ人間が簡単に生き返る、あの世の先祖が還ってくるということではない。例えば失われた器官を別の魔法で再生して生命を救うなどの複合的な方法はあるが、オカルトではなく医学のレベルに近い話だ。そして、なまじ魔法が発達したこの世界では、医学は進歩しない。


 小鬼(ゴブリン)やツリーフォークとの近接戦で数名の騎士が倒れている。マリアとレイゾーが外傷の酷い者から蘇生、治療の呪文を使っていくが、二人の表情が冴えない。だんだんと悲壮な顔になっていき、倒れた騎士たちの半数ほどに幌布が掛けられると、座り込んでいる負傷者たちに向かい合った。後方部隊にいた僧侶(クレリック)衛生兵(メディック)も忙しく動き回っている。


 戦死者3名。マリアが蘇生したが重体の者が2名。負傷者は多数。激しい戦闘の割りには、被害は小さいと言えるかもしれない。冒険者、探索者のフルメンバーのパーティが全滅すれば6人。それよりは少ないのだが、此処セント・アイブスはミッドガーランドの国の中でも、そう大きな街ではない。ただ、半島の付け根あたりに位置するので、交通はそこそこ多い。3年前の戦争では、隣の都市からの避難所となり、最終的な戦場もこの近くだった。その戦争の爪痕がまだ残る地域だけに、今回のオーバーラン騒ぎは痛手となる。


 騎士団長のロジャーは最低限の監視、連絡役と、若い見習い騎士を現場の片付けとして残した以外は引き揚げ、帰宅して休息をとることを命じた。明後日の朝、騎士団の駐屯所に出仕するように。そして遺族の家を訪ね、無くなった騎士が町を守るために立派に戦い、名誉の戦死を遂げたと伝える。損な役回りではあるが、これは騎士団長の自分がやらねばならないことだと決めている。中には彼を罵倒する遺族もいるが、それを受けとめ、また起こるかもしれない有事に備えるためには必要なことだと考えている。これが3年前の戦争で多くの犠牲者、先輩同僚の騎士の死に様を目の当たりにした彼の矜持だ。


「やあ、ロジャー。遺族への報告は終わったかい? 取調室へおいでよ。少人数でささやかに打ち上げやるよ。」

「ああ、参加させてもらおう。」


レイゾーが声を掛け、とぼとぼと二人で街の一番外側にあるレストランへ歩いて行った。レイゾーは若いが重責を果たそうと藻掻くロジャーを気に入っていた。



取調室の一番奥の個室では、クララ、ガラハド、マリアの3人がすでに飲み始めていた。マリアは頬が赤い。


「だいたいねえ、コイツ等強すぎるのよ。私はね、高僧(ハイクレリック)なのに、コイツ等が怪我一つしないし、鎧着けたまんま100キロでも走っちゃうくらいに体力も余ってるから、回復呪文なんて出番がないじゃない。それで私、魔法使いみたいな立場になってるのよ。パーティのヒーラー(回復役)要らないじゃない。」

「いや、おまえ、攻撃魔法だって得意じゃねえかよ。賢者(セージ)職能(クラス)持ってんだから。体力だって俺たちと変わんねえし。」

「あんたみたいな筋肉の塊と一緒にしないでよ、この脳筋!普段回復呪文を実践する機会がないから、今日のいざってときに人の命を救えなかったのよ。」

「誰だよ、マリアにこんなに飲ませたのは~?」


 つまみのチャーシューの皿を運んできたタムラが、ガラハドの顔を見て笑っている。テーブルに皿を置きつつ答える。


「おまえさんだよ、ガラハド。毎回毎回、マリアをからかうの好きだよなあ。」

「はい、あたしも見てましたぁ。飲ませたのはガラハドさんです。」


クララも追随する。しかし、肝心なのは『今日のいざってとき』のくだりだ。死傷者が出たことをかなり気にしているのだろう。



 一方、俺は馴れないことをやって疲れて寝てしまっていた。寝るには早すぎる時刻。熟睡ではないのだが。そして夢を見ていた。日本にいた頃。11年前、中学生だったときのことを。



これからも洋楽、ロックのネタ入れていきます。

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