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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第11章 侵攻
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第157話 うるう年

 ベネディア卿を中心とした領域渡り(フィールドウォーク)を使用しての先遣部隊はバルナック領の東北、ウエストガーランドの国境付近に布陣しようとあくせく動いていた。元々バルナックはウエストガーランド王国の南端の一地方であるため、国境というのもおかしいのだが、第一次戦争の際にウエストガーランド王国はバルナック領を放棄しているので、バルナック領の北端がウエストガーランド王国の南端という解釈である。


 ベネディア卿たちが形成している陣地は収納魔法(ストレージャー)に入る物しか持ってこられないために、所謂冒険者のキャンプに毛の生えたようなものである。あくまでも仮の陣地で、船での本隊が到着すれば兵站を確保する補給線となる。


 まずは置き盾(パヴィース)を一番外側に立て、一歩退いて大型盾(タワーシールド)を両手で支える重装兵が守る。その後ろで塹壕を掘り、掘った土を土嚢に詰めて積み上げて陣地を形成。その後方で弓隊が構え、陣地形成の邪魔をするバルナック兵や魔物(モンスター)たちを牽制する。


 この先遣隊には、騎士団の若手や高ランクの冒険者が多く配置されたため、素早い陣地形成がなされた。陣地が出来上がれば空を飛ぶ生物(クリーチャー)魔物(モンスター)の討伐を優先して周囲に斥候を出す。


 その魔物(モンスター)、インプ、ハーピーやガーゴイルに混ざって、マリアの使い魔(ファミリアー)カササギのスクルドが情報収集をしていた。すぐに南へ飛び、陸路を進むレイゾー、さらに南のタロスに乗り込むマリアへと情報を持ち帰った。



「おーい。ちょっと皆、集まってー。」


 レイゾー、スカイゼル、グランゼル、クララ、俺とロデム。トリスタンとパーシバル、フォーゼにジーンとレイチェル、それにホリスターの十一人と一頭が輪になる。

ゴブリンやヴァイパーと戦いながら走ってきた戦車(シャリオ)部隊のロジャー達四人も追いついた。


「ちょっと(まず)いことになった。ジャカランダからの王国軍本隊が、もうバルナック領に上陸した。予定よりかなり早い。」

「おいおい。それは俺達がララーシュタインを倒したにしても、全面戦争になっちまうじゃねえか。」

「ですね。親方。俺達ドワーフが戦闘に参加するのも、焼け石に水ってことに。」

「だからって、今さら引けねえがな。」


 ホリスターとフォーゼが、ちょっとボヤいてるが。予定よりも早く進んでいるのなら、此方も急ぐしかあるまい。


「僕の計算が甘かった。なまじ、あの騎士たちが、とんでもなく優秀だってのを忘れてた。」

「まあ、単に強いだけじゃないですねえ。あの人達~。」

「一事が万事ってヤツだな。タムラさんが良い例だよなあ。」


 クララも俺も感心しているが、感心している場合ではない。戦闘は行われたのだろうか。少人数で行動している俺達とは違う。


「輸送船の半数弱が沈んだそうだ。まあ、大型船は全て海峡を越えてバルナック側に荷を下ろしたらしい。沈んだのは、ほとんど小型船。領域渡り(フィールドウォーク)を使っている者もいるから、人的被害にすると三割くらいじゃないかってことだが。」

「三割もの人が、海で亡くなったのですか? なんということだ。」


 トリスタンが嘆く。通常ならば、即時撤収する被害だ。


「海棲のクリーチャーやワニ型の水陸両用ゴーレムに襲われた。荷を下ろした後のグリーンノアが戦って相討ちになったと。」

「それは、ガヘレス卿が亡くなったということか?」

「そうだね。ガウェインの弟が、また・・・。」


 レイゾーもトリスタンもガウェインに同情する。だが、これだけでは済まない。




 バルナック領の南側。タロスを召喚し、ゴーレムや大型の魔物を引きつけておく陽動作戦チーム。人馬型ゴーレム『レオパルド』の波状攻撃をこなしながら、サキは小さな異変に気が付いた。スクルドの報告でミッドガーランド軍の上陸を知り、一刻も早くバルナック城へ乗り込むたいところだが、それだけにサキには小さな異変も看過できなかった。


 朝早くバルナック領へと攻め込んできたが、戦闘を繰り返すうちに時間は経ち、だいぶ陽の位置も低くなってきた。マリアが炎や爆発の呪文を使ったり、ゴーレムの素材の金属が火花を散らしたりする度に火が明るく輝く。周辺が薄暗くなり、その火花がだんだん強く明るく見えるようになっている。どうやらメイも気が付いたようだ。


「ねえ、サキ。なんだかおかしくない?」

「やはり、気になるか? 火花が光るのが長すぎるな。」

「アレ、鬼火じゃない?」

「そうだな。どこにでも現れるが、こんなに一度に出るのは珍しい。

 メイ。今日の日付は? 何月何日だ?」

「え、今日は十月二十九日よ。」

「そうだ。アーナム人の(こよみ)では。」

「アーナム(れき)ではって、どういうこと?」

「ジャザム人の(こよみ)では十月三十日だ。」


 (こよみ)がどうしたというのだろうか? ひとまず、このユーロックスでの一般的な暦は、アーナム人が作ったものだ。


アーナム人は大陸からガーランド群島に渡り、土着のジャザム人を駆逐して北西方面へと追いやり、イーストガーランド島とミッドガーランド島の大半に住み着いている。

冬至の日に一年が始まり、一年は三百六十五日か、三百六十六日である。もう少し正確に言えば、一年は三百六十五日と六時間あまり。そのために、だいたい四年に一度『うるう年』がある。四年のうち三年は一年三百六十五日。四年に一度、一年三百六十六日。

冬至から五日間を『正月』として、うるう年には、六日間とする。あとの三百六十日は一月を三十日、一月から十二月の十二カ月とする。正月の五日間は、だいたい冬至開けの祭りとなる。


 ガーランド群島の土着民族ジャザム人の暦は何が違うのか? 冬至に一年が始まり、一年は三百六十五日、四年に一度のうるう年、ここまでは一緒だ。だが、うるう年にも正月は五日間しかない。

 では、どこで調整するのかと言えば、十月が一日多くなる。四年に一度、十月は三十一日までとなり、この日はジャザム人にとっては神聖な祭日だ。


「あ、そうか。明日が『ハーロウィーン』なんだわ。」

「ほう。さすがだな、マリア。アーナム人なのに知ってるんだな。」

「ま、一応『賢者』だなんて呼ばれているしね。」


 サキは感心した。マリアは博識である。


「あー、俺でも知ってるぞー。サリバン先生に教わったからなあ。」

「すっかり忘れてたけどねぇ。」


 ガラハドはドヤ顔だが、遠い異国の昔話のような感覚である。一般のアーナム人には、知られていない。エルフ、ダークエルフのサキとメイは、認識が違うのだろう。


「で、よう。サキ。ハーロウィーンだと、何かあるのか?」

「ジャザム人の伝承ではな、『ハーロウィーン』とは、あの世とこの世が繋がる日だ。」

「あの世ってえと、天国(ヴァルハラ)か? 結構な話じゃねえか。」

「そうでもない。天国(ヴァルハラ)を含めた、幾つもの『あの世』と繋がるからな。」


 ガラハドは目が点になっている。鳩が豆鉄砲喰らったような顔というのは、これか。


「幾つもの?」

「ああ、三つの月のあらゆる場所。所謂地獄(ニブルヘイム)とだって繋がる。」


 ジャザム人にとっては、死人(しびと)や悪魔が災いをもたらす日でもあり、亡くした家族や友人の魂に会える嬉しい日でもある。また、幼子(おさなご)をあの世に連れ去られたりしないかと恐れ、先祖を敬い祈る。地域や集落などで様々な考えがあり、なかには身の毛のよだつような風習、儀式も存在していた。


実際のハロウィンは、ケルト民族の行事です。

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