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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第11章 侵攻
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第156話 海戦

 バルナック城の西。バルナック領の西海岸にララーシュタインとウインチェスターの研究施設と工廠がある。東側ではミッドガーランド王国に近く、攻撃されにくい西側に兵器の生産拠点を持ったわけだ。


 ジェフ王の暗殺後、ミッドガーランド王国の国内でバルナックに攻め込むべしとの世論が大多数になっていることは、当然ララーシュタインも承知している。数多(あまた)の間者をミッドガーランド国内に放っているのだから。


 ウインチェスターは西海岸の工廠で、兵器生産を急いでいたが、どうしても時間の掛かる物があった。船である。スクリューで推進する最新鋭の輸送船を開発したのは良い。だが、数を揃えられない。


 小銃や武具の小物は兵士が持つ領域渡り(フィールドウォーク)、ゴーレムは、そのものの機動力、防衛拠点を守らせる魔物は配置するその場での召喚。ジャカランダからの攻撃に備えるには、兵の数が、人手が足りないのだった。


 ゴーレムに関しては、コスト面で優れた人型の『ハイルV』を作業用の重機代わりに生産し、領内の防衛には移動力のある装輪型『ティーゲル』や人馬型『レオパルド』と滑走路無しに空に飛び立てる空海軍のカブトガニ型『スパングル』にだいたい集約された。

 ただし、これとは別に切り札が用意されている。そして、前もって生産されているワニ型の『ワルター』は海峡の海面下にウヨウヨ泳いでいる。

 このワルターがいれば、そうそうバルナックに攻めては来られないはずである。それに加え海棲の生物(クリーチャー)と哨戒の魔物(モンスター)もいる。



 バルナック領の南端近くで召喚され北に向かって進んでいるタロスを背後から襲うため、西の港を出た輸送船は海岸線を南に移動している。この輸送船にはダイ男爵と、三体のゴーレムが載っている。




 内陸にある王都ジャカランダは、軍をウエストガーランド島へ攻め込ませるにしても、西海岸の港周辺で軍を編成することになる。一部の領域渡り(フィールドウォーク)収納魔法(ストレージャー)のスキルを持った者は、軽装備で先に戦地へ赴き橋頭保を確保するが、あとは数少ないグリフォンやペガサスを駆る航空部隊を除き、騎馬や攻城兵器などは船に載せて海を渡る他ない。


 地雷原の処理が中途半端にしか済んでいない商業都市クラブハウスの港が一番大きいのだが、それだけでは不十分。小型の船は漁港からも出発することになっていた。


 どちらにしても戦場になり爪痕が残ったままの街並みだが、クラブハウスからはグリーンノアを旗艦とし、攻城兵器や弓騎兵を積んだ主力部隊、クライテンの漁港からはメイフラワーを含む小型輸送船団が歩兵や冒険者を乗せて出航した。



 下級悪魔(インプ)などによる空からの監視はずっとついていたのだが、ミッドガーランド軍の輸送船が海峡の中間線を越えた途端、バルナック軍が操る海棲の魔物(モンスター)生物(クリーチャー)たちが一斉に襲い掛かった。ミッドガーランド軍も当然抗戦する。

 荷が満載のため、船の機動は重いものの、それだけの人手や軍備を積んでいる。接戦となった。クラーケンやシーサーペントが洋上に顔を出せば直ぐに矢が打ち込まれ、銛を持った魚人(マーマン)が船体に憑りつき甲板に揚がろうとすれば、戦斧で脳天を割られる。ミッドガーランド軍の士気は高い。


 しかし、そうなればバルナック軍としても次の手を出してくる。二本足で立つワニのようなゴーレム『ワルター』だ。尻尾を左右に振って泳ぎ、海中から船底に体当たりしてくるメタルゴーレムは厄介だ。

だが、やられっぱなしではない。乗員には魔法使い(マジックユーザー)もいる。射手(アーチャー)達が(いしゆみ)を撃ち込む間にソーサリー呪文を詠唱し、ワルターの推進力を生みだす尻尾を氷漬けにした。動きが遅くなるとグリーンノアが正面から体当たりして衝角を突き立て肩口に命中。顔から背中にかけて海面から出ると額の『emeth』の文字を焼いた。


 こんな攻防を繰り返すうち、ミッドガーランド軍の半数以上の船がバルナック領の海岸へ接岸した。半数弱は残念な結果であるが。沈んでしまったのは、ほとんどは非武装の小型輸送船。


 国防大臣で、この遠征の大将であるゴードンは王族であるため、権力者の象徴であり人間に友好的な魔物(モンスター)のグリフォンを駆り、天馬騎兵(ペガサスライダー)部隊と共に、空からバルナック領へと向かっていた。遠目には後方で交戦している水軍を確認していたが、大将としては領域渡り(フィールドウォーク)でバルナック領に侵入する部隊に合流しなければならなかった。


 グリーンノアなどの大型船からバルナック領へと上陸を果たしたのは、騎士団長ガウェインが指揮する本隊。主力となる重装甲冑部隊、戦車隊、弓騎兵、攻城兵器運用部隊、魔法兵団。バルナックの地上部隊とも戦いつつ荷を下ろし、兵站を守りながら内地を目指す。予想されていたことではあるが、初めから激しい戦闘となった。


 バルナック領の海岸で軍を上陸させた船のうち無傷で武装を持つ船、元々の水軍船は、ガヘレスの命令で引き返し、残りのワルターや魔物(モンスター)と戦った。荷を下ろした分、船の動きが軽くなることも見越してのことだ。


「これで終わりではないぞ。復路の安全を確保するんだ。ララーシュタインの首を獲ってジャカランダへ凱旋するまでが遠征だ。海の脅威と戦うのは、我々水軍の役目ぞ!」

「「応! 」」


 ガヘレスが檄を飛ばすと水兵の誰もが、それに応えようと必死に戦った。最新鋭の蒸気船メイフラワーの総舵手であるガレスも、兄ガヘレスの下知のもと必死だった。長兄のガウェインは騎士団長として上陸し、次兄のアグラヴェインは先にブルーノアで戦い戦没した。武家の家系の者として、ここで活躍しないわけにはいかない。アグラヴェインの分も武勲を立てようと躍起になっていたが、目の前で、もう一人の兄、ガヘレスの船グリーンノアが沈むのを目撃することになろうとは。


 船倉が空になり、船が軽く俊敏になったこと、それ以前に海千山千のベテラン水兵たちが乗り込む水軍の旗艦であること、そしてジェフ王の仇討ち。水軍、いやミッドガーランド全軍のモチベーションを高く維持する要素があったのだが。マイナスの要素もあった。

衝角攻撃(ラムアタック)』の威力が落ちたのだ。水軍一の高速帆船で重量も最大級のブルーノア級の二番艦は、船首の衝角での体当たりが一番強力な攻撃手段であるのだが、主力地上部隊を上陸させたことで重量、質量が減ってしまっていた。

吃水線の位置も上下してしまい、先程まで海中にあった衝角が、海面ギリギリにまで上がっている。潜水可能な水陸両用型のゴーレム『ワルター』相手に、分が悪くなってしまった。ワルターが完全に海面にまで上がらないと衝角を当てられない。


 それでも簡単に諦める水軍ではないので、船団の編隊を組み弩砲(バリスタ)や魔法攻撃で次第にメタルゴーレムを追い詰めるが、グリーンノアの真下に付かれ、ワニの前脚の爪で引っ掻かれ傷ついてゆく。もともとブルーノア級のような大型ガレオン船は速度が出るが小回りの効く船ではない。


「こうなれば、このグリーンノアを囮とする。他の戦列艦は二列縦隊でグリーンノアを挟め。直下のゴーレムを狙い撃ちしろ。」


 川の字の真ん中がグリーンノア。その下にゴーレム『ワルター』がいて、両脇の縦線の画の戦列から弩砲の矢弾(ボルト)が撃ち込まれた。勿論トークンを仕込み魔法の効果が与えられた物である。ゴーレムは左右から狙い撃ちされ、たまったものではないが、悪あがきとしてグリーンノアの船底に大きなダメージを与えた。最後にはワニの大口で、船の背骨と言える竜骨を噛み砕いた。この時に頭を上げたのが仇になり、額の『emeth』の文字を狙撃され水陸両用のゴーレムは海底に沈んだ。


 竜骨が折れ船底に大穴が開いたグリーンノアは浸水して大きく傾く。両脇の戦列の船からは大音声が響いた。


「う、うわああ! まさか、グリーンノアが!」


ガレスはすぐに舵を切ってグリーンノアの救助に向かった。外輪式蒸気船のメイフラワーは、船の規模のわりに船尾に大きめの甲板がある。救助に行けば多くの人を乗せられるはずである。他の船の救助に当たっていた非武装の輸送船も集まって来たのだが、グリーンノアの浸水は早かった。


「なんてことだ! 王国の海を守って来たブルーノア級がまたしても。」


 こうして、ガレスは二人の兄を、ガウェインは二人の弟を失った。どちらもミッドガーランド水軍が誇る大型のガレオンの旗艦、ブルーノア級の船長であった。



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