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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第10章 悪風
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第152話 作戦会議

 ドラゴンっているんだな。この世界には。見てみたいと思うが、怖いもの見たさだな。会わずに済めば、それに越したことはないのだろう。


 ニーズヘッグというドラゴンは、上空に宇宙樹(イグドラジル)や世界樹、エルフの空中都市がある白と黒の妖精の国スヴァルトアルフヘイムでは、天敵である。世界樹を食い荒らす。

 宇宙樹世界樹を食べ、棲み処とするクリーチャー、モンスターはいくらでもいるのだが、ニーズヘッグは規模が大きく世界樹を枯らしてしまう。ときどき何処からともなく現れて世界樹の根を食い尽くす。エルフの空中都市は大きな半球が空に浮かび、その上に都市を築いているのだが、土地となっている半球は沢山の世界樹の根が複雑に絡み合ったものだ。


 ドラゴンというのは普通は群れにならず単独で行動。他の魔物と一緒に世界樹を食べに来るなど他に例がなく、ダークエルフのラヴェンダージェットシティが襲われたのは外的要因があると思われる。


 それから、マチコから『タルエル』についての質問があった。ヴァン神族からダークエルフへの神託を届ける役目の天使が、自分たちのゴーレムの名前と発音が似ていることだ。それは皆気になる点だろう。サキが説明した。


 これまで同じゴーレム『タロス』に乗り込むパーティのメンバーにも話していなかったことをまず謝罪し、ミスリルゴーレム『タロス』の名は、天使『タルエル』からのネーミングであると認めた。

 語尾がオスの言葉は、地名や一般名詞を示すことが多い。そして語尾がエルの言葉は人名や天使の名前を表すと。


 天使『タルエル』はニーズヘッグなどの魔物の群れがラヴェンダージェットシティを襲ったときダークエルフと共に戦い、ニーズヘッグに敗れた。だが、その勇敢さから、生き残ったダークエルフの間では、信仰の対象にもなっている。

 オズマ、サキ、ホリスターの三人が中心となってミスリルゴーレムを造ったが、天使タルエルの背中の翼は銀色に輝いていたこともあり、その名は天使タルエルから名付けた。


 ゴーレム『タロス』は、ドラゴン『ニーズヘッグ』を退治するために造られた。サキの冒険者パーティのシルヴァホエールが大型の獲物ばかり狙うのは、ニーズヘッグとの模擬戦だった。


 合点がいった。そう言う事だったか。ニーズヘッグを放っておけばエルフにとってはアッパージェットシティの危機であり、ダークエルフにとっては故郷を奪われた恨みだ。


 ついでに、通常のゴーレムと金属製のゴーレム、有人型の違いについてもサキが説明した。


 非金属のゴーレムと金属のゴーレムは、大きな違いがある。ゴーレムとは土属性の魔物(モンスター)であり、精霊魔術(エレメンタルマジック)六芒星魔術(ヘキサグラム)によって巨像泥人形(ゴーレム)を操る。

 非金属のゴーレムは、木、土、石などからできており、魔法によって、その場にあるものから形作られる。素材となる木や土があれば、それを活かしてゴーレムのボディが作られる。

 一方、金属のゴーレムは、その場で造られることはない。素材となる金属、鉱石があっても精錬、製鉄といった過程が必要である。鉄鉱石があっても、そこから出来上がるゴーレムは鉄鉱石のゴーレムであって鉄のゴーレムではない。

 よって、金属製のゴーレムは、予めその金属の人型を造り上げ、それを魔法によってゴーレムに変えるという手続きを踏むわけだ。ホリスターが鍛冶師としてミスリルを加工して人型を造り、サキがゴーレムとした。タロスに至っては、本来自律行動するはずのゴーレムを制御して有人で操るようにという細工をしてあるが、それはサキとオズマが大魔法を二人で掛けて実現した。タロスを思い通りに動かすには、コックピットにいるサキの魔力を必要とし、サキの魔力が尽きれば、他のゴーレムのように自律行動するようになる。

 サキの魔力が尽きたからといって、タロスは好き勝手に動くわけではない。基本的には、ゴーレムは主人の命令に忠実であり、万が一の暴走を止めるための仕組みが、額の『emeth』の文字なわけだ。

ただ、自律行動のゴーレムは、単純な動きしかできない。より高度な戦闘、作戦行動を行うための有人操縦だ。ゴーレムの強さは単純に術者の魔法が強いかどうかだけでは決まらない。素材の堅牢さ、ボディの大きさや質量、タロスのように有人操縦型ならば、操縦者の技術など、様々な要素が絡む。


 非金属でも金属でも、ゴーレムを呼び出すときには『召喚』すると表現しているが、意味は全く違う。非金属では、その場の素材を使い、その度に新しく造っているわけだ。用が済めば、魔法を解き、具体的には額の『emeth』の文字を消して、元の素材に還る。金属のゴーレムは、人型をゴーレムに化けさせる魔法だ。大抵の場合、一度召喚したら破壊されるまでそのまま働き続ける。『emeth』の文字を消しても大きな金属のガラクタが残り邪魔なだけだ。

 タロスの場合、協力関係にある青い月の精霊に預けている。普段タロスが居るのは、青い月の巨人の国(ヨツンヘイム)。サキが『召喚』すれば青い月のヨツンヘイムから地上のサキのもとへ現れ、用が済んで『送還』されれば、月へ戻る。この青い月の精霊との協力関係を築いているのはオズマであり、普段タロスを運用してドラゴンのニーズヘッグと戦うための戦術を生み出そうとしているのがサキということだ。




「さて。火炎奇書(パイロノミコン)とは、なんであるのか? タロスとは、どういう存在なのか? これまで皆釈然としていなかったと思う。だけど、この説明で納得できたでしょう。この説明は背景的なことなので、ここからは現状について話しますよ。」


 レイゾーが、らしくない深刻な面持ちで話す。溜息をひとつついてから。


 裏切者が侵入者を手引きし王城にてジェフ王を暗殺。逃走時に暴れ回って王城の中心部を焼いた挙句に、その後ジャカランダを新型の飛行型ゴーレムが爆撃。民衆は怒り狂い、ララーシュタインを倒せと声を張り上げ、続々と志願兵が集まっている。ガーランド群島の隅々から冒険者たちもだ。

 今は、軍隊の再編成と軍備、作戦立案の真っ最中だ。それが終わればジャカランダ軍がバルナックへ攻め込むという。


「しかし、これを放っておけば、大勢の人が死ぬことになる。」


 では、どうするのか? レイゾーは皆の顔を見回すと、サキ、オズワルド、ホリスター、俺と目を合わせた。オズマはなんだか笑いながらソワソワしている。


「ジャカランダの主力軍よりも先に、僕らがバルナックへ攻め込みララーシュタインの首を獲る。」

「そうこなくっちゃな。俺達で戦争を終わらせよう。なんてこたあない。三年前にもやったことだ。」


 ガラハドは二つ返事だ。その隣でマリアは、げんなりとしているが。オズマはガラハドに迎合。


「やっと暴れられるな。俺の商売の取引先を滅茶苦茶にした奴等だ。たっぷりお仕置きしてやらねえとなあ。」


ほとんど前向きな反応であった。俺も賛成。被害者を減らすには、それが一番の良策だと思った。


「勿論、強要はしない。参加したい者だけ参加してくれ。不参加でも後ろめたい事は何もない。ただ、今回はマチコちゃんだけは留守番だよー。」

「え? あたし? ちょっと、それはないんじゃないの?」

「駄目だよ。お腹に子供がいるんだから。オリヴィア先生とシーナに頼んでおくからね。」

「えー、タロスの操縦はー?」

「そのあたりは、サキが考えてくれてるよ。パーティの組み方は、だいぶイレギュラーになるけどね。」


 この遊撃軍の編成としては、レイゾーをリーダーとする主力部隊が、バルナック城に攻め入りララーシュタインを狙う。サキのタロスが地上のゴーレムを迎え撃ち、オズマのフェザーライトを移動可能な本陣として、飛行型ゴーレムへの対応と後方支援をする。

 そして、この遊撃軍の大将はアラン王子。オズワルドを副将、参謀ということにする。


 タロスには、サキ。操縦者としてガラハド。火力担当にマリア。それから、後方警戒にメイの布陣。

 フェザーライトにはオズマ、ドワーフの鍛冶師が六人。大将副将のアラン王子とオズワルド、後方支援にレイチェルとジーン、ロジャーとブライアン。数体の自動人形(オートマトン)

 それ以外の面子は、レイゾーと共に地上の主力部隊。バルナック城を目指す。レイゾー、トリスタン卿、パーシバル卿、フレディとディーコン、ホリスターと弟子のドワーフ三人、クララに俺。あとクアールのロデムも戦力に入っているようだ。

そして、サキ、マリア、オズワルドの使い魔の鳥たちは、斥候として偵察任務をやってくれる。マリアの箒、ルンバ君の5号から10号の六本も地雷撤去の任務を中断して作戦に参加だそうだ。


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