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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第10章 悪風
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第150話 赤

 レストラン取調室から西に一キロ程。ホリスターたちドワーフの職人が工房として使っている空き物件。そこへ移動してみると工房の前の草原にタロスが横たわっていた。今、見えているのは、ほとんどタロスの足の裏。


「あ、あれ。でも、ちょっとおかしいわよ。」

「はい。色が変ですよね。」


 ロデムの背に乗ったマチコと、その隣を歩くクララが話している。


「よお、待ってたよ。昨日の夕方に作業が済んだ。一晩おいたから、もう表面温度も下がってる。触ってもいいぞ。」


 ホリスターがタロスの足首を撫でながら、もっと近づくように促す。サキが右手を挙げて制止し、タロスの全身を見られるようにと指示を出す。


「いや、ホリスター。触らなくていいから、ちょっと下がってくれ。タロスを起こす。」


 タロスが上半身を起こし体育座りになった。いや、膝を抱えてはいないが。猟膝を揃えて立てて腰かけている。


「こんなふうになったんだー。へえー。」

「おおーっ、ヒーローっぽくなったぞお。まあ、怪獣と戦うなら銀色のほうが、それらしいけど。これはこれでアリだな。」


 タロスの腹から背中にかけての修復が済み、跡も残っていない。綺麗なものだ。そして、タロスのボディカラーが銀から赤に変わっていた。刺し色、というか、ところどころ銀色のままの部分もある。いや、銀色も少し違う。光り方が鈍くなって、ザラつきがある。

俺とクララは気に入ったのだが。マチコは難色を示している。


「ねえ、サキ。どうすんの、あたし達のパーティ名? シルヴァホエールじゃなくなっちゃうわよ。」

「いや、それは今までどおりで良いだろう。べつに変えなくても。」

「ふーん。で、どうして赤くなったの?」

「ホリスター、説明してやってくれ。」


 サキは自分で説明するのが面倒なのか、分かってないのか? ホリスターに投げたな。ホリスターの説明によると、キマイラのブレスに備えての事だという。

 まだ俺がパーティに加入する前、大陸で大型モンスターの討伐クエストをこなしていた。俺の前任の火力担当の魔法使いデイヴがクビにされたという件。タロスとほぼ同じくらいの大きさのキマイラと、それに従うマンティコアを相手に戦い、キマイラのブレスを浴びて、タロスのボディが溶けた。


 タロスのボディは三大希少金属のミスリルでできているので、滅多に傷もつかない。だが、キマイラのブレスは強力な酸であったらしい。クエストはこなしたが、タロスは一時行動不能になった。

 で、その弱点をカバーするのが、エルフの空中都市アッパージェットシティで仕入れて来た釉薬だ。ボディ表面に塗って熱を加えることで結晶、コーティングする。さらに細かい傷や酸、化学薬品、毒物、火などに強く耐水性もある。


 それから、もう一つ、銀の刺し色についてだが、間接などのパーツを一部造り直した。ミスリルとは別の希少金属『タイタニウム』による。これは軽量堅牢で、ミスリルのような魔法との親和性はないが、粘り強いため破断しにくい。関節の動きが滑らかになった。マナを溜め込み、魔法を増幅するタロスの一番のメリットはそのまま、防御力と運動能力をアップした。




 ガウェインは、慣れない仕事に困っていた。バルナックへ攻め込むと決まった途端、予想しない大勢の志願兵があったせいだ。

まずは、大まかにでもバルナックへ進行する作戦の骨子を組み立てねばならない。そして人員の配置。志願兵といっても、まともな訓練も受けていない素人を前線には出せない。後方部隊への配置をするしかないが、頭に血が上った民衆を抑えられるのか?制御の効かない軍隊など、ただの獣の群れだ。前線に配置すれば、それは「死んでこい」ということに他ならない。

 困り果てたガウェインは、作戦会議と称しベネディア卿とライオネル卿を呼びだし、作戦の立案を手伝わせた。二人とも心得たもので、ベネディアは新規志願兵の個人データのリスト、ライオネルはガーランド群島南西部の地図を持参してきた。


「卿らは、さすがだな。二人とも。」

「皆考えることは一緒だろう。大軍では、移動手段を確保しないと進軍できない。今回ばかりは、私も護りではなく、攻めにまわるのだろうな。」

「私が率いているのは騎馬隊だ。馬を運べないと私の仕事がない。」


 落ち着いて見えるが、ベネディアもライオネルもバルナックに攻め込む気は満々であった。ライオネルなどは、さらにシイラに群島周辺の海図まで持ってこさせた。ベネディアからは、志願兵のなかに面白そうな人材がいるとの報告もあり、やっと作戦立案が進み始めた。




 王都ジャカランダに戻ったアラン、トリスタン、パーシバル、レイチェル、ジーンは市民の熱気、好戦的な雰囲気に圧倒された。冒険者に混ざって盗賊などの戦闘は行われていないのに戦場さながら。何か些細な事でも暴動になるのではないかと危惧された。騎士団がいるので、かろうじて治安は保たれているものの安心して生活できる雰囲気ではなくなってしまった。


「トリスタン、余は王族の一人として情けない。これでは、民が平和に暮らせる国ではない。」


「殿下・・・。」


トリスタンは、アランの目につかないところでパーシバルに相談した。妻のイゾルデを疎開させたいと。パーシバルもすぐに賛成した。

さて、どこに疎開させるかだが。イゾルデの実家ならば、まずは安心といえるが、安心と安全は違うだろう。暴力とは無縁の安全な場所、あるいは、自分に代わり護ってくれる者がいる砦のような施設。辺境の片田舎でも行くか?二人が思いついたのは同じ場所だった。


「なあ、パーシバル。セントアイブスは、どうだろう?」

「やはり、それが一番よろしいのでは?」


 夕刻、騎士としての街中の警護の任務を終え、トリスタンは妻イゾルデを連れて領域渡り(フィールドウォーク)(ポータル)を潜り、セントアイブスを訪れた。まずはレストラン取調室へと思ったが、夜の営業が始まる前で、すでに数十人の列ができていた。開店を待っていても良いのだが、レイゾーも忙しいであろう。


次に頼れるのは、ガラハド。今は騎士ではないが、元々ジャカランダの宮廷騎士団の先輩である。ガラハドが支部長をしている冒険者ギルドを訪ねた。

 俺はガラハドに呼ばれてクララと一緒にギルドマスターの執務室にいた。冒険者としての評価ランクの件で。


「すまねえなあ。評価ランクの更新作業が遅れちまって。とりあえず、今日からクッキーはBランクだ。本当ならAランクでも良さそうなんだが、これも査定の作業の遅れのせいだ。」

「あら、でも飛び級じゃないですか~。了ちゃん良かったね。」

「その飛び級ってのもよ、更新作業が間に合わなくって間引きしてるせいだよな。もっと豆にやらなきゃいけねえもんだよ。キチンとワンランクごとにな。」

「いやあ、この戦争中じゃ仕方ないですよ。評価してもらえるだけラッキーです。」


 ジェフ王の暗殺以降、冒険者はジャカランダに集まりセントアイブスは手すきになっていたので、今やっと冒険者の評価ランクの査定が行われているわけだ。ただ、仕事が溜まり過ぎてしっかりとした評価がなされていないそうだ。

 ガラハドとしては、俺が抑うつ状態にあると知っているので、少しでも明るい話題を提供しようと気遣ってくれていた。それでAランクでも良さそうだと言ってくれるのか。有難い事だ。クララも笑顔だし。


 そこへトリスタンが訪ねて来た。イゾルデと一緒に。意外な来客だったが、ガラハドは歓迎した。執務室に招き入れて座らせ、ギルドの事務員にお茶を持ってこさせた。


「お忙しいところ失礼します。ガラハド卿。」

「よお、いらっしゃい。だけど卿はやめようぜ。俺はもう騎士じゃない。爵位もない。年齢もトリスタン卿が上でしょう。」

「ジャカランダの王宮騎士としては貴方が先輩じゃないですか。貴方は十代のうちに騎士になった。エリートですよ。では、マスターガラハド。」

「ん、まあ、いいだろう。まあ、言葉はお互いにタメ口で。どうしたい?」

「折り入って相談があって来たんだ。まず取調室と思ったが、忙しそうで、こちらに。」


 トリスタンはイゾルデの疎開について受け入れ可能か質問した。冒険者の多くがジャカランダへ移動していることもあり、住む家はすぐに見つけられる。ガラハドは三年前の第一次戦争で主を無くした下級貴族の屋敷を勧め、すぐにギルド事務員に手続きをさせた。

 元々仕事のできる人なのは、知っているが、それにしても手際が良い。どういう事かと思えば、ガラハドの方から相談したいことがあるようで、さっさとイゾルデの疎開の件を済ませたかったようだ。


「こういう物言いは失礼だが、トリスタンがクラブハウスを守り切れなかった件の責めを負って降格し、指揮官の立場でなくなった事が、こちらには好都合なんだ。」

「と、言うと?」

「俺達、クランSLASHのメンバーとして一緒に戦ってほしい。」

「え?」


これは予想していなかった。イゾルデもクララもキョトンとしていた。次期騎士団長と期待される弓の名人。SLASHのメンバーになるなら、こんなに頼れる人材はないだろう。タムラがいなくなった穴を埋められるのでは?


これで、タロスのスピードが通常の三倍に・・・?

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