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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第10章 悪風
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第147話 新型ゴーレム

 ダイ男爵が駆るゴーレム『デスマルク』はミッドガーランドとウエストガーランドの間の海峡を北上。ノースガーランド王国を目指して進む。

ワニのような形をした水陸両用『ワルター』に阿修羅型『スプリンゲル』の六本腕を足したような意匠のアイアンゴーレム。前脚を捥いだ獣脚類の恐竜の両肩にどら焼きのような円盤を取り付け、そこから各三本の腕が生えている。

どら焼き型の円盤はエンドレスにグルグルと回転できるため、海中では太い尻尾を左右に振りながら、六本の腕はクロールというコミカルな動きをしながら、海面に頭頂を出しつつ猛スピードで泳ぐ。


 海水に浸かっても傷みにくい素材を再考慮し、三大希少金属に次ぐ希少金属『タイタニウム』のボディを持つこの『デスマルク』は堅牢軽量。ララーシュタインのゴーレムとしては、ほぼ完成形といえるだろう。


 自然に存在している海洋モンスターのシーサーペントなどを二、三撃退したが、それ以外に障害はなく、ノースガーランド島とミッドガーランド島の間の北方海峡に入った。この海峡の南北がノースガーランドの領土。南側はミッドガーランド王国と地続きであるため、デイヴが奪取した人馬型のゴーレム『ヤクートパンテル』ならば南側にいると考えるのが妥当であるが、ノースガーランド王国の首都は北側にある。

 ダイ男爵はどうしたものやら迷ったが、結局南側のミッドガーランド島へ上陸し、探す手段もとくにないので『デスマルク』を暴れさせた。海岸沿いの集落、港を踏みつぶして進み、多くの人の悲鳴や嗚咽を聞きながら、ノースガーランド王国軍の防衛隊が出動してくるのを待った。


「探すのも面倒だ。向こうから出てきてもらおう。」


 やがて装飾ばかりが派手な鎧を着込んだ騎士を先頭に騎馬隊が近づいてきたので、ダイ男爵は『デスマルク』のコックピットから外へ出た。蝙蝠の羽根を羽ばたかせ飛び上がり、地に降りると騎馬隊からは驚愕と恐怖の声が上がった。


「我はバルナック軍のダイ。デイヴ・マルムスティンの身柄を引き渡せ。今すぐここへ連れてこい。それから、我が軍から奪った人馬型ゴーレムを返してもらおうか。拒んだらどうなるかは、わかっておろう?」


 震えあがっていた先頭の派手な鎧の男は、チラリと海の方向を見たかと思うと予想外の事を言い出した。


「ふ、ふん!やれるものならばやってみろ!そんな不細工なワニゴーレムに我々がビビるとでも思うのか?皆、笑え!」


後ろに群れている兵士たちから、ぎこちなくダイを嘲笑う声が聴こえて来た。覇気がない。

 ダイが呆れていると、どこからか岩が飛んできてデスマルクの頭部に当たった。予想外である。


「あ?なんだと?」


見上げると青い月を背負うように、猛禽類の鳥のような飛行型ゴーレムが飛んでいる。バルナック軍の「メッサー」から下半身を切り捨て、腕の先に大きな爪と頭部に尖った(くちばし)を付け足したデザイン。どう見てもララーシュタインのゴーレムを模倣した物だ。あれが岩を落としたのであろう。

続いて海岸沿いの防風林の中からも大きな石が飛んでくる。これは投石器(カタパルト)によるものだ。


「小癪な。

火があれば何事にも立ち向かえる。赤熱の鋼を燃やせ。火球(ファイヤーボール)!」


 ダイ男爵は鳥型ゴーレムに火力呪文を放ち、デスマルクは騎馬隊を踏みつけながら、その背後の防風林へ突っ込んでいく。鳥が地に堕ち、騎馬がデスマルクに潰され血飛沫が飛び散る中、海岸では二足歩行のヒト型のゴーレムが上陸してきた。その数、六。異常事態を感知してすぐ、ヒト型ゴーレムを積んで停泊していた輸送船がすぐに海峡に出た。海流の速い水域を抜けるとすぐ、船を飛び出したヒト型ゴーレムは泳いで海峡を渡って来た。北のゴーレムは後発だけに改良を施しているのだろう。


 林の中の投石器(カタパルト)を踏みつぶすと、デスマルクは回れ右。海岸のヒト型を目指して前進する。


「あれは『ハイル』のコピーだろう。我が軍のゴーレムの情報を流して模倣させたか、デイヴ・マルムスティンよ。キッチリ始末しなければならんなあ。」


 インドの国技カバディの守備体形のように、ヒト型のゴーレム同士が手を繋ぎ鎖となり、一体が攻撃を受けたとしても、あとの五体で取り囲み、逃がさない作戦らしい。一定の距離を保ちつつ、六体のヒト型がデスマルクの前と左右を塞ぐ。さながらダンスを踊るようにクルクルと廻りながら、デスマルクは一撃離脱の逃げ道を確保しようとするが、北のヒト型は、それなりの教練を積んでいるらしく、器用に動き回る。

 とうとうデスマルクが一体のヒト型を捕まえて首をもぎ取ったが、残りの五体が一斉に飛び掛かり羽交い絞めにしようとした。しかし、デスマルクには六本の腕がある。ヒト型も当然警戒するのだが、デスマルクはフィギュアスケートのジャンプのように跳躍して回転。太い尻尾を振り回し、弾き飛ばした。その間に六本の腕も活かし数発の拳を叩き込んでいる。着地をすると手近なヒト型から掴んでは、海に投げ入れる。投げられてもまたすぐ(おか)に上がるものの、連携を崩されたヒト型は為す術なく、一体ずつ撃破されていった。


「ふん!俺が出ねえと、どうにもならねえのかよ。」


 デイヴがぼやきつつ、奇襲を掛ける。デスマルクの背後、防風林の向こうから、人馬型ゴーレム『ヤクートパンテル』が疾走してくる。衝き槍を前に出し突進してくるが、デスマルクは二本の腕で衝き槍を捌き、尻尾をバネのようにして地面に叩きつけ、脇に飛び退いた。ヤクートパンテルは海に入るが、四本の足を濡らしながら、すぐに方向転換。回りながらデイヴは火力呪文を撃つ。これもまた六本の腕が捌く。三大希少金属の衝き槍が、結局決め技となるのか。タロスの腹を穿ったときと同様に地面と平行、無理のない高さに自然に構え、前進。

 しかし、デスマルクの挙動が槍に勝った。槍の切っ先を左手の一本が掴むと、引っ張り込み、あと二本の左腕で槍の柄を押さえた。脇に槍を挟み込み、捕まえると、三本の右腕がヤクートパンテルの顔面を殴る。上半身が後ろへ仰け反ると太い尻尾が、ヤクートパンテルの馬の脚に巻き付き、動きを抑えた。


 六本の腕が首根っこを掴み、額の『emeth』の文字を潰すとヤクートパンテルは動かなくなった。板金鎧のようなデザインの胸の装甲を無理矢理こじ開け、コックピットの中にいたデイヴを掴み、引き摺り出すと、そのまま握り潰してしまった。トマトを握ったように赤い液体が地に垂れた。


「これで、裏切者は片付いたが・・・。」


 バルナックの魔術、技術が盗みだされ、『ハイル』を模倣したゴーレムが複数、造り出されていたのだ。他のタイプがないと言えようか。放ってはおけない。


 デスマルクは動かなくなったヤクートパンテルを担ぎ上げた。そしてダイ男爵は四極の魔法陣を浮かび上がらせるとレッサーデーモンを召喚。デスマルクとヤクートパンテルをバルナックへ帰投させるように命令した。


「ダイ男爵閣下は?」

「我は、もう一つ仕事が増えた。持ち出されたゴーレムの情報を抹消しなければならん。ノースガーランドの王城へ行き、すべてを焼き払ってから戻る。」


 ダイ男爵は、単身ノースガーランドの王城へ出向き、虐殺と破壊の限りを尽くした。ミッドガーランドのように戦支度をしていなかったため、突然襲ってきたアークデーモンに抗戦らしい抗戦も出来ず、王都は灰になった。数日後にはオサマ王の王冠と焼けこげたカボチャパンツが灰の中から発見されたそうだ。




 デイヴが死んだ同日夜。真夜中のこと。十発の爆弾を抱えたカブトガニの形をしたゴーレムが、ジャカランダを襲った。王城の中心付近はすでに焼けていたのだが、さらに被害が広がった。

真夜中の空襲で、フェザーライトもタロスもセントアイブスに駐留している。ゴードン王子を中心に応戦するが、新型のカブトガニ型『スパングル』は、何処が額で『emeth』の文字があるのか?初見で、真夜中であるために確認できず、飛び道具は目眩撃(めくらう)ちするしかない。作戦目的がジダンとカミーユにジャカランダ脱出の隙を作り与えるという事であるため、爆弾を落とし終えると素直に帰っていったのだが。

 それにしても爆弾が十発である。『ホッケウラー』であれば二発しか持っていなかった。

ホッケウラーが多目的機による地上攻撃なら、スパングルは爆撃機だ。もちろん、ジダンとカミーユは、この爆撃のどさくさでジャカランダから逃げ出し、バルナックのララーシュタインの城へと帰り着いた。


翌朝、明るくなってみると、酷い有様だった。十発の爆弾が投下された跡は、月のクレーターのように大穴が空き、火事もまだ消火が進まない。いや、暗いうちには、消火活動もろくにできない。火を消すのは、これからが本格的な作業だろう。戦争続きのせいで、生活魔法にしても魔法使いの数が足りない。


「このままでは疲弊してしまう。戦力だけでなく、民の生活も。物質的にも精神的にも辛い。」


ゴードン王子がこぼすと、内務大臣であるジョン王子が応えた。


「打開策が要るな。消火と救助活動が落ち着いたら、バージルとガウェインとも話そう。ちょっと考えていることがある。」

「分かりました。兄上。」


その後、ジョンから、思いもよらない提案があった。ガウェインは、飲みかけの紅茶をむせるほどに驚いていた。


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