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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第10章 悪風
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第144話 暗殺後

 血にまみれたケイ伯爵の遺体が騎士団の詰め所に運ばれた。ファーガスによって殺される現場を目撃した市民がおり、城下町で倒れていたため、朝になるとすぐにケイ卿の死がジャカランダで噂となった。王城の中心部の火災もあり、騎士団、兵団は市民の鎮静のために多くが詰め所の外へ出払っていた。

 ライオネルはケイと懇意だったため、とても残念そうだ。肩を落とし、屈強な身体が小さく見える。




 商業都市クラブハウスでの、この日の地雷撤去作業を終えサキが帰ってくると、とても暗い表情だった。作業に疲れてしまっているのか、なにかアクシデントでもあったか? 俺も少しづつ食欲が戻ってきていたので、夕食時、四人で食卓を囲っているときに尋ねてみた。


「サキ、疲れてるかい?元気なさそうに見えるけど。」

「ああ、今のクッキーやマチコには、あまり聞かせたくない。ストレスになるだろうからな。しかし、話さないわけにもいかないか。」

「サキ、あたしのことなら気にしないで。なにも病気じゃないのよ。もうすぐ安定期だってオリヴィアさんも言ってたし。」

「あたしなら、いつもどおりに働けますよ~。」


クララはガッツポーズしている。マチコや俺の分も働くつもりらしい。俺は黙って頷いた。


「一昨日の晩、王城に賊が忍び込んだ。ジェフ王陛下が暗殺された。」

「「!」」

「そんな!大変じゃないのよ。ジャカランダは今どうなってるの?」

「マチコ、声が大きい。」


マチコは慌てて口を手で覆った。いや、俺も大声を出しそうだったが。サキは説明を始めた。


「まず、陛下が亡くなられたことは、まだ公表されていない。暗殺だからな。国内が混乱する。いずれ公表されるが、どなたが王位を継ぐのか決定してからだ。

 一番期待されていた皇太子、スコット殿下がすでに亡くなられている。普通に考えたら政治力のある次男ジョン王子だが、この暗殺騒ぎで怪我を負われているし、なにより本人が望んでいない。争いとは言わないが、王位継承について意見が纏まっていない。」


「わあ、いろいろ大変ですねえ。」


クララが言うと、なんとなく緊張感が欠けるのだが。気のせいか?


「王位継承が決まればジェフ前国王の国葬と新国王の戴冠式がある。それにはセントアイブスからは、ページ公、騎士団長のロジャー、レイゾーと私が行く。」

「あら、ガラハドとマリアはいいの?」


 マチコが質問したが、ガラハドは、今はジャカランダの騎士ではない。二人ともギルドマスターとしての仕事と、クラブハウスの地雷撤去を頑張ってもらおうということだ。パーティのリーダーのレイゾーが招待されるので立場が悪くなることはない。それから、ダークエルフの王であるオズワルドも不参加。もともとダークエルフはエルフよりもさらに人間と関わりが薄い。サキはエルフの都、アッパージェットシティの元外交官だが、戦争協力者シルヴァホエールのパーティリーダーとしての招待を受けた。もっとも、俺たちも一般参賀として人ごみの中から小旗を振ったりするのは自由だそうだ。


「それはそれとして、別の問題もある。」

「そりゃあ、戦争してるものね。」


 ゴードン王子が国防大臣に就任するらしい。騎士団長ガウェインとでツートップの体勢になる。だが、目の前にもっと大きな問題がある。何故暗殺が起きたかだ。


 もとよりバルナックの内通者が複数いるとトリスタン卿から注意を促されていた。疑いがあったのはダゴネット、ケイの二人。その内通者の一人とハッキリ露見したダゴネット卿を拘束し、尋問を続けていたが情報は得られず、半ばあきらめかけていたところで、この暗殺騒ぎである。侵入した賊は三人。だが、その賊を手引きしたのは、ファーガスだった。結局のところ、ファーガスがジェフ王に止めを刺し、三人の賊の一人が王城に火を放って逃げた。賊と戦ったガウェインによれば、その火を放ったのは、人間に化けた悪魔の三男爵のレッド。二人はお尋ね者の元冒険者。それから、素性不明の侵入者がもう一人。若い女性であり、二人の賊をオーギュスト・ジダンとカミーユ・メンデルと呼び、両親の仇だと言ったそうだ。

 そして、ファーガスの奇行の原因は、ジェフ王に対する不満。ファーガスを騎士に取り立てた先代のアルトリウス王に対する忠誠が厚く、現在の待遇が気に入らなかった。

 逃亡するときに鉢合わせしたケイ卿を斬り捨て逃げたのを王城近くで市民が目撃している。ケイ卿は城の周辺を警戒して見廻りの最中だったが、作戦中でもないので防具は身に着けておらず、剣だけの軽装だったと。ケイ卿は内通者ではなかったのだろう。ケイ卿もその時に殺された警備兵らも、ジェフ王と同じ日程で葬儀が行われる。

 現在は、怪我を負ったジョン、バージル王子は治療を受け療養。ガウェインはダゴネットを尋問している。


「サキ。あの、素性不明の侵入者って、他に情報は?」

「年齢は二十代半ばくらい。容姿端麗だと言っていた。レッドが暴れるとバージル王子を助けようとしたそうだ。しかし、ゴードン王子とバージル王子が火を消している間にいなくなった、と。」

「オーギュスト・ジダンとカミーユ・メンデルっていうのは、あたしの両親の仇です・・・。」

「あ!そうか。それじゃあ、生き別れのお姉さんなのか?」

「それともなければ、同じような境遇の人か。オーギュストとカミーユは何人も殺したお尋ね者でしょう?」


 俺は思わず、食事中なのに立ち上がってしまった。マチコになだめられた。


「クララもクッキーも落ち着いて。おそらく、また会えるわよ。」

「そうだな。王城では、いまのところ盗まれた物はないそうだ。ジェフ王の暗殺が目的。ならば、二人はバルナックに金で雇われたのではないか?」


俺は、しばらく考えて言った。あまり良い考えではないと思うのだが。


「それは、仇の二人がバルナック側にいるのなら、バルナックとの戦争が続けば、ララーシュタインを追い詰めていけば、同じところに辿り着くってことか?」

「戦場で会うかもしれないな。まあ、敵としてではないが。」


サキが付け足した。そして、マチコはクララに諭すように話す。


「大陸のスパティフィラム王国で生き別れになったのが、姉妹ともガーランドにいるのよ。近くなったじゃない。ここは実家なんだから、帰ってくるかもしれないわ。だから一人で探しに遠出したりしちゃダメよ。」


 すると、今度はサキから提案があった。明日は地雷撤去はやらないそうだ。珍しくオフである。次から次へと地雷が見付かるので、焦ったところで作業は終わらないそうだ。


「明日は四人で買い物に行こう。気分転換もいいだろう。」




 バルナック城の指令室では、ララーシュタインがダイ男爵を呼びつけていた。インヴェイドゴーレムを運用する錬成の具合はどうかと尋ね、問題なしと答えると、ララーシュタインは満足した様子で命令を下す。


「貴様の前任者のデイヴだがな。我々を裏切った。放っておくわけにもいかん。北ガーランド島へ逃げたのは分かっている。だが、今は飛行できるゴーレムは数がなく、マッハが使っている。輸送船もない。そこで水陸両用型のデスマルクを与える。それでデイヴと盗まれたヤクートパンテルを斃してこい。」

「ははっ、仰せのままに。裏切者は消してまいります。」


 初めての仕事らしい仕事だと、ダイ男爵は心躍った。しかし、ヤクートパンテルとは、三大希少金属を使用した、タロスに傷をつけた高性能ゴーレムである。水陸両用型で対抗できるのだろうか。




 クアールのロデムがマチコを乗せてゆっくりと歩く。目指すのは街の中心部から北側にある洋品店。ロデムを怖がってそそくさと逃げていく人も多いが。街で一番の大店に到着すると、ロデムは大人しく座って待つ。利口だな、このクロヒョウもどき。


「請求はパーティ当てにしてもらうからな。金額はあまり気にしないで好きな物を買うといい。」

「あら、サキったら太っ腹ねえ。」

「買うのは、おまえのマタニティドレスだぞ。クッキーとクララは店の奥のコーナーへ行ってこい。」

「奥って何があるんだ?」


 俺が首を傾げると、マチコがクララに耳打ちしてヒソヒソと話していた。またマチコが良からぬ事を企んでいるような気がしてならない。


「奥は下着売り場よ。クッキーが喜ぶように小さいの、というか、エッチなヤツ、買ってきなさい。クッキーに選ばせてもいいわね。試着して。」

「姐さんったら、もう~。」


タロスとフェザーライトが動けなくとも、ララーシュタインのインヴェイドゴーレムは動きます。

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