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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第10章 悪風
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第140話 暗殺

 王城に侵入した賊どもはハッキリとした目的を持っているらしく、足早に目立たない通路を移動していく。勿論、足早なのは見つからないようにすることでもあるが、案内役のファーガス以外は足音がしない。かなりの手練れだろう。少し離れて後を追う大男でさえ足音がない。摺り足なわけでもない。

ソフィアとしては、一刻も早く仕掛けて仇討ちを果たしたいのだが、返り討ちにあっては元も子もない。賊が目的を遂げ、気の抜けた瞬間を狙うことに決めた。


 ファーガスを先頭にした四人は、幅の広い通路を避けながら王城の中央へ向かい進む。やがて、ゆっくりと歩くようになり、分厚いドアの前に二人の衛兵が守る場所まで来た。

 ファーガスのみが先行している。ファーガスが衛兵と何かを話すと、その衛兵によりドアが開けられた。

 おもむろにファーガスはナイフを抜くと衛兵の胸を一刺し。心臓を捉え即死。


「うっ、うわあああ!ファーガス卿!何を?!」


おののき叫ぶもう一人の衛兵も、カミーユが素早く後ろから剣で刺した。しかし、今の衛兵の声は拙かった。誰かに聞かれたかもしれない。オーギュストが近づいてきて言った。


「俺が魔法を使えば良かったな。こうなれば力づくだ。急ごう。」


ファーガスがドアを通り、走り出した。このドアの向こうは、王族のプライベート空間。御所である。衛兵はほとんどいない。だが、ガーランドにおいて王族とは騎士のトップ。まともに戦ったならば、どちらが勝つやらわからない。奇襲で片付けたい。


 ファーガス、オーギュスト、カミーユが王の寝所を目指して走る。もう一人の巨漢は、体形からしたら走れないのかもしれないが、付いて行かずゆっくりと歩む。盗みにでも入って来たのだろうか。ソフィアは大男は捨て置きオーギュストの後を追った。


 追いついてみると、ジェフ王とカミーユが剣を交えていた。ジェフ王は左の肩口から血を流している。痛みを感じていないかのように激しく動き回っている。アドレナリンやエンドルフィンがいっぱいなのだろう。

すでに初老といえる年齢だが、元騎士の筆頭。一度剣を握れば覚悟が違っていた。カミーユの剣を捌きながらオーギュストを睨みつけ、魔法を使うタイミングを狙っては間合いを詰めて剣の切っ先を向け、呪文詠唱の暇を与えないようにプレッシャーを掛けた。

 そして長引くとジェフ王に有利になる。騒ぎを聞きつけた第二王子ジョンと第三王子バージルが剣を持ち駆けつけた。


「陛下!何事ですか?!」

「おのれ狼藉者どもめ!」


 拙い状況になったと思ったオーギュストは、効果は低くともインスタント呪文で打開しようと判断した。脆弱だが広範囲に及ぶ風の呪文。


突風ガスト!」


瞬時に吹き付けた強い風に王子たちはたじろぐが、一瞬動きが止まっただけだ。


「やはり狭い屋内で使う呪文ではないか。」


 オーギュストは続けざまに小剣(ファルシオン)でジョンに斬り付けるが軽く躱された。するとあの肉付きのいい大男が何時の間にかこの寝所に入ってきて叫んだ。


「ええい、手緩い。もう黙って見ていられぬわ。風の呪文とはこうやるのだ!塵旋風(ダストデビル)!」


 やや離れた位置で物陰でじっと観察していたソフィアは助かったが、あとの六人、ジェフ王に二人の王子、賊の三人までもが渦を巻いた上昇気流に吹き飛ばされ、壁や天井に打ち付けられた。天井まで飛ばされた者は、床に叩き落とされ、さらに痛みが襲う。

 この風がおさまった時が好機と考えたソフィアは毒針を両手に構え、物陰から飛び出した。二本の毒針を投げつけると、それはオーギュストの右腕に刺さった。とっさに腕を押さえたオーギュストはソフィアを睨みつける。


「な、なんだ貴様は?」

「小さい頃の私を憶えてない?オーギュスト・ジダン!両親の仇を討たせてもらう!」


ソフィアは腰から二本のナイフを抜いて逆手に構える。前傾姿勢をとりオーギュスト目掛けて走り出した。そこへ片足を引きずりながら割って入ったカミーユの剣がソフィアのナイフを撥ね退けた。


「邪魔をするな。カミーユ・メンデル。あんたも敵と判断する。」

「そうかい。あたしの男を殺そうとするなんて、おまえはもうあたしの敵だよ。」


 片手剣(ブロードソード)と二本のナイフによる激しい剣劇となった。一方のオーギュストは二の腕に刺さった針の毒により身体が痺れ始めていた。


「くっ、これでは目的が果たせん。」


 オーギュストは腰のポーチから解毒ポーションを取り出すと口に放り込んだ。むせて咳き込んでいると、騎士団長のガウェインが飛び込んで来た。騒がしい音を聞いた者が騎士の詰め所にまで知らせに行っていた。


「陛下!いかがなさいましたか!」

「貴様は!」


ガウェインの顔を見るなり、大男はガウェインに殴り掛かった。ガウェインは腕を挙げ大男の拳をブロックするが、なおも二の手三の手を出し、攻撃を緩めない大男。

 攻撃を躱しながら、ガウェインは考える。この動きには憶えがある。そして、体形が二輪車に乗った悪魔に似ている。


「まさか!貴様!人間ではないな!」


 ガウェインは拳を避けつつ身体の向きを変え、大男の膝へローキックを叩き込んだ。男が膝を付くとガウェインは腰の剣を抜き、上段の構えから脳天をかち割ろうとするが、その時に正体を現したデーモンのヤギの角に当たり弾かれた。


「やはり!レッド男爵か!」

「ふむ。貴公とは何かと縁があるようではないか。それほどまでに我に殺されたいのか?」

「そっくりそのまま返してやろう。下等悪魔め。」


レッドの黒い身体がパンプアップすると蝙蝠の羽根が広がった。立ち上がれば天井に届くだろう。


「面白いではないか。表へ出ろ。」

「たしかに。ここでは狭い。空を飛ぶ貴様には、ここは不利だろうな。」

「サシで勝負してやると言っているのだ。それともこの城を潰して構わんのか?」


騎士と悪魔がののしり合っている間に壁際から断末魔の声が聞えた。なんとファーガスが突風で倒れたジェフ王の胸に剣を突き立てていた。


「うわあああ、父上ええ!」


普段、ジェフ王を陛下と呼ぶジョンが感情的になり「父上」と大声で呼んだ。剣を杖替わりに立ち上がり、ファーガスに斬りつける。ジョンの剣を振り払うとファーガスは気が狂ったように高い声で笑い始めた。


「はははははははははははは!ざまあみろぉ!俺はなあ、アルトリウス王に仕えていたのだ!農夫だった俺を取り立ててくださったのはアルトリウス陛下だ!断じてお前じゃない!モードレッド殿下の反乱で漁夫の利を得た小ズルいお前なんぞに誰が仕えるものかぁ!」


隙だらけのファーガスの背中をバージルが斬りつけた。だが傷が浅い。ファーガスは跳び上がって窓を突き破り、大声で笑いながら走り去った。


「し、しまった。父の仇を、賊を取り逃がすとは。」


 突風で打ち付けられ痛みが残る身体を起こし反撃したバージルだったが、ふたたび倒れ込んでしまった。王に続いて第三王子まで死なせるわけにはいかない。焦るガウェイン。その隙にオーギュストがソーサリー呪文を詠唱した。


「自然災害でもあり人災でもある。ただ変わらぬのは多大な被害を出すことのみ。火の扱いを知らぬ知性の足りぬ未開の人類を焼いて広い大地を解放されたし。火災旋風(ファイヤーウィール)!」


 床下から大きな炎が湧きあがり渦を巻く。火の竜巻が王城の中心部を宙に舞い上げ、空を焦がす。夜中だというのに夕焼けのような真っ赤な空に、轟轟と響く風の音。城下町の住民も目が覚め驚愕した。城が燃えている、火を消せと騒ぎ出した。


 三人の賊と悪魔は、この騒動で姿を消した。ソフィアは仇討ちの機会を台無しにしてしまい、ミッドガーランドは国王を失った。


次回は、ちょっと休憩。登場人物紹介をしてみます。


もう予定している登場人物は、ほとんどが出ていますし、情報整理の意味も込めまして。

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