表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第9章 嵐の前
140/240

第138話 酒場

今回は主人公が出番なし。伏線を撒く回ですね。

 夜。マチコは一階の書斎の部屋で休んでいるため、いつもの二階の寝室にはサキ一人。落ち着いているため、昼間クラブハウスで回収してきた自動人形(オートマトン)をチェックする。

 戦場にあったオートマトンは、発見されないよう、倉庫に忍び込み隠れていた。動かなければガラクタに見える。そして出来る範囲で情報収集。ほとんど音のみしか入らないが、気温や振動などの情報から、戦闘が激しかったことは分かる。そして、肝心な音声情報を読み解いてみると、重要なことが判明した。


 トリスタンからの話にあったケイ、ダゴネットの他にも、スパイらしい会話をしている人物の声を拾っていた。どうやら騎士団の中にいる。男性の声である。




 この世界には三つの月があるせいで潮汐が複雑になり天気が変わり易い。しとしとと雨が降っていた。耳をすまさないと音が聴こえず、細い絹糸のような雨水。この静かな雨の中で陰謀は進捗していった。


 オーギュストとカミーユは外套を着込みジャカランダの街中を歩き回った。まずは地理の把握。フードを被り、顔を隠せるため、雨は好都合だった。


 王族の暗殺を成し遂げた後、逃走するルートについて頭の中でイメージを組み立てていた。だが、肝心な暗殺の計画が立てられない。


「さて、どうやって王城に入るか、だな。」

「忍び込むしかないかしら。」

「まあ、いつも通りといえば、そうなんだが。」


 酒場の末席でヒソヒソと話す二人だが、それに聞き耳を立てる人物が複数いた。オーギュストとカミーユにとって、それは敵であり、味方である。


 一人はオーギュストを家族の仇、カミーユをその協力者として命を狙う者。一人はジャカランダにいながらララーシュタインに通じるスパイ。そしてもう一人、いや、一柱はデーモンの三男爵の将、レッドだった。


 デーモンのレッドは、この地上の世界に実体化する際、(サクリファイス)とした人間のうちの一人の姿形に擬態している。肉付きが良すぎるくらいの中年の冒険者になりすまし、大量の酒を飲みながらオーギュストとカミーユの話を聴き、逃げなかったことには感心していた。


(あのおばば様が飼っている手駒とはいえ、この国の騎士や王族を相手に暗殺は難しい仕事だ。軍資金の持ち逃げもしない。手並みを見せてもらおうか。)


 レッドは、オーギュストとカミーユが仕事をこなせるならば、それで良いと考えていた。いや、正確には、この二人には無理だと思っている。侵入経路くらい確保できれば、それを使って自分がやり遂げようと考えていた。レッドは、クランSLASHだけでなく、ジャカランダの騎士とも戦っている。騎士とでも、正面から戦うのは得策ではない。ましてや暗殺のために単独行動である。たかが王族と侮ることはできない。その騎士たちのトップが王族である。


 そのまま横目に見ていると、中肉中背の中年の男が二人の席に近づいて行った。ララーシュタインが使っているスパイである。


「オーギュスト・ジダンさん?」

「あんたは?」

「大丈夫。ララーの旦那の知り合いさあ。」

「ララーの・・・。」

「俺はファーガス。」

「オーギュスト・ジダンだ。」

「カミーユよ。」

「大きな声では言えねえけどよ。」


ファーガスは首をすくめて小さな低い声で話したが。


「小さい声では聴こえんな。程々に大きい声で頼むぜ。」

「おうよ。俺が城の中へ手引きできる。」


ファーガス。ジャカランダの王宮騎士団の一人。爵位としては男爵。元々は農夫であり、先代アルトリウス王に才を見出され取り立てられた。ミッドガーランドがアルトリウス王によって平定される前、自分たちの村や畑を守るためにアルトリウスに味方する義勇軍の中におり、小さな鎌や鉈で戦う器用な男がいた。とくに武道の心得などはなさそうなのだが、介者剣法を使うのである。

介者とは、甲冑を身に着けた者。介者剣法とは、甲冑の使用を前提とした剣術であり、鎧の隙間などを突き、また重さで転倒すると起き上がりにくいという欠点を攻め、蹴りや体当たりで転ばせるなどの細かい技を使う。

 身軽な動きをするファーガスは誰に教わるでもなく、ある意味カンの良さだけで、これを行っていた。また、武術の天才ともいえるアルトリウス王は、それを見逃さなかった。

 ファーガスは爵位としては、一番下の男爵ではあるが、アルトリウス王に気に入られ、騎士の一員となり戦場では大いに活躍した。それから、農夫だったファーガスは、気取ることなく安宿や場末の酒場などにも出入りする庶民派として、民にも人気があった。



 この会話を聴いたレッド男爵は、このファーガスという男を後に拘束しておけば、王城への進入路は確保できる。オーギュストとカミーユを泳がせて様子見しようと考えた。だが、当然動きがあれば尾行して一緒に王城へ潜り込むつもりだ。なんならこの二人の手柄を横取りするのも一興である。



 そして、もう一人。オーギュストを仇として狙うのは、若い女性。単独(ソロ)の冒険者のようである。オーギュスト、カミーユ、ファーガスの会話を聴き、口角が上がっていた。酒をあおって目尻が下がるが、酒のせいではなく、三人の会話から仇討ちの機会を掴んだと思ったのだ。やっと探し出した親の仇が、王城に忍び込むというのなら、そのときには邪魔が入らないだろう。城に入る直前か、入っても目立たない場所で。

 酔っ払いの冒険者、見るからに助平なにやけた顔の男どもが声を掛けてきた。もう飽き飽きね、と短くため息をつく。


「よおよお、綺麗なお姉ちゃん。一人なの?待ち人来たらずってヤツ?ふられちゃったかなあ?」

「五月蠅い。うせろ。」

「そんなこというなよお。」


艶のある黒髪に触ろうとする。すると、掌で軽く払うように手を振った。


「あたしに気安く触るんじゃない。」

「う、ああっ!」


男の手が痙攣して動かない。右手の痛む部位を左手で押さえようとする。


「止めた方がいい。左手にも刺さる。」

「な、なんだと!」

「医者に診てもらえ。一カ月くらいで治る。おそらく。」

「お、おそらく?」

「早く行け。」

「お、おぼえてやがれ!」


僅かな動きで毒針を刺していた。時間が経てば効果の無くなる神経毒を塗ってある。古今東西、逃げていく悪者の捨て台詞は変わらないものだ、と彼女は思っている。周りの者たちも、よくあるナンパ、よくある酔っ払いのもめ事として、誰も気にも留めていないようだった。

 酒場の店員だけは、派手な喧嘩や事件にならないかと心配していた。あっさりと済んで杞憂だったことにホッとした。


「お客さん、見ない顔だね。あんたみたいな別嬪さんなら、顔は忘れねえんだが。」

「ええ、つい最近ジャカランダに来たものでね。」

「クラブハウスから避難してきたのかい?」

「まあ、そんなとこ。王都なのに治安良くないの?」

「こないだの作戦で大勢死んだからなあ。騎士団も警備の手が足りないんだろう。粗野な冒険者が増えてるし。」

「そう。気をつける。ありがと。」


店員に話し掛けられたので、それとなく王都の警備状態を訊きだした。これは、明日にでも王城侵入は決行されるだろうと判断。深酒は避けた。

このオーギュストとカミーユを狙うのは、クララの姉、ソフィア。クララとはぐれた後もずっと両親の仇討ちのためにオーギュストを探して旅を続け、やっとその尻尾を掴んだのだった。ソフィアとクララ、お互いが今どうしているのかを知らない。


感想などあれば、是非お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ