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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第9章 嵐の前
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第131話 二重スパイ

北の国の王 オサマ・トゥルジーロ と 大臣のカーク。久しぶり、2回目の登場です。

前回の初登場は第74話でした。


憶えていない方は、第74話 思惑 を読み返すと良いかもしれませんね。

 デイヴは、ララーシュタインのインヴェイドゴーレム『ヤクートパンテル』で逃走し、北へ向かった。ガーランド群島はミッドガーランド島、イーストガーランド島、ノースガーランド島、ウエストガーランド島の大きな四つの島と幾つかの小さな離島から成るが、ミッドガーランド島の大部分はミッドガーランド王国。北の一部と海を挟んだノースガーランド島は別の国。ノースガーランド王国だ。

 デイヴはミッドガーランド王国とノースガーランド王国の国境を超え、さらに十キロメートルほど入り込んだ小高い丘の麓に辿り着いた。何のトラブルも起こさずに国境を越えていた。警備を素通りだ。その様子を遥か上空から、カササギのヴェルダンディが観察してはいたが。


 その丘の麓には幾つかのテントが張られている。軍のキャンプである。ヤクートパンテルのコックピットを出入りするための魔法の出入口(ポータル)を通って出て来たところ、デイヴにノースガーランド王国の国境警備の兵が声を掛ける。


「マルムスティン卿、無事の御戻り、お喜び申し上げます。誠に目出度い。最強クラスのゴーレム、近くで見ると迫力がありますね。」

「おう、長い任務だった。まずは故郷の酒が飲みたいもんだ。」

「ハギスとウイスキーならばご用意してございます。隣のテントへどうぞ。」


ハギスとは、羊の肝を玉ねぎやハーブなどと一緒に胃袋に詰めて茹でた伝統料理。味付けは様々で、シングルモルトウイスキーのつまみに良いと云われる。


「おおう、気が利くな。」

「まずはごゆるりと。お食事が済みましたら、陛下がお会いになられると仰せです。」

「休暇が欲しいところだが、次の任務についてだろうな。」

「有能な方には仕事が集中するものですね。」


 警備兵としては世辞ではなく、本気で言っている。デイヴとしても悪い気はしないが、ノースガーランド王国では、デイヴにとっては、これが普通であった。北ではたいへん優秀なキャリアで通っている。

 シルヴァホエールでは、デイヴは精霊魔術士(ソーサラー)と名乗っていたが、実際には上級職の黒魔導士(ブラックメイジ)である。バルナックからのスパイとしてサキたちに嘘をついていた。



 少しだけウイスキーを味わい、食後領域渡り(フィールドウォーク)で王城へ跳んだ。デイヴにとっては二年ぶりの王城。感慨深いものであった。ミッドガーランド王国ならば地続きだが、バルナックからは海を越えねばならないし、距離もある。


 ただ、オサマ王には先に来客があり、デイヴは接見まで暫く待たねばならなかった。その来客とは、ミッドガーランド王国の外務大臣で第三王子のバージル。バルナックが侵略してきたことによって、周辺国との調整に飛び回り、今は北にいる。特に地続きのノースガーランド王国には戦災による難民が多く流れ込んでいる。


「特にこちらを頼って来る難民にはジャザム人が多い。お隣というだけでなく、同じ民族だ。邪険にはできんよ。厚く保護しようではないか。」

「陛下の寛大なお心には頭が下がります。どうかよしなに。宜しくお願い申し上げます。」

「おうおう勿論じゃ。しかし、余のことは『陛下』ではなく『王様』と呼ぶが良いぞ。」

「はっ、失礼いたしました。王様。」

「ミッドガーランド王国に協力は惜しまない。かといって戦争に参戦はできんが。それ以外のことならば、何でも余に相談するが良いぞ。このトゥルジーロ王家もペンドラゴンの血筋だ。親戚のようなものである。」

「ありがたきお言葉です。王様。父ジェフも喜びます。」


礼を述べてバージルが退室すると、入れ替わりにデイヴがノースガーランド王オサマ・トゥルジーロの前に進み出た。オサマは目を細め口角が上がった。機嫌が良さそうだ。


「よく帰った。マルムスティン卿。強力なゴーレムを接収してきたそうだなー。」

「はっ、あのタロスの腹に風穴を開けたアダマンチウム製の特別なゴーレムです。他のゴーレムのデータも一緒に持ち帰りました。」

「うむ。大儀である。少し痩せたか?苦労をかけたのう。」

「いえいえ、少し日に焼けたので、痩せて見えるのでございましょう。」

「卿の二年にも及ぶ諜報活動のおかげで、バルナックの戦力の情報も、タロスに対抗する手段も手に入った。ガーランド全てを我が王国が治める日も近いだろう。」


 デイヴ・マルムスティンはノースガーランド王国の貴族で階級は伯爵。魔法兵団を率いる黒魔導士であり、諜報活動を得意とする。スパイとしてバルナック領を探るためララーシュタインに取り入ったが、バルナック軍では、そのララーシュタインにスパイとして使われ、タロスを一時活動不能に追い詰めた。その後は、魔導士としての能力からゴーレムの運用を担当していた。

 オサマ王からデイヴへの命令は、バルナックの戦力を調べ上げ、タロスに対抗できる兵器があれば、それを盗み北へ持ち帰ることで、二年の月日を掛けたプロジェクトだった。


 オサマは大臣のカークに早速ノースガーランド島の工廠でゴーレムの生産に入るように命令した。ミッドガーランドでは、本来北と西を警戒するはずの水軍に大きな被害が出ている。今回のクラブハウス奪還作戦では、バルナック海軍の輸送船も半数近くが沈んでおり、これは、北の島の工廠で生産したゴーレムや兵器を本土へ運ぶにもオサマにとっては都合が良い。


「この第二次バルナック戦争、激化すると、ますます我が国に有利だなー。どちらでも良いから早く滅んでしまえ、と思うが。楽しみは後にとっておいても良いか。」


左大臣のカークは、デイヴに説明する。マルムスティン卿ならば、ご承知の事と思うが、とことわったうえで。


「この戦争で勝った方を我々が倒す。そうすば、西だけを残すが、ガーランドを統一できる。その後は精霊の島を目指します。ますますマルムスティン卿に期待がかかるでしょう。貴方様にはゴーレム部隊の指揮を執っていただくことになります。暫くは休暇ですので、英気を養っていただきたい。報奨金はすでに用意してございますよ。」

「それは有難い。部下たちにも早めに会いたいですからねえ。」




 いつまでも泣いていても仕方がない。戦争の最中となれば、まともな葬式もできないが、マリアは高僧(ハイクレリック)だ。マリアに葬儀を仕切ってもらい、海岸の慰霊碑の並び、石塔の近くに穴を掘りタムラの棺を入れた。レストラン取調室のスタッフ、クランSLASHメンバー、セントアイブス領主のページ公、騎士団長ロジャー、ドワーフたちに店の常連客といったこの街の多くの人が集まり、棺の中を花でいっぱいにした。レイゾーが火を着け、火葬に。

 焼いた後、遺骨を陶器の寸胴(ずんどう)に入れ、暫くはレイゾーが預かることとなった。石塔を一つ増やして、そこに埋葬する予定だそうだが、この戦時下では、いつになるか分からない。その点、タムラに申し訳ない。

 式が終われば、レイゾーはせっせと遺品整理やら、レストランの人事やらをこなしている。マチコもわんわん泣いていたのに、泣いたらスッキリしたらしく、味噌などの発酵食品の出来具合をチェックしに行った。俺だけが割り切れていないのだろうか。


 その日、パーティの宿舎とでもいうのか、クララの家に帰ると、俺は早々に居間のソファーで寝てしまった。しばらくして夕飯時に起こされると、サキとクララが食事の用意をしてくれていた。マチコもあまり調子が良くはないらしい。肉などのボリュームのある物はあまり食べたくないそうな。俺もあまり食欲がなかった。


「せっかく作ってもらったのに、申し訳ない。どうにも食欲がなくて。」

「いや、無理に食べることはないぞ。」

「了ちゃん、疲れてるのよ。マチコ姐さんも。」

「ごめんねえ。クララはいい子ねえ~。」


食器を洗い片付けが済むと、サキはいつものように酒をチビチビと飲み始める。


「クッキー、飲みながら話したいところだが、今日はアルコールは控えておくか?」


すぐにクララが紅茶を淹れ始めた。マチコはスコーンを出す。凄い連携だな。


「クッキー、食欲なくてもお茶請けなら食べられる?」

「あ、ありがとう。マチコ姐さん。クララも。いただきます。」

「では、二人とも座ったら、四人で話そう。」


 サキが珍しくクイッと一飲みで、グラスを空けてしまった。いつも舐めるように酒の味を確かめながら、ゆっくりと飲んでいるのに。


「クッキー、自衛隊というのは、戦うための組織ではなく、謂わば防衛軍、だったな。災害で救助されて、人助けのために自衛隊に入隊した、と。」

「そ、そうだけど。」

「ここはな、おまえが以前いた世界、グローブとは違う。お前の祖国日本とは違う。タムラが死んだのは、おまえのせいじゃないんだ。気に病むな。」

「そ、そうよ~、クッキー。このユーロックスはね、こういう世界なの。あまりウジウジしてたら、お姐さん、怒るわよ~。」

「どんな世界にも、それぞれ良い点悪い点があるんだ。受け留めるしかない。この世界ではまだまだ戦争は無くならないだろう。戦争以外でも危険はたくさんあり、いつ人が死んでもおかしくない。だが、いいこともある。グローブにクララはいるのか?」

「えー、やだ、サキ。からかわないでえ。」

「クララを抱いたら、さっさと忘れて寝てしまえ。明日の朝にはスッキリな。」


 俺とクララは、サキとマチコに「早く二階の寝室へ行け」と、一階の居間を追い出されてしまった。そして、俺達がいなくなった居間で、サキとマチコが話す。


「マチコ、それとなくクッキーの様子を見守ってくれ。あいつの精神が壊れるかもしれない。」

「え、どういうこと?そこまで酷いの?」

「タムラのことだけじゃないんだ。あいつ、今回の作戦では、人を殺している。」

「あ!」

「戦争が続けば、これからも殺すことになる。ララーシュタインのインヴェイドゴーレムには、魔法使いが乗っているんだ。」


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