第127話 空中船戦
なんだか長いですね。クラブハウス奪還作戦。
そろそろ終わらせたいですが、まだ終わりにはできません。こまったもんだ。
特撮変身ヒーローのネタぶっこんどきました。
メイが飛行船フェザーライトを操船し、オズマが攻撃。オズワルドが索敵や戦況の把握、全体の判断。オズマは魔法使いらしからぬ突撃で飛行型ゴーレムをなぎ倒していくのだが、一対多で戦うための戦術ではなかった。目の前の敵を斃すという単純な動きの繰り返し。『メッサーV』は爆弾を投げ火力魔法を撃ってくるものの装甲は脆い。オズマが暴れれば軽量化された既存の飛行型ゴーレムは糸が切れた凧のように回りながら地に堕ちる。
オズマの強力な魔法ならばゴーレムを撃破するのに十分だが、目が霞みそうな沢山の火花が舞い散る空では物事を正確に捉えられない。ここまで認識していなかった敵影。直下から大きな魔物の影が飛ぶ。ガンバ男爵の乗る人食い獅子半獣が船底に体当たりし、衝撃とともに船体を突き上げるとガンバは爪を立て船体側面に憑り付いた。
スフィンクスが爪でガリガリと船底を削るとガンバ男爵は甲板によじ登り、艦橋に向けて手榴弾を投げつける。ガンバの腰には十発ほどの手榴弾をぶら下げたベルトが巻かれている。
オズワルドが素早く防御魔法を展開し、爆風を抑え込むが、フェザーライトの船体は大きく揺れ、艦橋で操舵輪を握っていたメイは操舵席から投げ出された。
「きゃああああ!」
「大丈夫か?メイ!」
メイは無事だが、フェザーライトの舳先で火力呪文を撃っていたオズマが慌てて甲板の中央へ走って来た。
「やい、チビ!てめえかぁ!」
「チビって言うな!殺すぞ!」
「フン、まぁだ角は折れたまま治ってねえようだなあ。もう一本も折ってやっから、そこを動くなよ。」
「おめえは角がねえ。首を折ってやらあ。」
「角の後は、全身複雑骨折だ。」
ガンバ男爵は拳銃を構え撃った。オズマの足下の甲板の床に傷がつく。オズマは前方に高く飛び右拳を振りかぶる。走り幅跳びのように跳躍してガンバ男爵に飛び掛かると右ストレートをヤギの頭へ叩き込んだ。弟のオズワルドから見ても滅茶苦茶な戦い方である。
「魔法使いの戦いじゃないぞ。相変わらず。」
「いんだよ、細けえこたあ。勝てばいい!」
オズマは左手にガンバ男爵の残った一本の角を掴み、右拳を何発も顔面に見舞う。左手を引き寄せ、ガンバの頭を右膝に打ちつけると、そのままガンバを振り回し、船の外へ向かって投げ捨てた。もっとも蝙蝠の翼を持ったデーモンなので、落ちはしないが。
「オズワルド!魔法使いの戦いをみせてやれ!」
「わかった。」
呆れ顔のオズワルドがソーサリー呪文を詠唱。相手が悪魔なので、凶悪な呪文を選んだ。
「血の池の赤い液体を鍋で煮ろ。軽く沸点を超える粉薬を混ぜ掻き回せ。沸騰!」
これは相手の身体の血液を沸騰させる呪文。翼をバサバサと上下させていたガンバの全身から湯気が上がる。
「ぐがあああああっ!」
ガンバ男爵が叫び声をあげるが、そこへ亜竜が飛んできた。墜落しそうなガンバを下から支えた。レッド男爵が乗っていたワイバーンだ。レッド男爵は陸軍の将として魔道バイクのフォロンに乗っているため余剰戦力となったワイバーンをガンバの補佐として遣わした。ガンバのスフィンクスはフェザーライトの船底に張り付きガリガリと爪を立てている。
「うっ、レッドのワイバーンか?助かった。」
「まだ生きてやがるのか。しぶとい。」
オズマが続いて火力のインスタント呪文火葬を放ったが、ワイバーンがガンバを庇い、代わりに呪文の火炎を喰らったが、それには耐えきった。身を翻し逃亡を図る。
「逃がすか!
極夜の弓矢!」
氷の矢で串刺しにしようとするが、今度はゴーレム『ホッケウラー』が割って入り、代わりに被弾。ほぼ同時にガンバが一発の手榴弾を投げつけ、フェザーライトの横っ腹で爆発。船体に穴を開けた。フェザーライトはもともとエルフの都アッパージェットシティとダークエルフの都ラベンダージェットシティ、二つの空中都市を往来するための交通手段であり、戦闘目的の軍船とは違う。船体は針葉樹の木材でできている。手榴弾の攻撃に堪えられなかった。
すぐにオズワルドが水の魔法で火を消すが、スフィンクスが船底から船体側面に爪をめり込ませながら移動してくる。するとメイがインスタントの補助呪文でスフィンクスを振り払った。
「捻り! クッキーさんと魔法の教え合いして良かったわー。」
スフィンクスが逆さまにひっくり返り堕ちて行くのを見たオズワルドは決心した。船体の穴を開けた手榴弾の威力が予想外だった。
「撤退しよう!まだ新型の飛行型ゴーレムがいる。三体も相手にすると船体が保たない。メイ、船首を南に向けるんだ。」
「父様、了解。悔しいけど、手投げの爆弾が厄介だったね。」
回頭するとオズワルドはゴーレムを牽制するべく火力呪文を撃ち、全速で離脱するようにメイに指示した。オズワルドからメイへ。メイから俺へ教えられた魔法の矢。
「ついてくるな!五指雷火弾!」
指先から飛んだ火球が途中から変化球のように緩やかに曲がり三体の『ホッケウラー』の顔面にヒット。視界を塞いだ。ただし、下には姿勢を直したスフィンクスが見える。これもなんとかしなければキリが無い。オズマが得意とする風の魔法を使う。
「巻けよ、黒い積乱。吹けよ、嵐。呼べよ、嵐。嵐よ、叫べ。爆風圧!」
突風の風圧がゴーレムとスフィンクス、ワイバーンに伸し掛かり、下降気流が地面に張り付けにする勢いで襲う。翼を折り畳み、必死に堪える。ガンバの腰に下げられていた手榴弾が外れて散り、落下した地表では爆発が幾つも断続して起きている。
「派手ねえ、伯父様のやることは。なんと云うか、大雑把。でも助かったわ。」
メイは、突風が渦巻く中、フェザーライトの速力を上げ、セントアイブス方面へ向けて疾走した。悔しい結果だが、これで、ジャカランダ軍の主力部隊が上空から爆撃を受けることは無かっただろう。痛み分けというところか。
「フェザーライトに穴開けてくれちゃって。ただでは済まさないわよ。利子付けて返してもらうから~。」
「メイ姫。確かに悔しいが、退くのも勇気。我らが王の判断に従おうぞ。」
地団駄を踏むメイにオズマが諭すように話す。普段の雰囲気とは違うが、オズマもグッと拳を握り爪が白くなっている。メイは俯き加減に応えた。
「はい、失礼いたしました。陛下。殿下。」
新型船メイフラワーはスタートが遅れたものの、一度動き出せば速度はどの船よりも上だった。戦場に到着が遅れたりすれば兄たちに顔向けできないと緊張していたガレスだったが、船が出航してからは、むしろ手柄を立てたいと気が逸るくらいだった。
そして漁村クライテン近海に差し掛かると、早くも敵の船影を捉えたのだった。大小幾つもの船影があるが、様子がおかしい。最も大きな船に帆が無い。戦闘でマストが折れたり、帆布が燃えたりして失われたのではない。初めから付いていないのである。では、メイフラワーと同じような蒸気船なのかと云えば、それも違う。蒸気機関ならば煙突があるはずだが、それもない。未知の動力機関によって動いているのか?考えられるのは魔法だが、どれほど大量の魔力を必要とするのだろう?メイフラワーの艦橋内がどよめいた。そんなに多くの、または強力な魔法使いがいるとなれば、迂闊に戦闘に踏み込めない。
しかし、その大きな軍船へ果敢に攻め込む船があった。旗艦のグリーンノアだ。ガウェインの弟、ガレスの兄、ガヘレスが指揮を執る大型高速帆船が衝角での体当たりだけで沈めてやろうというくらいの勢いで突き進む。ガヘレスは、弟のブルーノア指揮官アグラヴェインの仇討ちだけでなく、水軍全体の士気を高めることも考慮して多少無茶な行動でも臆さず前進した。そして、水中戦用のインヴェイドゴーレムは、銀の鯨タロスが片付けた後なので、軍船同士での洋上戦へと突入した。
オズマの風の魔法の呪文名ですが、はじめはシンプルに「ウインドプレッシャー」にしようと思ったんです。
しかし、プレッシャーというとビリージョエルが頭に浮かんだので、
ビリージョエルのプレッシャーが入ったアルバムの名前からいただきました。