第122話 銃撃戦
今回は、書くの苦しかったです。思っていたよりも時間が掛かりました。
トリスタンは海岸へ出てバルナック軍がゴーレムを運んできた輸送船団と戦っている。弓の名手のトリスタンは、敵の矢が届かない遠方から一方的に狙撃。船の甲板の上にいる兵士を片っ端から海へ落とした。
「天馬騎兵は船の上空へ行け。工兵隊は前に出ろ。船を乗っ取るぞ。」
トリスタンは一番大きな輸送船を指差し、兵を鼓舞した。工兵隊が輸送船の船体に足場を掛けると歩兵が押し寄せ乗り込んでいく。甲板の上での白兵戦となった。もうジャカランダ軍が優位かと思われたが、火薬の破裂音が響く。拳銃だった。歩兵が剣で斬りかかろうとすると、近づく前に拳銃で撃たれ倒れていく。次から次へと雪崩れ込むジャカランダ軍の兵に銃弾が撃ち込まれ、弾丸切れになると剣を振るうジャカランダ兵が詰め、またバルナック軍の後詰が撃つという繰り返し。精度の低いウィンチェスターの拳銃では、距離があってはそうそう当たらない。トリスタンは港の桟橋から甲板のバルナック軍水兵に矢を撃ち、手斧や半弓を持った兵を船室に突入させて一隻の大型輸送船を接収した。
船上での白兵戦を見た他のバルナックの船は、慌てて離岸し逃走を始める。荷をおろしているので、もう役目の半分は終えている。バルナックでも敵前逃亡とはとらないだろう。だが、この海域、クラブハウスから漁村リスターの掛けての海岸線に多くの軍船が結集し始めている。
タムラ、フレディ、ディーコンの取調室の三人が移動した地点はクラブハウスの南といっても、かなり内陸寄り。バルナックの戦力は東か南へ二分されており、街の中心へ向かえば、丁度守備の薄い場所を通ることになる。マリアが斥候代わりに遣わしてくれた元々サリバンの使い魔であるカササギのヴェルダンディとスクルドが上空から見た戦況をタムラに伝え、物資の集積所になっている小規模な拠点を潰すために奇襲する。食糧は勿論、銃の弾薬が尽きればバルナック軍は戦力が落ちるはずだというタムラの発案からの作戦行動である。
(三人だけで戦果をあげてジャカランダ軍の援護をするなら、地味だが、こういう遊撃だろうな。無理をしてフレディやディーコンのような若者を死なせるわけにもいかないしな。)
ホリスターたちドワーフが作った新しい大弓は、タムラとは相性が良く、剣士のフレディが斬りこむまでに、大半のバルナック兵士を仕留めていた。魔法やトークンアローをほとんど消費せず、銃などに比べて音が小さい弓矢は、暗殺でもするように次々とバルナック兵の頸や胸を貫いていった。物資の集積をしている場所なので、攻略するごとに小休止を挟み、着実に街の中心地へ歩を進めていた。
俺達は領域渡りの魔法の扉によく似たポータルを潜り、タロスのコックピットから外へ出た。パーティリーダーのサキから指示が出る。
「私はタロスの処置をする。三人で街の中央を目指して進んでくれ。おそらく悪魔どもも迎撃に来ているだろう。だが、今回はレイゾーたちがいないんだ。」
「あたし達がやるしかないわね。望むところよ。」
素早く移動するために、マチコは土石流の靴を、クララは魔法の箒ルンバ君を使うようにと指示し、俺が乗るようにとクアールを召喚し、俺に従うようにしてくれた。
「静寂に響く猛獣の咆哮。闇夜の月の影法師。熱くて暗い地底より来たれ黒い破壊者。召喚クアール!」
獰猛なクロヒョウのような生物の背に乗るのは、ちょっと抵抗があるな。走れば振り落とされそうだが、肩から伸びる弦のような滑らかな触手が、シートベルトのように支えてくれた。見た目より優しいな、この魔物。
「港の船については、トリスタン卿と水軍に任せればいいから、あたしたちは地上戦の一番激しいところへ応援に行くわよ。」
サキの使い魔木菟のリュウが上空から戦場全体の様子を探っていたので、その案内で北東の方向へ進む。クラブハウスの東側から攻め入るジャカランダ軍の本隊が、かなり激しい戦闘をしているようだ。クアールが飛び跳ねるように全身のバネを使って走るので上下に揺れるのに対し、マチコのアーティファクトのブーツは地滑りを起こすかのように土煙を上げながら、スケーティングで進む。なんか凄いな、あのブーツ。オキナに同じような事できないだろうか?クララは箒に乗って飛んでるし。まだちょっと見慣れないな。とにかく、街の東側へ急げ。
暫く進むと、前方に戦闘が確認できた。ガーゴイル何体かを相手にしているのは、左右非対称で左半身はガッチリと板金鎧で覆い、右半身は軽装の甲冑に大弓。典型的な弓兵。それと重装とまではいかないが、片手剣と盾を構えた剣士。ローブの上に皮鎧を着込んでいるのは、回復士だろう。近づいて良く見ると、弓を打っているのは・・・タムラ?!
先にクララが気が付いた。
「タムラさあーん!来てくれたんですかー?」
なにはともあれ、追尾式の魔法の矢デリンジャーの呪文を唱えてガーゴイルの半分を屠り、タムラ達に近づく。タムラの矢がもう一体に命中。マチコは雷撃の手甲の雷の鞭で、残りのガーゴイルを打ち落とした。すると、剣士のフレディが前進。バルナック兵四人との剣劇。見事に討ち果たした。
海と地上の敵ゴーレムは撃破したこと、タロスが破損してサキが処理していることなどをタムラに話し、6人でどう行動するか、手短に打ち合わせした。リュウ、ヴェルダンディ、スクルドの三羽の鳥も囀り合っている。
「急拵えだが、バランスの取れた冒険者パーティなんじゃねえか?」
「フレディにディーコンとは、またナイスな人選でしたね。これなら俺達だけで戦争勝っちゃいそうですよ。」
「だろ?ま、ちょっと言い過ぎだがな。マチコさんとクララ、フレディが前衛。クララの代わりに使い魔の鳥たちが斥候として周囲の様子を探ってくれる。」
「はい。ここから先は市街地です。隠れる場所が多くあります。建物の窓から狙撃されたりもしますよ。鳥たちが上から見張ってくれたら有利になりますね。」
「決まりだな。前衛のセンターをマチコさんに頼む。左をクララ。右はフレディだ。後衛は白魔術士のディーコンがセンター。右を了。左が俺でどうだ?」
クララは四本の精霊のダガーを確認し、手槍を持った。俺はホリスターが造ってくれた銃剣を握り締め、地の精霊オキナを呼んだ。飛び道具で狙われるかもしれないので、いざとなれば、土や石の壁を造り防いでくれるようにと頼んだ。
そこからは、激戦だった。伏兵があちらこちらに待っており、魔法を使えない歩兵でも銃を撃ってくるため、にわか火力魔法のようなものだ。とくに拳銃を持った者は近づきながら銃撃。距離を詰めては剣を振るう。風の精霊ヤンマの能力で弾丸を逸らせるクララや雷撃を操るマチコは無傷でいなしていくものの、魔法が使えない剣士のフレディは盾や甲冑が傷だらけになっている。上からはガーゴイル、歩兵の他にもバルナック軍が使役する魔物、トロールやヘルハウンドなども相手にしなければならなかった。
なまじ厳しい戦闘だったおかげか、俺はホリスターの銃剣を使えば、呪文無詠唱でインスタント呪文を使えるようになっていた。衝撃、焚き付けなどの魔法は、そのままライフルでの射撃のようだ。こうなったらフルオートで連射するアサルトライフルのように使える呪文を研究したい。しかし、魔力の消耗も半端じゃない。魔力を補充する薬品、マジックポーションを随分消費した。
しかし、進軍するうち、ついに敵の主力部隊の一部と交戦した。ウィンチェスターめ、どれだけの数の銃を生産したのだろう。激しい銃撃戦となった。クララは手槍やナイフを投げては風の精霊の力で手許に戻しの繰り返し、白魔術士のディーコンもクロスボウを必死に撃っている。防御魔法やオキナの壁の隙を突かれ、とうとう犠牲が出てしまった。
接近戦で剣を振るえないことに業を煮やしたフレディが一人突出した。剣を正眼に構え走るフレディの足下で爆発が起き、仰向けに倒れた。
「あああっ!あれはっ、なんてことを!」
非人道兵器。ウィンチェスター、火薬や銃だけでなく、こんな非道な物まで、この世界に持ち込みやがったのか!
「ちょっと、クッキー!あれってひょっとして!」
俺と同じく異世界人のマチコは気付いたらしい。さすがに驚いて声が上ずっている。
「地雷!対人地雷ですよ!皆、この近辺は危険だから、その場から動き回らないでくれ!
地面の下に爆弾が埋まってる!」
まともに対人地雷を喰らったら脚が吹き飛んでいるはず。不幸中の幸い、前衛職のフレディは甲冑を着込んでいたせいで、脚を無くしてはいないようだ。しかし、無傷で済むわけはない。盾を捨て、這ってこちらへ戻ろうとする剣士フレディ。
「待ってろ、フレディ!俺が担ぐ!」
取調室のシェフとして、店の若い従業員を助けなければならないと思う責任感から、銃撃戦の最中、それまで身を低くしていたタムラが、フレディのもとに駆け付けようと立ち上がった。その瞬間、後方の建物の窓から銃声が響いた。伏兵の狙撃手がいたようだ。タムラは背中、右肩甲骨のあたりを撃たれ、うつ伏せに倒れた。短く呻き声が聞こえた。
「うわあああっ、タムラさあああん!」
「タムさん!」
「タムラさん?嘘でしょっ!」
クララもマチコも驚愕している。タムラの背中が出血で真っ赤になっている。弓兵用の右側の薄い甲冑の弱点を突かれた。これはフレディよりも重篤だ。




