第118話 レアメタル
後ろから六本腕の阿修羅型ゴーレムに捕まえられたタロスだが、操縦手のマチコはプロレスラーとして締め技には馴れており、また、バトルロイヤルの経験から一対多の勝負でも臆することはない。
「プロレスラー舐めんなあああっ!」
上半身を極められても、両足を踏ん張って重心をコントロールすると、踵で阿修羅型の膝を蹴り、バランスを崩させるとジャンプして前転。阿修羅型を背中から地面に落とし羽交い絞めを振り解いた。その間にも、あとの二体の阿修羅型が掴みかかろうとするが、そこは俺が火力魔法を撃って牽制した。
「火葬!」
これは衝撃などの他の呪文にくらべ、永い時間火が燃焼したまま消火しない。ゴーレムの顔面に叩き込めば、マスクのメッシュの隙間から火が入り、弱点の額の文字を焼けるかもしれない。続いて、外側を周回しながらプレッシャーを掛けてくる人馬型のゴーレムへインスタント呪文暗器を撃った。
マチコは背後の阿修羅型の脇腹へ肘打ち、裏拳を入れると翻って正面を向き、先程の膝へローキック。
「クッキー!」
マチコに呼ばれたが、これは火力を撃てという合図なので、タロスの手指が阿修羅型へ向いた時を狙ってインスタント呪文を使う。
「五指雷火弾!」
「よし、いい連携だ。」
サキも認めてくれた。五本の光弾が飛ぶ。六本の腕で防御するが、無傷では済まさない。タロスの正拳が、阿修羅型の外装の装甲にひびが入った前腕をはじき、顔面を殴り付けた。
「火炎放射!」
続けて、その三面六臂の正面の顔を火炙りにする。胸から上が赤化していく。タロスは瞬時に右足を大きく振りかぶって頭上に上げ、熱で脆くなった阿修羅型のマスクを割るべく、脳天に踵を打ち下ろした。
「どうよ?踵落とし!」
阿修羅型の兜を真っ二つに割り、その下の額を砕いたマチコは得意気だ。阿修羅型は膝をついて崩れ落ちた。
しかし、コックピット内、サキの席に設けられた表示、タロスの感情回路がマイナス側へ、さらに大きく触れる。どうやら、外側を囲み睨みを利かせてくる人馬型の一体に強く反応しているようだ。
「皆、気を引き締めろ!人馬型のほうが強敵だ。」
ララーシュタインのインヴェイドゴーレムは、最初の『ハイル』は単なるアイアンゴーレムであったが、タロスを模倣し、また新しいアイデアを採り入れることで、短期間のうちに進歩を重ねた。今タロスと交戦中の二種、三面六臂の阿修羅型は『スプリンゲル』、装輪型の『ティーゲル』を発展させた人馬型は『レオパルド』と呼ぶ。この『レオパルド』だが、三体と思わせ、実は二体だった。一体はすでに魔素粒子加速砲で撃破している。
では、もう一体は、何なのかといえば、見た目はそっくりの別物だ。新型のインヴェイドゴーレムは、どれもタロスを模倣して有人となり、魔法使いが乗り込むことで、魔法攻撃が可能。ただし、タロスのように体内にマナを溜め込み、魔法の威力を増幅するということはない。魔法攻撃に関してはタロスのほうが圧倒的に有利なわけだ。まして、タロスはただのアイアンゴーレムではない。希少金属のミスリル製のボディ。三大希少金属と云われるオリハルコン、アダマンチウム、ミスリルの中でも、ミスリルはもっとも魔法との親和性が高く、ララーシュタインのインヴェイドゴーレムが、タロスと同じようなマナを溜め込む仕組みを持ったとしても、やはりタロスの魔法が一番強いだろう。
この『レオパルド』に似て非なる人馬型ゴーレム『ヤクートパンテル』は、何が違うのかと言えば、ボディが希少金属『アダマンチウム』製だ。よく似た物を聞いたことがないか?そう。レイゾーたちAGI METALのメンバー三人が身に付けている重装甲冑が『アダマンタイト』で出来ている。アダマンタイトはアダマンチウムに鉄と錫を混ぜた合金。その合金は加工しやすくなり、粘りを持つため、割れにくくなる。純度の高いアダマンチウムは加工が難しいが、硬度が非常に高く、ミスリルを凌ぐ頑丈な素材だ。魔法との親和性が低いが、究極の鋼材とされる『オリハルコン』と並ぶ硬さを誇る。
そして、厄介な事には、この『ヤクートパンテル』に乗り込んでいる魔法使いは、デイヴだった。
「あの六本の腕の隙間を縫って蹴りを入れるのか。巨乳阿婆擦れ女め。」
阿修羅型の『スプリンゲル』を先に嗾けて様子見。外側をグルグルと回りながら同乗する魔法使いたちにタロスの戦い方を憶えさせていた。
「格闘も魔法も、あの攻撃力は常識はずれですね。」
「とはいえ、こっちには四人の魔法使いが乗っています。手数では負けません。」
「魔法は使いようです。あの初手の攻撃を凌げば、このヤクートパンテルの瞬発力で逆転可能かと。」
「おう、その通りよ。お前らエース級の黒魔導士を集めたのは、何のためか分かってんだろ?」
何やら秘策がありそうな会話をしている。これ以上の戦力の低下は避けたいとの考えから、デイヴは仕掛けると宣言。残った四体のゴーレムの編成から、陣形を指示した。タロスの左右に阿修羅型『スプリンゲル』、タロスの正面に人馬型『レオパルド』、その後方に自分たちの『ヤクートパンテル』を配置。さらには、クラブハウスに残っていた二足歩行型『ハイルV』二体を呼び寄せ、タロスの後方を塞いだ。
「さあ、逃がさねえぜ、タロス。ミスリルに対抗する手段を手に入れたからなあ。」
先程までとは違う編隊で包囲され、どう対応すべきか、サキは思考する。効率の良さなど考えている状況ではない。総力戦になると覚悟した。
「いいか?本命は、あの後ろにいる人馬型だ。おそらく指揮官が乗っている。いざとなれば相討ちになってでも、あの人馬型だけは倒す。なんとしてもだ。両脇の六本腕には、絶対に捕まるな。人馬型が突っ込んでくるぞ。しかし、固くなるなよ。タロスは変わらず戦いたいと言っている。」
緊張感は走るが、すでに二体の新型を屠っている。勝機は十分だ。鉄の城で籠城戦をやっているようなものだ。負けるはずがない。自分に言い聞かせ、深呼吸して頭の中では魔力を練り上げるイメージを作った。俺にも、毎朝瞑想して錬成した隠し玉がある。
クララが周囲に浮遊するマナの量は正常値だと告げ、マチコは両手を挙げ「っしゃあ!」と叫び気合を入れ直した。ララーシュタインのインヴェイドゴーレムがジリジリと間合いを詰め始めた。
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