第112話 養子
トリスタン夫婦の人となりが分かります。
探索者ギルドへ移動した。マリアに会うためだ。トリスタン夫婦がガラハドとマリアの結婚祝いの品を持ってきており、それを新婚の二人へと手渡したのだが、何故か俺とクララとレイゾー、タムラも同行を求められて一緒にいる。このときには、ゴードン王子も合流した。
三年前の第一次戦争の頃には、実はゴードン王子と、ガラハドにマリアが同時期にAGI METALに在籍したことはない。スコット王子とラーンスロット卿が戦死し、代わりにゴードン王子とガウェイン卿が加わったが、王子の身を案じたジェフ王により連れ戻され短い期間しかパーティに所属しなかった。ゴードン王子が抜け、パーティメンバーの一人杏子が戦死し、補充メンバーとして入ったのが、ガラハドとマリアだ。
「実は相談したいことがあります。これはゴードン王子にもお知らせしたいので。」
トリスタンが切り出したが、俺とクララも一緒なのは、何故だろう?あとの顔ぶれは皆AGI METALのメンバーだ。
「レイチェルとジーンのことです。当家でお預かりしていますが、二人とも、とてもいい子です。妻にもよく懐いております。」
なるほど。子供たちの事か。納得。あの二人をテオのダンジョンの中で助けた事で、いちおう命の恩人みたいな立場の俺としても、とても気になる。
「あの二人、ジャカランダではどう過ごしていますか?」
「レイチェルは回復士として頑張ってくれています。とくに今は戦争中ですから、天使のような存在ですよ。ジーンは騎士見習いのようなものでしょうか。騎士の詰め所に出入りしては剣や弓の鍛錬に参加しております。これが、めきめきと上達するので、騎士たちにも良い刺激になっています。」
「弟のアランの遊び相手にもなってくれているようです。アランもやっと成人したとはいえ、まだ十五歳では、子供っぽいところもだいぶ残っていますので助かります。」
ゴードン王子も答えてくれた。気さくだね、この王子。
「ゴードン王子までご発言くださり、恐縮です。ありがとうございます。」
「いやいや、そんな堅苦しいのは止めてください。クッキー殿は私と同い年のようですし。
それに、兄弟といってもアランは腹違いで年齢も少し離れます。兄たちもそれぞれ宰相としての仕事が忙しいので、アランには寂しい思いをさせてしまって。あの子たちには本当に感謝していますよ。」
(兄弟思いのなかなかいい兄貴じゃないか。)
ゴードン王子には好感を持った。この方が、バルナックの間者でないという確証がない、ということだが、心象は白だ。
「それで、皆さんにお話ししたいのは、あの子たちを養子に迎えたいと思うのです。私達夫婦は前の戦争が終わったときに結婚しましたが、三年経ってまだ子供を授かりません。なにより、あの子たちが妻に懐いてくれていて、妻も自分の子にしたいと望んでいます。
あの子たちは両親を亡くした後、クッキー殿に救われ、ラビリンスの探索の仕方を教わり、また、取調室で生きる糧を得ていました。国王や騎士団よりも、まず、あなた方にお話しし、承諾を得るのが筋だと思います。」
トリスタンの言葉には共感できた。このご夫婦になら、レイチェルとジーンを任せて良いだろう。
「ガラハドのお仲間にもしっかりした方がいるのねえ。よかったわあ。」
「おいおい。いちおうな、俺も元爵位を持った王宮騎士なんだぞ。それにトリスタン卿は騎士の先輩として、こんな俺にもいろいろな事を指導してくださったんだ。失礼なこと言うなって。」
「やあね。冗談よ。ガラハドと私は孤児院で育ちました。あの子たちの親になっていただけるのでしたら、こんなに嬉しい事はありません。
私は探索者のギルドマスターをしておりますが、それも、探索者には社会的に弱い立場の人が多いからです。孤児、一家の稼ぎ頭を亡くした年寄や未亡人、不作の農家、戦火や災害で家財が無くなった人たちなど。生活のために仕方なく探索者になる者も多い。弱者を弱者でなくすために尽力したいのです。」
トリスタンとイゾルデは、ガラハドとマリアは結婚するべくして結婚したのだと思った。それから養子縁組に賛成してくれることが嬉しかった。
「感謝します。あとの皆さんは、どうお考えですか?」
顔を見合わせ頷く。全員賛成のようだ。レイゾーは親指を立てている。
「これから奥様のご実家に向かわれるのでしたら、当然このお話をされるのですよね?」
「それならば、何かご実家への手土産になる料理を作りましょう。カツサンドと鶏のから揚げでどうですか?」
クララとタムラが畳みかける。上手いな。
かくして、レイチェルとジーンの養子縁組の賛成票を集め、堂々と親御さんの説得に臨めるわけだな。良かったな、レイチェル、ジーン。
できるだけ早くジャカランダへ戻りたいと、その後トリスタン夫婦はイゾルデの実家へと足早に出発していった。
元バルナック軍の空軍大将の悪魔ガンバ男爵は、参謀ウインチェスターに呼び出された。空軍を召し上げられたばかりのガンバは、また不名誉な命令でも下るかと気が気ではなかった。
「ミッドガーランドに反撃の隙を与えてはならない。彼らも無能ではない。それで第一次戦争では敗北した。まあ、私のような作戦参謀がいなかったことも大きいのだろうが。時間に余裕があれば、ミッドガーランドは反撃の作戦を立て実行するだろう。所詮人間とはいえ、勇敢な騎士が多いようだからな。
ジャカランダを混乱させるため、定期的に飛行型のゴーレムでチマチマと嫌がらせのように爆撃をする予定でいたのだが、その飛行型ゴーレムが使えなくなった。
かくなるうえは、貴様ら自身でやってこい。レッサーデーモンを与えたのは、その為だ。」
「承知いたしました。レッサーデーモンを率いてジャカランダを攻撃して参ります。」
「うむ。だが、私もヤケになって言っているのではない。新兵器を授ける。」
「!」
ウィンチェスターは、ガンバにその『新兵器』を見せた。レッドには騎馬代わりの二輪車『フォロン』が下賜されていたので、似たような物かと思っていたのだが、想像以上に小さかった。軽々と手に持てるサイズだ。
「ウィンチェスター閣下、これはいったい、どのような?」
「まあ、新しい飛び道具だな。貴様ら悪魔も戦って魔力が尽きれば、帰還することさえできんだろう。ましてや、上位種のアークデーモンの貴様はともかく、レッサーデーモンたちはな。これがあれば、魔力を使わずに攻撃できるぞ。強力なマジックアイテムだと思えば良い。」
それまで黙って聴いていたララーシュタインだが、AGI METALに壊された滑走路も修復に取り掛かっている事を知らせ、元通りになれば、飛行型ゴーレムで攻めこむとハッキリと告げた。しばしの辛抱なので、それまでは励むようにと。ガンバはウィンチェスターから新兵器の説明を受け、出撃準備のためクラブハウスへと移動していった。
「飴と鞭とは謂いますが、ちょっとおだてれば動く。単純ですな。本当に悪魔なのですかね?」
「まあ、まだ若い個体だからな。しかし、捨て駒にするには手頃だろう。捨てても惜しいとは感じられぬ。」
「はっ、それはその通りでございますな。」
そして入れ替わりにマッハが呼ばれる。ガンバが慌ただしくしている様を横目に見て、呼ばれる事を覚悟していたようである。ウィンチェスターがマッハに尋ねる。
「新しい船の様子を診て来たか?」
「はい。まったく今までにないコンセプトの船。感服いたしました。」
「では、その船で新型のインヴェイドゴーレムを運んでもらおうか。ガンバがジャカランダを引っ掻きまわす。その間にクラブハウス港へ、陸に揚げさせよ。」
「はっ、輸送任務でございますね。」
するとララーシュタインが立ち上がりマッハに声を掛けた。
「お前は、海軍空軍の司令官だ。陸軍のゴーレムは運ぶだけだが、海軍空軍の物はお前の判断で運用しろ。」
「それは、某が戦闘に参加しても良いと?」
「必要ならば、そうしろ。そろそろ、英雄のパーティAGI METALと、シルヴァホエールのゴーレム、タロスへの対策に本腰を入れねばならん。」
ララーシュタインは、次回は新しいインヴェイドゴーレムを三種、投入するつもりでいる。その中には、マッハに運用を任せる海軍空軍用のゴーレムもある。ララーシュタインのインヴェイドゴーレムもデータを積み重ね、開発が進み、強力になっているのだった。
次回、また、バルナックの悪魔たちが動き始めます。




