第101話 修道士
飛行船フェザーライトがオズワルドと飛行型ゴーレム『メッサーV』の搭乗員の魔法使いを乗せ、ウエストガーランド島のバルナック上空から帰還。サリバンはマリアとガラハドが一足先に領域渡りで連れ帰っており、少し遅れてレイゾーとタムラも同じく領域渡りでセントアイブスに戻っている。
フェザーライトが連れ帰った捕虜、飛行型ゴーレムに乗っていた魔法使い達は、メイの拷問、いや、髪型ハラスメントによる尋問に素直に答え、バルナック軍の戦力や作戦について重要な情報を得た。纏めてではなく、一人一人個別に尋問をして情報を得たうえに精査して共通の事物を取り上げたので、まあ、間違いはないだろう。詳細は後回しにするが、ララーシュタインのインヴェイド・ゴーレムはミッドガーランド軍の予想を上回る勢いで開発、生産されている。それは、ララーシュタインだけでなく、ウィンチェスターの技術供与によるものでもあるらしい。
フェザーライトの船室では、ダークエルフの兄弟が昼間からウイスキーのグラスを傾け、再開を喜んでいた。もっとも並行して心配事も多々あるのだが。
「オズワルド、今まで何処にいた?何故連絡がつかなかったんだ?メイなんぞ心配で眠れない日が続いてたんだぞ。」
「それは申し訳ない。月にいましたよ。霧の国の様子がおかしかったので、探りに。」
「・・・そうか。で?どうだった?」
「デーモンロードとアークデーモンの数体が霧の国からいなくなってましたね。」
「デーモンロード!?」
「無関心ではいられないでしょう。」
赤い月には魔族が棲む。その赤い月の裏側にあるニブルヘイムとは、霧と氷と闇の世界。いわゆる冥府。死者の国。魔族、悪魔のなかでも上位種のデーモンがおり、女神ヘルが悪魔を治めている。
その悪魔は階級社会で、支配者階級のデーモンロード、貴族級のアークデーモン、続いてグレーターデーモン、デーモン、ネザーデーモン、レッサーデーモンとに分けられる。その支配階級のデーモンロードとアークデーモンが数体いない。他の月かグローブへ行ったことも考えらるのだが、白い月と青い月では、別段問題は起きていない。グローブでは霊体となってしまい、受肉しなければ何もできないため、それも考えにくい。受肉しなければならない霊体なのはユーロックスでも一緒だが、ユーロックスには、それを手助けする者が多数いる。ララーシュタインや悪魔崇拝する者たちだ。
事実、バルナック軍の陸海空の三軍の長は三体のデーモン。男爵と名乗っており、アークデーモンだと推測できる。しかし、さらに上の支配者階級、デーモンロードはどうしたのか。これもバルナック軍についていると考えるのが妥当だろう。
「グレーターデーモン以下の階級もいろいろと動きがあしましたけど。テオの地下迷宮のオーバーラン、シドのダンジョンの変動だとかもあったでしょう。そちらのダンジョンの深い階層に実体化したのも多いから、詳細はなんとも。」
「ああ、ただ、この半島の迷宮が活発化してるのは、バルナックに強力なデーモンが巣くってる影響だな。そのために、この街にも冒険者の流入は増えてる。一般的に強い魔物ほど、ドロップアイテムは高額な物になるし、マナ結晶も大きくなる。特に今、トークンはギルドでも買い取り額をアップしてるよ。」
これは、インフラのエネルギー源として使うこともあるが、マジックアイテムやアーティファクトの生産に必要であり、戦争をしている現在、最優先で集めなければならない。タムラが発案したトークンを嵌め込む孔が開いた鏃も、トークンがなければ並以下の鏃である。トークンを嵌めずに撃てば、空力も重量もバランスが悪い。
それに、ほどほどに魔物を狩ってラビリンスのマナを循環させなければ、またオーバーランを起こすことになるが、弱い魔物でも狩っていれば、ある程度マナは循環する。結果ランクが低く経験の浅い冒険者でも集まることになる。
「それで、デーモンロードが実体化している場所はバルナックだろうと考え、バルナックに移動してみたらウルドが私を呼びに来た。驚きましたよ。まさかサリバン先生が魔女と戦っていたとは。」
「おまえにとっては母親同然だからなあ。容体は心配だが、サキとマリアが病院に行ってくれてる。すぐに元気になるさ。落ち着いたら見舞いに行こう。」
しかし、その日の夕方、サリバンの使い魔であるカササギのウルドが騒ぎ出し、慌ててサリバンを訪ねるとすでに他界した後であった。誰に対しての言葉かは分からないが、最後に「ありがとう」とだけ言い残したことを聞いて、オズワルドは途方に暮れた。
俺の腕枕でクララが訊いてきた。いつも以上に甘えた声。
「ねえ、了ちゃん。了ちゃんもグローブに帰りたい?」
「ん?まあ、友達もいるから、短期で里帰りくらいならね。」
「了ちゃんは、家族は?」
「ああ、話した事なかったね。家族は、まあ、バラバラだね。十年以上前だけどさ。大きな自然災害があったんだよ。」
津波で中層の建物の上にいて救助されたこと。妹が被害にあい他界。住んでいた家が流されたこと。その後に両親が離婚したことなども話した。水害から俺を助けてくれた『自衛隊』という、ユーロックスでの騎士団のような組織に入ったとも説明した。
「妹さんて、ひょっとしてあたしに似てる?」
「いや、そうでもないかな。生きてても、もうちょい年下だしね。」
(どうやって、了ちゃんをこの世界に引き留めたらいいのかしら?)
いくら考えても考えはまとまらず、ただただ涙が溢れてきた。俺がクララの頭を撫でると、そのうちにクララは泣き疲れたのか寝てしまった。
翌日、マリアとガラハドがサリバンの遺体を引き取った。納棺するとガラハドは冒険者ギルドへ行き、長距離の領域渡りが出来る冒険者パーティを連れてきて棺を運ばせた。
「シンビジウム王国のファレノプシス修道院へ行く。付いてきてくれ。俺とマリアは今日一日はシンビジウム王国に留まるから、帰りは自力の渡りでセントアイブスへ戻ってくれ。あと、何かあれば、またすぐ俺達を呼びにきてほしい。」
ファレノプシス修道院へサリバンの棺を運び入れ、修道士たちに話せる限りのことを説明した。修道士たちも悲しんだが、ある意味で世を達観している人たちのこと、やるべきことをせっせとこなしていった。ここの孤児院の出身者としてガラハドとマリアが尊敬を集める存在であることも大きいが。
とくにマリアは、ガラハドがミッドガーランドへ騎士として出仕した後もしばらく修道女、シスターとして残っていたため、現在も在籍している修道士の半数以上が顔見知りである。サリバンの後、院長になるであろう人物に、マリアが相談した。
「ここの孤児院で育った者同士ですが、ガラハドと結婚することになりました。」
「それはおめでとうございます。神様も粋な事をなさいますね。」
「サリバン先生が元気になったら結婚式に出てほしかったのに。それで、おかしなお願いなのですが、母も同然のサリバン先生の前で結婚式を挙げたいのです。神殿の祭壇に先生の棺を祭って、その前で。可能でしょうか。」
「勿論です。サリバン先生もお喜びでしょう。なによりの供養です。」
「では、明日にでも。」
サリバンの葬儀と、ガラハドとマリアの結婚式を一緒に執り行うこととなった。結婚式としては急だが、戦時中でもあるし、なによりもマリアがそれを望んでいる。そしてマリアが望んでいることをガラハドが拒むはずはない。
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