第99話 勇者候補
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サキがサリバンの治療のため旧セントアイブス城の病院へ行っている間、俺はタムラと話すために取調室に、と思ったが、クララは俺に付いてくると言い、マチコは味噌や醤油の発酵具合の確認のために、やはり取調室に行くそうで、結局三人まとめて取調室だ。
昨日のオズボーン兄弟とサキの話にあったプレーンズウォーカーの件が、どうしても気になる。以前、こちらの世界ユーロックスの都合に合わせてグローブの人間が召喚されているのではないか、人為的なもの、意思のようなものを感じるとタムラが話していた。これは、ひょっとしたらプレーンズウォーカーと関係するのでは?
誰にだって都合はある。それを無視して、こちらの世界に呼び出されて戦争させられたりというのは、どう考えても理不尽だ。特にレイゾーはバンドメンバーの三人を失っている。
まあ、それでも俺やマチコはかけがえのない人をこちらの世界で得ているわけだ。必ずしも悪い事だけではないのだが。
マチコは半分が味噌蔵と化した取調室の地下倉庫へ。俺とクララとで厨房のタムラを訪ね、探索者、冒険者のパーティ用の個室で話している。
「とりあえず、二つの世界が自然に繋がってしまったはずみで転移したのか、人為的に召喚されたのか、ハッキリ分かってるのは、レイゾーの旦那だな。ジャカランダの騎士団の一部、魔法兵団が独断で魔法使いを増やそうと吟遊詩人になる素質があるミュージシャンを大魔法で召喚したんだ。」
「うん。そうなんだよ。ライブの最中だったのにねえ。まだ二曲目だったんだよ。客席も声出て来たなあってくらいだったのに。」
「ああっ、レイゾーさん!いつの間に。」
知らぬ間にレイゾーがパーティ用の個室の出入口に立っていた。声が個室の外に聞こえたか。
「何を話してんだい?」
「次元渡りのことですよ。ひょっとしたら、プレーンズウォーカーに連れて来られた人もいるんじゃないかと思って。」
「プレーンズウォーカーって都市伝説みたいな話なんだよねえ。今この時代にいるのかどうかも分からない。」
「いやいや、旦那。英雄の職能を持ってる旦那が、一番勇者に近いんだぜ。」
「うーん、そうは言ってもねえ。」
ここで、クララから質問。
「あのう、勇者と英雄の違いってなんでしょうか?」
「ああ、それはね。勇者は時と空と光の三つの精霊の加護を受けること。英雄は時か空か光のいずれかを含めた二つ以上の精霊から加護を受けること。光については、神か天使でもOKだね。僕は時の精霊と火の精霊の加護を受けている。」
「火については、了ちゃんがレイゾーさんの火の魔法を見て魔法使いになりたいって思ったんですよね?」
「ああ、そうそう。精霊の加護とか契約とかは全く知らなかったけど。レイゾーさんの『インフェルノ』の呪文だったなあ。」
「時の精霊の加護については、時系列の魔法は勿論だけど、他人とは時間の流れ方が違うことがあるらしいね。戦いの最中に速く考えられるし動けるみたいだよ。
で、地の精霊と契約し、火の精霊の加護を受けているクッキーは、僕と特性が似てるんだよね。パーティでは前衛にしても後衛にしても攻撃寄りだね。」
「あのう。それでは、レイゾーさんは、あと空の精霊と光の精霊の加護を受ければ勇者になるのですか?」
「それね。加護を受けること自体が珍しいでしょ。それを複数なんてのは、結構とんでもないことなんだよね。クッキーもとんでもないヤツだぞ。で、これまでの歴史やギルドの記録を調べても、加護は三つまでらしい。僕はすでに二つあるから、もう二つ加護を受けるのは無理だよ。だから勇者にはなれないんだ。
クッキーも今からもう三つ加護を受けるのは無理だから、勇者にはなれないねえ。ぼくと同じ職能の英雄にならなれるよ。」
「じゃあ、風の精霊と契約している私は、加護じゃないから、まだ可能性があるんですね~。」
「うん。そういうことだね。クララちゃん、頑張れ~。」
「あー、レイゾーさん、おだてないでください。この娘、本気にしちゃうから。」
「えー、了ちゃん意地悪ねー。」
「いや、実は抜け道はあってね。時と空と闇の精霊の加護を受ければ魔王になる。闇の精霊の加護を受ける代わりに、悪魔を服従させても魔王になる。それならすでに他の加護を一つ持っていても魔王にはなれる。だから、理屈の上では、クッキーも魔王になってプレーンズウォーカーになれるかもしれない。」
タムラが笑い出した。
「ハハハハハハ!魔王と勇者のカップル目指したらどうなんだ、おまえら。」
「ああ、そりゃいいねえ。さすがタムさん。いいとこに目を付けたね。まあ、実際には適性の問題があって、精霊に好かれないと加護も契約も受けられないからね。難しいと思うよ。
ちなみに、マリアは天使の加護を受けて僧侶になり、活躍して高僧に。信頼を得て『聖女』と呼ばれ、その後に悪魔を服従させて賢者という職能になってる。普通四極魔術では白魔術と黒魔術の両方を使うことはできない。白マナと黒マナを使う五芒星魔術でならば疑似的なことができるけどね。マリアは魔導士にもなってるから、理論上、全ての魔法が使えるんだよ。だから、マリアはガーランド最強の魔法使いって呼ばれてるんだ。
偏りはあるけど、とんでもない魔力の持ち主のオズマは『ユーロックス最強』だけどね。まあ、ガーランドとユーロックスの差は、世界中のあっちこっちフェザーライトで旅してるからかもね。」
改めて、凄い人たちが一緒にいるんだと感慨深かった。だが、このへんで話しをもとに戻そう。
「それで、俺とマチコ姐さんは、事故とかの偶発的な要素で、ユーロックスに来たのかもしれないですけど、ハッキリとは言えないんですよね。タムラさんは、どうしてユーロックスに来たんですかね?どんな状況でした?」
「俺は、本職は林業で、猟友会にも入ってたって前に話したよな?
イノシシを捕まえる罠の様子を確認しに山に入ったら、霧が出てな。迂闊に動いても危ないので暫くそのまま留まって、霧が晴れてみたら、セントアイブスの近くの林の中にいた。」
「それは、事故の衝撃みたいなもの、ありませんよね。俺は交通事故だし、マチコ姐さんは、階段で落ちた。」
「うん、大魔法で召喚された僕は、ライブのステージ上でスモークに包まれた。演出用のだと思ったんだけどね。タムさんの状況は僕に近いよね。」
「まさか、タムラさんは魔法でグローブからユーロックスに召喚されたなんてことは?」
「絶対にないとは、言えないよねえ。」
しばし、四人とも沈黙。やがてクララが口を開いた。
「そういえば、タムラさん。今まで聞いたことなかったですけど、あっちの世界にご家族とかは?」
「ああ、いるよ。妻と娘がな。娘は高校生のはず。クララよりもちょっと下くらいかな。」
「ええ~、たいへんじゃないですか~!ご家族はタムラさんがユーロックスにいるの知らないんですよねー。なんとか知らせてあげないと。」
急にオロオロするクララ。いや、落ち着け。ちょっとカワイイけど。そんなこともあるかもしれないので、今話してるんだぞ。頭をナデナデしてみよう。
「はいはい、クララ。騒がないの。」
「いや、レイゾーの旦那だって、帰れないって聞いてたからなあ。開き直ってユーロックスでなんとかやって行こうと思ってよ。」
クララがどう思うかは、また別の問題だ。ここは言ってみよう。
「もし、プレーンズウォーカーが人を連れて渡りが出来るとか、人を送迎したり出来るのなら・・・、魔王や勇者を探し出せば、タムラさんもレイゾーさんも、元の世界に帰れるのでは?」
「おお、ありがとうよ、了。まあ、上手くいけばなあ。」
「そうだねえ、クッキー。ありがとう。でもね、ララーシュタインが本物のウォーロックだったとして、戦争の首謀者だ。侵略者を許すわけにはいかないだろう。可能だとしても僕たちに協力して元の世界へ送ってくれるとは思えないし。」
ちょっと重たい空気になったが。クララが何か思いついたか。
「あっ!でも、魔女がいます。魔女の一部は魔王なんでしょう?魔女の中に精霊の加護を受けてる人がいるんですよ、きっと。魔女はこの世に六人いるって言われてるんですから。魔女を探しましょう。
マリアさんの先生のシスターサリバンが元気になれば、きっと何かわかります。きっと何かご存知ですよ。」
「魔女の一人は、ララーシュタインに味方してるよね。他の魔女はどうなんだろう?」
「でもでもっ!レイゾーさんもタムラさんも、ミッドガーランドにとってプラスになる人がグローブからユーロックスに転移してますよ。」
「クララちゃん、忘れてるよ、ウィンチェスター。この世界に銃や火薬だなんて不要な物をもたらした極悪人。」
「あ、そ、それは・・・。」
冷静に戦争の状況を把握しているレイゾーの言葉にクララは俯いてしまった。だが、まだ希望はあるぞ。
「いや、それはそうとさ、一人忘れてるよ。」
三人とも、不思議そうに俺の顔を見た。まさか、俺が魔王を目指すとでも思ってる?
「ジーンのやつだよ。あいつの精霊、スプライトのマメゾウだっけ? たしか光の精霊だよ。あいつ、勇者になれるかも。」
ふう。一つ伏線回収できました。




