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撃てるんデス! ~自衛官の異世界魔法戦記~  作者: 井出 弾正 (いで だんじょう)
第7章 反攻
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第98話 白百合

 次元渡り(プレーンズウォーク)!時間をも超えるって、そんなのありか?さすがに皆動揺している。ちょっと質問してみよう。挙手。


「あ、あの、すみません、なんか凄い話になってますけど。いいんですかね?俺達にこんな重要なことを話して。それこそ国家機密のようなレベルでは?」


 ここはオズマから回答があった。否定するジェスチャーとして手首を左右に振りながら。


「いや、お前らだから話すんだ。レストラン取調室のスタッフまで含めたクランSLASHとホリスターたちドワーフの職人。それにオズワルド。権力者などには聞かせないほうが良い話だ。ここにいる皆だけで、この話は留めてほしい。」

「そのとおりだ。ジャカランダには知らせなくていいだろう。どうにもジャカランダには怪しい動きがある。」


 サキも同意した。サキとオズマで、予め話していたようだ。ついでにもう一つ質問してみよう。


「それじゃあ、そのプレーンズウォークが使える人というのは?」


サキとオズマが目を合わせ、頷き合うと二人とも俺を見た。オズマが答える。


「それはな、職能(クラス)でいうと、魔王(ウォーロック)勇者(ブレイブ)だな。纏めてプレーンズウォーカーとも呼ぶが。それから一部の魔女(ウィッチ)魔王(ウォーロック)に含まれる。

 魔王は時間、空間と闇の精霊の加護を受けた者で、闇の精霊の代わりに悪魔を服従させた者もいる。勇者は時間、空間と光の精霊、または(サムシンググレート)天使(アンゲロス)の加護を受けた者。

 魔王というのは、闇の精霊の加護か、悪魔を服従させた者は良いが、間違って悪魔に憑依されてしまうと邪悪な存在になると言われている。そして、邪悪な魔王が出現した場合に、その魔王に対抗できるのが勇者だそうだ。

 その悪魔に憑依された邪悪な魔王が現われなければ良し。現れたら勇者の出番となる。

 どちらにせよ、ほとんど歴史上の人物だ。実際にお目に掛かることは、まずないだろう。」


 一呼吸置いて、コーヒーを飲む。全員の顔を見回して話を続けた。


「ただ、気になることはある。この戦争の首謀者、ドルゲ・ララーシュタイン2世がウォーロックを名乗っている。ハッタリだとは思うが。バルナック軍に魔女のシンディが味方しているのもな。

 プレーンズウォークが使えるからといって大軍を移動させたりはできないが、本物の魔王だとしたら、それだけ厄介な敵だということだな。伝記や歴史上の英傑を相手に戦うようなものだ。ミッドガーランド王国を建国したペンドラゴンは魔王じゃないかと言われてるな。」

「それじゃ、魔王には良い魔王と悪い魔王がいるってことですかね?」

「まあ、そういうことだな。」

「ララーシュタインが本物の魔王だった場合、悪い魔王ってことで?」

「そうかもしれないな。その場合、どこかに勇者が生まれているかも。」

「悪い魔王が生まれたら、勇者も生まれるものなんですか?」

「それは神のみぞ知る、だが。まあ、歴史書を読み込んでみると、これまでは、大半の悪い魔王は勇者に斃されている。あとは魔王同士で戦ったか、大勢の人や亜人の種族が手を組んで対抗したか。」



 内容の濃い食事会は、こんなところでお開きとなったが、ガラハドがマリアに声を掛けていた。サリバン先生のことで相談したい、と。


「分かったわ。じゃあ、後で私の家に来て。」



 帰宅して風呂から上がったマリアはデスクに向かい、紅茶を飲みながら探索者ギルドの報告書に目を通していた。ギルド職員への指示書に書き込みを済ませ、日記を書き始めるとガラハドが訪ねて来た。二人の家はすぐ近くなので、ガラハドも雑用を済ませてから来たのだろう。

 ノックされた玄関ドアを開け、マリアはガラハドを招き入れるとソファーに座るよう勧める。その姿を見てガラハドはハッとした。部屋着なので柔らかい素地のワンピースで肩から胸元まで大きく開き、普段は三つ編みで後ろにまとめている長い髪を下ろしている。

 トレイに紅茶のポットと二つのカップを持って来たマリアは、ローテーブルの向かいではなく、ガラハドの隣に腰かけた。


(向かいじゃなくて良かったな。目線が胸元に行っちまう。)

目のやり場に困るガラハドは、内心ホッとしていた。しかし、隣で肩が触れ合うマリアの顔を見ようにも、今度は胸の谷間を上から見るようになってしまう。

(いかんいかん。真面目な話をしに来てるのに。)


「砂糖は要らないのよね?」

「あ?砂糖?」

「紅茶に、よ。ダージリンだけど、いいかしら?お酒にする?」

「ああ、ダージリンは好物だよ。」

「うん。そうよね。」


 マリアはポットの紅茶をカップに注いで、それぞれの前に置いた。マリアはわざとやっているのか、胸を強調するように腕に挟んで、両手を揃えて膝の上に置いた。


「それで、サリバン先生のことって・・・?」

「ああ、魔法での治療は実際にどんなことやるんだ?」

「私とサキで呪術解除系の呪文と回復系の呪文を同時に掛けてみるわ。組み合わせは考えてみる。」

寛解(かんかい)できそうか?」

「やってみないと、なんとも。」

「今のままだとしたら?」

「危ないわね。体力回復の魔法を掛け続けても、魔女である先生は魔力を回復しないことには。もう本来の人間の年齢ならば、どうなっているか分からないから。」

「亡くなってしまっても?」


 マリアはじっとガラハドの顔を見て頷いた。不安に押しつぶされそうな表情だ。


「なあ、直接エンチャントを外せるようなことでもないんだが。サリバン先生を安心させてやらないか?」

「安心って、どうやって?」

「いや、その、俺達、結婚するなんてのはどうだ?」


 ガラハドはストレージャーを開いて花束を取り出した。白い百合の花束。

 マリアは感激して泣きだした。顔を手で覆って下をむいてしまった。


「あ、あー、ごめん。俺、悪い事したか?」

「違うわよ。嬉しいの。」


 マリアは顔を上げた。


「一応な、花言葉とかも調べてみたんだ。」

「そんなこと言われたら泣けないじゃない。白い百合には『威厳』って意味もあるんだから。」

「泣くよりも笑ってろよ。」


マリアは涙をぬぐった。ちょっと不自然だが、ガラハドに笑顔をみせる。


「あんたの冗談、ぜんぜん面白くないけどね。滑り止めないのかしらね。」

「俺、そんなに滑ってるか?」

「明日、先生に結婚の報告に行くときには冗談は言わなくていいから。」

「! それは、結婚は承諾ということでいいのか?」

「不束者ですが、宜しくお願いします。」


 ガラハドはマリアをぎゅうっと抱きしめた。マリアもガラハドの厚い胸板に顔をうずめる。

 カササギのスクルドは、バルナックの地下墳墓(カタコンベ)以降、サリバンの処へは戻らず、マリアと共にいる。サリバンの使い魔らしく、このことをサリバンに報告してもよさそうなものだが、二人が直接サリバンに報告すべきと考えたのだろうか。それとも、サリバンの魔力が弱くなっていることが使い魔の行動にも影響しているのか。スクルドはマリアの家に留まった。




 翌朝早く、二人はマリアの家から旧セントアイブス城の病室へサリバンを見舞い、結婚すると報告した。サリバンは号泣して喜んだ。


「そう。貴方達一緒になるのね。こんなに嬉しいことはないわ。孤児院をやってきて、本当に良かった。長生きした甲斐があったわ。」


「医師たちの回診が始まる時間に合わせてサキも来るから、そうしたら、医師の立ち合いの(もと)で、私とサキで解呪と回復の魔法を掛けるわね。サリバン先生、頑張って治しましょう。」


 マリアは食事の介助をしながら、取調室の食事が美味しいので、早く元気になって一緒に行こうと励ます。すると、窓からカササギが入って来た。修道院へサリバンの事を知らせに行ったヴェルダンディだ。


「あら。ヴェル。よく戻って来たわね。良いタイミングよ。鍵をマリアに。」


ヴェルダンディは、(くちばし)で腹の辺りの羽毛を探り、中から鍵を取り出すとマリアに渡した。赤銅と真鍮を混ぜた合金のような色の鍵。表裏に五芒星の魔法陣の模様が彫られている。


「マリア、それを貴方に託すわ。私の執務室の書庫の鍵よ。私の魔法使いとしての知識は貴方が引き継いでね。書庫の中には危険なものもあるけれど、貴方の裁量に任せるわ。頼んだわよ。スクルドとヴェルダンディもね。」

「先生、気弱なこと言わないで。先生が元気になったら何でも云う事きくから。」


 その日は、マリアとサキ、医師たちにより検査、魔法診断が行われた。体力の回復と呪い(エンチャント)の解呪に様々な魔法と医術治療が検討されたのだが、サリバンは夕方に容体が急変し、ありがとう、の一言を残し、静かに息を引き取った。


キリスト教では、百合は聖母マリアの象徴。

花言葉は「純粋」「無垢」「威厳」

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