8.絶望のお披露目
お披露目の儀
つまりパーティーだ。飯が食える。楽しいきらびやかな世界。
みんなそう思うだろ?
我らがロイ君は興味や疑問の大量発見!
かと思いきやまったく反対のご様子。
肉をちょいとひとつまみ。魚、野菜、スープ。うん。どれもコレも
(しょっぺえええええええ!!!!)
そう。貴重な岩塩をふんだんに使った料理だ。しかも塩味のみ。
実家の薄味で素材の味が生きているだけの方がまだマシだ。
大人エリア付近の料理に好奇心をくすぐられ。窘められても気にせずつまんでみれば。
(し、舌が、いや、なんだ?のど?のどがああああああ!!!!)
激辛なのだ。舌の麻痺と喉の焼けるような幻覚に胃が熱く燃え盛る。
つまむ度にテラスに言っては地団駄をふむのを我慢し内心の悶絶を繰り返す。
次は甘いもの。つまりお菓子。子供のパーティーなんだから。少しは期待が、
(はがあああああああああ!!!!)
甘いだけ。しかも激甘。どれもコレも煮詰めた砂糖味。
しかも見た目が煤けてる気がしてあまり良くない。
量も少ないそして硬い。まだマシなカットフルーツが大量の理由がよく分かる。
貴族のパーティーの料理と言えば国内最高峰の料理に違いない。味気ない家の料理よりは希望が持てる!
なんて期待し。脳内おっさんの感情を信じたのが間違いだったかもしれない。
おっさん感情曰く。
食いもん?今慣れてる味に不満ねえなら問題無し。米は食いたいが。
素材の味を引き立てる薄味で滋味深い良い味じゃないか。
それに王宮のパーティー行けば最高峰の美味い料理食えるんだろ?
その時調べて覚えりゃ良い!任せろ分析して再現してやる。
そんな事より魔法だろ!魔法。科学とは違う。電気でもない。一体どうなってんだコレ!夢広がる~。
ロイ君感情的にはおっさんが散々うまいもの食ってきて満足してるかもしれないけど、自分も食べてみたいんだけど。
でも、再現可能なら慌てなくても良いか。魔力関連の方が楽しいしね。
その結果がこれだ。おっさんに騙された。
ヤンナートは心配だった。妻はどこ吹く風とニコニコしているが。
ロイがいつ突然上位貴族の子弟をつかまえて質問攻めしないかと。
子弟どころか貴族家当主をつかまえるかも
心配の方向が変わった。他の貴族家と会話する度の反応。笑顔で挨拶礼儀作法に問題はない。
私がサラッと会話した内容に聞き耳を立てているのが判る。口を挟むことなく終わり。
相手が見えなくなった瞬間の困惑表情。
次第に悲しそうになり。最後は諦めきったような表情に。今聞くべきか?
子供同士の会話にはランが付いていき紹介して補助してくれているようだ。
遠目にではあるが観察する。心配なのだ。質問攻めを最初は心配していたが今は違う。何か不安なのだ。
ランに群がる女子という名の捕食者達。ロイも顔は良い。同じく捕食対象の様だ。
子供だから許されるのだろう。ロイの手を掴み強引にホール中心部にあるダンス場へ連行。
何度も何度も連行されるロイ
必死に笑顔を張り付かせるロイ。
笑顔を貼り付けたままのランが助けるべきかと思案しているのが細かな動きで判る。
自分も通った道ではあるが。弟には可哀相ではないかと。
耐えられるか?耐え、耐えた!曲が止まって調整時間だ。
ロイはランの元へ急行し、何をするつもりだ?捕食者達を引き連れて?
おお、上位貴族子弟か。なるほどなすりつけてジリジリと脱出。上手い!完璧!完璧すぎる!
「策士だな。」
不意に後ろから声を掛けられた。
振り返れば、宰相!何?怖いんだけど?侯爵家だろ?中級の貴族の子供なんか気にするなよ。
来るんじゃねえよ!絶対顔には出さないがな!
「神童の弟であれば注目も浴びよう?」
ランお前かあああああ!当時は鼻が高かったけどさ。
「まだ貴族としては未熟ですな。立ち去った後に表情を変える瞬間を他の貴族が見ていないとは限らない」
確かにその通りだ。しかもランの所為で注目の的だ。試されたのか?
「ある程度の感がはたらく者には注目されていたからな。王都到着早々図書館へ行き貴族エリアから始まり、最後は法典まで読みふけっていたそうだ。ランナート殿と差はないのだろう?噂では好奇心の塊と。」
ロイお前もかあああああ!叫びたい胸の内を押し殺し子爵然とする。
「子供の好奇心は当たり前ですからな」
「伯爵以上の家ほど注目していたぞ。如何にして彼の好奇心を引き出せるか。引き出せた家はあったか?注目の的だ。そして全員が撃沈。ウチも含めてだ。屈辱ではあるが。狙い目ともなった。」
そうね。うちの子ロイは、次男。継承権2位。神童と称されるランナート同様の性能であれば婿として申し分ない。
あげたくないけどね!いややらんけど!うちの子全部出さねえよ!
「過ぎた評価です。ただの子供」
「ただの子供があんな表情するか?ほれ、他の貴族も見ている。」
周囲を見れば笑顔を張り付かせた上位貴族達が何かを話しながら視線だけは追っている。
そう、ロイをだ。現在ロイは食事が置いてあるエリアに行っている。
「食べる度に笑顔を引きつらせる。そしてテラスへ。ふむ。我が領地の料理法も駄目か。」
「美味しいのを外で噛み締めているのかも」
取り繕いたいが無理だ。そういえば、家にいる時も食には関心がなかった。
子供だからと甘い菓子を与えた時も美味しいの言葉は出なかった。
むしろ何かを耐えているかのようだった。
「む、果実はいけたか。ロイナート殿の頬が緩んだ。ほれ、向こうにいるアルド伯爵が喜んでいるぞ。」
視線を向ければ話をしながら拳を握りしめているのが判る。ロイは鑑定水晶じゃねえよ!
アルド伯爵の領地はうちからそんなに遠くはない。狙われるか?
「トイレもお気に召さなかったようだな。ああ、コレは酷い。表情が崩れかかっている。」
「失礼致します。宰相閣下。一応自分の時の内容を話していますからね。確信したんでしょう。」
ランナートが戻って来た。宰相は軽く頷くだけ。肝心のロイもこちらへ向かってきている。
「ただいま戻りました。宰相閣下、ロイナート・イバーナです。改めましてお見知りおきを。」
逆だ!先に宰相に挨拶!あ、駄目だ心が逝ってるな。
クリーンがある。浄化魔法がある。クリーンがある。浄化魔法がある。クリーンがある。浄化魔法がある。クリーンがある。浄化魔法がある。
クリーンがある。浄化魔法がある。クリーンがある。浄化魔法がある。クリーンがある。浄化魔法がある。クリーンがある。浄化魔法がある。
クリーンがある。浄化魔法がある。クリーンがある。浄化魔法がある。クリーンがある。浄化魔法がある。クリーンがある。浄化魔法がある。
唱え続ける。挨拶に失敗したのは判った。でも取り繕えない。王宮でも同じだった。毎度お馴染み便壺。
クリーンで綺麗にし浄化魔法で匂いを何とかする。クリーンという名の掃除魔法。
使えなかったら自分は発狂していたかもしれない。
浄化魔法というピュリフィケーションで匂いを消しつつ便壺近くでクリーン。
練度というか魔力量で変わるのだろう。臭いのだ。なんか汚いのだ。
外へ向かう女性の集団。お花摘み。ドレスの構造を知っていれば自ずと予測がつく。
夢も希望もない。花壇には近づかない!クリーンがある。浄化魔法がある。
男女共トイレ事情は最悪!いや魔法があるからセーフ!練度違いがあるからやっぱり最悪!魔道具があるからセーフ!
駄目だ。思考がトイレから離れられない。
なんか兄上と宰相が肯きあっている。
「この場だけ無礼講だ。」
宰相が自分にそう言った。
「ロイ。ああ、表情は変えちゃ駄目だよ。どうだった?色々と。」
ああ、これはアレだ。色々宰相にも気付かれたから理由を話せと。なるほど。
「まず貴族間の会話の件が聞きたい。」
宰相に答えろと?面倒だなあ。無礼講だから露骨に答えて良いって事?肯いた。そういう事らしい。
「結婚、婚約による露骨な家の結びつき話を隠しもしない。言質取る為に必死過ぎて本末転倒。」
「まあな。しかしより良い相手を欲するのが当たり前だ。言い方はあるだろうがな。」
0歳の娘と婚約どうですか。お披露目パーティでそれいる?
「よくわからない人と踊る必要性。」
「仲良くなりたいんだろう。」
ダンス好きなら喜ぶだろうけどこちらの好みも聞かない訳わからん人と踊って楽しいか?
それで本当に仲良く慣れると思ってる?嫌がらせじゃねえの?
「税収どうのは自分の統治運営の無能さを自慢していて滑稽。」
「ぐうの音もでんな。しかし自然災害もあるだろう?」
「それこそ、対策もしていない、考えもしない放置運営の証拠。それなら誰でもできる。貴族がいる意味がない」
宰相がうなりながら考え始める。
「料理もお気に召さなかったようだね」
「しょっぱい。辛過ぎ。甘過ぎ。どれか一方向しか無い。果物丸かじりの方がまだマシ。何か理由が?」
「高価な塩、砂糖等を豪華に使っていますよってアピールだろ。私は食べないがな」
「ああ、ゴミ作って飾ってたんですね。安心しました。最高峰の料理と勘違いしてました。」
ブフォっと周りから聞こえる。聞き耳たててるな。まあいいや。
「最高峰の料理で間違いない。非常に高価でここでしか食べられない。」
「高価なものでゴミ作っても価値は無いですよね?美味しい物に金払ってでも食べたいと思わせた食べ物が高価なのでは?すごい余ってるし」
「余った料理は薄めて使用人が食べたりしている。」
「それ病気の元だったりしますよ。それに人が一度口にした物をとか色々言いたいけど。でも薄めた方が食べたいってそれ以下の料理ですよね?」
宰相が答えに窮している。
「一応魔法で浄化とかしている。価値云々は同意できる。まあ良い。ではトイレは」
ココにあるのはゴミで決定の様だ。貴族はゴミ出されて喜んでまーす。
「え?答える必要あります?臭い汚いみっともない。」
「臭い、汚いは魔法でなんとかするしかないだろう。みっともないとは?」
あ、それ一番アカンやつ。ほら周囲の女性陣が耳まで真っ赤。
「女性のアレです。大半の方が我慢しているアレですよ。」
宰相がしばし沈黙。そして赤くなる。理解したのだろう。
「構造上仕方の無いことだ。」
「でもそのままって放っておくのは思考の停止。発展への放棄でそれこそ貴族不要でしょう。貴族とは導く者と私は考えます。」
女性もこのままじゃ可哀想ですしね。とつぶやく。綺麗に着飾り良い条件の男を漁る。
男だろうが女だろうが関係無い。人として当然の事だ。
「導く者か。なるほど確かにな。ロイナート殿には何か思いつく物はあるか?」
「えっと、どれですか?正直どれも詳しく無いですし。基本的には実験してみないと。」
実験とは?と宰相が訪ねてくる。
「何度も繰り返し試す。失敗を積み重ねますが同じ失敗ではなく改善、より良くなる方向を探しながら試す行為です。」
「結果良い物ができるかもしれない、か。なるほど。試さなければ可能性すら無い。しかし貴族としては失敗はみっともなく恥ずべき行為。」
せやで貴族って失敗するとすっごい怒られる責任が重すぎる職業なんでっせ!場合によっては処刑で一族含む!
貴族よ、聖人君子たれ!
「貴族とは導く者。治める者。次代を紡ぐ者。それの見返りが豪華と詐称した。重くて動きにくい衣装にマズい料理と堅苦しい礼儀作法に命掛けの上下社会。だから地位を求めて裏で足の引っ張り合いに潰し合い。なんか絶望しか無いっていうか。」
宰相がすっごい渋い顔してる。心当たり有り過ぎって事ね。貴族は修行僧か!ってところだよなあ。貴族の一員である限り強制公務が有るわけだし。
「平民はどうなる?。いつ餓死してもおかしくない場合もある。それよりは良いだろう?」
はいでました。下見て誤魔化す。下位貴族や継承権低そうな人も聞き耳立ててるの理解してるなコレは。
「平民落ちと継承問題と食糧事情という領地運営についてですか。平民落ちしたら腹いっぱい食える領地に逃げますね。食料事情は貴族の責任の話ですから。領民が貧しいって事は無能貴族の象徴じゃないですか。無能を堂々と晒して貴族社会で恥を晒す。どんな趣味なんですかね。結論有能貴族庇護下の平民の方がまだマシ。」
うん僕はマゾじゃない。脱領?どうせギリギリまで取り締まれない。
平民の戸籍管理もまともにしてないし。無理じゃない?
宰相がうんうん肯いている。いやあ。貴族事情って複雑ですね。判ります。しがらみが多過ぎて不自由。
でもね。餓死って言葉が有る以上。力の無い貴族や無能の貴族がいて平民でも絶望する人生があるって事。
貴族の横暴有りだし。
「なるほど。非常に興味深い話だった。」
本当は色々抜け道が有るのは法律関係の本読んで確認済み。
一番分厚い本が貴族法で家格関連に立ち位置継承問題。貴族抗争に関して。
王国法は大まかな方針に貴族制御的な物。平民制御なんてほぼ領主丸投げでどうでも良いって感じだし。
他国も似たり寄ったりっぽい。魔法関連の実験は楽しい。でもそれだけの人生ってどうよ。
この世界ってもしかして絶望しか無いんかね。
去っていく宰相の後ろ姿を見ながらため息しか出なかった。