74.鬼畜退治
こんなもの慣れるわけがないだろうが!
本当にどうなっている。一週間仲間と調査した。
本当に怪しさ抜群だ。ある一定以上奥に行こうとすると笛がなり警備兵が集まって来て注意してくる。顔は覚えた次は無いからなと脅してくる。
試しに仲間が他の方向へ行って試す。3回まで試して諦めた。先に進めないように見張っているらしい。2回目は間違えただの言って誤魔化したそうだが。3回目は取り調べを一日中受けたらしい。
目的はなんだ。出身地、仕事、資産、前歴はなにか。身体検査も女性の警備兵によって色々調べられたらしい。屈辱的だったと。
大変申し訳無い事をした。させてしまった。あの先にはきっと重税で強制労働させられている者達が待っているというのに。
他にも街道らしきものがあるのにその先は領民しか通れない。もし先に行こうと紛れ込んでも警備兵やら衛兵が常に巡回しているから行かないほうが良いと間者と思われ投獄されるそうだ。投獄から帰った余所者はいないと。
一週間。本当に進展も何も無かった。仲間もあまりのマズイ飯に気力が落ちてきている。どうにもならないのか?
狩りを終えギルドに換金にいく。少し中が騒がしい。む、貴族がいるな。女の肩を抱いて。後ろに護衛がいる。この護衛会ったことがある。向こうも気付いたようだ。瞼が動いたのを見逃さない。
するとこの男、この貴族がもしかしたら。、、、なんだろう領民の冒険者と騒いでいる。馬鹿みたいに笑いながら酒を飲んでいるのか?いや、茶だなあれは。
男を観察していると目があってしまう。上から下へ私を舐めるように見てくる。気持ちが悪い。胸の一点で視線が止まる。やはり胸なのか!殺してやりたい。
男は立ち上がりこちらに寄ってくる。マズイ何を言われる?
「やあ、美しい人!私の愛人にならないかい?」
ああ、本当に殺してやりたい。
「結構だ!」
クソ、この男しつこい!俺は金持ちだ。なんでも買ってやるぞとか、貴族の愛人はいい暮らしが出来るとか、終いには俺は貴族だ。君は冒険者だろう?平民に違いあるまい。私は領主だ。貴族の言う事を聞け!
やはりコヤツが領主!クズ貴族そのものの言動ではないか!
叩き切ってやる!
突如女が割り込んできて男を嗜める。
「駄目ですよ。あんまり強引だとモテる証明どころか嫌われますよ?」
その言葉を聞いて男は納得がいかないだとかいい女に声をかけるのは男の義務だとか意味がわからん事を彼女に愚痴愚痴言い始める。
ふいに仲間に腕を掴まれる。
「姐さん、今はマズイです。相手は貴族しかもここの領主。証拠もありません。ここで目を付けられれば調査不能になります。」
クソ、この場はココまでか。仲間に引き連れられる様にギルドを出た。
だが、確実に目を付けられた。私を知っている者もいた。向こうに動かれる前になんとかせねば。領民になって潜入するか?
「私が領民になって潜入する。というのはどうだろうか?私は確実に目をつけられた。お前達は引き続き調査。私が潜入。情報を渡す。いけると思うか?」
小声で打ち合わせをする。大丈夫だろうかとか。警戒されているだろうから止めたほうが良いとか。脱領すればいけるかもとか。領法で脱領が重罪だったらとか色々話し合った。だがこのままおめおめ逃げ帰る事など出来ない!
翌朝潜入を決意し。領主館へ向う。彼女達は別行動。泊まっている宿にそれとなくどうやったら領民に成れるかと聞けば領主館へ行って手続きすれば良いらしい。
やられた!コレほどの屈辱を受けるとは!引き返せない。護衛も見張っている。抜け出せない。まさか自分の血と!名を持って宣誓するとは!
護衛の男が生暖かい目でこちらを見ている。クソ!手元に武器が有れば!それとも殴り倒してやろうか!領主の男が針に指を刺し血をプレートに垂らす。
私が魔力を流せばプレートに男の名前が浮き上がる。彼が私を領民として迎い入れると宣言。それで笑顔で握手して終わりだ。らしいのだが。手を離さない。それどころか両手で私の手を包み、困ったら直ぐに言えとか困ったらココに来いとか。金は足りているかお小遣いあげようか?とかなんなんだ。
と、とりあえず笑顔で断る。部下の者達が領主を取り押さえた。
サバートという貴族が説明をしてくれる。領法。よくもまあこんな事を考えついたものだ。
はあ?家貰えるのか?ああ、領主に借金か。借金?仕事の自由?領主に借金して支度金の準備可能?え?領民価格で施設利用可能?取引の制限。持ち出し禁止品。
「あなたは金級でしたね。お金はあるでしょうから家選びから始められてはいかがでしょうか?あと、大変申し訳ないのですが領民冒険者は余所者冒険者にかなり注意が必要です。間者警戒の為しばらくグループでの活動を制限させていただきます。接触も出来ればお控えください。領内の移動は自由ですから色々見て回ると良いですよ?宿泊は待機所であれば無料で使えます。」
最後に領民のみに開放されている。公営の食堂へ案内される。
おかしい!頭がおかしい!美味い!美味すぎる!これは脱税ではないのか!
国法の抜道!領民の一体感。仲間意識。扇動とも取れる行動。貨幣経済と紙幣経済による経済鎖国。新技術。
この領民プレートもこういう絡繰だったのか!たったコレを見せるだけという行為。それだけで仲間と認識してくれる。クソ!あれは勧誘だったのか!それで影で笑っていただと?さっさとこっちに来れば良いのに、どうせ来るんだからと。
遠回し過ぎる!と領民仲間に愚痴を言えば確かに。だが仲間を守るためだと。領法は仲間を守る為にロイ様が考えて作られた物だと教えてくれた。
待機所で受付の者の話を聞いた。労働者に話を聞く。そして警備兵の話を聞いて銭湯へ向う。巨大な浴場施設。平民が臭いのが我慢ならんと最低何日かに一度は料金という税を払って入浴する義務がある。
ああ、料金は税で既に払われているから入らないと損になる仕組みらしい。
色々な者がこの領にはいる。
ただあの男、口癖が俺貴族!言うこと聞け!敬え!跪け!働け!税金納めろ!献金しろ!
普通に領民に言っているらしい。領民はそれを受け入れている。当然だと。
当然だと領民に心から思われているのだ。
「すまない。フェイ殿。頼めた義理は無いだろうが申し訳ないが頼みがある。」
私には早急にやらねばならない事がある。




