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7.ロイ君6歳になりましたが

ロイナートが6歳になった年。


正妻である母が妹を一人。側室2人がそれぞれ男女を出産


弟一人と妹二人。


親達の注目はランナートの反応はもちろんのこと。


一番の注目、注意はロイナートの関心に在った。






私は嬉しくてロイに同意を求めた。


「ロイ、弟と妹二人だな。」


「はあ、スペアのスペアが一人と駒二人ですか。」


貴族事情、継承事情を露骨に出した反応。あまりの露骨さにランナートも失笑する。素直に喜べんのかと。




「嬉しくはないんだな。」


「まさかですよ兄上。見ましたか?天使ですよアレは。神が間違いだった、人ではない、天使だったと誕生を取り消して、取り戻しに来たとしても、なんとかして打ち破り、守らねばならない!」


ん?喜んではいるのか。過剰すぎやせんか?言動がおかしくなっている。否定はないが。若干過激な気が。


「この間シヴェーラ母上の昔の家である騎士爵家の親と称する者がお祝いに来ていました。」


「うむ。これで騎士爵家も安泰と言ったところでロイが『この子はイバーナ家の子供ですが?』と言って凍りついてたな。」


アレは笑った。シヴェーラ義母殿もまんざらでもなさそうに満面の笑みを浮かべていたな。


なら何故最初に皮肉ったのだロイは?何か裏があるはず。


喜び方的には実験の被験体としては見ていない。どこだ?何を考えている。




「幸せになってほしいなあ」


ん?まるで不幸前提の口調ではないか。弟妹の幸福を願う兄。自然すぎる当たり前の願い。


貴族の子弟には不幸な未来も有り得る可能性の示唆。未来でも見えるのか?判らない。









ロイの発言に理解できぬままロイの部屋を出て母の元へ。正妻であるヴィアーヌの元へ行く。


彼女はロイの母にして同じ生みの親である。何故か的確にロイの行動原理を理解しているようだが。話をする時に肝心なところを誤魔化す人でもある。


こちらも笑い話の種のように誤魔化しながらロイとの会話を聞かせてみる。


「ふーん。」


妹を抱っこしたままランナートを見透かすように鼻をならす。


自分を気にせず妹をあやすようにリズムを取って身体をゆらす雰囲気がなんとなく、それでも神童かと解らないのかと思われいる気がする。


ふいにニヤリと笑う。ロイと一緒だ。予測し検証し実験し。全てが一致した時の顔に近い。


「そっかあ。貴族法と慣習に対する皮肉かあ。シヴェーラ。ロイの発言に歓喜していたあなたはどう思いまして?」


「わ、私は継承権第三位であったとしてもそれはとてつもない幸運です。騎士爵家出身ともなればなおの事。ただ、私はロイナート、いえロイが私を、私達を家族と思っていてくれていた事が嬉しかっただけに御座います。」


貴族法、それと慣習か。母ヴィアーヌを真似るように弟をリズムをとって身体を揺らしあやすシヴェーラを見ながら考察する。


反対に目を向ければ所在なさげにもやはり真似て妹をあやしている女性。


「チェチェン?あなたはどう思う?」


「わ、わ、わたくしも、駒とは称されましたが家族であるからこその。その、ご心配のお言葉と。嬉しく思います。」


なるほど。これが慣習についてか。立ち上がって許可をとりチェチェンの抱く妹、弟、そして母が抱く妹の頬を撫でてみる。


ああ、なんて可愛い。称する通りにロイと比べれば天使の様だ。いずれ口を開いたら何を言われるか分からんが。




「ラン。ロイの欲しがった前回のお土産は貴族法典。普通に手に入るから最新版をあげたわ。もう一つが裁判凡例に関するもの。これはまとめがなく書籍にもなっていないのでただの写しだったわ。」


「しかし手渡された時期は一緒に御座います。奥様」


そうだね。不思議だね。なんでこういう時に限って当たり前のようにここにいるのかなロイ専属さんは。


おもしろくない、おもしろくない。




「坊ちゃま専属である以前は、奥様輿入れと共に参ったので。元は奥様付きと以前も申し上げましたが?」


それは嘘だと判る。だが何故簡単に入れるかの理由も知ってる。


そうじゃなくてさっきまでロイと私と共にお茶してただろうが。


ロイの言葉にうんうんと。


私に視線を向けて如何にも判ってないだろうと早く精進しろという目で笑っていたくせに。


本当におもしろくない。




「そうよねえ。私としてはランに大分先に渡したつもりなんだけど。厳密には二ヶ月ほど差をつけて」


ふん。そんな揺さぶり無駄ですよ?何故ならそれが事実と自分で判っていますから。


手を付ける優先順位でロイより低いのですよ。母上の内容は。


異常という意味ではおもしろいがロイほどでもない。



「だから足元をすくわれるのですよ。ロイ様なら疑いなく暇を見つけて読みますよ?」


なんでエマさんがドヤ顔で答えるのさ。色々教えていたのは知っている。自分も教えた一人だからな。


「ついでに。使用人全てが被害者です。」


ドヤァって、エマさんその表情切れても良いですか?本気で。




「あら、ロイの質問攻めを被害者というなら使用人達だけでなく私を含め屋敷全員。それこそ無関係な者なんているのかしら。」


母上、、、それが正解。エマさんの何故か悔しそうな表情に溜飲をくだしながらその場を離れるのだった。








幸せになってほしいなあ。ロイはそう言った。感情的な話だ。


そして貴族であるから発生する義務。慣習と決まり。


王国法、貴族法、領法。その順で適用されている。既に数度は読んだ貴族法典を再度パラパラめくる。


主に子爵と騎士爵の爵位という単語が有る箇所。そして家族、継承権。




頭では理解していたつもりだった。


法とは決まりであり守らなければいけないもの。それだけのもの。


そうさ、そんな些細なことはどうでも良い。


ロイが気付いて私が気付かなかった。それが問題だ。おもしろくない。




悔しいがヒントは貰った。裁判凡例。貴族法典をサラッと目を通して確信した。なるほどと。


継承権。1位が次、1位が亡くなれば2位が。2位が亡くなればその次、その繰り返し。それが貴族法。


駒。貴族間の繋がり。嫁入り先との繋がりの強化。


出身の家の継承権の者が全滅すれば生き残った駒が呼び戻される。それが慣習だ。



1位だろうが2位だろうが当主の予備。当然後ろ盾や派閥争いがある。法典には無いがおそらく裁判凡例には有るのだろう。




兄弟同士もしくは家同士、その争いの結果が。




法が有るということは過去にそれで問題が起こった可能性がある。


継承権で問題が起こった事がある。


家同士の繋がりから問題が起こった事がある。




その結果が凡例なのだろう。


ロイは予測まで立てて結果を気にしたのだろう。




可能性として有り得る未来は自分らの役目を理解した弟妹が兄を廃して継承権を奪う。


奪わなければ幸せになれないほど追い詰められる。


親の実家の当主になれという圧力や暗躍。


嫁に出す家も側室の実家と良い繋がりが持てるようにと勝手な要求。娘への圧力。


婿入りや嫁入り先が子爵家の最低でも重臣でないととか。


子爵家の籍を持って高位族のかなり年齢の離れた相手に無理矢理押し付けさせようとするとか。


考えればきりが無いな。




ああ、だから幸せになって欲しいのか。


弟と妹だから仲良くしたい。いがみ合いたくないと。


自分だけがいずれ貴族で無くなる家になる、追い出される、自分だけが好きでもない人に嫁がされる。




それはこの家庭内でどれだけ妬み僻み軋轢を生む可能性がある事か。


それで皮肉にスペアのスペアで駒だと言ったのか。




それで『シヴェーラ母上の昔の家』と称し弟はイバーナ家の子供であるとわざわざ釘を刺し家族である宣言をしたのか。いがみ合う気は無いと。


そしてチェチェン義母殿は娘がイバーナ家の駒であると称され家の者としてロイに認められた事を微妙ではあるが喜んだのだ。




継承権は貴族法で決まり。娘の行末は慣習で政略結婚させられる。




違う!私は嬉しそうに弟と妹だと言った。


だからロイは嬉しいのに心配ですねと皮肉を言ったんだ。


こういう不安がある。素直に喜べない貴族って嫌ですねと。


クソ!だからあのババアはあの短い皮肉を理解できなかった私を見透かして、如何にも判ってないだろうと早く精進しろという目で笑っていたんだ。




新しい弟と妹二人に素直に喜んでいた。ただ浮かれてしまっていた。次期当主なのに!




お披露目の時に図書館に行っとけば良かった。


ロイは間違いなく貴族エリアの書物までいく。そういう揉め事を起こした家の裁きの結果や末路の確認に。


次私が王都に行けるとしたらロイのお披露目の来年。






一緒に行けば同時ではあるが遅れたわけじゃない。結果を見るだけの事だ。


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