6.素晴らしき忠臣
素晴らしい!素晴らしい家臣ではないですか兄上!
金が掛かってますが。
それでも命の危険が迫っているこの状況下で、自分の身体を盾にしてでも我ら兄弟を守ろうとする。
忠臣、これぞ忠臣という者達!
「二人共構わん、ロイの後ろに下がれ。」
「し、しかし!」
「良いから早くしろ。」
流石兄上の指示。護衛二人も逆らえず剣を構えたまま魔物を睨みつけながらジリジリと下がる。
狼達が15メートル程度、オークが30メートル位の位置で止まった。
狼は後ろも気になっているのか耳をピクピクさせながらジリジリとこちらに寄ってくる状況。
オークは僕目当てみたいだ。三つ巴だ!
でも、エマの身体目当てじゃないんだな、オークよ。
実験体が6体。しっかりとこちらを睨みつけています。ロイの口元が思わず三日月になってしまっている。
「怖いなあ、そんなに睨まないでよ。僕泣いちゃうよ?」
良いんですか?本当に良いんですかね?しかしランナート様の指示は聴かねば。
しかし、しかし!責任も!
と思いつつも、なんか御子息達が楽しそうにしているのが気になる。
えっと良いんですか部隊長?え?エマ様も指示に従えって言っているから従うべきだと?
いやでも、護衛対象を前に出すなんて、しかも幼児ですよ?
関係ない。上司だと。貴族様だと。はい従います。
ほらほら、泣いちゃうとか言ってますよ?処刑嫌だぞ隊長さんよ!ってか本当に何する気なんすかね。
掌を魔物達に向けるロイ様。
ロイ様の掌の向こう側が一瞬の白い世界に染まる。
すぐに魔物達の悲鳴が上がる。
地面をのたうち回りながらキャンキャンブーブーうるさい。
次に聞こえてきたのは御子息二人の爆笑する声。
「ふ、二人共、もう良いぞ。プッ、あれなら簡単だろ?止めを刺してこい。」
いやあ、有りなんすかね。まあどう見ても転げ回るだけの魔物なんて怖くもないんですが。
隊長がエマ様を見る。自分も見る。エマ様が魔物の方へ顎をクイ。
ですよね行ってきます。
おもしろいなあ。本当におもしろい事を考えつく。本来、ライトの魔法は非常に簡単で使用魔力量も少ない。
発動時間は一定時間。普通は丁度1刻程。魔力を増やせば時間が伸びるが少なければより短時間となる程度だ。
明るさは部屋が明るくなる程度。
それが常識。常識だったのだ。
先日の父の視界潰し事件。確かに当たり前の事、くだらない事をと父は弟を罰した。
だが本音は弟の心配だったのは見て取れる。
もっと身体を大事にしろと。当然僕もそう思った。一応自分も兄として注意しよう。
という建前のもとロイと話をしたくて面会する。しばらくは騙されたとブチブチと愚痴を言っていたが。
明るさが変わる?当たり前ではないのか?うんうん。そうだな込める魔力量が減れば気持ち暗いな。
ん?空にある日の光を直接見ると眩しくて直視できない?痛くなる?
その後に他を見ようとしてもしばらく見れない?
まあ、その通りだが。
いや待て。暗くて見えないではなく。眩しくて見えない。夜目が効くものにすら目潰し効果が有ると。
昼間でも可能と。そう言いたいのだな?しかも他の魔法でも同じ事が言える可能性があると。
例えば種火?指先に灯るちょっとした火だな。
それでこの燭台の皿を炙ると、うん煤ける位だな。で?
同じ大きさの火を想像してそこで使われる魔力量だけ増やすと。無理矢理魔力を込める感じだな?
ふむ。って、熱っちい!へ?あれ?いや。なるほど。
おもしろい。おもしろいなあコレ。実験がしたい?ふふふ、兄上に任せたまえ。
ん?戦闘訓練にもなるかもとな。ロイの事だどうせするんだろ?
自分も興味がわいた。だから任せろ。だが時期は伺う。耐え忍ぶのだ弟よ!
うん。忠臣である。弟と僕が立てた予想通りだ。予想通り過ぎてちょっと拍子抜けだ。
なんか起きないだろうか?おっとロイ専属よ。震えるからそんな目で見ないでくれ。
お、おお、おおおおおお!オークが復活した!しかし騎士2対オーク1だ。オーク不利だぞ?
んん?しっかりとこっちに睨みを効かせ、弟めがけての。超突進!良いね!
対して騎士は進路上を塞ぎの構えての、、、ふっ飛ばされた。
弟よ目を輝かせながらやって良いですかじゃない。順番は私だ。
種火の魔法に魔力を通常以上を集中して注ぎ込み。指向性を持たせて。
消えたな。オークの頭。ヤバくないかこの魔法。え?障壁も同じ感じ集中させれば防げるのでは?って。
それはそうかもしれないが。
、、、そうなるな。
試すか。むろん私が受けだ。弟には危ない事はさせられん。
子爵家を継ぐ兄上にこそ危ない目には合わせられないって。ロイの場合は自分が試したいだけだろ!
ロイのこと言えんが。魔法を弾く瞬間か。それは是非ともこの目で確認したいな。
実に素晴らしい光景でした。無駄な命を張った忠臣、無事だけど。それを嘲笑うロイとランナート。
瞬殺のオークに惨殺死体の上で次の実験予定を嬉々として語る兄弟。
ようやく来た仲間達が魔物の解体を始める。
忠臣って素晴らしいものですね!
ところでお二人がいつまでも実験話をするので鳥の方の解体が終わってしまったのですが。
チラリと見れば。死んだ目をして兄弟を見る先程吹き飛ばされた護衛。
その護衛を哀れんでいる仲間達。誰も動きませんね。
ええ、たしか薄く浅くまんべんなくでしたね。
薄く広まった火の板はまるで焼いた鉄板のようで、結構良い焼き加減になっていきますね。
串焼きに致しましょう。
おもしろい。
これならわざわざ焚き火を起こしたり火魔法を起こさせて二人がかりで肉を焼く必要もないですね。
「お二人共、食べないのですか?」
「「食べる!」」
所詮は子供ですね。胸元から岩塩の粉末が入った瓶を取り出して肉に振りかける。
ロイは少々お待ち下さい。
ランナート口に出さなくてもババア塩をどこから出してんのってのが表情で分かります。
ランナートには塩を振っただけの物をそのまま出す。美味しそうに食べています。
ロイには前にロイが言っていた。この風味が肉に付いたらもっと美味しいかもという草を乾燥させた物のを粉末にした物を更にふりかけます。
美味しいですか。それは良かった。
僕には無いのって?すみません。もうありません。
使った物?さてババアなものでどこで取れたのかどんな形状だったのか。
どんな香りだったのかもおぼえておりませんね。
ズルい?ババアなもので贔屓した記憶もございませんが。
全く軟弱な。表でお姉さん。裏でクソババアと言ってるのを隠し通せるくらいの仮面を有してくれないと。
困ったものです。次期様は。
あん?言ってない?表情で判るっつてんだろうが!
ロイ?ああ、あの子は本能で動いてますからね。単純に腹減ったの顔しか出ていませんでしたから。
影でババアと言っているかもしれませんが。
私は気付かなかった。それが全てでございます。
理不尽とは思わない。僕も判る気がする。ですか。
それはやっぱりクソババアって思ってるってか!このクソガキがああ!
まあババアは事実ですが。