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5.メイドは見た

エマ。家名も無いただのエマである。


イバーナ子爵家のロイナート専属侍女。


生まれた頃よりロイナートの成長を見守り、手助け、教育している猛者。








3才の頃から始まった異端児による質問攻撃と実験検証行為は彼女をタジタジにさせては困らせ。


ハラハラさせては困らせ。嬉しそうに結果を彼女に報告しては驚かせた。


元魔法師。


元貴族愛人その後侍女という貴族社会に務める者、仕える者では意外とよくある生い立ち、さらに冒険者という職業の経験まである。


その生い立ちはロイの教育に役立っているのだろうか。


魔力の使い方。魔法の法則。文字の読み方書き方。計算方法。教えればすぐに身に付けて彼女を驚かせる。


ロイは不思議だ。教たことを納得するまで繰り返し練習する。


終わったから来るのかと思えばその先を勝手に始めて失敗し、彼女にその結果を教え助言を求めてくる。


おもしろい。


我儘で碌でもないがおもしろいのだ。


いつの間にか兄弟2人揃っておもしろくなってきた。


冒険者時代のハラハラとした時を思い出す。


魔法師として強力な魔法を放てた時の達成感にも似た感情。




だが、5才になると行動は度を過ぎた。


兵士と共に体力向上教育として屋敷を囲う塀辺りを周回させていた時だ。


ロイの体内で若干魔力が動くのが感じ取れた。


スルスルと微弱ながらも腕の方に向かわせたり頭の方に魔力を動かすのが感じ取れた。


皆が感じ取れる程まだ強力なものではない。


それこそ貴族で魔力感知の修練を受けた者や魔法師としてもそれなりに優秀でないと感じ取れないだろう。


魔力とはそういったものだ。




足の方に魔力が向かったのが判る。でもあの程度では身体強化は感じ取れないだろう。


だがロイは何かを感じ取ったらしい。


彼女は優秀だった。ロイの表情が変わったのが見えたのだ。


マズイかも!と思い口を開く。しかしロイの行動も早かった。魔力がより強く一気に足へ集約した。


「いけません!」




彼女が声をかけたが間に合わない。魔力を纏ったたった一歩。


たった一歩の踏み出しでロイは加速し離れた壁へ激突した。


崩れ落ちるロイ。額や鼻から吹き出した鮮血。反対を向いた手首。


血の気が引くよりも真っ先に。


それこそ彼を先導し見張っていた兵士達が動き出すよりも早く彼女はロイに駆け寄る。


マズい、マズい、マズい。掌に魔力を集中し傷口を押さえる。軽傷程度なら治せるのに!




「何を呆けているのですか!神官を呼びなさい!治癒師でも良い!」


叫ぶ彼女の声で動き出す周囲。それこそ蜂の巣をつついたような状況だ。


兵士や他の侍女、使用人が走り回り。


重症のロイを運ぼうとする彼女の手伝いをする。


神官と治癒師が同時に到着し交互に治癒を始めるが目を覚ます気配がない。


仮に意識が戻ったとして記憶は大丈夫か?


心は大丈夫なんだろうか?不安が彼女を襲うのだった。








結果なんともなかった。呆気ない程に。


そして帰還した当主は彼に安堵し罰を申し渡した。これでおとなしくなると良い。


他の使用人には聞かれない程度の当主の呟きを彼女は拾う。当たり前だ。彼女の耳は地獄耳。


冒険者は風の中からでもかすかな音を拾わなければ命に関わる。


無駄な事を。


ロイはほんの少しの疑問から考察し、検証する為に実行するのだ。


考察期間が長ければ疑問は増え検証事が増えるだけに過ぎない。


そして本という勉強という建前の名を被った新たなる薪。




ランナートにも言えるのだが喜んで燃料を焚べている様にしか見えない。似たもの親子ですね。


ランナートとロイは互いに薪を投あい、父親が更に燃料を投下する。




旦那様へロイの様子を報告する。


しばし考えているご様子。ゆっくりと立ち上がると更に何か思い詰めるようにどこかへ向かう。


そっと後ろを付き従えばロイ様の部屋の前ですね。




可哀想な事をしたかもしれない?何言ってんだ?この親父。


あのロイが実験と称した検証をやってあの程度の罰で落ち込むわけがない。




不安そうな横顔でそっとドアに隙間を作る。当主が覗き込む。感じる魔力の高まり。


うん。少し離れましょう。


眩い閃光が旦那様を襲う。


『めがああああああああああああああああああああああ!!!!!!』


「目があああああああああああああああああああああああ!!!!!!」




全く同じ様に顔に両手を当て床をのたうち回る姿は本当に親子ですね。


思わず腰に手を当て指をさして声に出さずに『ざまあ!』としてしまったではないですか。


あらランナートが見ていたようね。気付いていましたが。って彼もお腹かかえて笑いを噛み殺していますね。


まあ、かなりの人が注目して笑いを堪えているのが判るんですけどね。奥様含めて。







「今度は薄く広く浅くでだっけ?丸焦げの丸焼きではなくじっくり焼くと。」


「本当に碌でもない事を考えますね。」


思わずツッコんでしまった。




乗馬訓練に視察という流れ。ランナートの思惑通りの外界という新たなる燃料。


思考期間に思いついた疑問の検証先を用意する為の方便。本当に仲が良い。


監視という実験結果が気になってしょうがない父母達からの護衛と世話係の侍女をつける条件という方便。


本当に似ている。




森には魔獣や魔物という脅威がいる。先日あがった閃光という魔法を戦闘に応用できるのではないか。


それと同じ原理で、反対に魔力濃度を薄め纏うように火魔法を肉に当てれば程よく焼けるのではないか。


そういったものらしい




なるほど。で?


お腹も空いたし丁度良いなと。


ふむふむ。


農家に大銀貨を渡してみようかな。


何故?


一羽でと言ったが貴族の言うことに幸運だと言って素直に懐にしまうか。


それとも勘ぐって相場に近い形で五羽位をわたしてくるか、、、か。


渡さないのは論外ですね。こっちは貴族。


確かに。


ついでに彼らにも大銀貨、いや小金貨をあげてみようかと。


報告するか黙って懐にいれるかってところか?


人の心って不思議だよね。誘惑、疑心、正義感、責任感。


なるほどなあ。いずれ人の上に立つ者として必要な検証か?


いえ、兄上には必要かもしれませんが自分のはただの興味です。


おもしろい。して出た魔物はどう討伐する?


自分と兄上で魔法で殲滅したいところですが忠義心の確認等もできますね。


素晴らしい。





とんでもない兄弟もいたものだ。部下を、人の心を何だと思っているのか。


おもしろい、実におもしろい兄弟だ!




ロイは何でもなさそうに地に落ちた血にむかって風魔法を行使している。


護衛の二人は気付かない。それほどささやかに、そして自然に風が吹いているように思える程度の風だ。


「実験だよ。閃光魔法の。」


「ついでに魔物で魔力感知の鍛錬に人間観察ですか。」


建前上ため息をつくエマに微笑するロイ。








どうやら期待通り、いえ期待以上の成果なようです。


狼が五頭にオークが1頭。狼だけなら部隊長ともう一人で大丈夫でしょう。オークでも変わらず。


しかし素晴らし組み合わせです。俊敏な狼と力強いオーク。


距離は森を出てすぐの位置にオーク、その前50歩ほどに狼。


狼と我々との距離は200歩ほどでしょうか。どうなることやら。




「お逃げください!ココは自分達が食い止めます!」


「いかん!ロイ様が動けない!クッ、身体張ってでも怪我させねえぞ!」


なんという忠誠心!しかし肝心のお二人はといえば相変わらずの笑顔のランナート。


そして下を向きプルプルと震えているロイ。


遠くにいる護衛達も気付いたのでしょう。慌てこちらに向かう姿が見えます。


焦る護衛にこちらに狙いを定めた畜生共が迫ります。




ロイが恐怖で動けない?


いいえ、悪童ロイがたかが獣畜生ごときに怯えるわけがありません。


喜びです。喜びに打ち震えているのです。


動けないではなく踊りだしたいのを我慢しているのでしょう。




その証拠に


「あは、あははははははははは!!二人共下がって!邪魔!」


ですよね。満面の笑顔。


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