4.罰解除後
ようやく罰が解除された。
長かった。一ヶ月って言ったじゃないか嘘つき!
程よい日差しの今日この頃。
我らがロイ君お散歩中。
馬術訓練という名の。
隣には兄上。反対隣には専属侍女のエマさん
先頭には鉄の鎧を着た人が二人。後方にも似たような人数名。
「良い天気で良かったなロイ。」
「はい。とても良い天気です。」
ぽっくりぽっくりお馬さんに乗って移動中。馬と言っても子馬だ。
兄上のも子馬。兄上が貰ったと同時に自分の分もと父に強請ってくれたらしい。
でも馬の世話も偶に練習させられる。兄と一緒に。
別にまだいらなかったのにな。でも兄も嬉しそうだし良いか。
「それで、何故こうなった」
父上怖いんだけど。
ヤンナートは先程の視界攻撃から回復すべく神官を呼び、自身の目を回復させると次いで治療中の息子に問いかけた。
「圧力です。」
「圧力だと?何だそれは」
「例えばですが2つの同じ大きさの桶を用意し横に同じ大きさの穴を開けます。その時大きさが同じ桶でも入っている水の量が多い方が水は勢い良く飛び出します。それはその水の量が多い方が同じ大きさの穴に対して押し込む力が大きからと考えられます。では魔力はどうでしょう?同じ魔力量でも保有魔力量が増えたら?押し込む量が増えたらどうなる?天井の灯りを見ていたらなんとなく。」
そんな事は聞いてない。興味はあるがそうではない。
そう思いロイに視線を向けると目は回復したらしい。
頷きながら検証結果を報告してくる。
罰には従ってたんだし違反はしてないよね?って雰囲気で言うのをやめてもらいたい。
確かに違反はしていない。
だが行動が変わらないのでは罰の意味がないではないか?
ヤンナートとしては罰する。罰とは行為を改善をする為のものと思っていたのだが。
まさかの室内から出なければ良いという抜け道。
覗き見ていて行動も止めなかった自分も悪いとは思う。だが何故反省期間中に行動する。実行する。
「しかしおもしろい結果がでました。魔力を多くすると明るさがより明るくなる。」
当然の結果だ。火魔法で火を出す時に大きい炎にしようとすれば多くの魔力を消費する。
何を当たり前の事を検証してるんだ?このバカ息子は。
ため息しかでないな。もやもやする胸を抑え深呼吸一つ。
「謹慎一ヶ月追加」
「え?」
すっと立ち上がると部屋を出るヤンナート。
部屋を出る間際にちらりと見れば意味を理解したのか絶望したような表情のロイ。
少し気が晴れた気する。
「そ、そんなちちうええええええええええ!!」
心地良い悲鳴である。幼児虐待?知るかそんなもの!躾だ!しつけ!
はい。騙されました。
一ヶ月が嘘で二ヶ月が本当だった。
やりたい事確かめたい事実験したい事が増えるだけの日々にさようなら。
たくさんの実験達よ。おまたせ!
ってな訳で現在乗馬中。視察も兼ねるらしい。
兄上には視察の報告書提出が課せられているらしい。真剣に周囲を観察しながら行程を進める。
僕も真似て周囲を見渡す。何故か隣の専属さんと後方の人達の視線が鋭くなった気がする。
何?怖いんですけど。
「どうかなされましたか?ロイぼっちゃま」
「兄上が何を見ているかと気になった」
なるほどと専属さん。後方もなんかほっとしたような息が聞こえる。
「僕は周囲の地形や農地、人の動きを観察しているんだよ。ロイは何か気になることないかい?」
空気が凍った様に静まり返る。
「そうですねえ、この馬に取付られている鞍なのですが脚をしっかり締めないと落ちそうで怖いし疲れますね。」
「そうだね。だから訓練してしっかりと鍛え技術を身に着けないといけない。」
空気が少し緩まる。
「ですね。ですがこの足元不安定状態の根本的解決方法として鞍に足を置く場所を固定して取り付けたらどうでしょうか?ある程度までの長さで鞍から革や紐等を伸ばしたり木を組み合わせたりして。」
再度空気が凍った。兄上は笑顔のまま口元に手を当てている。
エマさんという専属メイドさんが胸元から何かを取り出し、いや筆記道具だ。何かを書き始めた。
「おもしろいな。作らせてみるか。」
兄上考慮時間数分。実験への許可いただきました。
「ところで兄上。ここら辺りはのどかな感じですが魔獣や魔物はいないのですか?」
さらに空気が重くなる。何だよ。なんで一々みんな目が鋭くなるんだ。やる気?幼児ヤル気?
「いないな。いや、あっちの森を見てごらん。偶にあそこから魔獣や魔物が飛び出して家畜や人を襲うことが有るらしい。」
「魔の森ですか、怖いですね。」
「いやあれは魔の森ではない。もっと南の、山を一つ越えたところにある村以南が魔の森だ。この辺りで出るのは子供でも倒せる程度の森の浅い層の魔物だ。問題ない。」
ほうほう。魔の森ではないところにもいるわけですね。ふーん。
すると実験しても問題ないはずだ。うんうんと肯きながら顎に手を当て考えるポーズ。
「兄上、流石に足が痛くなってきました。休憩させていただけませんか?」
ザッと全員の顔がこちらを向いてロイに集中する。
訝しむ目。全てが訝しむ目だ。しかし休憩したいのも事実だろう。
互いに目配せ。最後にランナートへ。
「確かにそうだね。僕も少し疲れた。皆、休憩だ。」
笑顔で答えるその瞳は少しの期待をもたせていた。
私の仕事は護衛だ。私設騎士団の部隊長である。
ゆくゆくはランナート様を支え、、、そんな事今はどうでも良い。
本日の仕事は御子息2人の護衛だ。正確には監視という名のである。
神童のランナート様。異端児のロイナート様。
特にロイナート様はおかしい。神童と呼ばれるランナート様が普通に思えるくらい。
「あそこのコッコってよく食べる鳥だよね?」
ロイナート様ことロイ様が話しかけてくる。休憩になってすぐだ。おかしい。
「ハッ!左様に御座います!」
「どうやって肉になるんだろう?生きているところから肉になるまでを実際見てみたいんだけど。」
なんだ?何が狙いだ?お腹が減っただけか?いや捌くところを見たいって言っている。
素直に聞けばそれだけだ。
一応他の者に視線を向けるが戸惑った表情をするばかりだ。頼みのランナート様は笑顔のままだ。
「じ、自分は一応捌けます。があまり見ていて気持ちが良いものでは」
「見たいから1羽貰ってきて!代金は払うから、ほらあそこに農家の人がいる!交渉してきて。大銀貨一枚でいけるよね?」
そう言って懐から袋を取り出し大銀貨を押して点けてくる。強引、我儘。噂通りだ。
周囲の空気も諦めムード。ランナート様は笑顔で変わらず。
仕方がないと馬で農家のもとへ。交渉し五羽を生きたまま交換してくる。
そりゃそうだ。普通なら少銀貨2枚で一羽まるごと市場で買える。
休憩場所に戻ると御子息二人が楽しそうに会話していた。
「お待たせいたしました。一羽で良いと言ったのですが」
「ああ、良い人なんだね。それじゃあ捌いてって言っても子馬が怯えるかもしれないから数人は馬を見張らせてここから離れよう。」
そう言ってテクテクと歩き始めるロイ様とニコニコ付いていくランナート様。
いや困るんだがと周りを見れば部下が一人と侍女が二人の後を追う。
付いていくしかない。
結構離れた。
この辺りでと言われ、鳥を縛っている縄を解きその縄で鳥の足を縛り木の枝に吊るす。
血抜きの為だ。逆さまになった鳥がバサバサしている。
大丈夫なんだろうか?結構エグい光景になるんだが。と振り返れば何故かワクワクした表情の御子息二人。
苦虫を噛み潰した表情の侍女と部下。
嫌な予感がする。吐く?残酷な光景を見せやがってと叱責を受けないか?そういう事の不安なのか?
そう思いながら森の入口の木に吊るされた鳥達を見ながらナイフを取り出す。
「やってくれ。」
ランナート様の声がかかり、部下もナイフを手に鳥へ近づく。ふん!と鳥達の首を跳ねれば途端に勢いよく血が流れ始める。
慣れてなければ凄惨な光景だ。振り返って見る。やはりワクワク顔のお二人。
全ての首を切り落として後はしばし血抜き待ちだ。
「ご苦労さま。これからもよろしくね」
そう言ってロイ様が自分と部下に何かを握らせてきた。小金貨。特別手当?結構遊べる額なんですが。なんだろう。
やる気出てきた!
良い風向きだ。現在風は森に向かって吹いている。
こういった森では浅い層では小型の小獣。一角ウサギ等が出現。中層で狼やゴブリン。
深いところというわけではないが熊やオークが稀に出るらしい。
「出るかな?まだかな?中層位には届いたかな?」
「面白い事考えるよね。光魔法の実験だっけ?」
コソコソと話し合う二人。
「はい。目くらましみたいなものですが凄く痛いです。多分視界を奪えると思います。」
「うわー。見たい!凄く見たい。圧縮した魔力で放つ光だよね。僕がやりたいなあ。」
「僕が思いついたんですから。その代わり鳥を焼くのはお任せしますから。」
それは残念と言いつつも笑顔の兄。そしてワクワクが止まらいといった表情の弟。
似たもの兄弟である。
「今度は薄く広く浅くでだっけ?丸焦げの丸焼きではなくじっくり焼くと。」
「本当に碌でもない事を考えますね。」
二人の会話を割って入る猛者がいた。




