3.ヤンナート子爵
ヤンナート・イバーナ子爵家当主。28才
イバーナ家は南方を治める領地持ち貴族である。
と言っても特別広大な土地を持つかと言えばそうでもなく。
あるにはあるのだがそこは未開の地。
山脈が現在の領地と未開の地を遮り山を越えても魔の森という魔物や魔獣が多数いる森が占めていて切り拓けない。
毎年山越えして現在でもある数カ所の村の安否の確認する位が関の山だ。
他領からの測量で森の向こうに海が有ることは判っているがシーサーペントという海獣?海竜?が船を襲うらしい。
討伐履歴を探っても数百年前に多数の魔道士を動員してだったらしい。
現代の戦力で、他家に協力依頼を頼み子爵家の全戦力を投入してまで海経由の領地をつなげる価値が有るとも得られるとも限らない。
したがって領地が増えることが無いただの子爵家だ。
不思議な子だ。そしてしつこくて我儘。
我儘な子は思い通りにならないから我儘を言う。困らせて親の気を引く。
他の貴族の子供の話を聞けば普通なら共感できるのに共感できない。
特に親の気を引くという時点で。
上の子は初めは凡庸に思えたがいつの間にか神童と評される程に成長した。
話をすれば原因は弟のロイナート。
3歳頃になんでどうしてを繰り返し。
自分がやってみて、何度も繰り返し。
同じ現象が確実に起こるという結果が出ないと納得しない。
ランナートより先に魔法を発動させた。
それがランナートのプライドに火を点けたらしい。
二人が会話する光景は微笑ましい。
だが、内容がおかしい。
上司に嬉々として報告する部下。
優秀な部下に追い越されまいと意地をみせる上司。
優秀な跡取り達だね。安泰だ。
ランナートの努力には関心させられる。
お兄ちゃんの意地だな。
読み書き計算、魔法関連、体力と武術の鍛錬、礼儀作法。
どれをとっても親馬鹿丸出しで見て同年代王国トップだ。
『父上、ロイがやり始めた行動の中で作物に関するものがありました。』
突然の報告。
何々、しっかりと文字が書けているじゃないか。素晴らしい。
内容は確かに作物に関する物、小麦だな。
『連作障害だな。』
何やってんのこの子達。
使用人の話かなんか聞いたんだろうな。
一度育てた作物の土地で同じ作物を育て続けると不作になりやがては何も育たなくなる。
『ええ、一枚目はそれは事実と思われるという検証だけですが』
2枚目はそれに対する対応方法転輪作だな。普通だな。
3枚目、病気?作物が持つ独自の病気の可能性?は?ナニイッテンノ?コノコ
4枚目、それ以外を育てる事で対応可能かもしれない?
5枚目、、、空になった魔石を粉末にして蒔いた土と魔力有りの魔石を砕いた土。
6枚目そこで育てた作物は魔力が若干の回復が、、、
さらに数枚。
『どこでこれ』
『裏庭に鉢植えが幾つか並んでいますよね。有れ全部使ったみたいです。』
『は?』
『植えていた花を全て引っこ抜いて植え替え、花壇にまで手を出そうとしたので止めました。』
『う、うむ』
『庭師の責任では無いのでお許しください。しかしこの報告から考えると』
『ちょ、ちょっと待て』
『はい?』
落ち着こう。取り敢えず冷めたお茶で喉を潤す。
この子は優秀だ。
ロイを叱責せよというくだらない答えを出せば失望され威厳を失うだろう。
考えろ!考えるんだ!ヤンナート!父の威厳を今こそ!
『ふん、このまま検証を他の部下に引き継がせロイには別の興味を持たせろ。』
ど、どうだ!
『なるほど、さすがですね父上。おもしろい報告だったので継続の許可をと思ったのですが』
え?それだけで良かったんだ。
『こんな検証、他の者にやらせても変わらん。経過と結果だけを見せればロイは満足する。』
あ、なんかそれっぽい事言えた。なんか親子の会話と思えないんだけど威厳は守れたよね。
『早速その様にいたします。』
ランナートが去った。ロイの監視の目を増やさねば。
ランナートのお披露目が好感触に終わりほっと一息。
評価は神童だって。当然だな。
妻の懐妊と側室2人の懐妊に驚嘆。
若干正妻の視線に怯えながら馬車で自領への道。
突然の早馬と凶報。
無我夢中で馬に乗り換え、飛ばし、たどり着いた屋敷。
グッタリした息子を見て、胸の上下を確認し、呼吸をする息子に安堵する。
まさかの身体強化魔法。
体術の得意とする者が纏う魔法。
獣人が使う事が多い。
何故使った?使えた?否、そうではない。好きにさせすぎたのか?
顔を上げ周囲の者達を見渡す。皆真っ青だ。
当然だ、自分の息子を死なせかけたのだ!と一瞬思いかけて、それは違うと深呼吸する。
『皆、良くやってくれた。』
皆の顔がほっとした表情になる。
『これはロイの自業自得だ。追って罰を与えるのをロイが目覚めたら伝えておけ。』
それしか無い。
今後も好き勝手されると使用人達をいずれ罰する日が来る可能性がある。
息子が悪い、息子を罰すると分かれば使用人達も安心できるだろう。
息子の暴走程度は親が制御してみせねば。
静かだ。
ロイが目覚めたというのに屋敷は火が消えたように静かだ。
記憶も意識もしっかりしていた。
罰を罰と受け止め部屋から一歩も出ない。
ずっと本を読んだり、外を呆けて眺めるだけらしい。
ランナートも妻達も表面上は笑顔だが心落ちしているのが目で分かる。
使用人も同様だ。
まったく、アホほど可愛いというやつだろうか。
一ヶ月とは言ったが。しっかり反省しているようだし。
短くしてやる事も考えるか。
ロイの部屋へ向かう。
なんと言おうか。
どう言って親馬鹿らしくなく威厳を保ちそのことを伝えるか。
ほんの少し隙間を開け、覗き見ると呆けて天井を見ている。
気力が無いのか。叱りすぎたか?
それはそうか5才だもんな。
可哀想に思えてきたヤンナートだが不意にロイが立ち上がる。
何かに視線を集中し。こちらへ寄ってくる。
視線は一点へ集中。気付かれたか?
泣き落としかと思ったが違うらしい。
恐る恐るといった感じで人指を突き出し壁へ。
そうスイッチだ。スイッチに指を触れる。
灯りが消える。なんだ?また何かを。
突然ロイの魔力が指あたりに集中するのが判る。何をする気だ?
再度明るくなる。スイッチに触れたのだろう。
ロイの視線は再度天井へ。
下を向くロイ。ロイの目が赤く光っている!
魔力が目に集中しているのが判る。赤く光った目が怖い。
また天井へゆっくりと視線を上げるロイ。再び暗くなる部屋。
今度は2つの魔力の高まりを感じる。位置的に目と指だろう。
一つの魔力が高まった指と思わしきものが壁に向かってゆっくりと近づく。ゆっくりだ。
突然視界が真っ白になる。
え?っと思うと同時に激痛が目の奥に走る。痛い!見えない!
『めがあああああああああああああああああああああ!!!!!!』
「目があああああああああああああああああああああ!!!!!!」
二人の絶叫が屋敷に響き渡った。