29.影願う
サバートです。最近影が薄いと。
ええ、当然自覚しています。
そういえばフェイ殿が常に付き従っている専属護衛。
ヴィル殿が副官として部下への指示。
そうですね。
その通りです。
反論の余地もありません。
あ、勘違いしないでほしいです。
フェイに二番手奪われたとか思っていません。
ちょっとしか、、、
すみません。そういうことではなく。
たまにですが思うところがありまして。
いえいえ、ロイ様への忠誠、領への忠誠が揺らぐ事はありません。
ただ、
ただ、思うのです。自分がその立場であったならと。
それが出来たのか?やれたのかと。特に最近は、、、
ええ、クソガキ!って思ってましたね。領に向う時は。
後でロイ様と話していたら、なんだクソガキって程度だったんだ。
流石サバート。その程度で流せるんだな。
そういって笑っておられました。
流せる?とんでもない。自分のミスを痛感しましたよ。
嫌悪感丸出しで向かい合っていたのがバレていたのですから。
しかも笑って逆に流された。
貴族なら誇りを賭けて決闘をと言ってほしかったです。
でも相手の私は貴族じゃなかった。
どうにかして貴族になりたかった。
見返したかった。でも術がない。
信じられますか?名誉とは言えポンと爵位をくれると。
死なば諸共と金使って立場用意します?
あの笑顔の裏の苦痛。自分なら耐えられるだろうか。
血判。自分の指に針を刺して血をだして指の判を押す。
それだけだ。
プスプスなんて嫌だ!痛い!もう無理!声に出して言っています。
本心なんでしょう。でも考えて見て欲しい。
針を刺す、痛い。回復。針を刺す、痛い。回復。
家に帰ってから恐る恐る試しました。
思った程簡単に血は出ません。
今度は勢いを付けて覚悟を決め結構深く。
痛い!でも、この血の出方です。
コレがロイ様が普段やっている。
回復して再び針を刺す。痛い!紙に指を押し付ける。
指の傷を癒やす。再び針を指に、、、
ロイ様、あなたはどんな神経してるんですか。どんな心境で針を指にさしているんですか。
正直、七回目で拷問かと。刺すのをやめてしまいました。
だって痛いのは解っている。別に必要ないと諦められたのですから。
いい加減別の方法にしない?と提案して却下されて笑って許しているのを見て私は言葉を飲みこんだ。
周りも分かっているのだ。止められないと。
領民を護るため。領民の結束を護るため。
たったそれだけの理由。それだけの為だけにそこまでしますか?
笑顔を貼り付け。領民になる者が安心できるようにと力強く手を握る。
その手は自傷行為で傷だらけだと言うのに。
我らは笑って我儘な領主だ、仕事をしてくださいとしか言えない。
本当にヴィル殿とフェイ殿には頭が下がる。
ロイ様のあの姿をみて。意思を尊重し。絶対にロイ様の期待通りの言葉を言って笑い話で終わらせる。
言葉が詰まる時がある。私には覚悟が足りないのだろうか?
私は臆病で怖がりなだけだろうか?
ただ指に深く針を刺して流血させて血判を押す!
それを繰り返す毎日が怖いという事が!
塩の流通話が上がった。
何かする。絶対に良くない事が。
魔力紙というそうだ。
目の前には瓶が置いてある。
中身は魔石を砕いたものに特殊なインクを混ぜてあるらしい。
ロイ様が管を腕に突き刺す。管から流れる鮮血。
動きそうになった。だが動けない。
今この場はロイ様が決意して動いている場なのだ。
他には見せられない。
ここにいるのはロイ様、そしてエマ殿と私。三人。
なぜ選ばれたのか。そんな事はどうでも良い。
どれだけ時間が経ったのだろう。
ロイ様が不意にふらつく。
私はそれを慌てて支える。
エマ殿が管を引き抜き魔法で止血する。
『情けない、この程度でふらつくとは』
ロイ様がふらつきながら呟いた。
ええ、コレが紙幣製造の裏側です。
ロイ様の血液魔法刻印を使った裏側です。
ここまでするのです。ロイ様は。
ここの領主たるロイ様はここまでしてまだ足りないと言うのです。
正直悔しいと思いました。このクソガキと。
正直思いました。なんとか守らねばと!
ええ、良いでしょう。やってやりましょう。大人のやり方というね!
影で接触が大人の流儀。
影で暗躍が大人のやり方。
こんな事もあろうかと!今こそ我らの努力を結果を表に出す時です!
さあ、頼みましたよ!同士バロータ!




