28.親来訪
我が息子の領地の視察に行く事になった。
ランナートが書類のサインをロイの領でおこなってきて欲しいと。
なんだ?金の無心か?んなわけないな。
どう考えてもうちの領より大量の麦を換金している。
さらに鉱石を大量に派閥から買い付けている。
王宮への献金も滞っていない。
、、、やったなコレは。
妻達と子供達がウキウキと準備をしている。
偶に行っているからな。
私だけ領主で動く理由が作れなかった。
子供達はお披露目の時にも私よりもロイを慕っていた。
本当に何をやらかしたんだ?
うん。どこ、ここ。
この光景を見たら誰でも現実逃避したくなるよな。
息子の領地。そうここ息子の領地。
山の上から見下ろせば。最初に馬鹿広い放牧地。
向こうの丘に建物が丘下まで。その更に奥に街っぽいのが見える。
流れ行く景色を見ながら。本当にここ未開地だったのかと過去を思い出す。
本当にここどこよ。
もうね。なんて言って良いかわからない。
木造ではあるが立派な屋敷が立ち並び、丘の上に巨大な数階建ての屋敷。
そこに繋がる巨大な石の橋。何アレ?
街を行き交う人の交通量。
凄まじい目をして行き交う人々を睨みつける同じ服を来た長い棒をもった者を何度か見かける。
妻に聞くと警備兵だそうだ。それ衛兵とは違うの?
業務が違うらしい。詳しくはロイに聞けと。
ようやく馬車がロイ屋敷の前に着く。
降り立ち。妻や子供達をエスコート。
振り返ると街並みが望める。向こうに有る街まで。
ほんとね、もうね。言葉が見つからない。
ある程度は予測していた。人の流れ。鉱石等の物流。
予測はしていた。でもなあ。普通技術力ってのがあってだな。
「父上!お久しぶりです。」
おお、そうだったな。ロイが出迎えてくれていたんだよな。
立派になったなあ。家族との抱擁も終わって私待ちだったわけか。
うんロイを抱きしめる。向こうにこちらを睨む妻。
さっさとしろと。
「エマ!ナナ!父上達の案内頼む!母上は、、、先に湯殿ですね。分かっています。」
見知った顔が近づいてくる。私の前に立つと完全にドヤ顔だ。
「お久しぶりですヤンナート様。」
言いたい事はわかる。ああ、ロイはすごい。予想以上の結果だ。
で、なんでまだまだだなって顔するんだよ。まだ越えて来るのかよ。
本当に越えてくるんだな。湯殿って風呂じゃねえか!
なんだよあのバカでかい風呂は。頭おかしいんじゃねえの?
いくら使ったんだよ!
は?ロイにねだったら作ってくれた?
「おばあちゃん孝行な孫です。」
孝行、孝行なあ。ババアにどんだけ金使うんだよ!
私でさえ風呂なんか小さいので精一杯だったのに!
それでもかなり金使ったんだぞ!
そりゃあんだけデカイ風呂だ。妻達来たがるよなあ。
「父上。その、大変申し上げにくいのですが。」
一枚の紙が渡される。コレが用事か。何々?請求書?
大金貨100枚、、、内訳、ここの領都に風呂付屋敷一軒、海近に風呂付屋敷一軒、山の方に風呂付屋敷一軒。購入者サイン欄に妻達の連名。私のサイン待ち。
大金貨100枚かあ。
なにやってんのおおおおおおおおおおおおお!!!
「ちょっとロイちゃん完成はしたの?先月完成予定だった筈よね?」
「は、はい。完成はしております。ただ、その、引き渡しにはサインが。」
完成してましたああああああああ!!!
いや、どうすんのコレ。
「ちょっとあなた!さっさとサインしなさいよ!」
え?あれ?妻達も子供達もさっさとしろって顔してる味方は?
ロイがめっちゃ申し訳無さそう。そうだよね。普通承知済みだと思うよね。
でも確認くらいしない?家族だからいらないと思った?
私これでも領主だよ?子爵様だよ?
「お父さん早くして。使用人が動けない。」
娘が睨んできた。ん?使用人?使用人が既に準備万端なの?
「せっかく契約して使用人雇っても入れないんじゃ仕事させられない」
おい息子よ。そうじゃなくてな、って事はまだ金かかるって事じゃないか!
どうすんだよ。かなりの大金だぞ。
「父上、ちょ、ちょっとよろしいですか?」
ロイが立ち上がり私の腕を取ると部屋の隅へ。
「父上。金額が厳しいですか?それならこちらで負担しますが。」
泣けてくるな。勝手に高額商品を買い、さっさと代金払えという妻子に対して、自分が負担しようかという息子。大金貨100枚くらい捻出出来るよ?
これでも子爵家だもの。でもさあ高すぎない?
「その、申し訳ないのですが。全て風呂付です。それも三軒。王都で同じ物を同じ数だけ購入した場合よりは格安かと思うのですが。」
そりゃそうだろ。風呂付なら一軒で大金貨100枚かかるわ!
違う、そうじゃない。なにお前まで金銭感覚狂ったの?大金貨100枚だよ?
ポンと出せる金額じゃないの。他領に別荘。三軒買った?家臣達になんて言い訳するんだよ!まるで逃げようとしてるみたいじゃないか。不審がられるわ!
「む、確かに。ちょっと待ってください、、、そうですね塩取引に紛れ込ませましょう。それならバレない。」
「は?塩?海水塩か?」
「はあ、兄上にお聞きになっておられない?塩取引の契約の為に来られたのでしょう?」
は、はあああああああああああああああ?
今私の前には小皿がある。茶色い液体だ。
家畜の餌だそうだ。何でも手の内の一端を見せてくれるらしい。
家族だから、同じ派閥で出資者だからだと。
でも親に貴族に家畜の餌食わせるか!アホかこの子?
しかし、自信満々なんだよなあ。取り敢えず食ってみろと。
クソマズイからと。
だからなんでマズイもの食わせるんだよ!
取り敢えず従って小さじで舐め取る。臭い!喉の奥からこみ上げる吐き気!
差し出された水で口を濯ぎ桶に吐き出す。
「なんという不味さだ。」
衝撃の不味さだ。次にまた小皿。今度は白い。これが加工品。
ふむ食べれなくはないな。
そしてまた小さな皿に小さい粒の塊。
特に不味くは無いが。特段美味いものでもない。
若干先程の匂いに近いものは残っているが食べられなくはない。
「全て同じ物です。」
なるほど。これが仕掛けの一端か。これなら腹も膨れる。
今度は普通サイズのお椀に盛られた粒、米と言うそうだ。
そして茶色いスープ。肉に黒いソースをかけられたもの。野菜が数種。
一口ずつ食べてみる。ご飯を主軸にして食べるのだそうだ。
食い散らかしているようで行儀が悪いが。
うん、この子やっぱり天才だわ!美味すぎる!あっと言う間に食べてしまった。
くそ、エマが得意満面だ。そりゃあコレ食ったら宮廷料理なんぞゴミだ。
妻や子供達がこの領に頻繁に視察に来るわけだ。
醤油、味噌、そして海水塩。舐めさせてもらったがどれも使えそうだ。
だが醤油、味噌は独特の風味がある。
しかも腐敗の利用だそうだ。貴族だけでなく平民にも忌避感があるだろう。
塩は普通に使えそうだ。岩塩とはまた違った味だ。対等に戦えるだろう。
ん?領法。この領の法律書だな。ん?んん?
でこれがその領民カードと。
「お前、国と戦争する気?」
本気でなにやってんの!!!
いや、ヤバイわ。この子頭おかしいわ。
部下のためでもある。領民を守るためでもある。高位貴族の横槍は怖い。
国の動きも注意が必要。
想定出来る範囲を越えて対策している。
そして、塩の売買計画に乗り出したと。うん。
まさかの領民の暴走、というか頑張り。凄まじい団結力で開発進行。
おそらく国内トップの力と技術力を持ってしまった。
気付け!そこは気付けよ!
塩の計画は良い。だが、技術差がありすぎて派閥内の技術力が追いつかず技術提供したくても他の派閥に即真似されたのでは意味が無いから供出出来ない。
秘匿技術を派閥内に広げたくても出来ない現状だと。
いや、そういうもんなのよ?派閥ってさ。報告、連絡、相談。
それを密にすることによって下地、地盤を固めて歩調を合わせ一致団結する。
、、、で今になって報告兼相談と。
うん、馬鹿じゃないの!!!!
は?尻拭いは親の仕事?てめえ良い度胸だ。久々に拳で語り合うか?
ロイに傷付けたら領民が怒り狂って命を狙うかも知れないからやめておきましょうだと?
ワタシオマエノチチオヤ!
は?領民が狂信者っぽくなって手がつけられない?
どうしてそこまで放置した。
自分の言うことは聞く?だが良かれと思って行動する場合が危険?
制御するのも領主の仕事だぞ。
部下が大丈夫、貴族ならコレが普通だと言うもんだからって。
お前身内に甘過ぎないか?
、、、で?本当にどうやって納めるんだ?
派閥で会合を行いたいけど身動き取れない。
だろうな。ここまで来たら。
兄上にお願いしたら。任せとけって?
お前ら兄弟何者なの?
それで私は何をすれば良い?
良いのかって?
お前の親だぞ俺は。尻拭い位するさ。
視察?全部?
会合前まで全て知っていたが、
危険過ぎて計画が立てられなかったというていでお願いしますだと?
演技しろってか。
いや、それくらいやるよ?
ん?まず塩?契約?ああ、そうだったな。それでコレが契約書と計画書と。
、、、うん。良いのコレ。おまえコレ、もう派閥の頭で良くないか?
首根っこ掴んでんじゃん。
安過ぎ!ボッタクり過ぎ!身内、派閥に甘過ぎ!
塩の絡繰を使って?関税でこうと。
それ脱税って言うんじゃ!え?領内でかける関税は全て領主の懐?
国法でそうなっている?
、、、そうだな。関税いくらかけたなんて報告国にはしたことないな。
だから関税の部分で大金貨100枚を隠蔽?
さっきの請求書の代金は何をもって支払われたと記載されていない。
イバーナが最初の出荷地点だから最初で様子見という体で紛れ込ませると。
いけるな。
相変わらず悪知恵働くなあ。いや褒めてんの。
ところでその別荘なんだけど。
イバーナの家の物だけど領民カード貴族版は作ってもらう?
じゃないと使えない?
いや、やるよ?やるけどさあ!




